年末調整は前職の源泉徴収票が必要? 転職時の注意点や提出方法を解説
給与所得者が同じ年に退職と転職を行った場合などは、転職先に前職の源泉徴収票を提出しなければなりません。ただし、例外的に源泉徴収票の提出が不要になるケースもあります。どのような場合に前職の源泉徴収票の提出が必要になるのかわからないという方もいるでしょう。
そこで本記事では、年末調整における前職の源泉徴収票の扱いを解説します。とくに、どのような場合に前職の源泉徴収票の提出が不要になるのかを把握することで、正しく理解できるはずです。給与所得者はもちろん、企業の年末調整を扱う人事労務担当者はぜひ参考にしてください。
転職後の年末調整では前職の源泉徴収票が必要
従業員が年内に退職し、同年中に別の会社へ転職した場合、前職の源泉徴収票を新しい勤務先に提出する必要があります。これは、年末調整において1年間の総収入を正確に算出し、適切な所得税を納付するためです。
同一年内に退職と転職を経験した従業員の年末調整は、転職先の企業が担当します。しかし、転職先の企業は従業員の前職での給与情報を把握していないため、正確な年末調整を行うには、従業員から前職の源泉徴収票の提出を受ける必要があります。
年末調整とは
年末調整とは、企業が給与所得者の所得税を計算し、源泉徴収税額との差額を精算する手続きのことです。
企業では、従業員の毎月の給与や賞与から一定の所得税を源泉徴収しています。源泉徴収額は概算であるため、実際に納付すべき所得税とは異なる場合があります。年末調整では、給与所得者の1年間の所得から正しい納税額を算出し、源泉徴収額と比較して過不足の精算を行います。源泉徴収額が本来の納税額より多ければ企業は従業員へ還付し、不足していれば追加徴収を行います。
年末調整の流れ
年末調整は、例年11月頃から1月末までを期限とし、以下のような流れで行います。
- 会社が従業員に書類配布
- 従業員が必要事項を記入し添付書類を出して提出
- 会社側で所得税を計算し、精算(還付もしくは追加徴収)
- 年末調整の内容に不備や修正点がある場合は対応
- 会社側が税務署や市区町村に書類などを提出
年末調整を行うために給与所得者と従業員が提出する書類は以下の通りです。
提出する人 | 提出書類 | 提出先 |
---|---|---|
給与所得者 | ・扶養控除等(異動)申告書 ・保険料控除申告書 ・基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書 ・各種控除に必要な証明書 ・その他必要書類(住宅借入金等別控除申告書や年度途中入社の場合は源泉徴収票など、該当者のみ) | 企業 |
企業 | ・給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表 ・源泉徴収票 ・各種支払調書 ・給与支払報告書(総括表・個人別明細書) | 税務署や市区町村 |
年末調整の対象にならないケースや確定申告が必要なケース
年末調整は基本的に給与所得者を対象にしています。年の途中で転職した場合も同じで、前職の源泉徴収票を転職先に提出して行います。ただし、年末調整が不要になるケースや確定申告が必要な場合もあります。そこで、代表的なケースをご紹介します。
- 給与収入が2,000万円を超える
- 2か所以上の収入がある
- 給与収入以外に20万円を超える所得がある
- 年末調整では対応できない控除を受ける場合
給与収入が2,000万円を超える
会社員として1年間に支払われた給与や賞与額が2,000万円を超える人は、年末調整の対象外となるため、確定申告を行わなければなりません。確定申告で正しい所得税を申告し、納税しましょう。
2か所以上の収入がある
年末調整は、1人につき1つの企業のみが行う手続きです。2つ以上の企業から給与が支払われている場合、一般的には支払われている給与が多い企業で年末調整を行い、それ以外の企業における給与所得が1年間で20万円を超えたら確定申告も行わなければなりません。
給与収入以外に20万円を超える所得がある
給与所得以外の所得が20万円を超える場合、年末調整とは別で確定申告する必要があります。たとえば、副業収入や株式の売買などによって得た所得などが該当します。逆にいえば、副業などの収入があった場合でも20万円以下である場合は年末調整のみで所得税の納付が完了するということです。
年末調整では対応できない控除を受ける場合
確定申告では、年末調整で対応できない控除を適用できます。医療費控除や雑損控除、寄付金控除などがあります。給与所得者がこれらの控除を受ける場合には、年末調整だけでなく確定申告を行わなければなりません。
年末調整で前職の源泉徴収票の提出が不要なケース
年末調整は会社が実施する手続きです。同年内に退職して新しい会社に転職した場合、新しい勤務先で年末調整を行うことになるため、前の会社の源泉徴収票が必要となります。しかし、状況によっては前職の源泉徴収票が不要なケースもあります。具体的な事例をみてみましょう。
- 12月31日に前職を退職した場合
- 年の途中で退職し、翌年に転職した場合
- 新たな雇用先が主な収入源ではない場合
- 自分で確定申告をする場合
12月31日に前職を退職した場合
