バイアスとは?主な種類とビジネスにおける悪影響を抑える方法を解説
バイアスは一般に「偏見・思考の偏り」という意味の言葉です。組織の中でも事業への考え方は従業員一人ひとり異なるでしょう。育ってきた環境や性格が異なるため、バイアスが生まれてしまうのは避けられないともいえますが、人事評価などにおいてはなるべく最小限に抑え、公平性を保つことが重要です。
本記事では、ビジネスシーンにおけるバイアスの意味や種類、バイアスによる悪影響を最小限に抑える方法を解説します。
バイアスとは?
バイアスは、特定の先入観に基づいて情報をゆがめたり、判断を偏らせたりする傾向を意味します。判断や意思決定に影響を与える可能性があるため、自分自身で意識し、適切に対処しなければなりません。
ビジネスシーンや統計学におけるバイアスの意味を解説します。
ビジネスシーンでのバイアスの意味
ビジネスシーンにおけるバイアスとは、意思決定や評価、対人関係などのビジネス活動において、客観的な判断を歪めるさまざまな偏見や先入観を意味します。
ビジネスにおいてバイアスは多岐にわたる影響を及ぼします。たとえば、採用では無意識のうちに特定の背景や特性を持つ候補者を好む、または避ける傾向があると、組織の多様性が損なわれ、企業の成長の機会を失う要因になってしまいます。また、製品の設計やマーケティング戦略を決定する際、特定の顧客層に偏った見解を持つことで、より広範な市場のニーズを見逃すリスクも生じるでしょう。
このほか、バイアスは経営層の意思決定にも影響を及ぼすことがあります。具体的には、過去の成功体験に固執することで、新しい市場の機会や変化する環境への適応を遅らせることが考えられるでしょう。
このように、バイアスは組織の成長、競争力、そして持続可能性に悪影響を及ぼす可能性があります。
バイアスは人間の心理的な特性として避けられないものです。その存在を認識し、トレーニングや教育を通じて、影響を最小限に抑える努力が求められます。特にリーダーシップを担う者は、みずからのバイアスを意識し、チームや組織全体の判断が偏っていないか常に検討する必要があるでしょう。
統計学におけるバイアスの意味
統計学では、推定量の期待値と真の値との差を意味して「バイアス」といいます。データ収集の方法や測定ツールの誤差、サンプル選択の偏り、データ解析の方法など、さまざまな要因によってバイアスは引き起こされます。
バイアスが存在すると、統計的推測が不正確になり、誤った結論を導く可能性があり、できるだけ排除または軽減することが重要です。
バイアスの排除には、ランダムサンプリングやデータ収集プロセスの標準化、適切な統計モデルの選択という方法があります。バイアスを排除すると、より信頼性の高い統計的推測とデータに基づく意思決定が可能になるでしょう。
バイアスに深くかかわる二重過程理論
バイアスに深くかかわる理論に「二重過程理論」があります。二重過程理論は、意思決定に影響を与えるとされています。
二重過程理論
二重過程理論は、人間の思考や意思決定のメカニズムを理解するためのフレームワークとして提唱されました。私たちの思考や意思決定は、主に2つの異なるシステムによって行われると考えられています。
1つは、直感的、自動的、そして迅速に情報を処理するシステムです。労力をほとんど必要とせず、無意識のうちに動作します。たとえば、顔の表情から感情を読み取るという行為が該当します。迅速な判断の背後には、バイアスが潜んでいることがあるでしょう。
もう1つは、論理的で分析的に情報を処理するシステムです。意識的であり、思考や推論を行うエネルギーを必要とします。複雑な数学の問題を解いたり、計画を立てたり、論理的な議論をしたりするときに活動します。
直感はバイアスに大きく影響する
日常生活の中で、多くの判断や決定は直感的な処理によって迅速に行われます。直感が働くとき、自分が置かれている環境やもともと持っている考えに左右されやすいため、バイアスの影響を受けやすいといえるでしょう。誤った結論や判断をしてしまうリスクをはらんでいます。
しかし、論理的な処理は努力が必要であるため、常に動作するわけではありません。より正確で論理的な判断を助ける論理的な思考は、労力と時間を必要とします。
直感と論理の思考システムを比較すると以下の通りです。
直感 | 論理 | |
---|---|---|
