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春闘とは|いつから? 目的や要求内容、2024年のポイントも解説

春闘とは|いつから? 目的や要求内容、2024年のポイントも解説

春闘は、毎年新年度に向けて行われる労使間交渉です。労働者の賃金引き上げを中心に、労働条件や環境改善などを目的として、交渉が行われます。

本記事では、春闘について、目的や具体的な要求内容、流れを解説します。2024年の春闘における動向も紹介しますので、使用者側である経営層、労働組合側である従業員のどちらも参考にしてください。

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    春闘とは

    春闘とは、正式名称「春季生活闘争」の略称です。毎年春頃に、労働組合が新年度に向けて賃金の引き上げや労働条件の改善などを要求し、使用者側(企業)と交渉します。

    春闘は、産業別・企業別で交渉を行います。従業員は、企業が支払う賃金によって生活していることから弱い立場に置かれているため、個人で交渉することは難しいでしょう。企業の労働組合も、立場上、有利に交渉できるとは限りません。

    そこで、全国の労働組合組織である日本労働組合総連合会や全労働省労働組合、全国労働組合連絡協議会が取りまとめ、産業別・企業別の労働組合で交渉を行います。

    また、春闘による賃上げ要求は、企業側にとって不利益な内容になりかねないことも踏まえると、産業ごとに交渉した方が通りやすい側面もあります。

    春闘はいつから始まるのか

    春闘は、2月から3月にかけて大企業を中心に始まり、そのあとに中小企業と続き、本格的な交渉を開始します。企業別の労働組合による本格的な交渉の前には、事前段階として、全国的な労働組合組織や産業別組織が詳細方針を決定します。

    企業は労働組合による交渉を受け、3月中旬頃に大企業の回答、次に中小企業の回答が行われます。3月末までにはすべての回答が済み、春闘が終了します。

    春闘の目的

    春闘の目的は、労働者の賃金向上や労働条件、労働環境の改善などが挙げられます。

    春闘では、特に賃金引き上げについて条件を設けるのではなく、全従業員の基本給を引き上げる「ベア(ベースアップ)」が争点です。

    また、春闘は労使が雇用関係にあり労働者個人が交渉しても声が届きにくいため、労働組合として集団で交渉し、労働者の地位向上を目指すための手段とされています。

    春闘を行う組織「労働組合」とは

    春闘は、労働組合を中心に交渉を行います。労働組合は、労働者を守るために活動する組織です。

    春闘における労働組合は以下の3種類に分類されます。

    • 全国的な労働組合組織
    • 産業別組織
    • 企業別労働組合

    それぞれの組織の特徴を解説します。

    全国的な労働組合組織

    全国的な労働組合とは、日本の労働者を代表する大きな影響力を持つ組織です。産業や企業をまたいで、労働者の利益について政府や経済団体と交渉します。

    全国的な労働組合の組織として代表的なものは、以下の通りです。

    • 日本労働組合総連合会(連合)
    • 全国労働組合総連合(全労連)
    • 全国労働組合連絡協議会(全労協)

    春闘では、全国的な労働組合が取りまとめ、スムーズに交渉を進める役割を担っています。

    産業別組織

    産業別組織は、全国的な労働組合組織の傘下にあり、産業の種類ごとに構成された労働組合です。産業全体における労働条件や環境改善を目指して交渉を行います。

    企業別労働組合

    企業別労働組合とは、企業の労働者で構成される労働組合です。企業別労働組合は、産業別組織の傘下にある組合と、独立して活動する組織があります。

    企業別労働組合は、企業における労働条件や環境の改善を目指して活動します。具体的には、企業の経営層と交渉を行い、労働に関する諸問題への対応です。

    春闘2024の動向とポイント

    2024年の春闘では物価上昇が続いていることにより、昨年から引き続き、賃上げの実現を目標としています。細かいポイントを確認してみましょう(2024年4月1日時点)。

    • 5%以上の賃金引き上げを要求
    • 満額回答が相次ぐ

    5%以上の賃金引き上げを要求

    日本労働組合総連合の要求は、持続的な賃金引き上げを目指しているといえます。要求内容は「ベースアップ相当分として3%以上の賃金引き上げ」と「定期昇給分を含め5%以上の賃金引き上げ」です。

    特に2023年の春闘では、定期昇給分を含めた賃金引き上げについて「5%程度」を目標としていたのに対し、2024年は「5%以上」と表現を強めたことが注目されています。

