全国の最低賃金ランキング一覧【2023年10月改定】ワーストは? 決め方と引き上げの影響
最低賃金とは、最低賃金法に基づいて都道府県ごとに設定された、賃金の最低限度です。都道府県によって異なり、限度額は毎年見直しが行われています。最低賃金を下回る賃金で従業員を労働させると、法律違反と判断されるため、注意しなければなりません。
本記事では全国の最低賃金ランキングを紹介します。最低賃金の決定方法や引き上げによる影響もお伝えするので参考にしてください。
【2023年10月発表】全国の最低賃金ランキング一覧
2023年10月に発表された全国最低賃金ランキングを以下の表にまとめました。2022年度と比べて全国平均4.5%の引き上げ率です。
全国平均が初めて1,000円以上に
2023年10月に発表された最低賃金は、各都道府県で平均39〜47円引き上げられ、全国平均が1,004円に到達しています。2022年度と比較すると平均で43円引き上げられており、1978年の制度開始以来最大の引き上げ幅です。
これまでの平均額の推移
最低賃金の平均額は、過去10年間を振り返ると、以下のように推移しています。
年度 | 平成26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 令和元 | 2 | 3 | 4 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
最低賃金(円) | 780 | 798 | 823 | 848 | 874 | 901 | 902 | 930 | 961 |
参考:『地域別最低賃金の全国加重平均額と引き上げ率の推移』厚生労働省
最低賃金ランキング最下位・ワースト10の都道府県
最低賃金ランキングワースト10の都道府県は以下の通りです。
47位 | 岩手県 | 893円 |
45位 | 徳島県・沖縄県 | 896円 |
40位 | 秋田県・愛媛県・高知県・宮崎県・鹿児島県 | 897円 |
37位 | 青森県・長崎県・熊本県 | 898円 |
参照:『地域別最低賃金の全国加重平均額と引き上げ率の推移』厚生労働省
最低賃金の決め方とランキング発表の流れ
そもそも最低賃金は誰がどのような流れで決定しているのでしょうか。最低賃金の決定方法とランキング発表の流れについて解説します。
中央最低賃金審議会から各地域へ答申|審議により決定
最低賃金の引き上げは中央最低賃金審議会と地方最低賃金審議会で審議された引き上げ額を参考にして、都道府県労働局長が決定します。
最初に都道府県に設置されている地方最低賃金審議会で審議されます。地域の現状を踏まえて審議や異議申し立てが行われた内容を踏まえて、都道府県労働局長が決定する流れです。
引き上げは毎年10月頃
最低賃金の引き上げは毎年10月頃に行われます。2023年も例年通り、10月から最低賃金の引き上げが発表されました。
地方最低賃金審議会からの意見書は毎年7月末に取りまとめられます。その後、改訂された最低賃金が10月に発表されるという流れです。
最低賃金は基本的に10月1日に発効されますが、地域によって発効日が異なります。。
そもそも最低賃金制度とは?
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づいて国が賃金の最低限度を定める制度です。仮に最低賃金を下回る労働契約を労使間で定めたとしても、法律によって無効とされます。
万が一、最低賃金を下回る賃金を支給していた場合、従業員に別途、差額を支払わなければなりません。
また、地域別最低賃金を下回る労働契約が無効とされ、差額を支払うだけでなく、最低賃金法に基づいて、50万円以下の罰金が科される恐れがあります。特定(産業別)最低賃金を下回った場合は、労働基準法に30万円以下の罰金が規定されています。
最低賃金の2つの種類
じつは最低賃金には2つの種類があります。
- 地域別最低賃金
- 特定(産業別)最低賃金
それぞれの概要を解説します。
地域別最低賃金
地域別最低賃金とは、産業や職種に関係なくすべての労働者と使用者に対して適応される賃金です。各都道府県別に最低賃金が定められています。一般的に「最低賃金」と聞いてイメージされるのは、この地域別最低賃金でしょう。
企業は事業所がある地域の「地域別最低賃金」を上回る金額を労働者に支払う必要があります。
特定(産業別)最低賃金
特定最低賃金とは、特定の産業について定められている最低賃金です。最低賃金審議会が、地域別最低賃金より高い水準で最低賃金を定める必要があると認めた産業に設定されています。
最低賃金の役割
最低賃金は、労働者の生活を保障し、企業の公平な競争を維持する目的で設けられています。
最低賃金の設定により、労働者は最低限の収入を確保し、物価上昇による生活費の増加にも対応できるため、一定程度の生活水準を維持できます。また、企業は労働力を確保しやすくなり、競争力を維持できるため、経済の成長にも一定程度影響するでしょう。
最低賃金が適切に調整されないと、労働条件の悪化や競争力の低下により、経済の発展を妨げることも否定できません。
最低賃金の対象となる社員
最低賃金が適用される社員は、最低賃金の種類により、対象が異なります。地域別最低賃金は、正社員やアルバイト・パートなど、すべての労働者が対象です。特定最低賃金は、運用業や製造業などを含む特定産業の労働者と使用者に適用されます。
最低賃金を下回る特例とは?
