年末調整の書類はどこに提出? 書類別の提出先や注意点を解説

年末調整は準備すべき書類が多いうえ、対象となる従業員の範囲も広いことから、担当者に大きな負担となります。
年末調整の手続きに関連する書類は、社内で保管するものと税務署や市区町村に提出するものに分類されます。担当者は、書類別の提出先や提出期限、記入方法などを把握しておかなければなりません。
本記事では、年末調整関係書類の提出先や注意点を詳しく解説します。

年末調整書類の提出先|誰がどこに提出する?
年末調整とは、従業員が本来支払うべき正しい所得税額を計算し、当年の給与や賞与から差し引いた源泉徴収税額との差額を清算する手続きです。
年末調整の大まかな3ステップ |
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(1)書類回収 |
(2)所得税額の計算、調整額の割り出し |
(3)納税、公的機関への書類提出 |
年末調整では、まずは対象となる従業員から必要な書類を回収します。提出された申告書や添付書類をもとに、従業員が納めるべき所得税額を計算し、源泉徴収税額との差額を割り出します。
年末調整後、従業員から提出された書類やほかの必要書類を、翌年の1月末までに税務署もしくは従業員が居住する市区町村に提出しなければなりません。
年末調整をする際は複数の書類を作成し、提出する必要があります。書類の種類ごとの提出先は以下のとおりです。
誰がどこに提出するか | 提出書類一覧 |
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従業員が会社(人事部)へ提出する書類 | ・給与所得者の扶養控除等(異動) 申告書 ・給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書 ・給与所得者の保険料控除申告書(該当者のみ) ・住宅借入金等特別控除申告書(該当者のみ) ・源泉徴収票(年度途中に入社した場合) |
会社が税務署に提出する書類 | ・ 給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表 ・支払調書 ・源泉徴収票 |
会社が市区町村に提出する書類 | ・給与支払報告書(個人別明細書) ・給与支払報告書(総括表) |
年末調整で必要な書類の種類や各種書類の提出先を、種類ごとにまとめて紹介します。
1.従業員が会社(人事部)へ提出
従業員から年末調整の手続きを担当する人事部に提出する書類は、以下のとおりです。
- 給与所得者の扶養控除等(異動) 申告書
- 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書(該当者のみ)
- 給与所得者の保険料控除申告書(該当者のみ)
- 住宅借入金等特別控除申告書(該当者のみ)
- 源泉徴収票(該当者のみ)
従業員が会社へ提出する書類の中で『給与所得者の扶養控除等(異動) 申告書』は、年末調整を受けるすべての従業員が提出する書類です。1以外その他の申告書は、各種控除が適用される場合のみ提出するよう伝えましょう。
スケジュールは、10月中旬から下旬に各種申告書を社内で配布し、11月中に申告書を記入・提出してもらうことが一般的です。
参考:『令和5年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書』
2.会社が税務署へ提出
年末調整に関する書類の中で、以下は納税地を管轄する税務署へ提出する必要があります。
- 給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表
- 支払調書
- 源泉徴収票
納税地を管轄する税務署とは、「本店住所」または「主たる事務所」を管轄している税務署です。
法定調書合計表とは、1年間の給与額の合計や徴収した所得税額、弁護士や税理士などに支払った年間報酬額などが記載された書類です。
支払調書とは、弁護士や弁理士、外部の組織などに支払う報酬について記載した書類を指します。年間5万円以上の支払いがあった場合は、法定調書合計表に添付して税務署に提出しなければなりません。
源泉徴収票は、1年間に支払った給与や賞与の額を従業員ごとにまとめた帳票です。源泉徴収票には、以下の2種類があります。
源泉徴収票の種類 | |
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給与所得の源泉徴収票 | 給与や賞与などの金額や、社会保険料控除や配偶者控除などの所得控除の情報が記載されている書類 |
退職所得の源泉徴収票 | その年に退職金の支払いがあった場合に、退職金や退職所得控除などの情報をまとめた書類 |
3.会社が市区町村へ提出
年末調整で従業員から回収した書類の中で、次のものは従業員の居住する市区町村へ提出する必要があります。
