ギグワーカーとはどんな仕事? 意味とフリーランスとの違いや例、活用メリット、貧困問題まで解説

ギグワーカーとはどんな仕事?意味とフリーランスとの違いや例、活用メリット、貧困問題まで解説

ギグワーカーとは一時的な仕事やプロジェクトの契約を通じて働く、柔軟性の高い労働者です。働き方改革が進められる現代において、感染症の流行がきっかけとなり「ギグワーカー」として働く人が増えています。

本記事では、ギグワーカーの仕事内容と企業がギグワーカーを雇用するときのメリットと注意点を解説します。

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    ギグワーカーとは|意味・定義をわかりやすく解説

    ギグワーカーとは、単発で仕事を請け負う労働者の総称です。たとえば以下の職種や個人事業主が含まれます。

    • UberEatsのドライバー
    • フードデリバリーサービスの配達員
    • グラフィックデザイナー
    • ライター
    • プログラマー

    ギグワーカーが増えた背景には、感染症の流行があります。

    新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた2020年春、政府は企業にリモートワークへの切り替えや国民に不要不急の外出自粛を要請しました。しかし、昨日まで対面でやっていた仕事を急にリモートに切り替えられるほど、簡単ではありません。

    当時は多くの企業が営業日数の削減や一定期間の休業を実施し、なかには給与が減ってしまった労働者もあらわれました。労働者が収入を確保しようと、デリバリーのドライバーなど単発の仕事に就き、ギグワーカーが増えていったといわれています。

    ギグとは

    「ギグ」とは、もともとは音楽業界で用いられ、バンドやアーティストが一夜限りのライブや演奏を行うことです。現代では、一時的な仕事や短期間の契約を行うフリーランスの仕事全般を指す言葉として使われています。

    たとえば、デザインの仕事やライティングのアサインメント、一時的なコンサルティングの仕事など、短期的またはプロジェクトベースで行われる労働が「ギグ」と呼ばれます。

    ギグエコノミーとは

    ギグエコノミーとは、ギグに基づいた労働が一般的な特徴である経済システム全体のことです。短期契約の仕事が多く、長期的でフルタイムの仕事よりも柔軟な雇用形態が普及している経済をいいます。

    ギグエコノミーには、独立した契約労働者や、インターネット上の求人サービスを介して契約した労働者など、さまざまな種類の人が含まれます。

    どんな仕事? 具体的な職種

    ギグワーカーの職種は、具体的に以下の仕事が挙げられます。

    分類職業例
    運送サービス関連・ライドシェアドライバー(UberやLyftなど)
    ・配送ドライバー(DoorDashやUber Eatsなど)
    住宅・宿泊サービス関連・ショートタームレンタルホスト(Airbnbなど)
    ・清掃サービス提供者
    プロフェッショナルサービス・Web開発者
    ・ITエンジニア
    ・翻訳者
    ・フリーランスコンサルタント
    クリエイティブサービス・写真家
    ・イラストレーター
    ・ビデオグラファー
    ・ライターやエディター
    ・グラフィックデザイナー
    パーソナルサービス・パーソナルトレーナー
    ・ヨガインストラクター
    ・美容師
    ・家事代行
    ・ベビーシッター
    イベント関連・イベントプランナー
    ・ケータリングサービス
    ・DJや音楽演奏者
    ・ウェディングプランナー
    教育・指導関連・個人家庭教師
    ・オンライン講師
    ヘルスケア・マッサージセラピスト
    ・ケアギバー
    手工業・製作関連・手作り製品の販売者(Etsyなど)
    ・家具製作者
    マーケティング・広告関連・マーケティングコンサルタント
    ・SEO/SEM専門家
    法務サービス・フリーランスの法律顧問
    ・契約書作成専門家
    その他専門サービス・不動産業者
    ・会計士や税理士
    ・獣医
    アート・エンターテイメント・アーティスト
    ・俳優
    ・ミュージシャン

    ギグワーカーとフリーランスの違い

    ギグワーカーと対比されるのがフリーランスです。両者の違いを以下の3つの観点から解説します。

    • 専門性の有無
    • 継続性の有無
    • 受注方法

    専門性の有無

    ギグワーカーは必ずしも専門性を必要としない職種が多いです。一方、フリーランスには、個人事業主も含まれます。法人化できるほどであるため、専門的な知識や技術を持っていることが一般的です。

