割増賃金の基礎となる賃金とは? 計算方法などを解説
割増賃金とは、時間外労働や休日労働、深夜労働などに対して支払われる賃金です。従業員が一定の条件を満たす労働をした場合、企業は割増賃金を支払わなければなりません。
割増賃金を正しく算出し、支払いを行わないと違法となります。また、割増賃金は、従業員が働きやすい労働環境をつくるためにも重要な要素の一つです。人事担当者は、割増賃金が発生する条件や割増率、対象となる範囲などを把握しなければなりません。
本記事では、割増賃金の概要や、割増賃金の基礎となる賃金について詳しく解説します。具体的な計算方法や計算に含めない手当などについても紹介します。
割増賃金の基礎となる賃金とは
割増賃金とは、法定労働時間を超えて働いた場合に企業が支払うべき賃金のことです。
法定労働時間とは、労働基準法によって「1日8時間・週40時間」と定められた労働時間の上限を指します。法定労働時間を超えて働いた従業員に対しては、通常の賃金に25%以上を上乗せした割増賃金を支払わなければなりません。
割増賃金は法定休日に働いた場合や、22時から翌5時までの深夜時間帯に働いた場合にも発生します。
割増賃金を算出するためには、事前準備として「割増賃金の基礎となる賃金」を算出しなければなりません。割増賃金の基礎となる賃金とは、企業が定める所定労働時間の労働に対して支払われる「1時間あたりの基礎賃金」です。
1時間あたりの基礎賃金が正しく計算できていないと、割増賃金の計算にもミスが生じ、給与を支払う際のトラブルに発展する恐れがあります。
また、1時間あたりの基礎賃金を計算するうえで気をつけなければならないのが、固定給に加算されている手当です。法律によって、割増賃金の計算の基礎となる賃金に含むべき手当と、除外される手当が区別されています。
含まれる手当
従業員に支給する手当のうち、資格手当や皆勤手当、役職手当、営業手当などは割増賃金の基礎となる賃金に含まれます。
含まれる手当の対象となるかどうかは手当の名称に関係なく、手当そのものの実質や実態によって判断されると覚えておきましょう。
除外される手当
手当の中でも、労働と直接的な関係が薄く個人の事情に基づいて支給されるものは、割増賃金の基礎となる賃金から除外して計算できます。
具体的には、家族手当や通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時的に支払われる賃金、1か月以上の期間ごとに支払う賃金などです。
手当は名称の違いに関係なく、手当そのものの実質や実態によって判断されます。
割増賃金の基礎となる賃金の計算方法
正社員に対して月給制を採用している企業では、支払うべき割増賃金を計算するために、以下の方法で1時間あたりの基礎賃金を計算します。
1時間あたりの基礎賃金=月給÷1か月あたりの平均所定労働時間 |
1か月あたりの平均所定労働時間とは、1年間で考えた場合の月平均の所定労働時間のことです。1か月あたりの平均所定労働時間は、以下の計算式で求められます。
1か月あたりの平均所定労働時間=(365日-年間の休日数)×1日の所定労働時間÷12か月 |
たとえば、所定労働時間1日7時間(9時〜17時・休憩1時間含む)、年間休日125日の従業員の場合、1か月あたりの平均所定労働時間は以下の通り求められます。
(365日-125日)×7時間÷12か月=140時間 |
従業員の月給が28万円だとすると、割増賃金の基礎となる賃金は以下の通りです。
280,000円÷140時間=2,000円 |
割増賃金の基礎となる賃金を求めたら、時間外労働を行った時間に応じて割増率を加算し、支払うべき割増賃金を算出しましょう。
法定労働時間を超えた場合の割増賃金
企業は、従業員が法定労働時間を超えて働いた場合には、割増賃金を支払わなければなりません。割増賃金は以下の計算式で求められます。
割増賃金=1時間あたりの基礎賃金×対象の労働時間×各種割増率 |
割増賃金が発生する労働には、大きく分けて「時間外労働」「休日労働」「深夜労働」の3種類があります。それぞれの割増率は、以下の通りです。
労働の種類 | 発生条件 | 割増率 |
---|---|---|
時間外労働 | 1日8時間、週40時間を超えて労働させた場合 | 25%以上※1か月に60時間を超える時間外労働がある場合は50%以上 |
休日労働 | 法定休日に労働させた場合 | 35%以上 |
深夜労働 | 22時から翌5時までの深夜時間帯に労働させた場合 | 25%以上 |
参照:『時間外、休日及び深夜の割増賃金(第37条)』厚生労働省愛媛労働局
労働基準法では労働時間の上限を1日あたり8時間、週40時間までと定めているため、法定労働時間を超えて従業員に労働させた場合には、25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
