ICT活用の身近な例とは【事例7選】導入手順や注意点も解説
ICTは、私たちの日常生活やビジネスに深く浸透して、さまざまな分野で革新的な変化をもたらしているものです。現代社会でICTは不可欠であり、積極的な活用が業務効率性を高めています。
本記事では、医療や教育など身近な分野でのICT活用例を紹介し、導入手順や注意点も解説します。
ICTとは
ICT(Information and Communication Technology)とは、情報通信技術のことです。コンピュータ技術やネットワーク技術、情報の収集・処理・保存・送信を行うための技術全般が含まれます。
ICTは、日常生活やビジネスなど、さまざまな分野で利用されており、現代では欠かせない技術です。
ICTの歴史
1989年から1992年頃まで、通信回線でつながっている端末は固定電話のみでした。1990年代中頃から、パーソナルコンピュータが普及し、データ通信やインターネットが使えるようになりました。
2000年頃には、より高速なデータ通信が可能になり、2000年代後半には、スマートフォンが登場します。インターネットのモバイル化が進み、現代では欠かせないインフラの一つとして定着しています。
ITとの違い
IT(Information Technology)とは情報技術を指します。
ICTはITを含む広義の概念で、ITに通信技術を加えたものです。ITは情報の処理と管理に関する技術を指し、ICTは情報の通信手段やネットワーク技術も含みます。つまり、ICTはより広範囲にわたる技術を意味しています。
IoTとの違い
IoT(Internet of Things)は、日常生活や産業で使用されるさまざまな機器やデバイスがインターネットに接続されることを意味しています。
具体的には物理的なデバイスがインターネットを通じて、相互に接続される技術です。たとえば、スマート家電やセンサーなどがIoTに該当します。
ICTはIoTを含む広義の技術であり、IoTは一部に過ぎません。ICTは全般的な情報通信技術を指し、IoTは物理デバイスがネットワークに接続される技術です。
DXとの違い
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、組織がデジタル技術を活用して、業務やビジネスモデルの変革を行うことです。
ICTはDX技術の一部であり、DXはICTを活用して、新しい価値を創造するプロセスを指します。
ICTはツールや技術そのものを指しており、DX戦略はスキルを活用してどのように変革を進めるのかという意味を含んでいます。
ICTの身近な活用事例【7選】
ICTは身近な生活にも浸透しています。たとえば、スマートフォンを使ったオンラインバンキングやショッピングの利用が挙げられます。
また、家庭用のスマートデバイスで、エネルギーの管理や家電の制御も可能です。教育現場では、デジタル教材やオンライン学習が普及しており、リモートでの授業も一般的です。
ICTの実際の活用事例をさらに深く知ることで、可能性と重要性をより理解できるでしょう。本記事では、ICTの身近な活用事例を7つの主要な領域に分けて解説します。
- 教育・保育
- 医療
- 介護
- 土木建設
- 農業
- 漁業
- 防災
身近な事例1.教育・保育
学校や保育園では、デジタル教材や教育アプリを活用し、ICTによって学びの幅を広げています。たとえば、タブレットを使った学習では、児童が自分で調べた内容をスライドショーにまとめ、クラスで発表する取り組みが行われています。
また、教育分野では「GIGAスクール構想」が推進されています。GIGAとは文部科学省が進める教育改革の一環で、すべての児童・生徒にICTを活用した教育を提供することを目指しています。
「GIGA」は「Global and Innovation Gateway for All」の頭文字を取ったものです。日本全国の学校におけるデジタル教育の基盤整備を目的としています。
参照:『田川市 授業でのICT活用 実践事例集3』福岡県田川市
参照:『GIGAスクール構想について』文部科学省
身近な事例2.医療
医療分野では、ICTを活用した電子カルテや遠隔診療が普及しています。電子カルテにより、患者の診療情報がリアルタイムで共有され、異なる診療科や医療機関間での連携がスムーズになりました。
医師や看護師が、病棟内でタブレットを使用して患者情報を確認・記録できるため、診療業務の効率化が進んでいます。
ICTの活用によって診療ミスのリスクが低減され、患者に対する医療サービスの質が向上しています。
身近な事例3.介護
介護施設でもICTが導入され、見守りセンサーや介護ロボットが活用されています。たとえば、大阪市のある介護施設では、ICTを用いた見守りシステムが導入されています。
各居室に設置されたセンサーが入居者の動きをリアルタイムで監視し、異常が発生した際には即座にスタッフへ通知が送られる仕組みです。