    継続性の有無

    ギグワーカーは、一回限りの仕事や短期的なプロジェクトに従事している傾向があります。対してフリーランスは通常、1つのクライアントと長期にわたって働くことが多く、安定した関係性や収入源を構築しています。

    受注方法

    ギグワーカーは『Uber Eats』や『Airbnb』といったアプリや『Crowd Works』といったオンラインプラットフォームを利用して短期的な仕事を見つけます。

    フリーランスは、既存のクライアントからの推薦や自分のポートフォリオサイト、ソーシャルメディア、専門プラットフォームを通じて新規クライアントを獲得するケースが多いでしょう。

    ギグワーカーが注目された背景

    コロナ禍をきっかけに注目されたギガワーカーは、雇用環境の変化の影響もあって増加したといわれています。ギグワーカーが増えた背景には以下の3つの雇用の変化が考えられます。

    • 副業の解禁
    • 雇用への不安の増大
    • 専用プラットフォームの普及

    副業の解禁

    政府による働き方改革の推進を受け、多くの企業が副業を認めるようになりました。副業の解禁により、正規の雇用を持ちつつ、収入を補完する手段としてギグワークを選択する人が増えたと考えられます。

    雇用への不安の増大

    1990年代は終身雇用が当たり前とされていましたが、経済の不透明性などを背景に撤廃する企業が増えています。このような雇用環境の変化を背景に、一企業に頼らずに「個人で稼ぐ力を身につけたい」と考えるギグワーカーが増えました。

    専用プラットフォームの普及

    『UberEats』や『Airbnb』のようなプラットフォームの普及も、ギグワーカーが増えた一因といえます。オンラインプラットフォームは、個人が自由に短期の仕事を見つけて受注できる新しい働き方を可能にしました。個人が自分のスキルや時間を直接的に市場に提供できるようになったのです。

    ギグワーカーの実態

    公益社団法人日本経済研究センターの分析によると、ギガワーカの市場は「固定報酬プロジェクトで 2020年に19 年比で約2割伸びた」と報告されています。コロナ禍のあとも、大きな落ち込みは見られず、世界では5兆円規模の市場になっていると結論づけています。

    参照:『コロナ禍でも拡大続くギグワーク市場』公益社団法人 日本経済研究センター 

    ギグワーカーを活用するメリット

    企業がギグワーカーを活用するメリットは次の通りです。

    • コスト削減
    • 一時的な人材確保
    • 専門スキルの吸収

    コスト削減

    ギグワーカーを企業が利用する最大のメリットは、固定経費の削減です。企業はギグワーカーに対して、通常の従業員に必要な福利厚生や社会保険料などの経費を支払う必要がなく、採用コストなどの削減も期待できます。

    一時的な人材確保

    ギグワーカーは企業にとって柔軟な人材リソースを提供します。プロジェクトベースでの雇用や一時的な需要の増加に応じてスタッフを増員できるため、市場の変動や季節的な需要の変化に迅速に対応できるのです。

    たとえば、特定の技能を持つフリーランスを一時的に雇い入れることで、新しいプロジェクトを迅速に開始したり、短期間で特定の専門知識を内製化できたりします。

    ノウハウの蓄積

    企業はギグワーカーの短期雇用により、特定の業務ノウハウを蓄積できるかもしれません。特定のスキルが必要なプロジェクトにおいて、フルタイムでそのスキルを持つ従業員を雇用する代わりに、ギグワーカーが持つノウハウを活用できます。

    特に高度な技術やニッチな専門知識が求められるタスクにおいて有効といえます。企業は大きな投資をせずに、必要なときに正確なスキルを持つ人を確保し、ギガワーカーのスキルとノウハウを自社に蓄積できるのです。

    ギグワーカーを活用するデメリット

    ギグワーカーの活用はメリットがある一方で、以下のようなデメリットも懸念されています。

    労働の質と一貫性の問題

    ギグワーカーは一般的に短期間の契約やプロジェクトベースで働くため、企業の長期的な目標や企業文化に深く根ざした考えを持ちにくいという問題があります。これにより仕事の質や一貫性に影響を与えることがあります。

