調整給(調整手当)とは? 発生するケースや減額する方法について解説

調整給(調整手当)とは? 発生するケースや減額する方法について解説

「給与の支給額」は、多くの従業員にとって関心の高い待遇の一つです。給与額に満足していれば自然とモチベーションも高まり、反対に不満を感じているとやる気を失ってしまうこともあります。

そこで給与バランスを調整する手段として活用するのが「調整給(調整手当)」です。調整給制度は便利な反面、理解されていないと「なぜ引かれているのか」「いつまで続くのか」といった疑問が寄せられることも少なくありません。

本記事では、調整給の基本的な考え方から、主な利用シーンについて紹介します。調整給の減額やマイナス調整給の扱い方まで、制度設計や実務に役立つポイントも解説するので参考にしてください。

目次アイコン目次

    調整給(調整手当)とは

    調整給(調整手当)とは、従業員の給与バランスを保つために、一時的または継続的に支給される賃金です。

    たとえば、会社の査定基準に沿って給与を計算した結果、本来よりも少ない支給額になった場合、差額を解消するために支給されることがあります。

    調整給は通常、一時的に支給される手当ですが、実際には毎月のように継続して支払っている企業もあるようです。

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    調整給の目的

    調整給が導入される代表的な2つの目的を紹介します。

    • 従業員満足度アップをはかるため
    • 給与の大幅な増減を防止するため

    制度の目的がはっきりしないと、導入時や将来的に減額・廃止するとき、トラブルになりかねません。現場の納得感や制度の一貫性を保つうえでも、調整給の目的を明確にしておきましょう。

    従業員満足度アップをはかるため

    従業員が「前職と比較して給与が低すぎる」「○○さんより支給額が低いのは納得できない」といった不満を抱えていると、会社に対する満足度も低下してしまいます。

    調整給を支給することで給与への不満を解消できれば、従業員満足度の向上につながるでしょう。また、結果として、生産性やモチベーションの向上も期待できます。

    給与の大幅な増減を防止するため

    調整給には、給与の大幅な増減を防止する目的もあります。たとえば、人事異動によって基本給の大幅な減少が見込まれる場合、調整給を活用することで給与水準を維持しやすくなります。

    給与の増減は従業員の生活に直接的な影響をもたらし、減給によってモチベーションが低下してしまうケースも少なくありません。調整給を用いて給与の大幅な増減を防止すれば、リスクの回避につながるでしょう。

    調整給が発生する3つの場面

    調整給は、法律で支給義務があるわけではなく、企業ごとに独自に導入し、運用されている制度です。そのため、「いつ」「どのような対象者」に支給するかといったルールは、会社によって異なります。

    制度の意図が共有されていないと、あとから「なぜあの人にだけ調整給が?」「どうしてマイナスになっている?」といった混乱を招くかもしれません。

    以下では、調整給が実際に使われる代表的な例を紹介します。自社での運用や見直しの参考にしてください。

    入社直後で従業員の能力がわからないとき

    採用段階で適切な給与が設定できない場面で、調整給が導入されます。

    従業員の給与は、一般的にスキルや経験年数などを総合的に考慮して決定されます。しかし面接だけでは、どの程度の能力を持っているのか正確に見極めるのは困難です。高いスキルがあると見込んでいたものの、入社後に期待した水準に達していないと判明するケースも考えられるでしょう。

    一度決定した給与を、あとから引き下げることは、簡単ではありません。そのため、能力の判断が難しい入社間もないころは「調整給」を取り入れ、給与の一部を柔軟に調整するのです。

    入社から期間が経過し、実際の業務やスキルを評価したうえで調整給を見直せば、本来の能力に見合った報酬を支給できます。結果として、無駄な人件費の発生を防げるでしょう。