- 給与支払報告書(個人別明細書)
- 給与支払報告書(総括表)
給与支払報告書(個人別明細書)とは、給与・賞与などの1年間の合計額や所得控除額などの情報を記載した書類です。源泉徴収票と同じような内容が盛り込まれています。
給与支払報告書(総括表)は、市区町村ごとにまとめて作成する書類で、企業名や企業の所在地、該当する市区町村に在住する従業員数などの情報を記載します。
【書類別】年末調整の提出先に関する注意点
年末調整の提出先に関して、気をつけたいポイントを書類別に詳しく解説します。
1.従業員が会社(人事部)に提出する書類
すべての年末調整の対象者が提出する『給与所得者の扶養控除等(異動 ) 申 告 書』は、会社で大切に保管します。ただし、税務署長から提出を求められることもあります。
申告書には、「所轄税務署長欄」と「市区町村長欄」が設けられていますが、書き方には
少し注意が必要です。以下で詳しく解説します。

所轄税務署長欄の書き方・調べ方
年末調整の申告書にある所轄税務署長欄は、一般的に従業員ではなく会社側で記載する項目です。会社が納税先としている税務署を記載します。登記簿や定款を確認し、会社の「本店住所」または「主たる事務所」を管轄する税務署を調べましょう。
万が一、所轄の税務署がわからない場合は、国税庁のホームページで検索できます。東京都23区においては1つの区内に2か所以上の税務署が存在するため、「税務署所在地・案内(東京都)」のページで検索してみましょう。
参照:『組織(国税局・税務署・税務大学校等)』国税庁
参照:『税務署所在地・案内(東京都)』国税庁
市区町村長欄の書き方・調べ方
年末調整の申告書にある市区町村長欄は、個人住民税の納税地を記入する項目です。その年の1月1日時点で従業員が居住している市区町村を記入します。年の途中に転居した場合も、1月1日時点で居住していた自治体に住民税を納付すると理解しておきましょう。
また、単身赴任や一時的な転勤などにより、住民票の住所と居住地が異なるときは、現在住んでいる市区町村に納税するのが一般的です。
2.会社が税務署に提出する書類
年末調整の計算を終えて、従業員の所得や税額が確定したら、翌年1月31日までに、税務署へ『給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表』などの必要書類を提出します。期限を守れるように迅速に対応しましょう。
3.会社が市区町村に提出する書類
会社が市区町村に提出する『給与支払報告書(総括表)』は表紙、『給与支払報告書(個人別明細書)』は従業員一人ひとりの明細書として提出します。提出期限は税務署への期限と同様、翌年1月31日までです。
給与支払報告書は2枚ありますが、2枚とも市区町村に提出するため会社に控えが残りません。コピーやPDFなどを作成し、大切に保存しましょう。コピーと返信用封筒を同封して返信依頼をすれば、市区町村から受領印を押して返送してもらうことも可能です。
年末調整の提出書類の記載に関する注意点
年末調整で扱う提出書類の記載には、複数の注意点があるため、詳しく解説します。
障害者控除
従業員自身や従業員と生計をともにする配偶者、あるいは扶養家族が所得税法上の障害者に該当する場合は、該当者と障害の等級区分を記入しなければなりません。
通常は扶養控除の適用外である16歳未満の扶養親族にも、障害者控除が適用されます。障害の程度によって年末調整書類に記載する欄が異なるため、注意しましょう。
勤労学生
従業員本人が学生や認定職業訓練を受ける訓練生である場合は、年末調整で一定額の所得控除を受けられます。申告書にある「勤労学生」の項目にチェックがされているかを確認しましょう。
勤労学生控除が適用される条件は、「その年の12月31日の現況で合計所得金額が75万円以下、かつ給与所得などの勤労による所得以外の所得が10万円以下であること」です。
他の所得者が控除を受ける扶養親族等の欄
同居している家族に2人以上の所得者がいる場合、扶養親族については1人の所得者のみ、年末調整で扶養控除を受けられます。
共働き夫婦の場合、扶養する子どもの情報は、夫婦のどちらかが『扶養控除等(異動)申告書』に「控除対象扶養親族」として記載する必要があります。
従業員がもう一方の扶養控除を受けない側である場合は、申告書の「他の所得者が控除を受ける扶養親族等」の欄に必要事項を記載します。同じ欄に、控除を受ける配偶者の氏名や扶養親族の情報が書かれているかを確認しましょう。
参考:『令和6年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 』
控除額や収入金額
年末調整の『基礎控除申告書』には、収入金額と所得金額、そして控除額について記載する項目が設けられています。
収入金額とは、所得控除が適用される前の総支給額です。一方で所得金額とは、給与所得控除額を収入金額から差し引いた金額を指します。所得金額の見積もりによって、控除額が決定されます。