ICT導入により、夜間の巡回業務が効率化され、スタッフの負担が軽減されました。転倒や体調異常が発生したときも、すぐに対応できるため、入居者の安全確保につながっています。
身近な事例4.土木建設
土木建設業界では、ICTを活用したドローンやセンサー技術を用いて、建設現場の監視やデータ収集が行われています。
たとえば、ドローンによる測量や3Dデータをもとにした設計・施工が進んでおり、広範な土地でも短時間で精度の高いデータを取得できるようになりました。従来の測量方法に比べて大幅な時間短縮が実現しています。
また、国土交通省が推進する「i-Construction」プロジェクトでは、ICT技術を活用して建設現場の効率化が進められています。
身近な事例5.農業
農業分野でもICTを活用した「スマート農業」が、農林水産省によって推進されています。
具体的には、センサー技術やドローンを利用して、農作物の生育状況や土壌の状態をリアルタイムでモニタリングしています。データをもとに、最適な施肥(せひ)や灌水(かんすい)のタイミングを自動的に判断するシステムも導入されました。
ICTによって効率的な農作業が可能となり、収量と品質の向上が期待されています。
身近な事例6.漁業
漁業分野では、ICT技術としてGPSや魚群探知機を活用し、効率的で持続可能な漁業が進められています。
たとえば、北海道の漁業組合では、漁船にICT機器を搭載し、漁場の状況や漁獲量をリアルタイムでモニタリングすることで、正確な漁獲量の管理が可能になりました。さらに資源の過剰利用を防ぎ、持続可能な漁業が実現されています。
参照:『スマート水産業の推進』水産林務部森林海洋環境局成長産業課
身近な事例7.防災
防災分野でもICTが活用され、早期警戒システムや防災アプリが整備されています。
たとえば、静岡県では地震や津波などの自然災害に備え、ICTを活用した防災システムを導入しています。地震計や津波計、気象データをリアルタイムで監視し、災害発生時には即座に警報を発信する仕組みです。
また、地域の自治体や防災機関との連携により、災害発生時の迅速な対応が可能となり、被害を最小限に抑えることが期待されています。
ICTの活用事例を取り入れるメリット・デメリット
ICTの活用を積極的に進める企業や組織にとって、多くのメリットがある一方、デメリットもあります。メリット・デメリットを解説します。
メリット | デメリット・課題 |
---|---|
・生産力の強化・組織力の強化 ・顧客サービスの品質向上 | ・従業員へのサポートコスト・セキュリティ対策の強化 ・導入コスト |
メリット
ICTの導入は作業効率の向上、情報共有による組織力の強化、顧客サービスの向上に役立ちます。
生産力の強化
ICTを導入することで、業務プロセスの自動化が進みます。たとえば、データの入力や処理が自動化されることで、従業員の手作業が大幅に減り、作業時間の短縮が可能になります。また、ロボットやAIを用いた単純作業の自動化は、人手不足の解消に役立つとともに、生産性の向上を実現します。
組織力の強化
ICTの活用は情報の一元化と共有によって、組織の連携力を強化します。クラウド上にデータを保存することで、従業員はリモートワークや出張先からでもアクセス可能になり、どこからでも迅速に情報を共有できます。
チーム間のコミュニケーションが円滑化され、プロジェクトがスムーズに進むほか、デジタルツールで進捗状況をリアルタイムに確認することで、組織全体の一体感と効率が向上するでしょう。
顧客サービスの品質向上
さらに、ICTの活用は顧客サービスの品質向上にもつながります。たとえば、顧客管理システム(CRM)を導入することで、顧客の購入履歴や問い合わせ内容をデータベース化し、顧客ごとに最適な提案やサービスを提供できます。顧客満足度が向上し、リピーターの増加や口コミによる新規顧客の獲得が期待できるでしょう。
デメリット・課題
ICTの導入には従業員の適応支援やセキュリティ対策、導入費用計画といった準備が不可欠です。課題に対処し、ICTの効果を最大限に得る体制づくりが重要です。
従業員へのサポートコスト
ICT導入初期には、新しい技術に慣れていない従業員へのサポートが欠かせません。長年同じ業務を続けてきた従業員にとって、新しいシステムへの適応は大きな負担です。
ICT導入と同時に研修を実施し、導入の初期段階で発生しやすい混乱や作業効率の低下を防ぎましょう。
セキュリティ対策の強化
ICTの普及にともない、サイバー攻撃やデータ漏えいのリスクへの対処が課題となります。
クラウドサービスやインターネット上でのやり取りが増えると、不正アクセスやマルウェアによる攻撃のリスクが高まります。
ファイアウォールの導入、データの暗号化、従業員へのセキュリティ教育などの対策を実施し、情報保護の徹底が必要です。
導入コスト
