CSR(企業の社会的責任)とは? 定義と活動例、推進のためのポイントを紹介
CSRとは企業の社会的責任を指す言葉です。企業は単なる利益の追求だけではなく、社会に対してどのような責任を果たすべきかが問われています。
環境保護や社会貢献、ステークホルダーとの信頼構築といったCSR活動を通じて、持続的な発展のために重要な指針といえます。
本記事では、CSRの定義から具体的な活動例、推進するためのポイントについて解説します。自社の未来を左右するCSRを理解し、実践するためにお役立てください。
CSRの基本的な定義
CSRは世界的に統一的な定義はありませんが、経済産業省は以下のように定義しています。
「企業の社会的責任」とは、企業が社会や環境と共存し、持続可能な成長をはかるため、その活動の影響について責任をとる企業行動であり、企業を取り巻くさまざまなステークホルダーからの信頼を得るための企業のあり方を指します。
引用:『価値創造経営、開示・対話、企業会計、CSR(企業の社会的責任)について』METI/経済産業省
CSRをより深く理解するために、意味や注目されるきっかけとなった背景、企業活動の目的を解説します。
意味
CSR(Corporate Social Responsibility)とは、企業が利益を追求するだけでなく、社会や環境に対して責任を持ち、持続可能な社会の実現に貢献することです。
具体的には、顧客や従業員、取引先などのステークホルダーや環境に対する配慮など、あらゆる内容に対する意思決定を意味します。
背景
CSRが注目を集めるようになった契機は、2000年代以降に頻発した企業の不祥事です。食品偽装や消費期限の改ざんなど、企業の信頼を大きく損なう事件が相次いで発覚しました。そこで企業の社会的責任に対する関心が急速に高まりました。
CSRの概念自体は1960年代から存在していましたが、本格的に重要視されるようになったのは2000年以降です。企業不祥事の頻発を受け、企業と社会との信頼関係を再構築する必要性が強く認識されるようになりました。
目的と重要性
企業がCSR活動に注力する最大の理由は、顧客および取引先との信頼関係を築き、長期的に維持することです。企業の不祥事が相次いだ過去の経験から、CSRの必要性が強く認識されるようになった昨今、企業の言動に対する社会からの監視は一段と強まっています。
目先の利益追求に走るあまり法令に抵触するような行為をすれば、環境問題などの社会的な悪影響を及ぼすだけでなく、企業自身も甚大な損失を被ります。ソーシャルメディアが広く普及した現代では、企業の不適切な行動が拡散し、顧客や取引先の信頼を失う危険性が高まっています。
企業が健全な経営を維持し、継続的な発展を実現するには、CSR活動を通して顧客や取引先との間に強固な信頼関係を築くことが必要です。
CSRとサステナビリティとの違い
CSRはサステナビリティと混同されやすいですが、両者には違いがあります。CSRとサステナビリティの違いは以下の通りです。
CSR | サステナビリティ | |
---|---|---|
定義 | 企業がビジネス活動を通じて、法的責任を超えて社会や環境に対する責任を果たすこと | 社会、経済、環境の3つの側面での持続可能な発展を目指すこと |
目的 | 社会的責任を果たして、ステークホルダーとの関係を強化する | 現代から将来世代にわたり持続可能な発展を実現していく |
注目していること | 労働環境改善、社会貢献活動 | 環境や経済、社会の持続可能性 |
CSRは企業が社会や環境に対して責任を果たすことです。一方、サステナビリティは社会、経済、環境の三つの側面で持続可能な社会の発展を目指していく点で異なります。
サステナビリティ(Sustainability)とは、環境や経済に配慮した活動を実施することです。「Sustain(維持する)」と「Bility(可能性)」を合わせた造語から構成されています。日本では持続可能性と呼ばれており、将来にわたって機能を失わずに続けていくシステムやプロセスという意味を持っています。
CSRとSDGsとの違い
CSRはSDGsとも混同されやすいですが、異なる役割があります。
企業の社会的責任を指すCSRと、持続可能な開発目標を意味するSDGsの違いは以下の通りです。