    給与の減額を抑えたいとき

    調整給は、能力給による給与の下げ幅を調整するためにも活用が可能です。

    従業員の能力に応じて賃金を算定する仕組みを「能力給」といいます。能力給を採用している企業では、業務上のミスによって、手取り額が減る可能性があります。その結果、従業員のモチベーションが下がり、最悪のケースでは離職を招く原因にもなるでしょう。

    こうした懸念を防ぐ方法の一つが、調整給です。一定額の調整給を支給することで、能力評価に左右される部分をカバーし、給与の大幅な変動を避けられます。

    人事制度を改定したとき

    調整給を設ければ、基本給は下がっても実質的な支給額は変わらないよう柔軟に対応することが可能です。

    人事制度の改定にともない、従業員の基本給が引き下げられる場面があります。仕事内容や責任は変わらないのに基本給だけが減額となれば、従業員の不満を招く要因になります。

    対策として調整給を導入すれば、基本給を見直した場合でも、実質的な給与水準を維持できるでしょう。

    ただし、人事制度の変更は全社的に影響がおよぶため、一部の従業員だけに調整給を支給すると、社内に不公平感が広がります。「基本給が○万円以上減額となる場合は、調整給を○年間与える」というように、一律の規定を設けて運用しましょう。

    従業員間のバランスを取るとき

    基本給を据え置きつつ、個人の能力や実績に応じて調整給を支給すると、一人ひとりの評価に見合った給与が反映できます。優秀な人材の離職防止やモチベーション維持にも、能力や成果を正当に評価する仕組みが重要です。

    調整給により、実力に応じた報酬を「見える化」すれば、貢献度の高い従業員の納得度を、さらに高められるでしょう。

    調整給をなくすケースと残すケース

    調整給は、給与バランスを一時的に整える手段として有用な仕組みです。ただし、すべてのケースで長期的に支給し続けるのが適切とは限りません。状況に応じて、取りやめるか継続するかを判断する必要があります。

    調整給を撤廃したほうがいいケース

    給与に見合うだけの能力が明らかになった段階で、調整給をやめて基本給へ組み込むことをおすすめします。

    基本的に調整給は、能力や成果が確認できるまでの暫定的な措置として設けられます。十分な実力と働きぶりが証明された従業員には、調整給を取りやめ、正式な基本給として評価を反映させましょう。

    調整給を維持したほうがいいケース

    反対に、現在の給与やポジションに対して能力が不足している場合は、調整給の支給を継続し、段階的に見直していくのが現実的です。

    とくに年功序列型の賃金体系では、実力と報酬が一致しない事態も起こりやすくなります。勤続年数に比例して昇給する影響で、実力がともなわないまま高給を得ている従業員が存在することもあります。

    能力は低いのに給与が高い年長者がいるという状況を放置していると、若手のモチベーションを損なってしまうでしょう。

    適切な評価環境を保つためにも、調整給によって支給額を調整し、給与水準の適正化をはかることが重要です。

    調整給を減額する方法

    調整給を長く継続していると、次第に給与の査定基準があいまいになり、調整給の有無によって不公平感も生まれます。

    こういった事態を避けるためにも、調整給はあくまで一時的な措置として位置づけるのが原則です。長期にわたっての支給はできるだけ避けましょう。

    いきなり調整給が減額されると、従業員の不信感につながるため、以下の方法で段階的に見直すことがおすすめです。

    昇給額で吸収する

    従業員の基本給や役職手当などが上がるタイミングで、昇給額を調整給から減額する方法です。

    調整給がゼロになるまで、昇給があるたびに減額を繰り返していきます。昇給額が調整給を上回るまで、給与の総支給額は据え置きとなります。

    従業員には、事前に「基本給が〇〇円になるまで(役職が〇〇になるまで)、総支給額は据え置きです」と説明し、納得してもらうことが大切です。

    保障期間を決める

    調整給に、あらかじめ支給期間を設け、期限を迎えたら打ち切るという方法です。

    調整給の支給期間は、「給与に見合う実力をつけるための猶予期間」とみなされます。期限までに実力が評価されて昇給があれば、基本給が引き上げられ、結果的に給与水準は維持されます。昇給がなければ減額させる仕組みです。

