年末調整で通勤手当は給与に含まれる? 非課税限度額との関係を解説
年末調整は、当年の所得額から正しい所得税を計算し、源泉徴収額から精算をする手続きです。会社員などの所得には、給与と賞与が含まれますが、会社の通勤手当は所得に含まれるのでしょうか。
通勤手当には、非課税となる限度額が設けられており、限度額を超える部分は、課税対象となり所得税がかかります。特にパートやアルバイトで扶養控除の適用を受けている場合、通勤手当の非課税分を除いた金額により、扶養控除の適用範囲を超えてしまいます。
本記事では、通勤手当について、年末調整に含まれるのかどうかを中心に解説します。企業の年末調整担当者や通勤手当を支給されている従業員の方は、ぜひ参考にしてください。
通勤手当は年末調整の際に非課税扱いされる
通勤手当は、基本的に非課税扱いとなるため、年末調整の所得計算の際も、給与収入に含めずに計算します。ただし、通勤手段や状況などによって非課税となる範囲や内容も異なるため、正しく理解する必要があります。
2016年の税制改正で交通費の非課税限度額を引き上げ
2016年度の税制改正によって、交通費の非課税限度額が引き上げられました。具体的には、通勤において2016年1月1日以降に支給される通勤手当の上限を月15万円に増額したという内容です。
一般的には、多くの会社員が公共交通機関を利用して通勤しているため、遠方から通勤している人などにとってはメリットが大きい内容でした。
そもそも年末調整とは
年末調整とは、企業が給与所得者の所得税額を計算し、源泉徴収税額との差額を精算する手続きのことです。
企業では、従業員に支払う毎月の給与や賞与から、一定の所得税を源泉徴収し、本人に代わって納付しています。源泉徴収額は概算であるため、従業員が本来納付すべき所得税よりも多く徴収していたり不足していたりするなど正しい納税額とは限りません。
年末調整では、従業員の所得から正しい納税額を再計算し、源泉徴収額と照らし合わせることで、還付もしくは追加で徴収を行います。
年末調整において、通勤手当が課税扱いされると、課税所得が増えるため、その分所得税も高くなります。
基本的に通勤手当は非課税扱いとなりますので、過度な心配はいりませんが、非課税限度額を超えるような場合や手段や距離によって対応が異なるという点は、注意しましょう。
年末調整で通勤手当は給与に含まれる?
通勤手当が年末調整の給与収入に含まれるかどうかは、金額や通勤手段によって異なります。そこで、通勤手段別に、手当の扱いや金額、年末調整における対応を解説します。
- 公共交通機関で通勤する場合
- マイカーで通勤する場合
- 自転車で通勤する場合
公共交通機関で通勤する場合
公共交通機関で通勤する場合は、1か月の通勤手当が15万円までなら非課税扱いとなります。このとき、通勤手段が合理的かつ経済的な方法で通勤した場合に限り、対象となるため注意が必要です。
たとえば、バスと電車を利用した通勤手当として毎月合計1万円を支給している場合、非課税扱いになります。非課税扱いであるため、年末調整における給与には含めません。
しかし、通常利用する電車ではなく、新幹線のグリーン席などを利用して通勤した場合は、経済的かつ合理的な方法として扱われないため、注意しましょう。
マイカーで通勤する場合
マイカーで通勤する場合、片道分の通勤距離に応じて非課税限度額が定められています。通勤に使用する車の燃費やガソリン代、距離などによってかかる費用が異なるため、国税庁では非課税限度額を以下のように決めています。
また、マイカー通勤による通勤手当は、1Lあたりのガソリン単価と燃費で計算し、金額を決めるのが一般的です。計算式は次の通りです。
通勤手当=通勤の往復距離×出勤日数×1Lあたりのガソリン単価÷1Lあたりの燃費 |
通勤距離については、距離を測れる計測ツールなどを活用するのが一般的です。
上記以外にも、有料道路などを利用した場合は、距離で定めた非課税限度額に合算します。駐車場代を支給する場合は、原則として課税対象として扱われるためご注意ください。
片道の通勤距離 | 1か月あたりの限度額 |
---|---|
2キロメートル未満 | 全額課税 |
2キロメートル以上10キロメートル未満 | 4,200円 |
10キロメートル以上15キロメートル未満 | 7,100円 |
15キロメートル以上25キロメートル未満 | 12,900円 |
25キロメートル以上35キロメートル未満 | 18,700円 |
35キロメートル以上45キロメートル未満 | 24,400円 |
45キロメートル以上55キロメートル未満 | 28,000円 |
55キロメートル以上 | 31,600円 |
たとえば、片道12キロメートルの距離をマイカー通勤する従業員に対して、通勤手当として月10,000円を支給しているとします。この場合、非課税対象は7,100円となり、差額分の2,900円が課税対象ということです。
1か月あたりの限度額を超えて通勤手当を支給する場合、限度額を超えた分は課税対象として扱われます。
