源泉徴収する所得税額が毎月変わるのはなぜ?理由や上がる月・変わるタイミングと計算方法を解説

給与から天引きされる所得税額が毎月変わることに、疑問を感じた経験はありませんか。所得税額が毎月変わるのは、給与支給額や社会保険料の変動による影響が多いですが、理由はさまざまな制度が影響しています。
本記事では、所得税額が毎月変わる仕組みや、理由について詳しく解説します。計算のルールや、控除・扶養状況などがどのように影響するのかもわかりやすく紹介しています。
仕組みを理解すれば、漠然とした不安が解消され、給与明細を冷静に読み解けるようになるでしょう。
目次[表示]
所得税と源泉徴収の基本をおさらい
給与から天引きされる所得税について、仕組みや計算方法について普段から意識している人は少ないかもしれません。所得税とは何か、源泉徴収の仕組みについて解説します。
所得税とは
所得税とは、個人が得た所得に対して課される国税です。給与や賞与だけでなく、不動産収入や事業収入など、さまざまな形で得られる所得が課税対象に含まれます。
日本は累進課税制度を採用しているため、所得が高くなるほど税率も高くなる仕組みです。
所得税額の計算には、「課税所得金額」をもとにした税率表が用いられます。
課税所得金額とは、給与総額から各種控除を差し引いたあとの金額です。控除には、基礎控除や扶養控除、社会保険料控除などが含まれます。
そのため同じ給与額でも、扶養家族の有無や保険料の支払額といった「控除」の内容が変われば、「給与が同じなのに所得税額が異なる」という現象が起こり得るのです。
源泉徴収とは
源泉徴収とは、給与支払者である企業が給与所得者である会社員に代わって、所得税を計算し、給与から差し引いて国に納付する仕組みのことです。
従業員の納税手続きの負担を減らし、国の税収を安定させることを目的に導入されています。
毎月の給与からは、概算で源泉徴収が行われ、最終的な税額は、年末調整や確定申告によって精算されます。
所得税が上がる月・変わるタイミング
給与が毎月同じなら、源泉徴収される所得税も同じと思われがちですが、実際には次のような変化があると、課税対象となる金額や控除の前提が変わり、所得税額も変わります。
- 昇給・賞与の支給、手当の増減
- 扶養家族の増減・控除対象配偶者の有無の変更
- 社会保険料の随時改定
つまり、給与・手当などの課税対象となる金額や、控除にかかわる情報が動くタイミングです。
所得税額が毎月変わるのはなぜ? 5つの理由
給与支給額が一定であっても、毎月の所得税額が変わるのはなぜでしょうか。所得税額が変動する主な5つの要因について解説します。
1.昇給や残業などで課税対象額が変動した
昇給や残業代、役職手当などが増えると、当然ながら課税対象額が増え、天引きされる所得税額も高くなります。
毎月の所得税は、基本給や各種手当、残業代などの支給額から社会保険料などを差し引いた「課税対象額」をもとに計算されます。
昇給・昇格で基本給が増えた場合だけでなく、繁忙期に残業代や休日出勤手当が増えた場合も、課税対象額が変わるため、源泉徴収される所得税も月ごとに変動します。
2.扶養親族の人数が変更になった
扶養親族の人数変更も所得税に影響を与える要因です。扶養控除や配偶者控除などの適用条件が変わることで、源泉徴収される所得税額も調整されます。
従業員の結婚、出産、子供が就職したタイミングが考えられます。
3.社会保険料の金額が変動した
社会保険料は非課税であるため、源泉徴収額の計算のもととなる課税対象額から差し引かれます。
保険料率の改定や標準報酬月額の変更により保険料額が変わると、源泉徴収される所得税額も変動します。
とくに毎年9月以降に新しい保険料が適用される定時決定や、給与に大幅な変動があった場合に適用される随時改定などが該当します。
4.税制改正による影響を受けた
国による税制改正も毎月の所得税額に影響を与える要因です。基礎控除や扶養控除などの控除金額が変更された場合、課税対象となる金額も変わります。
累進課税制度では収入区分ごとに異なる税率が適用されるため、収入区分変更や控除制度改正によって適用される税率にも影響があります。
とくに2025年は大幅な税制改正の影響を受けているため、内容を正確に理解し対応しなければなりません。
5.給与計算に誤りがあった
あってはならないことですが、給与計算ミスも毎月の所得税額が変わる理由として考えられます。
