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リーンスタートアップとは【時代遅れ?】意味やアジャイルとの違い、事例を踏まえてわかりやすく解説

リーンスタートアップとは【時代遅れ?】意味やアジャイルとの違い、事例を踏まえてわかりやすく解説

リーンスタートアップとは、コストを抑えて試作品を開発して提供し、市場の反応を確かめながら改善を繰り返すビジネスモデルです。リーンスタートアップはさまざまなメリットが期待できますが「時代遅れなのでは?」という指摘もあります。

そこで本記事では、リーンスタートアップの意味や手法、メリット・デメリット、時代遅れといわれる理由を解説します。リーンスタートアップに成功した企業の事例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

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    リーンスタートアップとは|意味をわかりやすく解説

    リーンスタートアップとは、低コストでプロトタイプを短期間で繰り返し提供することです。顧客の反応を確認しながら、製品・サービスの質や機能を向上させていくビジネスモデルを指します。

    目的は、無駄を削減し、効率的に顧客価値を創出することです。

    リーンスタートアップは「細い」「痩せた」といった意味を持つ「リーン(lean)」と「スタートアップ」を組み合わせた言葉です。つまり、コストや手間をできるだけ抑えて、無駄なく効率的に事業を展開するビジネス手法といえるでしょう。

    起源はトヨタの生産方式

    リーンスタートアップは、TPS(Toyota Production System)というトヨタの生産方式を起源としています。

    TPSは、効率性と品質を向上させるために、無駄を排除した生産管理方法です。製造プロセスにおける無駄を徹底的になくして、より高品質で低価格な製品を、タイムリーに提供するという経営哲学に基づいています。トヨタの長い歴史の中で試行錯誤を繰り返しながら形成されてきました。

    アメリカの起業家が提唱した

    トヨタの生産方式をスタートアップ企業の経営に適用し、リーンスタートアップを提唱したのが、アメリカの起業家エリック・リース氏です。

    2011年にはリーンスタートアップについてまとめた『The Lean Startup』を出版し、ビジネスにおいて一大ムーブメントを巻き起こしました。

    事業の見通しが立てづらいスタートアップ企業にとって、初期費用を最低限に抑え、顧客ニーズに沿って製品を迅速に改善するリーンスタートアップは有用なビジネスモデルの一つです。

    具体例

    モバイルアプリの開発でリーンスタートアップを実践する場合、まずはシンプルな機能のみを持ったアプリをリリースし、ユーザーの反応を確認してブラッシュアップする手法が考えられるでしょう。

    たとえば、健康管理アプリであれば、最初は歩数計とカロリートラッキング機能のみのシンプルなアプリを提供します。そして、アプリの初期ユーザーからのフィードバックを積極的に求め「使いやすさ」「追加してほしい機能」「不要な機能」などの意見を集めます。

    フィードバックをもとに、新たな機能を追加したり、ユーザーインターフェースを改善したりすれば、ユーザーのニーズに即して効率的にアプリを改善できるでしょう。ユーザーからの要望に応じて、食事の栄養分析機能や睡眠追跡機能を追加するといった例が考えられます。

    リーンスタートアップを進める4ステップ

    リーンスタートアップは、以下の手順で進めることが一般的です。

    1. 仮説構築(アイデアを出す)
    2. 計測(市場の反応を見る)
    3. 学習(MVPを改善する)
    4. 再構築(修正後1〜3を繰り返す)

    1.仮説構築(アイデアを出す)

    まずは、アイデアをもとに「このような製品やサービスが求められているのではないか」といった仮説を立てます。新たなビジネスの企画を作成し、コストや手間を最低限に抑えた方法で開発を進めましょう。

    このように必要最低限のコストで製作されたプロトタイプを「MVP(Minimum Viable Product)」、MVPをつくり出すための計画を「mvpキャンバス」と呼びます。

    2.計測(市場の反応を見る)

    製品やサービスを提供し、市場の反応を確認します。製品の完成度にはこだわらず、あくまでもプロトタイプレベルの製品やサービスを提供することが大切です。

    「アーリーアダプター」と呼ばれる、新しい商品やサービスを積極的に受け入れる層をターゲットにするとよいでしょう。

    3.学習(MVPを改善する)