最低賃金は国が賃金の最低限度を定めた制度ですが、特例も認められています。対象とする従業員が一般の労働者と比べて著しく能力が低いと判断される場合、都道府県労働局長の許可を受けたうえで限度額を下回る賃金を適用できます。
特例が認められる条件・対象者は以下の通りです。
- 精神や身体の障害により、著しく労働能力の低い者
- 試用期間中の者
- 基礎的な技能などの認定職業訓練を受けている者のうち、厚生労働省令で定める者
- 軽易な業務に従事する者
- 断続的労働に従事する者
都道府県労働局長の許可を得るときは、最低賃金減額の特例許可申請書を作成して所轄の労働基準監督署に提出します。
試用期間中の社員は適用される?
試用期間中の社員であっても、最低賃金法の適用を受けるため、原則として企業は最低賃金以上の賃金を労働者に支払う必要があります。例外的に都道府県労働局長の許可が下りた場合は、最低賃金を下回ることが可能です。ただし、その場合であっても地域別に定められた限度額の8割以上を維持しなければ違法と判断されます。最低賃金法施行規則第5条に減額規定について定められているためです。
最低賃金の計算方法
支払う給与が最低賃金を下回っていないかを確認するために、各給与形態ごとの最低賃金の計算方法を解説します。なお、最低賃金の計算にはボーナス(賞与)や各種手当、残業代は含みません。
- 時給制
- 日給制
- 歩合制
時給制
時給制の場合は単純に、1時間あたりの賃金額が最低賃金額を比較して上回っていれば問題ありません。
時間給≧最低賃金額(時間額) |
日給制
日給の場合は1日の所定労働時間から時間あたりの賃金額を計算し、最低賃金と比較して確認します。
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額) |
ただし、特定(産業別)最低賃金が適用されている業種は、日額の最低賃金と比較して判断します。
日給≧最低賃金額(日額) |
月給制
月給制の場合も、1か月の平均所定労働時間から時間あたりの賃金額を計算し、最低賃金額と比較して計算します。
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額) |
出来高制
出来高制の場合、賃金総額(歩合分)を計算期間に労働した総労働時間で割り算して最低賃金額と比較します。賃金総額に手当や割増賃金は含めません。月給制や日給制とは異なり、所定労働時間ではなく、残業も含めた総労働時間で割るのがポイントです。
出来高払いの賃金の総額÷総労働時間≧最低賃金額(時間額) |
複数の給与体系を組み合わせる場合
基本給が日給制で各手当が月給制の場合、それぞれの項目で計算式を使用して最低賃金額と比較します。
最低賃金が上がることによる影響
最低賃金が上がると各所への影響が考えられます。
- 人件費が上がる
- 採用難易度が上がる
- 働き方を見直す従業員もいる
人件費が上がる
最低賃金が上がると労働者にとっては利益が大きく、離職率の低下に貢献するかもしれません。しかし企業にとっては人件費が増加します。特に中小企業や人件費を最低賃金に近い水準で設定している企業ほど、直接的な影響が大きくなり負担が重くなるでしょう。単に給与支出だけでなく、関連する社会保険料や手当などの諸費用もかさみ、人件費の高騰リスクが予想されます。そのため、利益率が低下する恐れがあり、企業はコスト削減や製品価格の見直しなどを迫られる影響も考えられます。
採用難易度が上がる
最低賃金が上昇すると、企業の人材獲得競争が激化し、新しい人材の確保が難しくなります。既存の従業員に対する人件費の増加の影響もあり、新規採用の予算を圧迫し、結果的に採用活動が制約される可能性もあります。