基本給や手当、控除項目の計算ミスによって、本来差し引くべき金額と天引きされた金額にズレが生じることがあります。不適切な源泉徴収となるため、従業員や会社側で訂正対応をしなければなりません。
扶養控除人数を間違えて計算したり、社会保険料率を誤って適用したりすると、本来より多くまたは少なく所得税を天引きしてしまいます。
給与計算ミスを防ぐためには、給与計算時の確認作業を徹底することが重要です。
所得税額が変動したら確認したい4項目
所得税額が変わる背景には、社会保険料や各種手当、扶養人数、最新の税制などが関係しています。
毎月の所得税額が変動する理由を理解したうえで、実際に変動があった場合に、具体的にどこをチェックすべきか、ポイントを確認しておきましょう。
- 社会保険料の金額
- 各種手当の有無と金額
- 扶養人数の変更
- 最新の税制
社会保険料の金額
社会保険料は、給与から天引きされる金額のなかでも所得税額に大きく影響を与える要素です。標準報酬月額は、その年の4~6月の給与をもとに計算され、9月から翌年8月まで適用されます。
4~6月の給与に変動があれば、社会保険料も変更され、課税対象となる給与額が変わり、所得税額にも影響するでしょう。
残業代や休日出勤手当などで4~6月の給与が増加した場合、社会保険料が増えることで課税対象額が減少し、所得税額も調整されます。
給与が減少した場合は逆の影響が生じるため、社会保険料の変動は常に確認しておく必要があります。
各種手当
給与には基本給以外にもさまざまな手当が含まれています。残業手当や休日出勤手当、住宅手当や扶養手当などはすべて課税対象となり、金額に変動がある場合は、所得税額にも影響します。
繁忙期や特別な業務対応によって残業代が増えた場合は、その月の所得税額が上昇するかもしれません。
通勤手当や宿直手当など、一部の手当は非課税となるため、手当の課税区分を正確に把握しておくことも重要です。
扶養人数
扶養親族の人数や状況に変更があった場合、源泉徴収される所得税額も変動します。扶養控除対象となる親族には条件があるので、適用基準を確認することも欠かせません。
「源泉控除対象配偶者」や「控除対象扶養親族」の定義についても理解しておくとよいでしょう。
源泉控除対象配偶者は、配偶者控除を受けるための条件を満たす配偶者です。条件は以下のとおりです。
- 納税者本人の合計所得金額が900万円以下(給与収入のみの場合1,095万円以下)
- 配偶者の合計所得金額が95万円以下(給与収入のみの場合150万円以下)
- 納税者と生計を一にしていること
- 配偶者が事業専従者でないこと
控除対象扶養親族は、扶養控除を受けるための条件を満たす親族です。条件は以下のとおりです。
- 16歳以上であること
- 年間合計所得金額が58万円以下(給与収入のみの場合123万円以下)
- 納税者と生計を一にしていること
- 親族が事業専従者でないこと
扶養控除額は親族の年齢や状況により異なり、一般的には38万円、19~23歳の特定扶養親族の場合は63万円です。
参照:『専門用語集』国税庁
最新の税制
毎年行われる税制改正も所得税額に影響を与えるため、欠かさずチェックするようにしましょう。
たとえば基礎控除や扶養控除の金額変更、新たな控除制度の導入などによって課税対象となる金額や計算方法が変更されることがあります。
最近では、「定額減税」や「復興特別所得税」などが実施されました。
定額減税は、物価高による家計負担軽減を目的に2024年6月から12月まで実施されていた制度です。
復興特別所得税は、東日本大震災の復興財源確保を目的に2013年から導入された税金です。所得税額に対して2.1%が上乗せされ、2037年まで課税される予定です。税収は被災地支援やインフラ整備などにあてられています。
参考:『定額減税について』国税庁
参考:『個人の方に係る復興特別所得税のあらまし』国税庁
源泉徴収税額(所得税額)の計算方法
給与から差し引かれる源泉徴収税額は、社会保険料控除後の給与金額をもとに計算されます。金額に疑問があった場合、計算してみるのも一つの方法です。具体的な計算方法を、解説します。
1.社会保険料の控除額を差し引く
まず総支給額から社会保険料を差し引きます。社会保険料には、健康保険料や厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料が含まれます。控除後の金額が課税対象となる給与金額です。