    計測・実験したデータに基づき、MVPを改善します。新しい機能を追加する、ユーザビリティを向上させるなどの改善を通じて、ユーザーのニーズに合う製品・サービスを目指しましょう。

    思わしくない結果が出ても落ち込まず、データを活かしてブラッシュアップを重ねることが重要です。

    4.再構築(修正後1〜3を繰り返す)

    市場の反応が思わしくなければ、仮説の根本的な見直しが必要な場合もあります。リーンスタートアップでは、こうした軌道修正も重要なステップであり、結果が芳しくないときは最初のステップに戻ってビジネスを再構築することが推奨されています。

    1~3のステップを繰り返し、市場の反応を確認しながらMVPを改善していきましょう。

    リーンスタートアップにおけるMVPの役割

    MVPとは「Minimum Viable Product(実用最小限の製品)」の略称であり「ユーザーに提供できる最低限の機能を持った製品」を指す言葉です。

    MVPでは製品やサービスの完成度にはこだわりませんが、だからといって質の悪いものを提供するわけではありません。製品・サービスに関するアイデアやビジネスの方向性が市場に受け入れられるかどうかを試す、観測気球のような役割を果たします。

    コストを抑えつつスピーディーにビジネスを展開できるため、リーンスタートアップのプロセスを遂行するためには欠かせない存在です。

    リーンスタートアップに活用できるフレームワーク

    リーンスタートアップを実践する際は「リーンキャンバス」と呼ばれるフレームワークを活用するとよいでしょう。

    リーンキャンバスとは、ビジネスモデルを可視化させるためのフレームワークです。以下の9項目で構成され、それぞれの要素を分けて考えることで頭の中にあるビジネスモデルを可視化し、検証や改善に役立てられます。

    アイデアや戦略を整理できるため、ビジネスモデルを他者に共有しやすくなるでしょう。

    1. 課題
    2. ソリューション
    3. 主要指標
    4. 独自の価値提案
    5. 圧倒的な優位性
    6. チャネル
    7. 顧客セグメント
    8. コスト構造
    9. 収益の流れ

    よく似たフレームワークに「ビジネスモデルキャンバス」がありますが、リーンキャンバスはよりスタートアップ向けの内容です。

    リーンスタートアップとアジャイルとの違い

    製品開発の検証・改善を小さなサイクルで繰り返すことを「アジャイル開発」と呼びます。リーンスタートアップの考え方とよく似ていますが、両者は目的が異なります。

    リーンスタートアップの目的は、顧客や市場の開発です。新たなビジネスを始めるにあたって顧客の意見を積極的に取り入れ、計測と学習を繰り返すことで魅力的な製品・サービスを目指します。

    一方、アジャイル開発の目的は、開発プロセスを効率化・迅速化し、顧客が求める製品やサービスを開発することです。

    リーンスタートアップで顧客や市場を開発し、アジャイル開発で製品やサービスのさらなる高品質化を目指すなど、2つの手法を組み合わせる場合もあります。

    リーンスタートアップのメリット

    リーンスタートアップを実践すると、以下のようなメリットを期待できます。

    • コストや時間、リスクを抑える
    • 迅速に市場へリリースできる
    • 顧客の意見に沿って開発できる

    コストや時間、リスクを抑える

    リーンスタートアップを採用すると、金銭的・時間的コストやリスクを抑えられる可能性が高まります。

    完成品を作り上げてから市場にリリースするビジネスモデルでは、製品・サービスの提供に至るまでに多くのコストや時間がかかります。市場に投入してみなければ顧客の反応はわからないため「膨大な予算と人的リソースを投入したが、あまりよい成果を得られなかった」といった事態にも陥りかねません。

    一方、リーンスタートアップなら、コストや時間を最低限に抑えて事業を展開できます。まずは小規模に製品を開発するので、市場の反応が悪くてもそれほど大きな痛手にはなりません。

    迅速に市場へリリースできる

    リーンスタートアップなら時間がかからない方法で開発を進めるため、製品やサービスを迅速にリリースすることが可能です。

    競合他社に先駆けて製品やサービスを市場に出せば、先発優位を獲得できるでしょう。

    顧客の意見に沿って開発できる

    製品やサービスを素早く提供することで、顧客の声を素早く拾えます。フィードバックを反映しながら検証・改善のサイクルをスピーディーに回せるため、顧客ニーズを捉えた製品を効率的に開発できるでしょう。