CSR | SDGs | |
---|---|---|
定義 | 企業がそのビジネス活動を通じて、法的責任を超えて社会や環境に対する責任を果たすこと | 国連が定めた2030年までに達成する17の開発目標のこと |
目的 | 社会的責任を果たして、ステークホルダーとの関係を強化する | 貧困撲滅や地球環境保全、すべての人々の繁栄を目指している |
注目していること | 労働環境改善、社会貢献活動 | 気候変動や教育 |
SDGsとは持続可能な開発目標として2015年9月の国連サミットで採択された決議です。2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すものです。
SDGsは17のゴールと169のターゲットから構成され、CSRと同様に企業の社会的な責任を果たすための指針としても活用されています。
CSRとコンプライアンスとの違い
CSRは社会や環境に対して自主的に果たすべき責任を指し、一方でコンプライアンスは企業が法律や規則を守ることを指します。
CSRは法律に基づかない範囲でも、社会貢献や持続可能性の向上を目指す点で、コンプライアンスとは異なります。
ただし、企業がCSRを進めるにあたって、コンプライアンスを遵守することが前提といえるでしょう。
企業がCSRに注力するメリット
企業がCSRに注力することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。主なメリットを4つ紹介します。
- ステークホルダーとの関係強化
- 企業イメージの向上
- 従業員満足度・エンゲージメントの向上
- 採用ブランディング強化
ステークホルダーとの関係強化
企業がCSR活動を公表し、積極的に取り組むことで、顧客や取引先、地域社会からの信用が高まります。CSR活動を公表し、企業の評判が向上し、長期的にポジティブな影響をもたらす可能性があります。
企業イメージの向上
積極的なCSR活動は企業のイメージを向上させます。社会的責任を持つ企業として、よい印象を社会に与えられるでしょう。ステークホルダーの利益に対し、責任を持つ企業としてのイメージも与えられるため、競合他者と差別化をはかれるでしょう。
従業員満足度・エンゲージメントの向上
CSR活動は、従業員の満足度やエンゲージメント向上にもつながるメリットがあります。従業員自身が、CSR活動を通して社会に貢献しているという意識が持てるでしょう。会社に誇りを持つことで離職率の低下や満足度の向上が期待できます。
採用ブランディング強化
CSR活動により、企業イメージが向上した結果、優秀な人材を確保できるチャンスが生まれます。労働人口が減少しつつある現代において人材確保は喫緊の課題といえます。
CSR活動を通して社会的なイメージが向上すると、入社したいと思えるきっかけをつくれるでしょう。
企業がCSRに注力するデメリット・注意点
CSRへの取り組みはメリットがある一方で、デメリットや注意点もあります。主なデメリットを2つ紹介します。
一時的なコスト増加・利益減少
利益を追求する事業とは別にCSR活動を進めていると、働きやすい環境への配慮により、人件費が増加したり材料コストが増えたりする可能性があります。そのため、CSR活動によるコスト増加や利益減少を見越した収益計画を立てることが大切です。
人的リソースの確保
CSR活動を推進するために人材を確保する必要があります。CSR活動に人的リソースが注がれると、本業が人材不足になる可能性があります。CSR活動と本業が両立できるように人材リソースを確保しておくとよいでしょう。
国内企業のCSR活動の例
CSRの国内企業の活動例を紹介します。
- トヨタ自動車株式会社
- 日本電信電話株式会社(NTT)
- KDDI株式会社
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社は、CSR活動の一環として2015年10月『トヨタ環境チャレンジ2050』を策定しました。資源枯渇や水不足といった地球環境問題に対して、車が持つマイナス要因をゼロに近づける取り組みです。
具体的な取り組み目標は以下の通りです。
- 新車CO2ゼロチャレンジ
- ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ
- 工場CO2ゼロチャレンジ
- 水環境インパクト最小化チャレンジ
- 循環型社会・システム構築チャレンジ
- 人と自然が共生する未来づくりへのチャレンジ
環境に配慮したクルマを製造することで、地域社会に貢献しています。
参照:『トヨタ自動車「トヨタ環境チャレンジ2050」』トヨタ自動車株式会社
日本電信電話株式会社(NTT)
日本電信電話株式会社(NTT)は、コミュニケーションを重視したCSR活動を展開しています。具体的な重点項目は以下の通りです。
- 人と社会のコミュニケーション
- 人と地球のコミュニケーション
- 安心・安全なコミュニケーション
- チームNTTのコミュニケーション
ICTやデータを活用して社会に貢献するとともに、電力効率を向上させて環境負荷の低減を測っています。
KDDI株式会社
KDDI株式会社のCSR活動は、以下の理念に基づいて推進されています。
KDDIグループは、「KDDIフィロソフィ」に基づいて、当社がかかわるすべてのステークホルダーのご満足を追求することで、持続的に世界中の人々が豊かで幸せな生活を送れる、笑顔あふれる社会の実現に貢献します。
引用:『社会貢献活動 』KDDI株式会社
さらに行動指針として、ICTの活用やステークホルダーとのコミュニケーションを通して、社会の発展に関与することを掲げています。
海外企業のCSR活動の例
CSRの海外企業の活動例を紹介します。
Amazon.com Inc.
Amazonは「地球上で最もお客様を大切にする企業」という理念のもと、積極的にCSR活動を推進しています。同社は、子ども向けにロボットやゲームを活用した教育プログラムを提供したり、小児がん患者とその家族を支援したりしています。
また、自然災害時に迅速に対応できるよう、非営利団体と連携し、必要なリソースを提供することで救援活動を強化してきました。
Apple Inc.
Appleは環境に配慮したCSRの一環として、カーボンフットプリントの排出量を実質ゼロにする活動を推進しています。カーボンフットプリントとは、商品やサービスの材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでの過程で、排出される温室効果ガス排出量を見える化したものです。
カーボンフットプリントを削減するために、同社は再生可能素材を使用した製品を設計しました。2030年までに合計排出量を75%削減する目標を立て、すでに50%以上削減を実現しています。
参照:『People and Environment in Our Supply Chain』Apple Inc.
Starbucks Corporation
スターバックスは、企業ミッションである『Our Mission Promises and Values』に基づいたCSRを実践するために、人・地球・コミュニティを重視した活動を展開してきました。その一例が『NO FILTER』活動です。
活動を通して心のフィルターを取り除き、誰もが快適に活躍できる居場所づくりに注力しています。同社のCSR活動は、互いに尊重し合い、すべての人が居心地のよい社会を広げることに貢献しています。
参照:『Social Impact』スターバックス コーヒー ジャパン
CSRの今後の展望
CSRの今後の展望として、SDGs(持続可能な開発目標)との結びつきがさらに強化されると予測されています。SDGsが掲げる環境保全や貧困撲滅は、企業が果たすべき社会的責任と密接に関連しているためです。
たとえば、温室効果ガスを排出する企業は、環境問題に対して具体的な対策を講じる必要があります。環境に配慮することは、CSRにとっても重要な要素であり、企業が無視できない責務です。
CSRとSDGsはお互いを補完し合う性質があります。両者が連携することで、持続可能な社会を実現するための取り組みがより効果を発揮すると考えられています。
CSRに関する国際規格ISO26000とは
ISO 26000は、CSRを果たすためのガイドラインを提供する国際標準規格です。2010年に国際標準化機構(ISO)によって策定され、企業や団体が社会的責任を実践するための指針として使われています。