時間外労働に対する割増賃金の計算方法は、以下の通りです。
時間外労働に対する割増賃金=1時間あたりの基礎賃金×時間外労働時間数×1.25 |
また、ひと月あたりの時間外労働が60時間を超えた場合は、50%以上の割増賃金を支払う必要があります。2023年4月1日よりすべての事業主が対象となっているため、中小企業の人事担当者は注意しましょう。
休日労働に対しては、1時間あたりの基礎賃金の35%以上の割増賃金が発生します。
休日労働に対する割増賃金=1時間あたりの基礎賃金×休日の労働時間数×1.35 |
ただし、割増賃金が適用されるのは、法定休日に出勤した場合のみです。
たとえば、企業が独自に設定した休日で、時間外労働や深夜労働にあたらない場合は割増賃金は発生しないため、以下の計算式で賃金を算出します。
法定休日以外の休日の賃金=1時間あたりの基礎賃金×休日の労働時間数×1.0 |
最後に、22時から翌5時までの深夜時間帯に従業員を働かせた場合は、1時間あたりの基礎賃金に対して25%以上の割増賃金が発生します。計算式は、以下の通りです。
深夜労働に対する割増賃金=1時間あたりの基礎賃金×深夜労働時間数×1.25 |
割増賃金の基礎となる賃金の計算を間違えた場合
割増賃金の基礎となる賃金の計算を間違えると、正当な賃金を支給できず、労働基準法に違反してしまいます。万が一、割増賃金が適切に支払われなかった場合は、以下の罰則対象となります。
- 労働基準監督署の是正勧告を受ける
- 未払い金に加え、割増賃金と同額の付加金や未払い期間に応じた遅延損害金を支払う
- 悪質性が高い場合は、刑事罰の対象となる恐れがある
万一、割増賃金の基礎となる賃金の計算が誤っていることが判明したら、早急に不足額を算出して正しい賃金を支払う必要があります。
また、労働基準法第115条において、賃金の請求権は5年(ただし、当分の間は経過措置として3年)と定められています。計算ミスが発覚した場合は、過去にさかのぼって最大5年分の修正や清算が必要であると覚えておきましょう。
参照:『未払賃金が請求できる期間などが延長されています』厚生労働省
割増賃金の基礎となる賃金に関する疑問
割増賃金の基礎となる賃金に関して、よく寄せられる疑問と回答を紹介します。
皆勤手当や資格手当、役職手当は含まれるか
割増賃金の基礎となる賃金を計算する際は、除外する手当と除外しない手当を明確に理解する必要があります。
以下の手当は、割増賃金の基礎となる賃金に含めるのが一般的です。
- 資格手当
- 皆勤手当
- 役職手当
- 営業手当
一方で、従業員の個人的な事情が大きくかかわる以下のような手当は、対象外となるため注意が必要です。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時的に支払われる賃金
- 1か月を超えた期間ごとに支払われる賃金
それぞれの手当の名称と内容に定義はないため、企業によって呼び方が異なる場合があります。手当の名称だけで判断せずに、手当そのものの性質を見極めたうえで計算していきましょう。
年末年始手当やオンコール手当は含まれるか
年末年始手当やオンコール手当のように、毎月支払われる手当ではなく、あくまでも臨時的に発生する手当は、割増賃金の算定基礎額に含める必要はありません。
手当の性質を理解して、割増賃金の未払いや過払いが発生しないよう十分に注意しましょう。
正確な割増賃金の計算に給与計算システムの活用も
割増賃金の計算を含め、ミスを減らすためにも、自社の運用に適した給与計算システムの活用も一案です。
給与計算システムOne人事[給与]は、煩雑な計算フローを半自動化し、正確な給与計算業務をサポートするツールです。
One人事[勤怠]との連携により、月末の時間外労働時間の集計なども簡略化できます。
給与計算に関連する情報が社内に点在している場合、情報の集約により、全体の効率性向上が実現するでしょう。
まとめ
割増賃金とは、時間外労働や休日労働、深夜労働が発生した際に支払われる割増分の賃金であり、労働者の権利を守るための重要な制度の一つです。
割増賃金の支払いは労働基準法において定められた義務です。企業は法定外労働をした従業員に対して割増賃金を適切に支払わなければなりません。
労使協定を締結すれば、割増賃金の適用除外が認められるケースもあります。しかし、万が一割増賃金の未払いや計算ミスによる不足があった場合は、労働基準監督署からの是正勧告や罰則の対象となる恐れがあるため注意が必要です。
割増賃金を正しく計算するためにも、手作業の計算業務ではなく給与計算システムを活用し、DX化を進めましょう。
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