スローガンとは|作成方法から浸透するための戦略を解説

スローガンとは|作成方法から浸透するための戦略を解説

企業のスローガンは、その組織の価値観やビジョンを短い言葉で表現し、従業員や顧客に強く印象づける重要な言葉です。効果的なスローガンは、ブランドの認知度を高めるだけでなく、社内外の一体感を育て、企業の成長を促進する可能性があります。

本記事では、スローガンの役割や重要性について詳しく解説するとともに、スローガンの作成方法や浸透させるための具体的な戦略についても紹介します。

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    スローガンとは?

    スローガンとは、特定の目的や考え、製品、組織、運動などを簡潔に表現し、人々の注意を引く短いフレーズまたは言葉です。企業理念や経営理念をわかりやすくするために策定されるほか、マーケティングにおいては、自社プロダクトの認知度や親和性を高めるために使われます。

    たとえば、有名なスローガンの一つに、マクドナルドの「I’m lovin’ it」があります。テレビやラジオのCMでこれを耳にするだけで「あ、マクドナルドだ」となる人は少なくないでしょう。

    効果的なスローガンは、ブランドの個性や価値観を的確に表現し、一目で内容が伝わる簡潔さと印象的な言葉遣いが求められます。企業理念を補完しながら、製品やサービスの魅力を広く訴求する重要なツールとなるのです。

    スローガンの定義

    スローガンは、従業員や消費者に行動を促したり、親しみやすさを感じさせたりするために策定する言葉です。以下の要件を押さえていると「スローガン」としての役割が機能しやすくなります。

    簡潔性

    スローガンは、短く簡潔な言葉で構成されている必要があります。従業員や消費者が覚えやすければ、スローガンの浸透も早くなります。複雑な言葉遣いは避け、わかりやすい表現を心がけましょう。

    印象的・独創的

    競合他社と同じような内容のスローガンでは、消費者の認知度は高まりません。スローガンは、一度聞いただけで強く印象に残る、独創的な言葉でなければなりません。耳にするだけで、どのブランドのスローガンかが判別できることが理想的です。

    明確な目的

    スローガンは、はっきりとした目的に沿って策定される必要があります。

    たとえば、マクドナルドの「I’m lovin’ it」は、親しみやすさを感じさせて製品の購入を促す目的が含まれています。単なるキャッチコピーではなく、ブランドの本質的な価値観を簡潔に表現できているかが重要です。

    スローガンは企業理念や製品コンセプトを体現した言葉であり、ブランディングやマーケティングにおける重要なツールといえます。「簡潔性」「印象的・独創的」「明確な目的」といった要件を押さえた的確なスローガンの策定が、顧客とのコミュニケーションを円滑にし、ブランド力の向上につながります。

    スローガンとキャッチコピーの違い

    スローガンと類似する言葉として、キャッチコピーがあります。2つの言葉には以下の通り違いがあります。

     スローガンキャッチコピー
    定義組織や製品の基本的な理念や価値をあらわす短いフレーズ商品やサービスの魅力を簡潔にあらわすフレーズ
    目的長期的なブランドイメージやアイデンティティの構築、目指す姿の伝達製品やキャンペーンの短期的な注目を集め、魅力の伝達
    期間長期間短期間、または1回限りのキャンペーン
    「Just Do It」(NIKE)大特価セール!今すぐ購入して30%オフ!
    焦点未来、組織や製品の全体的な哲学や価値現在、セールなど短期的な取り組みの特徴

    企業がスローガンを掲げる意義

    企業がスローガンを策定する理由として、以下の2つが挙げられます。

    • 経営理念やミッション・ビジョンの表現
    • 企業イメージの形成と強化

    経営理念やミッション・ビジョンの表現

    スローガンは、企業の経営理念、ミッション、ビジョンを簡潔に表現する役割を担っており、方向性や提供する価値を、社内外にわかりやすく伝えられます。

    効果的なスローガンは、社内外の関係者に共感を呼び、従業員には行動の指針ともなるでしょう。たとえば、日々の業務において企業の理念を意識することで、一貫した品質やサービスの提供につながります。

    企業は、スローガンを通じて自身の存在意義や目標を明確にできます。社内外に向けたメッセージングツールとして、スローガンは重要な役割を果たすでしょう。

    企業イメージの形成と強化

    スローガンは、ブランドの個性をあらわし、消費者の心に残る企業イメージを形成する役割を担っています。消費者がスローガンに触れることで、その企業への認識が芽生え、感情的なつながりが生まれるかもしれません。 