参照:『No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当』国税庁
自転車で通勤する場合
自転車での通勤は、マイカー通勤における扱いと同様です。自転車はガソリン代がかかりませんので交通費や通勤手当が支給されることは少ないかもしれませんが、マイカー通勤のように距離によって非課税額が変わるということを理解しておきましょう。
公共交通機関とマイカーを併用して通勤する場合
通勤の際、自宅から最寄り駅まではマイカー、最寄り駅から職場までは公共交通機関を利用して通勤するという人もいらっしゃいます。
このように、マイカーと公共交通機関を併用した通勤の場合、以下のように計算します。
- 公共交通機関による1か月の通勤費用
- マイカー通勤において規定された片道距離における1か月の非課税限度額
上記の金額を合計し、月に15万円以下の部分を非課税扱いとします。
タクシーで通勤する場合
タクシーで通勤する場合は、以下の一定の条件をもとに、1か月につき15万円が非課税扱いになります。
- タクシー利用の通勤手当の支給額が実費相当額と考えられる
- 通勤手段として、タクシーが最も合理的で経済的と認められる
タクシーを利用した通勤の合理的理由は、出勤時間に電車やバスが利用できない場合などが挙げられます。
徒歩通勤は全額課税対象
徒歩通勤では、公共交通機関も交通用具も利用しません。そのため、徒歩通勤者に対して通勤手当を支給している場合は、全額課税対象です。
控除を受ける場合、通勤手当の非課税限度額を超えないように注意が必要
年末調整で配偶者控除や扶養控除等の控除を受ける場合は、控除要件を満たさなければなりません。特に、扶養対象者の所得要件がポイントです。これは、配偶者や被扶養者の所得金額によって、控除の適用可否や控除金額が決まるためです。
そのため、扶養内(103万円)で働くパート労働者は、通勤手当が非課税限度額を超えないよう注意しなければなりません。
通勤手当のルールを明確化しておく
通勤手当は、ルールや扱いを明確化することで認識相違やトラブルを防止できます。ルールとして規定しておくべき点などを紹介します。
- 通勤手当の支給対象
- 通勤手当の支給対象となる経路
- 通勤手当の計算方法や支給限度額
通勤手当の支給対象
会社として通勤手当の支給対象者を明確にすることが大切です。公共交通機関による通勤だけでなく、自転車や自動車による通勤の場合も、通勤手当を支給する場合は明確にしておきましょう。
通勤手当の支給対象となる経路
通勤手当の支給について、経路や手段をあいまいにしていると、従業員が誤解する場合があります。たとえば、電車通勤も可能な従業員が、通勤所要時間を短くできるという理由で、新幹線を利用する可能性もあります。
そこで、会社の通勤手当のルールとしてどのような手段や経路による通勤を、手当支給の対象として認めるか明確にしておきましょう。
通勤手当の計算方法や支給限度額
従業員によって、通勤手段や経路は異なるため、統一された計算方法や通勤手当の支給限度額などを明記しておくとよいでしょう。
また、通勤手当の非課税限度額についての説明や取り扱いについても併記しておくことで、より従業員の認識統一や理解が深まります。
年末調整における通勤手当の注意点
年末調整において、通勤手当で注意すべき点を紹介します。
- 非課税限度額を超えた分は課税対象
- 公共交通機関でもグリーン車などは課税対象
非課税限度額を超えた分は課税対象
通勤手当は、基本的に非課税限度額以内であれば、非課税で支給されます。非課税扱いで支給された通勤手当については、年末調整の際の給与収入額に含めずに計算できるため、所得税が増える心配はありません。
ただし、通勤手当が非課税限度額を超えた場合は課税対象となるため、年末調整の際は非課税限度額を超えた分の通勤手当を給与収入額に含めて計算しなければなりません。
公共交通機関でもグリーン車などは課税対象
通勤方法として一般的な公共交通機関には、バスや電車、新幹線などの種類があります。公共交通機関のなかで非課税対象になるのは「経済的かつ合理的な経路や方法」に限られます。
公共交通機関であっても、電車や新幹線などのグリーン車については、非課税扱いされず、課税対象となるため、ご注意ください。
まとめ
年末調整における所得計算において、非課税扱いの通勤手当は給与収入に含めずに計算できます。
ただし、通勤手当で支給される金額が、非課税限度額を超えた分は課税所得として計算しなければなりません。また、通勤手当は通勤方法や距離によって、非課税限度額などが異なるため、注意が必要です。
非課税限度額を超えた分は給与に含めて計算することになるため、扶養内で働くアルバイトやパート労働者は、所得調整を行わなければなりません。
通勤手段と非課税限度額の関係性を理解し、できるだけ限度額以内で納められるよう、意識しましょう。
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