思考の性質 | 直感的 | 論理的 |
動作の速さ | 迅速 | ゆっくりとした |
意識性 | ほとんど無意識 | 明確に意識的 |
労力 | 労力を必要としない | 労力を要する |
例 | 顔の表情からの感情の読み取り | 複雑な数学の問題の解決 |
バイアスの影響 | 高い(迅速な判断のためのショートカット) | 低い(詳細な分析や論理的推論に基づく) |
使われる場面 | 日常的な判断や簡単なタスク | 複雑な問題解決や計画立案など |
バイアスの主な種類
バイアスの主な種類は以下の通りです。
- 確証バイアス
- 正常性バイアス
- 現状維持バイアス
- ダニング=クルーガー効果
- ハロー効果
- 自己奉仕バイアス
- バンドワゴン効果
- 後知恵バイアス
- 内集団バイアス
確証バイアス
確証バイアスとは、自分が持っている信念や仮説を支持する情報に注意を向け、それに反する情報を無視または軽視する傾向です。
例を挙げると、ある会社Aの株を購入を検討している投資家が、Aに前向きな意見や情報を持っているとします。投資家は、Aに関する好意的なニュース記事や分析レポートを見つけるたびに、Aはよい投資先であるという仮説が正しいと感じます。一方、会社Aの将来性に懐疑的な記事や情報があっても、それを過小評価したり、完全に無視したりしてしまうのです。
確証バイアスは、情報の評価や収集、意思決定の過程で判断をゆがめる可能性があります。
具体的には以下の通りです。
●情報の偏った収集
確証バイアスの影響下で、人は自分の信念や仮説に合致する情報のみを収集しやすくなります。その結果、情報の全体像を見逃すリスクが高まります。
●リスクの過小評価
自分の信念を支持する情報のみに焦点を当てると、重要なリスクや問題点を見過ごす可能性があります。このことは、未来の不利益や損失を招くかもしれません。
●変化への適応性の低下
確証バイアスが強いと、新しい情報や変化する状況に対応する能力が低下します。これは、環境や市場が変わった際の適応性を損なう可能性があります。
●グループ内での多様性の欠如
チームや組織内で同じ信念や仮説を共有している場合、確証バイアスは集団内で強化されることがあります。これは「エコーチャンバー」とも呼ばれ、グループ内の思考の多様性が失われるリスクがあります。
確証バイアスを克服するためには、自分の信念や仮説に疑問を持ち、異なる情報源や視点を意識的に探求することが重要です。
正常性バイアス
正常性バイアスとは、個人が直面している危険や異常な状況を過小評価し、状況を「通常」や「普通」のものとして受け止める心理的な傾向を指します。人々が日常的に経験する「通常の」状況や結果に過度に依存する結果、異常な状況や危険が迫っている場合でも、その真実を認識するのが難しくなるのです。
正常性バイアスは、天災や事故、経済危機など、さまざまな危機的状況において、その影響が指摘されてきました。具体的には以下の通りです。
●過去の経験の重視
過去の経験に基づいて現在の状況を評価する傾向があります。たとえば、過去に何度も安全だった経験があれば、新しい警告やリスクに直面しても、それを軽視してしまうことがあります。
●危機の認識の遅れ
正常性バイアスが作用すると、緊急事態や危険な状況の初期段階で、その真実の危険性を適切に認識するのが難しくなります。この結果、適切な対応や行動が遅れる可能性があります。
●リスクの過小評価
危険やリスクの情報が提示されても、正常性バイアスの影響で、そのリスクを低く評価することがあります。このため、必要な予防策や安全対策を講じないことがあります。
正常性バイアスを克服するためには、情報を冷静に評価し、状況を過小評価せずに客観的に捉えることが重要です。また、過去の経験や通常の状況にとらわれず、新しい情報や変化する状況に柔軟に対応する意識を持つことが求められます。
現状維持バイアス
現状維持バイアスは、人々が現在の状態や選択を変更することを避け、既存の状況や選択を維持しようとする心理的な傾向を指します。このバイアスは、選択や判断の際に、現状の選択を「デフォルト」として扱い、変更することに対する抵抗感を生じさせるものです。
損失への恐れが獲得への喜びよりも強い「損失回避」の傾向や、新しい情報の収集・検討に費やす労力から生じる「選択の困難さ」が動機となって発生します。また、選択が誤っていた場合、過去の否定につながり、その不快感を指す「認知的不協和」も現状維持バイアスを強めている要因といえるでしょう。