    また、短期雇用は長期で働く従業員との関係が表面的なものにとどまり、チームワークやプロジェクトの成果に悪影響を及ぼす可能性も考えられるでしょう。

    知的財産や機密情報の管理

    ギグワーカーとの仕事では、自社が持つ知的財産や機密情報を共有しなければならない場面もあります。複数のクライアントと同時並行で仕事を請け負うギグワーカーとのやり取りは、情報のセキュリティや機密保持に関するリスクが高まるでしょう。

    企業は情報を保護するために、厳格な契約やセキュリティ体制を整える必要があります。

    法的・規制上のリスク

    ギグワーカーの活用は、労働法や税法などの法規制において複雑な問題を引き起こす可能性があります。

    たとえば、ギグワーカーが実質的に従業員としての役割を果たしているにもかかわらず、適切な雇用の保護や福利厚生を受けていないと判断されると、企業は法的な責任を負うことになります。また、税務上のミスによる罰金や追徴課税のリスクも考慮しなければなりません。

    企業はギグワーカーとの契約関係を慎重に管理し、適切なガイドラインに基づいて業務を遂行する必要があります。

    ギグワーカーとして働くメリット

    ギグワーカーとして働くことには以下のメリットが挙げられます。

    • 柔軟性と自由度の高さ
    • 多様な経験とスキルの獲得
    • 収入の調整

    柔軟性と自由度の高さ

    ギグワーカーは、みずからのスケジュールを調整しやすい働き方ができます。仕事とプライベートの両立を考えると、ギグワーカーは「よい働き方」といえます。

    多様な経験とスキルの獲得

    ギグワーカーは、多様なプロジェクトやクライアントと働く機会が多いため、さまざまな業界や職種での経験を積むことができます。自身のスキルセットを広げ、キャリアの可能性を拡大することにつながります。

    収入の調整

    ギグワーカーは、自分で仕事の量や種類を選べるため、収入をある程度自己管理できます。特定のスキルセットが市場で高く評価される場合、高い報酬を得ることも可能です。また、複数のギグを同時にこなすことで、複数の収入源を持つことができ、経済的な安定性を高められるでしょう。

    ギグワーカーとして働くデメリット

    ギグワーカーとして働くメリットがある一方で、労働者として以下のようなデメリットも挙げられます。

    • 収入が不安定
    • 社会保障が不十分
    • 専門性とキャリアの拡大が難しい

    収入が不安定

    ギグワーカーはプロジェクトベースまたは短期契約で働くため、仕事が一定しない可能性があり、収入に波があります。一定のスキルと信用を得られれば安定も見込めますが、たどり着くまでには個人の努力が必要です。

    社会保障が不十分

    ギグワーカーに対して、社会保険や福利厚生が提供されることはほとんどありません。ギグワーカーは保険を自分で手配し、費用を自己負担する必要があります。病気やケガをしたとき、または仕事が見つからないときに、十分な保障が得られない可能性があります。

    専門性とキャリアの拡大が難しい

    ギグワーカーは多種多様な仕事に従事するため、特定の専門性やキャリアパスを構築するのが難しい場合があります。長期的なキャリア開発と能力の構築には継続的な学習と実務経験が不可欠です。短期の仕事が多いギグワーカーは、キャリアアップの機会が限られているといえるでしょう。

    ギグワーカーの問題点

    ギグワーカーを企業が雇用する場合も、労働者として働く場合も、それぞれメリットとデメリットがあります。ギグワーカーの最大の問題点は労働環境を保証する法律がないことでしょう。処遇や報酬は、企業の判断にゆだねられています。

    海外ではギグワーカーを最低賃金以下で働かせていることが問題視されています。イギリスでは最高裁判決で、ウーバータクシーの運転手を「労働者」だと認定し、最低賃金の適用や有給休暇の付与などを認めました。

    参考:​​『若者がハマる「ギグワーク」脱法的仕組みの大問題』東洋経済ONLINE

    まとめ

    ギグワーカーとは、短期間の契約や単発の仕事を受注する人々を指します。フリーランスと比較して、より柔軟性が高く、専門性を要しない業務をタスクごとに請け負う場合が多いです。具体的にはライドシェアのドライバーやフードデリバリーの配達員が挙げられます。

    企業はギグワーカーを活用することで、コスト削減や業務効率化が実現できますが、一方で当人たちにとって安定した収入の欠如や社会保障の不足という課題も指摘されています。

    企業として都合よく利用するだけでなく、無用な契約トラブルを回避するためにも、委託マニュアルを整備するなど、事前に社内で活用方法を取り決めるとよいでしょう。