    「自分たちのニーズを反映してくれる」という信頼感により、企業イメージの向上にもつながります。

    リーンスタートアップに成功した企業事例

    リーンスタートアップに成功した企業事例をご紹介します。

    GE

    GE(ゼネラルエレクトリック)では、リーンスタートアップの方式を取り入れた『First Works』を推進し、製品開発のプロセスを改革しました。小さく・素早くスタートし、顧客のフィードバックを得ながら調整することを繰り返して、時間的コストの大幅な削減を実現しています。

    参考:『リーン・スタートアップ×経営【第3回】大企業における新規事業を成功へ導く処方箋』Executive Foresight Online

    Instagram

    Instagramは当初、位置情報アプリとしてスタートしたものの、ユーザーの反応が芳しくなかったため写真を共有する機能が人気であることに着目しました。リーンスタートアップの方式でビジネスモデルを再構築した結果、最終的にInstagramが誕生したのです。

    写真投稿を主軸としたSNSとして再出発し、いまでは世界的な人気を獲得しています。

    Yahoo!

    ヤフー株式会社では河合太郎氏が先導者となり、社内イノベーション活性化の一環として、アプリ開発などにリーンスタートアップを取り入れました。

    完成したアプリをリリースし、ユーザーの声を集めて改善するプロセスを繰り返し、ユーザーにとっても開発者たちにとっても満足度の高いサービスを提供し続けています。

    参考:『ヤフー 河合 太郎氏「真の爆速は速すぎて見えない」 リーンスタートアップ実践例』ビジネス+IT
    参考:『“手戻り”激減でヤフオク!アプリの開発期間を大幅に短縮』日経XTREND

    リーンスタートアップのデメリット

    • 意見を聞きすぎて目的から逸れる
    • 不確定要素が多い
    • 開発コストが高い製品は不向き

    リーンスタートアップにはさまざまなメリットを期待できる一方、いくつかのデメリットも存在します。

    意見を聞きすぎて目的から逸れる

    リーンスタートアップは、フィードバックを反映しやすいのがメリットです。しかし顧客の声をあまりに重視しすぎると、本来の目的を見失ってしまう恐れがあります。

    顧客の声を取り入れつつ、核となるアイデアやイメージを大事にしながら製品開発を進めましょう。

    不確定要素が多い

    リーンスタートアップはリスクの小さい手法ではありますが、すべてのビジネスを成功に導くとは限りません。製品やサービスが未完成の状態でビジネスをはじめるため、不確定要素が多い側面もあります。

    開発コストが高い製品は不向き

    リーンスタートアップはコストを抑えて試行錯誤を繰り返すビジネスモデルなので、開発コストが高い製品には不向きです。試行錯誤を繰り返しても市場開発・顧客開発を実現できず、結果的に多くのコストや時間を割いてしまう場合もあるでしょう。

    リーンスタートアップは時代遅れ?

    リーンスタートアップに成功した企業は数多くありますが、近年は時代遅れという扱いを受けるケースも増えてきています。

    現代は、誰もがSNSで素早く情報を入手できる時代です。製品やサービスに関するネガティブな声が一度拡散されてしまうと、挽回をはかるのは難しいでしょう。

    また、新規事業を始める際は、他社との差別化を考慮して最新技術を導入するケースも少なくありません。しかし、最新技術はコストがかかりやすく「コストを抑えて製品開発を繰り返す」というコンセプトそのものが困難な場合もあります。

    このような理由からリーンスタートアップは時代遅れとされることもありますが、事業分野によっては有効な手法となり得るため、導入を検討する余地は十分あるでしょう。

    リーンスタートアップを導入し、ビジネスを加速させましょう

    リーンスタートアップとは、最低限のコストで製品やサービスを開発し、検証・改善を繰り返すビジネスモデルです。構築・計測・学習・再構築の4つのステップで構成され、MVP(実用最小限の製品)を市場に提供し、ユーザーの声を反映しながらブラッシュアップを目指します。

    リーンスタートアップには「コストやリスクを低減できる」「顧客の声を素早く反映できる」といったメリットがありますが、一方で時代遅れという指摘もあります。現状や事業の方向性などを総合的に判断し、自社に適しているか見極めることが大切です。