現状維持バイアスによって、新しい情報や変化する状況に対して適切に反応することが難しくなることがあります。また、最適な選択や解決策が現状の選択とは異なる場合でも、現状を維持し続けることで、機会の損失や不利益を招くリスクがあります。
現状維持バイアスを克服するためには、定期的にみずからの選択や決定を再評価し、新しい情報や視点を取り入れることが重要です。また、変更や新しい選択の利点や長所を明確にすることでも緩和できるでしょう。
ダニング=クルーガー効果
ダニング=クルーガー効果は、ある特定のスキルや知識において、自身の能力を過大評価する心理的現象です。
実際の能力が低い人ほど、知らない知識やスキルの存在自体を知らなかったり、過度な自信を持っていたりして、自身の能力を過大評価してしまいます。
反対に、能力が高い人は、自身に高い基準や期待値を持っており、実績や能力を過小評価してしまうようです。自身が持つ知識やスキルを「当たり前」と見なし、他者も同様の能力を持っていると考え、みずからの特異性や特別さを見落としてしまうのでしょう。
実際の能力が高いのに、それを過小評価すると、チャレンジする機会を逃す、またはみずからの能力を最大限に活用しないというデメリットが考えられます。
ハロー効果
ハロー効果は、特定の印象や特徴が全体の評価を歪める現象です。以下に3つの具体例を挙げながら、それが人間関係や評価に与える影響を解説します。
●採用面接
会社の面接で、応募者が物理的に魅力的な場合、面接官はその魅力に引きずられ、応募者の専門的なスキルや適性を過大に評価してしまう可能性があります。反対に、見た目が魅力的でないと感じる場合、そのほかの資質を過小評価するリスクもあるでしょう。
●従業員の評価
ある従業員が新しいプロジェクトの初期段階で非常によい成果を上げた場合、上司や同僚はその成功体験に引きずられ、後の段階でのミスや欠点を見落としやすくなります。
●生徒の社交性
学校や職場で、ある人が社交的で友好的な性格を持っていると認識されると、その人の専門的な能力や成果も高く評価されやすい傾向にあります
ハロー効果の影響は以下の通りです。
●不公平な評価
ハロー効果により、個人の実際の能力や成果とは関係なく、ある特定の特徴や印象に基づいて評価が行われる可能性があります。これにより、能力があるにもかかわらず適切に評価されない人が出てくる可能性もあります。
●チャンスの損失
正確な評価が行われないため、実際には適任である人が適切な職務や役職に就けない、あるいは逆に適任でない人が重要な役職に就くリスクが生じます。
●人間関係のゆがみ
ハロー効果は、ある人との関係性やコミュニケーションにも影響を及ぼす可能性があります。特定の印象に引きずられ、ほかの重要な情報や特徴を無視することで、誤解やトラブルが生じる可能性がある。
ハロー効果を避けるためには、自分の判断や評価が1つの特徴や印象に引きずられていないか常に自己反省することが必要です。また、他者の意見や視点を取り入れることで、より客観的な評価を心掛けることも有効です。
自己奉仕バイアス
自己奉仕バイアスとは、個人が自分の成功を内的、安定的、そして自己に帰属する要因に帰する一方、失敗を外的、一時的、または自分以外の要因に帰する傾向を指します。
自己奉仕バイアスは、自尊心の保護や認知的一貫性のメカニズムが働き、発生する可能性があります。
人はみずからの自尊心を守るため、成功を自分の能力や努力に帰属することで、自己価値を高めることができます。一方、失敗は外部の要因や偶然に帰することで、自分自身の価値を下げることなく、自尊心を保護できます。
また、人は行動や成果に一貫性を持たせることを好む傾向があります。成功時にはそれを自分の能力や特質に結びつけることで、自己の認識との一貫性を保ちます。失敗時には、それを外部の要因に帰することで、自己の価値観や信念との一貫性を保つことができます。
自己奉仕バイアスの影響で、自分の判断や行動のリスクを適切に評価するのが難しくなることがあります。成功は自分の能力に帰すことで、過度な自信を持つリスクがあり、一方で、失敗を外部の要因に帰することで、みずからの欠点やミスを見落とす可能性があります。また、他者からの批判やフィードバックを、みずからの能力や行動とは関係ない外部の要因に帰すことで、自己改善の機会を逃す可能性があります。