    期限を設ける運用では、すべての従業員が期間内に評価を得られるように配慮しましょう。昇給や昇格のタイミングを事前にシミュレーションし、努力次第で給与の減額を避けられるようにすると、公平性が保たれ、従業員の納得も得やすくなります。

    減額基準を決める

    調整給の減額基準を決め、金額を段階的に減らしていく方法も一案です。

    ただし、減額幅やタイミングについては慎重な検討が必要です。減らしすぎれば従業員の不満を招き、緩やかすぎると制度の意味がなくなってしまいます。

    実際には、将来的にどの程度のペースで調整給を減らしていくべきか、事前に正確な見通しを立てるのは難しいこともあります。状況に応じて柔軟に見直せるよう、追加の評価基準や判断材料を設けておくと安心です。

    マイナス調整給も検討事項に|給与と等級の調整方法とは?

    給与体系を見直すと、現在の支給額と、実際の業務内容・役割が合っていないと判断されることもあるでしょう。たとえば、「責任は軽くなったのに、前より高い給与をもらっている」といった状況です。

    制度は整っていても、「実際の業務内容に見合っていない支給額」が発生しているというのは、制度設計の担当者にとって悩ましい問題といえます。

    対応として、以下の3つの方法が考えられます。

    • 業務内容や役割に合ったグレード(等級)の下限ラインまで給与を上げる
    • 業務内容に合わせてグレード(等級)を下げる
    • 調整給の仕組みを利用して、「マイナス調整給」を支給する

    それぞれメリット・デメリットがあるため、状況に応じて最適な方法を選ぶことが大切です。具体的にそれぞれの方法について詳しく解説していきます。

    給与を上げる

    現在の業務内容や役割に見合うグレードの下限ラインまで、給与を上げるという方法です。

    シンプルでわかりやすい方法ですが、給与体系の見直しにより給与が上がる人がいることに対して、ほかの従業員から不満の声が上がる可能性もあります。本来支給すべき金額よりも給与が低かった人であるということを、ほかの従業員にも理解してもらう必要があるでしょう。

    グレードを下げる

    支給額は据え置きのまま、金額に見合うグレードに下げる方法です。

    等級を下げるのは従業員のモチベーション低下につながります。加えて、今度は給与テーブルからはみ出た分の調整給をつけなければならない場合もあるため、あまりおすすめできません。

    マイナス調整給を支給する

    給与テーブルと実際の職務が一致しない場合、調整手段として「マイナス調整給」を使う方法があります。

    マイナス調整給とは、「支給額と等級の差」を帳尻合わせするため、不足分を補うものです。給与明細には、「−20,000円」と差額がマイナスで記載されます。

    たとえば、実際の評価では月給25万円が妥当でも、現行の給与テーブルでは23万円の位置にいる従業員がいたとします。この場合、給与明細上では「基本給:25万円」「マイナス調整給:−20,000円」と記載し、結果として23万円が支給されるのです。

    しかし、マイナス調整給は従業員に理解されにくく、採用する場合も一時的な対応とした方がよいでしょう。なるべく早い段階で制度を見直し、調整給を使わずに支給額を適正化することをおすすめします。

    まとめ|調整給を適切に活用するには?

    調整給は、制度改定や採用初期など、給与バランスがくずれやすい場面で役割を果たす仕組みです。 一時的な混乱を防ぎ、従業員の理解を得る手段として使われています。

    しかし、目的やルールが不明瞭なまま長期で運用してしまうと、かえって制度への不信感や不公平感を生みかねません。


    「なぜ支給しているのか?」「いつまで続けるのか?」を明確にしないままでは、いずれ説明がつかなくなります。

    大切なのは、調整給をあくまで一時的な措置として位置づけ、段階的に基本給へと統合していくことです。可能な限り早めに設計を見直し、解消できるようにしましょう。

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