    持続的な賃金引き上げは、物価高への配慮や企業業績の状況、人材不足感の強まりを踏まえた結果と考えられています。

    参照:『【重点分野-2】2024春季生活闘争方針』日本労働組合総連合会
    参照:『2024年・春闘賃上げ率の見通し』第一生命経済研究所

    引き上げ要求に対する企業側の回答

    2024年春闘における、連合の第2回回答集計結果をご紹介します。平均賃金方式による1,446組合の定期昇給相当を含む賃上げの平均は、16,379 円(5.25%)となっています。組合員が300人未満の中堅・中小組合を含め、高い水準の賃金引き上げが期待できそうです。

    参照:『中堅・中小組合含め、高水準の回答続く! ~2024 春季生活闘争 第2回回答集計結果について~ 』日本労働組合総連合会

    春闘の主な要求内容

    春闘とは|いつから? 目的や要求内容、2024年のポイントも解説

    春闘では、労働条件や環境改善を目的として交渉が行われます。具体的にはどのような内容について要求を行うのでしょうか。春闘で議題として扱われる主な内容について紹介します。

    • 賃金(定期昇給・基本給)の引き上げ
    • 労働時間の短縮・長時間労働の是正
    • 育児・介護に関する制度の充実化
    • 非正規雇用の待遇改善
    • ダイバーシティ推進や人権尊重・平等に関する事項

    賃金(定期昇給・基本給)の引き上げ

    春闘では、もっとも重要な議題として賃金引き上げ(ベースアップ)に関する交渉を行います。賃金引き上げは春闘の中心的議題です。好景気だった1970年代半ば頃までは、賃金の引き上げ率も高い状況にありました。

    しかし近年は、経済成長の停滞などから賃金引き上げ率が低迷しているため、その他の労働条件や環境改善へと要求範囲が拡大傾向にあります。

    労働時間の短縮・長時間労働の是正

    春闘では、労働時間の短縮や長時間労働の是正についても交渉します。日本全体で働き方改革が推進されていることもあり、長時間労働の課題を解決すべく、春闘で要求されるようになりました。

    特に2019年より「働き方改革関連法案」が改正されたこともあり、労働時間についての議論や交渉が重視されています。

    育児・介護に関する制度の充実化

    春闘では、育児や介護の両立に向けた制度充実化を目指した交渉も行われています。近年、育児・介護休業法の改正法が施行されました。

    改正法にともない、春闘でも労働者が仕事と育児・介護を両立できる環境の整備を目指し、制度設計や実現を求めた要求が増加傾向にあります。

    非正規雇用の待遇改善

    春闘では、正社員だけでなく非正規社員の労働条件や環境の改善についても要求されます。

    2021年4月より「同一労働同一賃金」が定められました。同じ仕事を行う正社員と非正規社員の待遇差を縮小させたり、業務内容に見合う待遇を受けられるよう、非正規社員の労働条件を改善したりするため、交渉します。

    ダイバーシティ推進や人権尊重・平等に関する事項

    春闘では、ダイバーシティの推進や人権尊重、職場における平等な扱いの実現など、職場環境の改善や構築に関する要求も行われています。

    労働者の属性にかかわらず、すべての労働者の多様な個性や人権を尊重する職場環境の実現が目的です。

    春闘の流れ

    春闘は、以下の流れで行われます。

    1. 政府による経団連に対する賃金引き上げ要請
    2. 全体的な春闘の方針決定
    3. 産業別組織の要求内容を決定
    4. 企業別労働組合の要求内容を決定
    5. 労使間の交渉と妥結

    それぞれの段階について、どのようなことが行われるのか解説します。

    1.政府による経団連に対する賃金引き上げ要請

    春闘では、まず始めに前年の秋頃から、政府が経団連へ賃金引き上げを要請することがあります。

    賃金引き上げ要請に拘束力はありませんが、特に大企業は政府とロビー活動でかかわりがあり、経団連は要請にある程度従う傾向にあるため、全体的な賃金水準を高める効果があると考えられています。

    2.全体的な春闘の方針決定

    春闘開始の前(12〜1月頃)に、全国的な労働組合組織が、次の春闘に向けた全体方針を決定します。決定した賃金引き上げ率の目標やその他の要求事項などの全体方針は、産業別組織が具体的な要求をする際の基準として考えられます。

    3.産業別組織の要求内容を決定

    1月頃、本格的な春闘開始に向け、産業別組織は全体方針に基づいて、企業に対して具体的な要求水準や内容を決定します。産業別組織で決定した内容は、企業別労働組合による交渉の基準として考えられます。