さらに他者との関係においても、自己奉仕バイアスが影響すると、共同でのタスクやプロジェクトの成果や失敗に対する責任の所在が不確かになり、トラブルの原因となることがあります。
自己奉仕バイアスを意識し、みずからの成功や失敗に対する評価や解釈を客観的に行うことで、より現実的な自己認識や人間関係の構築、そして適切なリスク評価が可能です。
バンドワゴン効果
バンドワゴン効果とは、多くの人々が行っている行動や支持している意見に、個人が無意識的に従う傾向を指します。多数の人々がある行動や選択をしていると、それが正しい、あるいは最適な選択であるとの認識が生まれ、それに乗っかる、またはそれに従うことを選ぶ現象です。
バンドワゴン効果の背後には以下のようなメカニズムが働いています。
●社会的証明
他者の行動や選択を「正しい」とみなす心理的な傾向があります。多くの人がある行動をとっている場合、それは「正しい」または「受け入れられている」という証明として機能することが多いでしょう。
●認知的省エネ
すでに多くの人々が取っている選択や行動を模倣することで、個人はみずから情報を集めたり、検討したりする労力を省くことができます。
●属する欲求
人々は社会的な動物であり、グループに所属することや他者との一体感を求める傾向があります。多数の人々がとる行動や意見に従うことで、そのグループへの所属感や認知の一致を感じることができます。
バンドワゴン効果が作用すると、集団の意見や個人にさまざまな影響があります。
たとえば集団内での意見や行動の一貫性が高まる可能性があります。多くの人々が同じ方向に動くことで、集団全体としての統一感や一体感が生まれやすくなります。
また、ある意見や行動が多数派となると、それに異を唱える声や異なる選択をする人々が圧倒され、意見の多様性が失われることもあるでしょう。これにより、集団が偏った方向に進むリスクが高まる可能性があります。
さらにある行動や意見が人気を集めると、ハンドワゴン効果によって、そのトレンドがさらに加速して広まることがあります。これは、社会的な動向や文化、ファッションなど多くの分野で観察される現象です。
ハンドワゴン効果は、集団の意見形成や行動の方向性を大きく左右する可能性があります。意識的な選択や多様な情報へのアクセス、オープンなコミュニケーションが求められる状況では、この効果の影響を意識し、その歪みを緩和する方法を探る必要があります。
後知恵バイアス
後知恵バイアスは、事後に得た情報や結果を知ったあとで、その結果が予測や予期できたものであるかのように感じる心理的な傾向を指します。事後になって初めて分かった事実や結果を、事前に知っていたかのように錯覚する現象です。このバイアスは「私は最初からそうだと思っていた」という感覚としてあらわれることが多いでしょう。
後知恵バイアスの背後には、以下のようなメカニズムが働いています。
●記憶の歪曲
人は結果を知った後、無意識的にみずからの過去の予測や期待を修正する傾向があります。これにより、事前の予測が実際の結果に近かったという印象を持つことが多いでしょう。
●認知的不協和の緩和
人は自己の信念や予測と実際の結果との間に不一致や矛盾を感じると、心理的な不快感を感じることがあります。この不快感を緩和するため、事後の結果が予期できるものであったかのように認識することがあります。
後知恵バイアスの影響は次の通りです。
●学習の阻害
後知恵バイアスの影響で、過去の判断や予測の誤りから学ぶ機会が減少します。なぜなら、事後に得た結果が当然予期できたものと感じることで、その原因や過ちを深く分析する動機が減少するためです。
●他者の評価のゆがみ
他者の予測や判断が誤っていた場合、後知恵バイアスの影響で、その誤りが明白で予測可能だったと過度に批判する傾向があります。
●リスクの認識の低下
事後に結果を知ったときに「当然だった」と感じることで、同様の状況や決定が将来再び起こったときのリスクを過小評価するリスクがあります。
後知恵バイアスを認識し、その影響を意識的にコントロールするには、正確な分析や評価を行うことが不可欠です。
内集団バイアス