| 条件 | 総支給額が40万円、社会保険料が9万円 |
| 課税対象となる給与金額 | 400,000−90,000=310,000円 |
源泉徴収税額表で金額を確認する
課税所得を求めたら、「給与所得の源泉徴収税額表」を使用して税額を確認しましょう。
税額表は、国税庁が毎年発表しており、給与支給方法や扶養親族数に応じた税額が記載されています。また「甲欄」「乙欄」「丙欄」の3つの区分にわかれています。
- 甲欄:扶養控除等申告書を提出している従業員に適用
- 乙欄:申告書を提出していない従業員や複数の給与支払者がいる場合に適用
- 丙欄:日雇い労働者など短期雇用者に適用
| 条件 | 課税所得31万円、扶養親族2人 |
| 源泉徴収所得税額 | 5,490円 ※甲欄で該当する行と列が交差する値 |
以上の手順を踏めば、自分で所得税計算を行うことが可能です。疑問があったり、ミスを指摘されたりした場合は、早期に修正できるようにしましょう。
源泉徴収の計算にミスがあった場合の対処法
源泉徴収税額の計算を誤ったときは、「まだ社内で調整できる段階か」「税務署へ納付済みか」「従業員が在籍しているか」で対応が分かれます。いずれの場合も、正しい手続きを踏めばトラブルの多くは解決できるでしょう。ケース別に主な対処法を紹介します。
1.税務署へ納付前:従業員が在籍している
もっとも一般的な方法は翌月の給与で所得税を精算することです。前月に所得税を多く差し引いてしまった場合には、翌月の給与で還付する形で調整します。反対に徴収額が不足していた場合には、翌月の給与から追加で税額を差し引きましょう。
2.税務署へ納付前:従業員が退職している
退職後は、給与を通して所得税の精算ができません。
会社が多く徴収していたなら、本人へ直接返金する、または状況によっては税務署での還付手続きにつなげる必要があります。
徴収不足の場合、退職者本人から受け取るのが難しいことも多いですが、会社側としては納付が必要です。具体的な対応方針は税理士・所轄税務署に確認しましょう。
3.税務署へ納付済み
源泉徴収所得税を多く納付していたら、おおむね3か月以内であれば、今後の源泉徴収税額に充当できます。
おおむね3か月を過ぎると「源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額還付請求書」を提出し、税務署へ還付を請求する必要があります。納付時の帳簿や計算書の写しも添付し、超過分の還付を申請しましょう。
原則として、納付した日から5年を過ぎると手続きができなくなるため、早めの対応が必要です。
一方で源泉徴収所得税を少なく納付していたら、すぐに不足分を追加納付しなければなりません。納付期限を過ぎていれば、不納付加算税や延滞税が課されることもあるので要注意です。
源泉徴収業務の正確性を高めるには?
源泉徴収業務は、給与計算のなかでも正確性が求められる業務です。計算ミスや入力ミスが発生すると、従業員との労務トラブルや税務署への対応が発生するため、慎重な取り組みが欠かせません。
労務リスクを防ぎ、給与計算を効率的に処理するためには、One人事[給与]をはじめとする給与計算システムの活用がおすすめです。
税制改正や社会保険料率変更に手間なく対応が可能です。給与計算や源泉徴収をミスなく行うには、自社の運用に適したシステムを探してみてはいかがでしょうか。
まとめ
源泉徴収で天引きされる所得税は、毎月同じとは限りません。給与や各種手当の増減、扶養人数の変更、社会保険料の金額などによって、税額が変わることがあります。従業員から「いつもと違う」と言われたら、差し引き項目を一つずつ確認しましょう。税制改正の影響や、給与計算のミスで差が出るケースもあります。
もし計算ミスが見つかった場合は、一般的に次月の給与で過不足を精算します。すでに税務署へ納付済みで還付や追加納付が必要なときは、所定の手続きで調整しましょう。
ミスを減らすには、給与計算ツールの活用も有効です。設定の見直しや自動計算の仕組みにより、確認作業の負担を抑えながら精度を上げられます。
源泉徴収の処理を正確に行うことは、従業員の不安を減らし、税務上のトラブル予防にもつながります。本記事で紹介した確認と対応の流れを、日々の運用に役立ててみてください。