年末調整は、12月31日時点の情報で年末調整を行うため、12月31日で退職をする場合は、退職する企業が手続きをします。その後、翌年に転職した場合において、一般的には前職12月分の給与が翌年1月以降に支払われます。この場合は前職の源泉徴収票が必要です。
ただし、給与の前払いなど、12月31日までに前職における給与支給が完了している場合は転職先に源泉徴収票の提出は必要ありません。
12月31日に退職した2つの例をご紹介します。
前職退職日 | 前職12月分給与支給日 | 転職日 | 前職の源泉徴収票の提出 |
---|---|---|---|
12月31日 | 12月31日 | 翌年1月5日 | 不要 |
12月31日 | 翌年1月31日 | 翌年1月5日 | 必要 |
年の途中で退職し、翌年に転職した場合
前職を退職した同一年内に転職などをせず、翌年に転職した場合は基本的に前職の源泉徴収票の提出は必要ありません。前年の所得税額は前職の収入のみであるため、翌年の収入や年末調整には関係ないからです。
年の途中で退職し、その年に転職をしない場合は、年末調整は行わずに翌年の確定申告で所得税の申告を行います。年が明けてから転職するとしても、翌年の年末に転職先が年末調整を行います。
ただし、退職のタイミングで前職の給与が翌年に支給される場合は、転職先に源泉徴収票を提出しなければなりませんのでご注意ください。
新たな雇用先が主な収入源ではない場合
複数の企業で働くなどしていて、新たな企業で仕事を始めた場合です。年末調整は、主たる収入源の企業で行います。単純に雇用先が増えたとしても、主たる収入源の企業が別である場合は新たな企業へ源泉徴収票は必要ありません。
自分で確定申告をする場合
自分で確定申告する場合も、企業に源泉徴収票の提出は必要ありません。年末調整は、その年の12月31日を基準として企業側が手続きを行います。確定申告は翌年の2月中旬から3月中旬に納税者本人が申告をします。確定申告では、すべての収入や所得から所得税を計算して納付するため、企業が管理する必要はありません。
前職における源泉徴収票のもらい方
給与所得者が企業を退職した場合、源泉徴収票は退職日から1か月以内に交付されます。退職日から1か月を過ぎても前職の源泉徴収票が交付されないときは、担当者に問い合わせましょう。
万が一、担当者に問い合わせても源泉徴収票を交付してもらえないようであれば「源泉徴収票不交付の届出書」を税務署に提出します。企業側は、退職者に対して源泉徴収票の交付漏れがないよう、徹底しましょう。
年末調整で前職の源泉徴収票を提出できないときの対応
転職先で前職の源泉徴収票を提出する必要があるのに提出ができない場合はどのような対応を取ればよいのでしょうか。
- 前職の交付が間に合わない
- 前職の源泉徴収票を紛失した
前職の交付が間に合わない
年末調整は、その年の11月頃から12月に行います。給与所得者が11月末に退職、12月に転職をした場合も、転職先で年末調整を行うためには前職の源泉徴収票を提出する必要があります。給与所得者は、前職の源泉徴収票を提出できそうにない場合は、転職先に相談してみましょう。このような場合、一般的には転職先に伝えたうえで、給与所得者が自分で確定申告を行います。
前職の源泉徴収票を紛失した
給与所得者が、すでに交付された前職の源泉徴収票を紛失してしまった場合は、再交付の依頼をしましょう。源泉徴収票は、給与を支払った企業で発行するため、前職の担当者に連絡をします。企業側は、再交付の依頼があった場合には対応しましょう。
転職にまつわる年末調整の注意点
転職先で年末調整を行う際は、いくつかの注意点があります。所得税を問題なく納付できるよう、あらかじめ注意点を理解しておきましょう。
- 前職の源泉徴収票は年末調整の時期までに提出
- 転職活動の中で離職期間があった場合は?
前職の源泉徴収票は年末調整の時期までに提出
給与所得者が企業を退職し、同じ年に転職した場合は、基本的に前職の源泉徴収票を提出しなければなりません。給与所得者は、前職の源泉徴収票を早めに提出するか、その年の年末調整時期(11月から12月頃)に問題なく提出できるよう大切に保管しておきましょう。
転職活動の中で離職期間があった場合は?
給与所得者が転職活動などにより離職期間があった場合、国民年金や国民健康保険に加入します。社会保険料は、社会保険料控除の対象なので、転職先の年末調整で申請しましょう。また、社会保険料控除の際、国民年金は控除証明書が必要、国民健康保険は控除書類の提出は不要という点も把握しておきましょう。
まとめ
給与所得者が同一年内に退職と転職をした場合は、転職先の年末調整において前職の源泉徴収票が必要です。また、退職した企業の給与が年を跨いで翌年に支給され、翌年に転職した場合も前職の源泉徴収票を提出しなければなりません。
給与所得者や企業の担当者は、転職の場合における年末調整において、前職の源泉徴収票の扱いを正しく理解しておくことが大切です。
前職の源泉徴収票は、退職後1か月以内に退職した企業から交付されます。転職先で年末調整を迎える時期までに、前年の源泉徴収票を提出できるよう、大切に保管しておきましょう。企業側は、退職者に源泉徴収票を交付することと、新たに入社した人材の源泉徴収票を回収できるよう徹底しましょう。
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