内集団バイアスは、人々が自分の所属するグループ(内集団)を他のグループ(外集団)よりも高く評価する心理的な傾向を指します。自分が所属するグループのメンバーの能力や属性、価値観などを肯定的に見る一方、外部のグループを低く評価したり、ステレオタイプに基づいて一般化したりする現象です。
内集団バイアスの背後には、以下のようなメカニズムが働いています。
●自己評価の向上
所属するグループを高く評価することで、自己の自尊心や身分を向上させる効果があります。人々は、みずからが所属するグループの成功や価値を通じて、みずからの価値や自尊心を高めることができます。
●明確なアイデンティティの確立
ほかのグループとの区別を通じて、みずからが所属するグループのアイデンティティや価値観を明確にできます。
●安全と保護
内集団という安全な環境や共同体を形成することで、外部の脅威や不確実性からの保護を求める心理的な欲求を満たすことができます。
内集団バイアスが働くと、人間関係や組織のコミュニケーションにさまざまな影響があります。
●グループ間の対立
内集団バイアスが強まると、異なるグループ間の不信や対立が増加するリスクがあります。これは、組織内のチームや部門間の対立、あるいは異なる文化や国籍のグループ間の摩擦として表れることがあります。
●ステレオタイプの強化
外集団のメンバーに対するステレオタイプが強化されることで、個人の能力や属性を正確に評価することが難しくなることがあります。
●情報の偏り
内集団内でのコミュニケーションが強化され、外部のグループからの情報や意見を受け入れる機会が減少することがある。これにより、組織やコミュニティ全体としての視野が狭くなるリスクがあります。
内集団バイアスの認識とその影響を意識的にコントロールすることは、多様性を受け入れ、より包括的で効果的なコミュニケーションを実現するために重要です。
ビジネスシーンにおけるバイアスの具体例
ビジネスシーンにおけるバイアスの具体例をご紹介します。
候補者の服装や話し方に影響される採用面談
応募者がビジネスシーンに適切な服装をしていなかったり、話し方が独特だったりすると、その応募者が仕事の能力や専門性に欠けていると感じるものです。反対に、応募者がTPOに合わせた服装をしていたり、話し方が流暢で自信に満ちていると、面接官はその応募者が高い能力を持っていると評価できます。
このようなバイアスは、実際の職務遂行能力や適性とは関連しない要素に基づいているため、最も適切な人材を選出する際の障壁となり得ます。
同調圧力によるグループ・シンク(集団浅慮)
上長などリーダー格の人が、意見を示したとき、ほかのメンバーが反対意見を言いにくくなってしまう場合です。方針の提示は大切ですが、リーダー格の人が最初にそれを示すと、メンバーは反論しにくくなってしまうケースが見受けられます。方針は各々の意見を聞いてから、全員で決めましょう。
既存の市場データや成功事例への固執
過去の市場データや成功事例がもたらす成功モデルは、その時点での特定の条件や環境下でのものであるに過ぎません。しかしながら、これらの情報に過度に依存することで、現在や未来の市場環境の変化や新たなチャンス、リスクを見落とすリスクが高まります。
たとえば、ある製品が過去に大きな成功を収めた場合、同様の戦略やアプローチを繰り返すことで再び成功を収めることができるという考え方が強まることが考えられます。しかし、消費者のニーズや市場の状況、競合環境などが変わっている場合、同じ手法が今後も有効であるとは限りません。
このようなバイアスを乗り越えるためには、過去のデータや事例を参考にすることは大切であるものの、それに縛られず、常に現在の状況や未来の変化を考慮した判断を行うことが重要です。
過去の成功プロジェクトへのとらわれ
過去の成功プロジェクトへのとらわれは、ビジネスや組織の意思決定における一般的なバイアスの一つです。このバイアスは、特定のプロジェクトや戦略が過去に成功をもたらしたことにより、同じ手法やアプローチを未来の異なる状況や課題に対しても適用する傾向にあることを示しています。つまり、過去の成功が将来の成功を保証するという過度な確信に縛られてしまう現象です。
このような考え方の背後には、過去の成功体験が強い自己確証や安心感をもたらすことがあります。成功した経験は、その手法や戦略が正しかったことの証明として受け取られるため、未来の似たような状況でそれを再び適用することに確信を持つことが一般的です。
