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善管注意義務とは? 違反事例や対策を解説

善管注意義務とは、その職業や地位において社会通念上必要とされる注意を払う義務のことです。義務を課せられる人の地位や立場、状況などによって内容は異なります。善管注意義務に違反すると、罰則を受ける可能性もあるため注意しなければなりません。

そこで本記事は、善管注意義務について総合的に解説しながら、違反や対策などについても紹介します。善管注意義務を負う立場の人はもちろん、企業の法務担当者や人事担当者も参考にしてください。

※本記事の内容は作成日現在のものであり、法令の改正等により、紹介内容が変更されている場合がございます。

善管注意義務とは? 違反事例や対策を解説
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    善管注意義務とは

    善管注意義務とは、社会通念上もしくは客観的に見て当然負うべき注意義務です。善管注意義務の例は以下の通りです。

    • 他者から預かった荷物を所有者に引き渡すまでの管理義務
    • 売買契約を行った際に、買主に引き渡すまでの管理義務
    • 仕事を委任された場合における委任業務の処理義務

    日常生活では、ものの売買を例に挙げるとわかりやすいでしょう。新築住宅などの不動産の売買契約を締結して購入しても、さまざまな状況により、すぐに手に入るわけではありません。

    最終的に引き渡しが完了するまでの間は、売り主が善管注意義務を負い、対象不動産の安全維持や管理を行います。

    ビジネスにおいては、企業から経営を委任されている取締役が、善管注意義務を負う役職の代表例です。経営者として払うべき注意を忘れずに、誠実に経営を行う必要があります。取締役が善管注意義務に違反して企業に損害を生じさせると、損害賠償責任を負う可能性もあります。

    参照:『会社法 330条、423条』e-GOV法令検索

    自己の財産におけると同一の注意義務とは

    善管注意義務よりも、責任の程度が軽いものが「自己の財産におけると同一の注意義務」です。自己の財産におけると同一の注意義務とは「自己の財産と同じ程度の注意を払う義務」を指します。善管注意義務とは異なり、故意や重大な過失がない限り、損害賠償責任は負いません。

    企業で善管注意義務を負う役職

    企業において、善管注意義務の対象である代表的な役職は取締役です。ほかにも、監査役や会計参与、執行役、会計監査人などが善管注意義務を負う対象に含まれます。これらの役職に就いている人には、一般的に求められる水準の注意を払う義務が生じます。

    参照:『会社法 330条、423条』e-GOV法令検索
    参照:『民法 644条』e-GOV法令検索

    取締役が負う義務

    取締役は、企業から経営を委任される立場であるため、善管注意義務が課されています。企業に損害を与えることのないよう、よく注意して職務に取り組まなければなりません。

    ただし、取締役は善管注意義務のほかにも、さらに複数の義務を負っています。取締役が負っている代表的な義務をご紹介します。

    • 忠実義務
    • 経営判断と監督する義務
    • 内部統制システムの構築を行う義務
    • 報告義務

    忠実義務

    善管注意義務をさらに具体的に説明したのが、忠実義務です。忠実義務とは、法令や定款、株主総会の決議を守り、企業のために忠実に仕事を全うする義務を指します。

    また、忠実義務から派生して取締役には、会社が行っている事業と競業する事業を行わないという「競業避止義務」も求められています。

    参照:『会社法 355条』『会社法 356条』e-GOV法令検索

    経営判断と監督する義務

    取締役は、企業の経営を任されている存在です。そのため、会社の経営方針や方向性を示したうえで、適切に実行されているのかを監督する義務があります。さらに、企業の実質的な所有者である株主には、株主総会などを通して懸念点などを説明する必要があります。

    内部統制システムの構築を行う義務

    取締役は、利害関係者へ損害を与えないようにするため、内部統制システムを構築する義務も負っています。具体的には、従業員が経営方針を実行できる環境を整備したり、考えられるリスクの対処法を示したりするなど、ITへの対応や活用も該当します。

    報告義務

    会社に大きな損害や損失が及ぶことがあった際、取締役は速やかに株主へ報告する義務も負っています。監査役を設置する企業は、監査役への報告もしなければなりません。

    善管注意義務違反になる事例

    善管注意義務違反に該当する事例には、さまざまなケースが挙げられます。具体的にどのような状況があるのでしょうか。代表的な事例を紹介します。

    • 事例1.法令違反
    • 事例2.業務執行の決定に対する注意を怠った場合
    • 事例3.経営判断のミスが明らかな場合
    • 事例4.ほかの役職員への監視の注意を怠った場合
    • 事例5.利益相反取引の開示や承認を怠った場合
    • 事例6.第三者への損害につながった場合

    事例1.法令違反

    法令違反は、当然ながら善管注意義務違反です。善管注意義務には、一般常識で考えられる視点で注意しなければならないという意味が含まれます。そのため、法令に違反するような行為があった場合は、善管注意義務にも違反するとみなされます。

    コンプライアンスの観点からも、取締役は企業として法令違反を起こさないよう、日頃から監視や監督の徹底が求められているといえるでしょう。

    事例2.業務執行の決定に対する注意を怠った場合

    取締役は企業の経営について、より適切に運営するための判断をしたうえで、実行しなければなりません。経営判断に誤りがあると、善管注意義務違反と判断される場合があります。