新規採用が難航した場合、企業はより労働生産性を高める施策を導入したり、既存の従業員のスキルアップをはかったりしなければなりません。必要な人材が確保できないと事業活動が停滞することもあるため、企業にとって大きな課題となります。
働き方を見直す社員もいる
最低賃金の値上げは、扶養内で働いている従業員にとって働き方を見直すきっかけとなるかもしれません。扶養範囲内での収入を維持するために労働時間を減らす選択をする人があらわれるためです。結果として職場では人手不足が生じ、特にパートやアルバイトを多く雇用するサービス業や小売業では、運営に支障がでる可能性もあります。企業は柔軟に管理してシフト調整を行ったうえで、働きやすさの向上を目指して職場環境を整備する必要があるでしょう。また、長期的には、労働者のモチベーションや働きやすさを向上させるための取り組みが重要となります。
最低賃金が上がる前に確認したいこと
最低賃は毎年10月頃に改定額が発表されます。最低賃金がが上がる前に、企業として確認しておきたいことを紹介します。
- 人件費
- 人材配置
- 労働時間
- 従業員のスキル・能力
人件費
最低賃金が上がることで、人件費がどの程度上昇するのか確認します。給与を最低賃金に近い水準で設定している企業ほど影響を受けやすいです。賃金上昇による影響をあらかじめ把握しておきましょう。
人材配置
最低賃金が上がる前に、正社員やアルバイト・パートをどのように配置するのか決めておきます。正社員のみ雇っている企業は最低賃金の上昇にともない、多くの資金が必要になる場合があります。これまで正社員で行っていた業務をアルバイトやパートにも担当してもらうなど、人材配置の見直しが求められるかもしれません。オペレーションマニュアルの作成や教育方法の見直しなども実施しましょう。
労働時間
従業員に残業代を多く支払っている企業では、労働時間の短縮をおすすめします。
最低賃金引き上げ前と同じ労働時間ではコストが膨らむ一方です。管理職には定時退社の促しを行い、残業時間を短縮させるよう勤めましょう。注意喚起をしても労働時間が短縮されない場合、パソコンを自動的にシャットダウンできるように設定する方法もあります。
とはいえ、業務量を根本的に見直して残業の必要性がなくなることが理想的です。
従業員のスキル・能力
最低賃金の引き上げ以前に、日頃から従業員のスキル管理を実施しておきましょう。給与支出の増加にともない、人件費の高騰が予想されます。今いる従業員に最大限能力を発揮してもらい、生産性を上げるためにはスキル管理が重要です。コストに見合った労働生産性を維持するためにも、まずは従業の得意・不得意を把握し、本人の能力が発揮できる部署への配置や育成を検討しましょう。
従業員のスキル管理にはタレントマネジメントシステムの導入も一案です。タレントマネジメントシステムとは、一人ひとりのスキルや経歴などの情報を一元管理し、適材適所の人材配置や計画的な育成に役立てるツールです。具体的に「どんなことが実現できるのか?」と疑問に思われた方は、タレントマネジメント入門ガイドをお申し込みください。
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まとめ
最低賃金とは、最低賃金法に基づいて国が定めた、賃金の最低限度です。
最低賃金は地域や産業によって異なります。毎年10月に賃上げが行われますが、企業は事前準備として日頃から人材配置の見直しや従業員のスキル・能力向上に取り組んでおくとよいでしょう。