しかし、市場の環境、技術の進化、消費者のニーズなど、ビジネスの状況は常に変化しています。そのため、過去の成功が新しい状況や課題に対しても必ずしも最適な解決策であるとは限りません。このバイアスにとらわれることで、新しい機会を見逃すリスクや、変化する状況に適応できないリスクが高まります。
加えて、過去の成功プロジェクトへの囚われにより、組織内での新しいアイデアの提案が抑えられる可能性も懸念されます。なぜなら、過去の成功を基準とする考え方が支配的になると、それと異なる新しいアプローチや戦略が採用されにくくなるためです。
過去の成功は重要な参考情報ですが、過度にとらわれ過ぎず、現在の状況や未来の変化を適切に評価し、柔軟にアプローチを選択しなければなりません。
少数のクレームに過度に焦点を当てるネガティブバイアス
少数のクレームに過度に焦点を当てることで、全体の市場の要求や大多数の顧客の満足度を過小評価してしまうリスクが生じます。これにより、不必要な修正や方針の変更を行い、リソースの浪費や、大多数の顧客を混乱させる可能性があります。
したがって、ネガティブなフィードバックやクレームは重要な情報として捉えるべきですが、それを適切に評価し、全体のビジネスの状況や市場の動向を考慮しなければなりません。
既存の業務フローへの固執
バイアスの背後には、いくつかの心理的要因が影響しています。
まず、人々は変化を避ける傾向があり、特に既存の方法がある程度の成果をもたらしている場合、変化にともなうリスクや不確実性を避けたいと感じることが一因です。
また、長い間使用されてきた業務フローには、その組織や個人の経験や知識が詰まっており、それを変更することは過去の経験や努力を無駄にするかのように感じられることもあるでしょう。
しかし、業界の動向や技術の進化、市場の変化など、外部環境は常に変わっています。そのため、既存の業務フローに固執することは、組織や個人の柔軟性を損ない、新しい機会を逃すリスクを生む可能性があります。さらに、業務効率の向上の機会を損なうことで、競争力の低下につながることも考えられます。
バイアスが企業にもたらすデメリット
バイアスを放置すると、企業に次のようなデメリットをもたらします。
- 従業員のモチベーション低下
- 採用の質の低下
- 人事評価における公平性の阻害
- 意思決定の質の低下
- イノベーションの阻害
- チームのコミュニケーションの障害
- リスク管理の不備
従業員のモチベーション低下
バイアスを放置すると従業員のモチベーションが下がる可能性があります。組織内での昇進や評価がバイアスによってゆがめられていると感じると、従業員はみずからの実力や努力が正当に評価されないと感じるのです。
たとえば、上司や評価者が特定の従業員やグループに対して無意識のうちに好意的なバイアスを持っている場合、ほかの従業員はその不公正さを感じ、みずからの努力や成果が適切に評価されないと感じる可能性があります。
このような状況は、従業員の職務への熱意や組織へのコミットメントを低下させ、業務の効率や品質に悪影響を及ぼします。また、長期的には、優秀な従業員の離職率の増加や新たな人材の獲得が困難になるリスクにもなり得ます。
バイアスがモチベーションを低下させる要因として、従業員間の信頼感や連帯感の喪失も考えられます。特定のグループや属性に対するバイアスが存在する場合、組織内での人間関係の緊張や分断が生じる可能性があります。
採用の質の低下
採用におけるバイアスは、最も適切な候補者を選出する能力を損ないます。たとえば、面接官が特定の背景、学歴、外見、性別、年齢などの特定の特性に対して無意識的な好意または偏見を持っている場合、それは候補者の実際の能力や適性とは関係なく選考の結果に影響を与えます。
さらに、採用プロセスにおけるバイアスは、多様性の低下をもたらします。多様性が高い組織は、さまざまな背景や経験を持つ従業員からの視点やアイデアを受け入れられるため、革新や問題解決の能力が高まります。しかし、採用の際に特定のグループや属性に対するバイアスが存在すると、組織はその多様性の利点を享受することが難しくなります。
バイアスの存在が一般に知られると、組織のブランドや評価が低下するリスクもあります。優秀な人材は公平で公正な採用プロセスを持つ組織に魅かれる傾向があり、バイアスが存在する組織に、応募は魅力を感じなくなるでしょう。この状態が長く続くほど、新規採用そのものも難しくなります。