    ただし、経営判断の誤りすべてが違反になるわけではありません。企業に損害が生じたときでも、以下の2つを満たしていれば違反にはならないと考えられています。

    • 判断するために十分な情報をもとに調査や分析を行った
    • 判断した内容が、極端におかしなものではない

    取締役は日々、多岐にわたる経営判断を行いますが、すべてが思うようにことが運ぶとは限りません。結果的に判断が誤っていても、善管注意義務違反に該当しないようにするには、判断材料となる情報収集や調査をしていたか否かが重要であると理解しましょう。

    事例3.経営判断のミスが明らかな場合

    明らかに間違っているような経営判断をした場合は、善管注意義務違反になります。取締役は、常日頃から適切な経営判断を行わなければなりません。誰が見ても明らかなミスにより、企業に損害が生じた場合は、善管注意義務違反となり、責任を追及される可能性が高いでしょう。

    事例4.ほかの役職員への監視の注意を怠った場合

    善管注意義務違反によって損害が発生すると、企業は取締役に補填をしてもらわなければなりません。取締役は、ほかの役職員について監視や監督の義務を負っています。

    仮に不正を行っている役職員がいた場合、見て見ぬふりをしたり、放置したりすると善管注意義務違反とされます。日頃からほかの役職員の監視や監督を行い、気になる点があれば調査する必要があるでしょう。

    事例5.利益相反取引の開示や承認を怠った場合

    取締役が、自社や第三者と取引を行うとき、株主総会において取引事実を開示したり、株主総会決議による承認を取得したりしなければなりません。

    開示と承認を得ずに、取締役が利益相反取引(企業側と取締役の利害が対立する取引)をすると、善管注意義務違反に該当します。

    参照:『会社法 356条』e-GOV法令検索

    事例6.第三者への損害につながった場合

    虚偽報告や財務諸表のデータ改ざんなどが、第三者(株主や取引先など)への債務不履行や会社の倒産などにつながった場合、最終的に企業に大きな損害をもたらすことになります。

    取締役が第三者へ故意または重大な過失によって損害を与えることは、善管注意義務違反に該当し、責任を追及されます。過去には、被害を被った株主などの第三者が、取締役に対して責任を追求しない企業を相手取って訴訟を起こした事例もありました。

    善管注意義務違反における企業の対応

    善管注意義務とは? 違反事例や対策を解説

    善管注意義務違反によって損害が発生すると、企業は取締役に損害を補填してもらわなければなりません。企業が取締役に対して十分な責任追及を行わない場合、株主などの第三者が取締役に対して訴訟を起こすことも可能です。

    訴訟に発展した場合は、以下のいずれかの対応を検討する必要があります。

    • 監査役が企業の代表となり、責任を追及する
    • 株主が企業の代わりに責任を追及する

    善管注意義務違反への対策

    取締役による善管注意義務違反は避けなければなりません。企業として善管注意義務違反を防ぐためには、どのような予防や対策を講じればよいのでしょうか。代表的な善管注意義務違反への対策を6つご紹介します。

    • 取締役に情報提供を行う
    • 専門家に相談する
    • 議論を徹底して行う
    • 内部統制を強化する
    • 社外取締役を選出する
    • 会社役員賠償責任保険に加入する

    取締役に情報提供を行う

    取締役が正しい判断をするために、情報が適切なタイミングで提供されているか否かが重要になります。取締役会において審議を実施するときは、リスクを含めた情報が提供されていることが望ましいといえるでしょう。取締役への情報提供や報告について、仕組みを整えておくことが大切です。

    専門家に相談する

    善管注意義務違反を予防するための対策として、専門家へ相談することも一つの方法です。特に法律分野の専門家には、必要に応じて意見を求め、問題がないかどうかを確認しましょう。

    議論を徹底して行う

    取締役会では、議論が十分に行われる必要があります。建設的な議論を促進するためには、反対意見にも耳を傾けるべきであり、さまざまな意見を出せる雰囲気づくりも大切といえるでしょう。

    善管注意義務違反に該当するか否かの判断は、前提となる調査や審議が十分に尽くされていたか否かによって異なります。本当に前提となる調査や審議が十分に尽くされたのか、監査役の意見なども確認するとよいでしょう。

    内部統制を強化する

    善管注意義務違反を避けるためには、日頃から内部統制を強化しておくことも大切です。適切なルールを設け、社内に浸透しているか、ルールが守られているかを適宜確認しましょう。

    社外取締役を選出する

    正しい経営判断を行うためには、客観的視点で意見を言える社外取締役の存在も重要です。偏った経営判断を防止し、善管注意義務に対して意識を強化できるでしょう。

    会社役員賠償責任保険に加入する

    企業が保険金を負担する『会社役員賠償責任保険(D&O)』に加入していると、会社への賠償金などを補填してくれる場合があります。

    善管注意義務違反となり、企業に損害を与えてしまった取締役は、賠償金を負担しなければなりません。膨大な金額は、当事者である取締役にとって大きな負担です。

    会社役員賠償責任保険は、状況や事案によって補償の対象外になるケースもあるため、事前に内容を確認したうえで検討しましょう。

    まとめ

    善管注意義務とは、その職業や地位において社会通念上必要とされる注意を払う義務を意味します。ビジネスにおいて特に注意すべきなのが取締役です。取締役は、企業から経営を委任されている以上、善管注意義務を負っています。

    善管注意義務違反には、過去にさまざまな事例があります。本記事でご紹介した代表的な事例を踏まえたうえで、意識を強化して内部統制を徹底し、日頃から予防に努めるとともに対策を講じましょう。