    特に競争が激しい市場では、スローガンが消費者の意思決定に大きな影響力を持つ可能性があります。キャッチーで心に残るスローガンは、製品やサービスの広告キャンペーンで活用され、消費者に強い印象を与えるため、ブランドロイヤルティを高める効果を発揮します。

    スローガン作成の目的とメリット

    スローガンは従業員の統率や、市場におけるマーケティング戦略を考えるうえで不可欠な要素といえます。スローガンの策定は、企業にとって次のような効果やメリットがあります。

    • プロモーション効果・購買意欲の喚起
    • 認知度の向上・ブランド形成
    • 競合との差別化
    • 企業の価値観の伝達・モチベーション向上

    プロモーション効果・購買意欲の喚起

    スローガンは、顧客に「また行きたい」「また買いたい」と思わせるきっかけとなります。

    たとえばiPhoneで有名なApple(アップル)は、創業者のスティーブ・ジョブズ氏が1997年に「Think different(発想を変える)」というスローガンを掲げ、それまでの製品デザインを一新しました。この変更が、のちに発表されるiPhoneやApple Watchのヒットにつながったという見方もあります。

    独自性のあるスローガンが顧客の心に響くことで、プロモーション効果が最大化し、購買意欲を高めます。スローガンにより製品やサービスの魅力が引き立ち、リピート率が向上することもあるのです。

    企業の認知度の向上・ブランド形成

    スローガンはブランド認知度を向上させて、ブランド力の強化に役立ちます。

    たとえば、ディズニーは「The Happiest Place On Earth(世界一幸せな場所)」をスローガンに掲げています。日本では「夢の国」と意訳して広まり、今や「夢の国」と聞くとディズニーランドやディズニーシーを連想する人は少なくありません。

    スローガンが消費者の心に強く印象づけられることで、企業や製品の認知度が高まります。

    製品・サービスの品質が認められ、認知度が高まると、消費者はあらゆる選択の際に、そのブランドを想起しやすくなります。さらに購入により満足度が高まれば、ブランドへの信頼感も増し、結果として愛着が深まるため、スローガンの効果で競争優位性を確保できるでしょう。

    競合との差別化

    スローガンは、市場に多く存在する競合企業の中で、自社の独自性や特色を強調し、他社との差別化を図る上で重要な役割を果たします。

    簡潔でインパクトのあるスローガンは、企業の理念や価値観、製品・サービスの特徴を的確に表現し、顧客や一般消費者に対して強い印象を与えます。

    スローガンを通じて企業は、自身のブランドメッセージを明確に打ち出し、競争の激しい市場で優位に立つことができるでしょう。

    企業の価値観の伝達・モチベーション向上

    スローガンは企業の理念や価値観を明確に表現し、企業文化の醸成に役割を果たします。従業員のモチベーションの維持・向上にもつながります。

    スローガンが日常業務の指針となり、従業員は企業の目指す姿に共感し、自分の役割や責任を理解して積極的に業務に取り組むようになるでしょう。特に新入社員の教育で伝えることは大切です。

    スローガンを共有することで組織全体の一体感が強まり、チームワークが向上する効果も期待できるでしょう。

    効果的なスローガンの作成ポイント

    スローガンを作成する際は、単に理想を詰め込めばいいというわけではありません。スローガンの効果を最大限に得るために、作成のポイントを紹介します。

    • 目的の明確化
    • わかりやすさとインパクトの追求
    • 短くて印象的な言葉の選定
    • 一貫性とブランドイメージの維持
    • クリエイティブなアプローチ
    • 多言語・多文化への対応
    • 従業員と消費者をひきつける言葉の選択

    目的の明確化

    スローガンの目的が明確でないと、従業員にとって「経営者が考えた言葉」程度にしか認識されません。たとえば、マクドナルドなら「認知度の向上と購買の促進」、Appleなら「ブランドイメージの刷新」という具体的な目的がありました。

    「どのような目的でつくるのか」を明確にしないと、従業員は何をすべきかわからず、企業にとって好影響は見込めません。

    わかりやすさとインパクトの追求

    スローガンが長い文章になってしまうと、従業員も消費者も覚えられません。短く、印象に残る言葉を使うことが重要です。言葉をシンプルにすることで、瞬時に意味を伝え、相手の記憶に残りやすくなります。

    ナイキの「Just Do It」やコカ・コーラの「Taste the Feeling」のように、短くて覚えやすいスローガンを目指しましょう。

    特にソーシャルメディアやデジタル広告では、短いスローガンがユーザーの注目を集めやすい傾向にあります。

    短くて印象的な言葉の選定

    スローガンの作成で印象的な言葉を選ぶ際には、リズムを意識します。たとえば、マクドナルドの「I’m lovin’ it」は3単語で構成され、子どもでも発音しやすく覚えやすいといえます。