人事評価の不公平性
評価者が無意識的な好意や偏見を持っている状態では、バイアスが働き、従業員の実際の業績や能力とは関係なく評価結果に影響を及ぼします。たとえば、評価者が特定の背景、学歴、性別、年齢などの特性に対して好意的なバイアスを持っていると、その特性を持つ従業員がほかの従業員と比較して過度に高く評価される可能性があります。
不公正な評価は、組織内での信頼感や公正感を損ないます。また、正確な評価が行われないため、適切な人材の昇進や育成が困難となり、組織の競争力や業績にも悪影響を及ぼすでしょう。
意思決定の質の低下
意思決定が低下することもデメリットの一つです。確証バイアスやフィルターバブルの影響で、特定の情報や視点のみを重視し、ほかの重要な情報を見逃すことがあります。これにより、意思決定の根拠となる情報が不完全または偏ったものになる可能性があります。
具体的には、以前の成功体験や過去のデータに過度に依存して変わる環境や新しい情報に対応した柔軟な決定を困難にしたり、一度決断を下したあと、その選択を正当化するための情報のみを探し、新しい情報や変化に適応する能力を低下させたりするケースです。
正常性バイアスや過度の自己効力感は、リスクの過小評価や現実の状況の認識不足を引き起こす結果を招きます。
バイアスは、組織や個人が迅速かつ効果的に変化する環境に対応する能力を損なう可能性があり、競争力の低下や機会の損失を招くリスクが増大します。
意思決定の質を確保するためには、バイアスの認識とその対策が必要です。組織や個人は、定期的な自己反省や外部からのフィードバック、意思決定のプロセスの透明性の確保などを通じて、バイアスの影響を最小限に抑える取り組みを行うといいでしょう。
イノベーションの阻害
バイアスが存在することにより、イノベーション、つまり新しいアイデアや方法の創出や実施が阻害されることがあります。イノベーションは新しい視点や異なる考え方から生まれることが多いため、固定観念や偏見に基づいて情報やアイデアを排除するバイアスは、その発展を大きく制約します。
特定の方法や過去の成功に固執するバイアスは、新しいアプローチや手法を採用することを妨げるでしょう。「我々はこれまで常にこの方法でやってきた」という考え方への固執はアイデアを阻害する要因です。
また、特定のグループや背景を持つ人々に対する無意識の偏見は、多様性を持つチームの組成や意見の受け入れを制約する可能性があります。多様性は、異なる背景や経験を持つ人々からの異なる視点やアイデアをもたらすため、イノベーションの源といえます。多様性がバイアスによって制限されることは、組織にとって機会損失にほかなりません。
チームのコミュニケーションの停滞
特定のメンバーや意見に対する無意識の好意や偏見が存在する場合、一部のメンバーの声が過度に強調されたり、反対に無視されたりする可能性が高まります。チーム内での意見の多様性や新しいアイデアの提案が抑えられることとなり、その結果、最適な決定や解決策の探求が妨げられてしまうかもしれません。
また、特定の背景や属性を持つメンバーに対するバイアスが存在すると、そのメンバーがチームに対して不信感を抱く原因となり、開放的なコミュニケーションや協力の姿勢が損なわれます。チームの連帯感や信頼関係の損失をもたらし、チームのパフォーマンスや生産性にも悪影響を与えるでしょう。
さらに、失敗や誤りに対する過度な批判や罰則の恐れに由来するバイアスは、意見や提案を抑制します。そうすると新しいアイデアや解決策の探求が難しくなるでしょう。
リスク管理の不備
過度な楽観主義は、認知バイアスの一つで、事態の好転を過度に期待する傾向を指します。このバイアスの影響を受けると、意思決定者は潜在的なリスクを適切に評価できず、準備や予防策を怠るかもしれません。
たとえば、市場の新しい機会に関する過度な楽観主義は、競争の激化や外部環境の変化に十分に備えられなくなる可能性があります。
一方で、危険や問題が発生する可能性を低く見積もると、予期せぬ問題や危機に直面した際に、適切な対応策を講じるのが遅れ、対応が不十分となるでしょう。
これらの認知バイアスにより、企業はリスクの性質や規模を適切に認識できなくなり、リスク管理が不十分となる危険性が高まります。
バイアスの影響を抑える方法