    4.企業別労働組合の要求内容を決定

    産業別組織の方針決定を受けて、企業別労働組合は自社の状況を踏まえた具体的な要求水準や内容を決定します。詳しい交渉戦略なども、このタイミングで練ります。

    5.労使交渉と妥結

    最後に、2月から3月にかけて企業別労働組合が企業と交渉します。この過程において、労使間が要求内容に基づいた議論を行い、妥結に至ります。

    なお、企業は正当な理由を持たずに団体交渉を拒否することはできません。

    春闘に関わる労働組合法とは

    春闘では、労働組合法の規制が適用されます。労働組合法とは、労働組合をつくり、使用者と対等な立場で交渉を行えることを保障した法律です。労働者を守る法律である「労働三法」の一つです。

    労働組合法の主要な内容は以下の通りです。

    • 不当労働行為の禁止
    • 不当労行為の審査と救済命令

    それぞれについて解説します。

    不当労働行為の禁止

    労働組合法は、使用者による不当労働行為を禁止しています。

    不当労働行為とは、具体的には以下の行為です。

    • 労働組合の正当な行為を理由として労働者に不利益な扱いをすること
    • 団体交渉を正当な理由なく拒否すること
    • 労働組合の運営について不適切に介入すること
    • 使用者の違反行為に対する申し立てなどを理由に、労働者に対して不利益な取り扱いをすること

    労働組合法では、不当労働行為を禁止しているため、春闘の交渉を正当な理由がないまま拒否することや、春闘参加者に不利益な扱いをすることが禁止されているのです。

    不当労行為の審査と救済命令

    労働組合法では、使用者の不当労働行為について、労働者が都道府県労働委員会に審査開始を申し立てることを認めています。

    都道府県労働委員会が不当労働行為を認めた場合、使用者に対して救済命令を発令し、反対に不当労働行為が認められない場合は棄却命令を発令します。

    労働者側・使用者側は、命令について意義がある場合、命令交付から原則15日以内に中央労働委員会に再審査の申し立てをすることも可能です。

    使用者側が不当労働行為に該当すると、刑事責任ではなく民法上の権利侵害として扱われることがあり、場合によっては損害賠償や慰謝料を請求される可能性があります。

    さらに、裁判へ持ち込まれるケースも少なくありません。救済命令に従わないと、過料や刑事罰を受ける恐れもあります。

    使用者側は不当労働行為に該当しないよう注意し、万が一不当労働行為に該当した場合は、確定した救済命令に従わなければなりません。

    参照:『不当労働行為事件の審査手続』厚生労働省
    参照:『労働組合法 第27条、28条、32条』e-GoV法令検索

    春闘に対応する企業側の注意点

    春闘に対して、使用者である企業側は、以下の点に注意する必要があります。企業が具体的に注意すべき内容を紹介します。

    • 団体交渉を拒否してはいけない
    • 経営状況を透明化する
    • 長期的視点を維持する

    企業が具体的に注意すべき内容をそれぞれ具体的に紹介します。

    団体交渉を拒否してはいけない

    春闘の交渉について、使用者側は正当な理由なく団体交渉を拒否してはいけません。

    また、交渉において不誠実な態度で対応すると「不誠実団交」として不当労働行為に該当する可能性があるため注意しましょう。

    経営状況を透明化する

    春闘は、労働者を守るために賃金の引き上げ要求を行います。経営状況が芳しくない企業にとっては厳しい要求になることもあるでしょう。

    企業は、経営状況について労働組合に誠実に伝えなければなりません。それにより、経営状況や業績を考慮した現実的な交渉ができるようになります。

    長期的視点を維持する

    春闘は、長期的な視点をもって交渉が行われるべきです。たとえば賃金引き上げについて、経営状況がひっ迫している状態であれば、企業は無理な対応はできません。

    仮に企業が無理な賃金引き上げを行うと、企業の経営状況はさらに悪化します。結果的に労働環境が悪化したり、労働者へ不利益を与えてしまったりしてしまい、望ましくありません。

    まとめ

    春闘は、毎年新年度に向けて行われる労使間交渉です。

    具体的な交渉内容は賃金引き上げがよく話題に上がりますが、ほかにも労働時間の適正化や育児介護に関する制度の充実化、非正規雇用の待遇改善などが挙げられます。

    春闘は、労働組合法に関連しており、企業は正当な理由なく拒否できません。企業は春闘について注意すべき点を理解し、誠実に対応しましょう。