    中学生までに習う漢字や英単語の中から、言いやすく、繰り返し発したくなる単語を選ぶと覚えやすくなるでしょう。

    一貫性とブランドイメージの維持

    セールのときに、競合他社がよく使う言い回しを使っても、なかなか覚えられません。

    一方で、大規模な方針転換がないにもかかわらず急に目新しい言葉を使うと、従業員や消費者が困惑します。過去のキャッチフレーズとの整合性を保ちつつ、どのように認識させたいかを明確にしましょう。

    一貫したブランドイメージは信頼性と認識度を高めます。ブランドのメッセージが一貫して伝われば、消費者や従業員に強い印象を与えることができます。

    クリエイティブなアプローチ

    競合他社のスローガンを調査し、差別化をはかるため、使われている単語を整理しましょう。他社と似ていると二番煎じとの印象を与えかねません。

    異なる業界のスローガンを参考にしたり、策定メンバーでアイデアを出し合ったりしてアイデアを絞りましょう。

    多言語・多文化への対応

    海外市場にも展開している企業の場合、スローガンを現地の言葉に訳す際に不適切な意味にならないよう注意する必要があります。単に訳すだけでなく、現地の文化に適した表現を確認し、宗教的な配慮も行いましょう。

    従業員と消費者をひきつける言葉の選択

    スローガンは、従業員や消費者など「誰か」に届けるものです。誰に何のために届けるかによって使う言葉が変わります。

    消費者向けならマクドナルドの「I’m lovin’ it」、従業員と消費者の両方に届けるならAppleの「Think different」がよい例です。

    スローガンは経営陣だけでなく、全従業員からフィードバックをもらい改良を重ねることで広がります。最終的にスローガンが決まったら、ホームページや社内外で公表し、広く認知されるようにしましょう。

    作っただけで終わらせない、5つのスローガンの浸透戦略

    企業のスローガンはつくっただけでは意味がありません。

    スローガンを社内外に浸透させ、認知度や製品・サービスの質向上に活用することが重要です。スローガンを浸透させるための5つの戦略を紹介します。

    1. CSR活動への展開
    2. メディアや広告での露出拡大
    3. コラボレーションやパートナーシップの活用
    4. イベントやキャンペーンの実施
    5. 従業員による参加の促進

    1.CSR活動への展開

    スローガンに社会貢献の意味合いを含めると、CSR活動も強化できるうえ、浸透しやすくなるでしょう。社会貢献の姿勢を明確に示することで、消費者をはじめとするステークホルダーに強い印象を与えられます。

    具体的には、スローガンを中心に据えてポスターやSNSなどで発信したり、WebサイトでCSR活動を報告したりするやり方です。CSR活動とスローガンを連動させると、社会的に大きなインパクトを残すことができます。

    2.メディアや広告での露出拡大

    スローガンを浸透させるための取り組み2つめは、メディアや広告へ露出する方法です。テレビやラジオ、X(旧Twitter)、Instagram、YouTubeなどを使って、拡散を試みます。

    媒体ごとの特徴は以下の通りです。

     テレビ・新聞X(旧Twitter)・InstagramYouTube
    メリット幅広い年齢層が観ているため、認知されやすい・若い世代に認知されやすい
    ・安価に出稿できる
    ・若い世代に認知されやすい
    ・安価に出稿できる
    デメリット価格が高いフォロワーの投稿と合わせて表示されるため、広告を見逃される可能性があるユーザーが広告を「自身に必要ない」と判断し、運営元に報告した場合、表示されなくなる

    3.コラボレーションやパートナーシップの活用

    同じ理念を持つ業界団体やNGOと連携すると、スローガンの認知度と影響力を高められます。たとえば、環境保護をテーマにした団体と共同でキャンペーンやイベントを実施することで、互いの支持者層に訴求でき、スローガンの浸透が広範囲に行きわたるでしょう。

    自社と親和性の高いパートナー企業とスローガンを共有し、協力して発信することも効果的です。製品やサービスの連携や共同プロモーションを実施し、互いのブランド力と影響力を活かせます。

    スローガンの浸透には、多くの人々の共感を得ることが大切です。そのため、著名人やインフルエンサーとのタイアップも検討するとよいでしょう。彼らの発信力を借りることで、スローガンをより多くの層に届けられます。

    4.イベントやキャンペーンの実施

    スローガンの浸透には、メディアで発信するだけでは不十分です。

    たとえば、スローガンを活用したコンテストやイベントを開催すると、目に触れる機会が増えて浸透しやすくなるでしょう。企業は、イベントやキャンペーンを通じてスローガンへの理解を深める必要があります。