バイアスは誰にでも働くものであり、完全に取り去ることは不可能です。しかし影響を抑えて、デメリットを回避するポイントを意識してみましょう。
事実と意見の区別
バイアスを抑えるポイント1つめは「どれが事実」で「どれが自分の意見(バイアス)なのかを明確にすることです。
事実とは検証可能で具体的な情報やデータを指し、これは実際に観測や検証を通じて確認できるものです。たとえば、「会社の売上が前年比で10%増加した」という情報は事実に基づいています。
一方、意見は個人の解釈や判断、感じたことに基づく主張や考えを指します。これには主観的な要素が強く影響しており、「この製品は今後も売れるだろう」という考え方は意見として捉えられているでしょう。
私たちはしばしば自分の信念や経験に基づいて情報を選択的に受け取ったり、解釈したりする傾向があります。このような行動は、確証バイアスや確認バイアスの影響を受けやすくなるため、意思決定の過程で情報がゆがむリスクが高まります。
前提を疑う姿勢の養成
2つめは前提を疑う姿勢を養うことです。「自分の常識、他人の非常識」という言葉があるように自分の意見や考えが絶対に正しい保証はどこにもありません。自信を持つのは大切ですが、「もしかしたら違うかもしれない」「自分の考えに当てはまらない人がいるかもしれない」とあらゆる可能性を考慮すると、施策決定の際にバイアスの影響を抑えられます。
多様な情報源の活用
3つめは多様な情報源を活用し、異なる視点や考え方、情報を取り入れることです。より広範でバランスの取れた情報をもとに、偏見や成約から自由になり、判断や意思決定をしましょう。
また異なる情報源からの情報を比較・検証することで、情報の正確性や信頼性を高められます。ただし、多様な情報源を活用する際には注意が必要です。情報の過多は、情報の分析や評価を難しくする可能性があります。情報源の信頼性や背景を常に確認しましょう。
積極的なフィードバックの収集
4つめは、積極的にフィードバックを受け入れることです。他者の視点や意見は、自分が見落としていた情報や、無意識に避けていた反対の意見を知る機会といえます。フィードバックの内容は、自分の考え方や判断に潜むバイアスに気づき、修正するための手掛かりです。
また、積極的なフィードバックの収集は、組織やチーム内でのコミュニケーションの質を高める効果も見込めます。
オープンな企業文化を築くことで、メンバー間の信頼関係も強化できるでしょう。コミュニケーションは、組織全体の意思決定や問題解決の質を高めるうえで不可欠な要素の一つです。
意思決定のプロセスの透明化
5つめは「どのような情報に基づいて決定したのか」という過程を公開することです。バイアスの排除だけでなく、万が一、問題が生じたときも迅速に対応するためでもあります。
意思決定のプロセスを公開することで、ほかのメンバーや関係者からのフィードバックや意見を受け入れるチャンスも増えるでしょう。外部からの意見や視点は、意思決定者が自分のバイアスや盲点を認識するきっかけといえます。
まとめ
バイアスとは、ある特定の方向へと傾く傾向や偏見、先入観に基づいて判断する心理的な傾向です。バイアスを完全に排除することは難しく、意識的に情報源を増やしたり、他人に指摘してもらったりすることが必要です。
育ってきた環境や性格が異なるため、バイアスがあるのは自然なことです。バイアスに気づかずに、自分の意見の正当性だけを主張し、周囲の意見を退けていては、仕事は前に進みません。
自分と同じように他人もバイアスを持っています。ビジネスパーソン同士でよいところは認め、改善点があったら指摘し、業務を進めていくとよいでしょう。
勘や経験に左右されない人材マネジメント|One人事[タレントマネジメント]
バイアスを完全に排除して、従業員を評価することは難しいです。しかし、日頃から組織の人材データを集約して見える化しておくと、明確な実績や能力をもとに、公平な評価が実施できるでしょう。
One人事[タレントマネジメント]は、従業員の目標管理と評価を紐づけて、顔写真などの基本情報とともに一元管理するタレントマネジメントシステムです。バイアスが背後に潜む人間の勘や経験に左右されることなく、従業員一人ひとりを公平に評価したいとお考えの企業は検討してみてください。
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