控除額や収入金額の欄に不備がある場合には、従業員の了承を得て収入金額を確認したり、正しい金額を提示したうえで差し戻したりしなければなりません。
保険料控除の申告額・限度額
年末調整の『保険料控除申告書』で申告できる保険料には、上限額があります。
新生命保険料では80,001円以上、旧生命保険料では100,001円以上で控除額が一律となるため、追加で保険情報を記入する必要はありません。ただし、加入しているすべての保険情報を記入する従業員もいます。支払い金額の合計が上限に達した場合は、記入する必要がない旨を、周知することが大切です。
また、保険料控除申告書には、保険会社などから受け取る控除証明書に記載されている「申告額」を記入しなければなりません。しかし、従業員の中には申告額ではなく「証明額」を記入する人もいます。
年末調整の担当者は、添付された控除証明書の内容を確認し、必要に応じて修正や訂正を依頼しましょう。
参照:『旧生命保険料と新生命保険料の支払がある場合の生命保険料控除額』国税庁
配偶者(特別)控除
配偶者(特別)控除の対象ではないにもかかわらず、従業員が年末調整の提出書類に控除額を記入してしまうこともあります。配偶者(特別)控除を受けられるかどうかは、配偶者と従業員本人の所得金額を合算して判断しなければなりません。
記載ミスが生じないよう、以下の判定方法を従業員に周知しましょう。
- 申告書の裏面を参照して所得金額を算出する
- 合計所得金額の見積もり額に当てはまる番号を選択する
- 選択した番号と基礎控除申告書の判定結果をもとに控除額を算出する
年末調整ができなかったら? 確定申告の提出先
何らかの事情で、年末調整の手続きができなかったら、従業員自身が税務署に確定申告をする必要があります。具体的には、年末調整の書類を提出し忘れたり、前職の源泉徴収票の回収が間に合わなかったりした場合です。
確定申告書の提出先は、従業員の居住地を管轄する税務署です。国税庁のホームページで、該当する税務署を調べてもらいましょう。
参照:『No.2029 確定申告書の提出先(納税地)』国税庁
参照:『国税局・税務署を調べる』国税庁
年末調整を怠るとペナルティの可能性も
年末調整の手続きを怠ると、会社に対してペナルティが科される恐れがあります。
従業員から源泉徴収をしたにもかかわらず年末調整をしない場合は、「1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金」の対象です。
年末調整を行ったものの徴収額を納付しない場合は、「10年以下の懲役または200万円以下の罰金」もしくは双方が科される可能性もあるため、注意が必要です。
年末調整の書類はいつでも提出できるように保管する
年末調整に使用した書類は、管轄の税務署から提出を求められたら、すみやかに対応できるよう保管しておかなければなりません。保管期間は、年末調整の年の翌年1月10日の翌日から7年間と定められています。
保管が必要な書類は、以下のとおりです。
(1) 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
引用:『No.2503 給与所得者の扶養控除等申告書等の保存期間』国税庁
(2) 従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書
(3) 給与所得者の配偶者控除等申告書(平成29年分以前は「給与所得者の配偶者特別控除申告書」)
(4) 給与所得者の基礎控除申告書(令和2年分以降)
(5) 給与所得者の保険料控除申告書
(6) 所得金額調整控除申告書(令和2年分以降)
(7) 退職所得の受給に関する申告書
(8) 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書
(9) 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書
書類を保管するためには、相当なスペースの確保と厳重な管理が求められます。
年末調整を電子化すると、保管スペースを確保する必要がなくなり、書類の処理にかかる時間も大幅に削減できるでしょう。
年末調整を電子化すると提出工数を削減できる(まとめ)
年末調整では、税務署や市区町村に対して、必要書類を提出しなければなりません。万が一、申告作業や納付を怠ってしまうと、懲役刑や罰金刑が科される恐れもあります。書類の記載に関する注意点を理解したうえで、正しい方法で手続きを進めましょう。
紙の書類でのやり取りには手間がかかり、直接窓口に提出するとなると時間や移動コストもかかります。手続きを簡素化して業務効率を高め、担当者の負担を軽減するためにも、年末調整の電子化を検討してみてはいかがでしょうか。
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