    5.従業員による参加の促進

    スローガンの社内への浸透には従業員の参加が不可欠です。従業員一人ひとりがスローガンの意味を理解し、日々の業務に落とし込む必要があります。

    たとえば、従業員が主体的にスローガンにかかわる機会を設けます。ディスカッションの場を設けたり、経営陣がスローガンを体現する姿勢を示したりすることが重要です。リーダーの行動が手本となって、従業員の意識づけを促します。

    スローガンの浸透には、一方的な発信だけでなく、双方向のコミュニケーションが大切です。さまざまな機会を通じてスローガンへの理解を深め、従業員一人ひとりがスローガンを実践する環境づくりに取り組みましょう。

    スローガンの浸透と経営者の役割

    スローガンの浸透には、経営陣の言動が大きな影響を与えます。経営者の行動や発言がスローガンと一致していれば、企業の信頼性やブランドイメージは高まりますが、相違があれば従業員からの反発を招きかねません。

    経営陣がスローガンの真の意味を従業員に伝え、みずからがそれを体現することが重要です。たとえば、「お客様への丁寧な対応」や「報連相の徹底」など、具体的な行動指針を示すことで、従業員はスローガンの実践方法を理解しやすくなります。

    言葉を口にするだけでなく、経営者自身がスローガンを実務に落とし込んだ行動を取ることで、スローガンへの信頼性と浸透度が高まります。経営者の姿勢次第で、従業員の共感と参加意識が大きく変わるでしょう。

    有名企業のスローガンの事例

    スローガンを掲げ、成果を出しているている有名企業の事例を4つ取り上げ、狙いを考察します。

    1. ソニー(Sony)
    2. ユニクロ
    3. 富士フイルム
    4. 資生堂

    ソニー(Sony)| Sense the Wonder

    ソニーのスローガン「Sense the Wonder」の意図を、同社会長兼社長 CEOの吉田憲一郎氏は、以下の通り解説しています。

    「Sense the Wonder」は人が何かを感じ取る「Sense」と、人から生まれる好奇心、「Wonder」に寄り添う思いが込められており、「人に近づく」という我々の経営の方向性にも沿っている

    引用:『ニュースリリース(2022年01月25日)』ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社

    激しい競争の中で生き残るために顧客第一を体現し、社員にはモノづくり企業の一員として遊び心と好奇心を大切にしてほしいという思いからの発言といえるでしょう。

    ユニクロ|服を変え、常識を変え世界を変えていく

    ユニクロは「服を変え、常識を変え世界を変えていく」とスローガンを掲げ、「ファストファッション」というカテゴリーを確立しました。

    スローガンには、原点である服に重きを置きながら、業界をさらに牽引(けんいん)し、社会貢献にも力を入れるという強い意思があらわれています。

    参照:『Sustainability Report 2022』株式会社ユニクロ

    富士フイルム|Value from Innovation

    「Value from Innovation」というスローガンには、富士フイルムが革新から価値を生み出すことを示しています。技術革新を通じて顧客に価値を提供することを強調しているといえるでしょう。

    参照:『富士フイルムグループが大切にすること』富士フイルムホールディングス株式会社

    資生堂|Beauty Innovations for a Better World

    資生堂のスローガン「Beauty Innovations for a Better World」は、美と革新がよりよい世界を創造する力であるという信念を表現しています。同社の「美の力で世界を変え、人々の生活を向上させる」という決意のあらわれといえるでしょう。

    参照:『THE SHISEIDO PHILOSOPHY』株式会社資生堂

    まとめ

    スローガンはキャッチフレーズを超えて、企業の社会的責任と価値観を体現するものです。効果的なスローガン浸透戦略により、CSR活動の意義を内外に印象づけ、持続可能な発展につながります。

    スローガンの内部浸透には、経営陣の言行一致が不可欠です。リーダーがスローガンの模範を示し、従業員への意識づけと参加を促すことが求められます。研修の実施や日常業務への落とし込みなど、多角的なアプローチが必要です。

    外部へのスローガンの浸透は、メディア媒体やSNSなどを活用し、実際の活動内容を継続的に発信します。各種キャンペーンやイベントでもスローガンを前面に出して、スローガンを体現する姿勢をアピールするとよいでしょう。また、認知拡大をはかるためにも、複数の企業と連携するのも一案です。

    継続的で多角的な取り組みにより、スローガンは企業文化に根づいていきます。スローガンの浸透を進めることで、企業は存在価値を高められるでしょう。