CSRの7つの原則 |
---|
説明責任 |
透明性 |
倫理的な行動 |
ステークホルダーの利害の尊重 |
法の支配の尊重 |
国際行動規範の尊重 |
人権の尊重 |
CSRを取り入れる際のポイント
最後に、企業がCSRを積極的に取り入れていくためのポイントを解説します。
ステークホルダーとのコミュニケーションの強化
- 企業のミッション・ビジョンとの整合性のチェック
- 持続可能性の確保
- 透明性の確保
- 従業員の参加と教育
- 定量的・定性的な評価の実施
- 地域社会との連携
ステークホルダーとのコミュニケーションの強化
CSR活動を成功させるためには、ステークホルダーとの定期的な対話が欠かせません。ステークホルダーには顧客・消費者はもちろん、株主・投資家や従業員、地域社会、サプライヤーなどが含まれます。
CSRの取り組みではステークホルダーと対話を繰り返し、活動の内容や進捗状況、課題などを共有することで、相互理解を深められ、信頼関係を築けます。
また、ステークホルダーからのフィードバックを通して、CSR活動を改善すると効果が一層高まるでしょう。
企業のミッション・ビジョンとの整合性のチェック
CSR活動は企業のミッションやビジョンに基づくものでなければ、持続的な影響を与えることが難しくなります。企業の価値観や目的と一致しないCSR活動は、社内外からの信頼を損なう可能性があるため、戦略的な整合性を確認することが重要です。企業の中核的な価値観と一致したCSR活動は、企業のブランド価値を高め、長期的な成果につながります。
持続可能性の確保
CSR活動自体が持続可能であることがポイントです。環境や社会に前向きな影響を与えつつ、長期的に実施可能な取り組みである必要があります。
一時的な活動ではなく、計画的で継続可能な活動を設計して実行することが、社会的責任を果たすうえで欠かせません。リソースの管理やコストの最適化をしながら、環境負荷を軽減するなどの持続可能なアプローチが大切です。
透明性の確保
CSR活動を進めるうえで、活動の透明性は重要なポイントです。活動内容や結果をステークホルダーに公開することで、自社の信頼性が向上します。
CSR報告書の作成や定期的な進捗報告を実施し、成功事例だけでなく課題や失敗もオープンに共有する姿勢が、企業の透明性を高め、長期的な信頼を築くために重要です。
従業員の参加と教育
CSR活動を効果的に展開するには、従業員の参加が不可欠です。従業員がCSR活動に積極的に参加し、理解を深めることで、社内の一体感や個人のエンゲージメントが高まります。
また、CSRに関する教育プログラムや研修を実施すると、従業員が社会的責任の重要性を理解し、自発的に取り組む姿勢を育てることができます。従業員の参加を促す取り組みは、企業全体のCSR活動の成功につながるでしょう。
定量的・定性的な評価の実施
CSR活動の成果を正確に評価し、改善点を見つけるためには、定量的な指標と定性的な指標の両面で評価することが重要です。
定量的な指標 | 定性的な指標 |
CO2削減量、資金投入額など | 社会的な影響、ステークホルダーの満足度など |
定期的な評価を実施し、結果に基づいて活動を改善することで、CSR活動の質を向上させ、より大きな社会的貢献を果たせるでしょう。
地域社会との連携
CSR活動を推進するためには、地域社会との連携が不可欠です。地域の課題やニーズを理解し、ニーズに応じた企業活動を展開することで、地域に根ざしたCSR活動が進められます。地域社会との協力関係を強化すると、地域にポジティブな影響を与え、CSR活動を高められるでしょう。
まとめ
CSRとは、企業が社会的・環境的責任を果たす重要な取り組みです。CSR活動を通して、ステークホルダーとの関係を強化し、自社のイメージや従業員満足度を向上します。
一方で、CSR活動にはコストや人的リソースの確保といった課題もあります。事前に対策をしたうえでCSRに取り組む必要があるでしょう。
CSRは持続可能な社会の実現に向けた企業の責任であり、今後も重要性は増すと予測されています。CSRを推進するには、ステークホルダーとのコミュニケーションや企業理念との整合性を確保していく必要があります。