ICT導入には、ハードウェアやソフトウェアの購入、システムの導入やカスタマイズ、教育費用など、さまざまな費用がかかります。
特に中小企業にとって、初期費用は大きな負担となる場合があります。
システムの維持や更新にも継続的なコストがかかるため、長期的な資金計画が求められます。コストを正確に見積もり、ICT導入による費用対効果を慎重に分析しましょう。
ICTを企業が導入するときの手順
企業がICTを導入する際は、機器やソフトウェアの購入だけでなく、慎重な計画と戦略的なアプローチが必要です。ICT導入の具体的な手順を5つのステップに分けて解説します。
- ICT実装の計画を策定する
- 業務プロセスを再検討する
- ICT導入後の運用体制を構想する
- 従業員への周知と教育をする
- ICTの導入効果を評価する
手順を守り、ICTの導入と運用を体系的に行うことで、企業は業務効率品質の向上につなげられるでしょう。
ICT実装の計画を策定する
まず始めに、ICT導入の目的を明確にします。たとえば、業務効率の向上、顧客サービスの改善、新しいビジネスモデルの構築などが考えられます。目的に応じて必要なICT技術やツールを選定し、導入に向けた詳細な計画を策定します。
業務プロセスを再検討する
ICTの導入により、既存の業務プロセスに変化が生じるため、業務プロセスを再検討し、最適化することが重要です。新しいシステムに対応した業務フローを設計し、従業員に変更内容を共有して、スムーズな導入を目指します。
ICT導入後の運用体制を構想する
ICT導入後の運用体制も整備しておく必要があります。システムのメンテナンスやアップデート、トラブル対応など、システムを安定して稼働させるための体制を構築します。
また、サポート体制や問い合わせ窓口も設け、従業員が安心して新しいシステムを利用できる環境を整備します。
従業員への周知と教育をする
新しいICTシステム導入後、従業員にシステムの使い方を周知し、必要な教育を行います。研修や操作マニュアルの配布を通じて、システムの利用方法を徹底し、不慣れな従業員向けには個別サポートも提供します。従業員が円滑にシステムを利用できるように配慮することで、導入効果が最大化できます。
ICTの導入効果を評価する
ICT導入後は、導入前に設定した目標と実際の成果を定期的に評価します。効果を確認し、さらなる改善策や追加教育の必要性を検討します。PDCAを回すことで、ICT活用の効果をより高め、最適な業務運営を維持できるでしょう。
ICTを企業が導入するときの注意点
ICT(情報通信技術)の導入によって、企業は業務効率の向上や競争力の強化をはかることが可能です。しかし、導入には注意点があるため、詳しく解説します。
- 組織内におけるICTリテラシーを標準化する
- ICT導入を目的にしない
- 第一線の従業員の意見を尊重する
以上に注意することで、ICTの導入が企業の目指す成果に直結し、効果的に活用できます。
組織内におけるICTリテラシーを標準化する
ICTを効果的に活用するには、組織全体のICTリテラシーの均一化が重要です。ICTに精通した人と不慣れな人のスキル差が大きい場合、システムの効果が十分に発揮されません。
そのため、全従業員を対象とした研修やトレーニングを実施し、ICTに関する基礎知識と操作スキルを均一化する必要があります。
ICT導入を目的にしない
ICTは業務改善や組織の成長を実現するための手段であり、導入自体が目的となってはいけません。最新のツールやシステムの導入に注力しすぎて、本来の目標が後回しになると、期待する業務改善の成果が得られなくなります。
ICT導入の目的を明確にし、達成に向けた具体的な取り組みを実施することが重要です。
第一線の従業員の意見を尊重する
ICTの導入は、実際にシステムを使用する現場の従業員に大きな影響を与えます。現場の意見を無視して、トップダウンで導入を進めると、業務フローに適合せず、かえって業務効率が下がるおそれがあります。
従業員のフィードバックを積極的に収集し、実際の運用に即したシステムの導入が必要です。従業員の協力を得ることで、スムーズに導入が進み、本来の目的に沿った活用が実現できるでしょう。
まとめ
ICTは、業務効率の向上やコスト削減、顧客サービスの改善など、多くのメリットをもたらし、身近な分野で活用が進んでいます。本記事では、教育、医療、介護、農業、漁業、土木建設、防災といった7つの事例を取り上げ、ICTが各分野でどのように役立っているかを紹介しました。
ICT導入を成功させるためには、計画的な手順と組織全体のリテラシー向上が不可欠です。また、現場の声を尊重し、目的を明確にすることで期待される効果を最大化できます。
ICTはただのツールではなく、ビジネスや生活の質を向上させる戦略的な手段です。適切に活用し、変化するデジタル社会に対応することで、競争力を強化し、持続的な成長を実現できるでしょう。