自治体DXの課題|なぜ進まない? 推進ポイントも解説
近年、あらゆる分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれており、自治体においても例外ではありません。しかしながら、自治体DXの推進は遅れているというのが現実です。なぜ自治体DXはなかなか進まないのでしょうか。
本記事では、自治体DXの課題と現状、DXが進まない理由、DXを推進していくためのポイントなどを紹介します。自治体の担当者は、ぜひ参考にしてください。
自治体DXとは
まずは自治体のDXとは何なのか、なぜ必要なのかを簡単に解説します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
そもそも「DX」とは「デジタルトランスフォーメーション」の略語で、スウェーデンの大学教授が提唱したとされる言葉です。DXという言葉の意味にはさまざまな解釈があり、広い意味で「デジタル技術の活用で人々の生活をよりよく変化させること」だと捉えておくとよいでしょう。
自治体でDXが求められる背景
もともと、DXは民間企業を中心に推進されていました。では、なぜ自治体でもDXが求められるようになってきたのでしょうか。その背景として、少子高齢化による労働人口の減少が挙げられます。さまざまな行政サービスを必要とする高齢者が増え続けている一方で、公務員の数はどんどん減っていっています。
実際に総務省の調査によると、地方公務員の数は平成6年をピークとして令和3年には約48万人も減少しています。こうして公務員の数が減っていく中で、快適な行政サービスを提供し続けるために、自治体の業務を効率化するDXが必要とされているのです。
自治体DXの現状
自治体DXは思うように進んでいないのが実態です。自治体DXの現状について、3つの観点から解説します。
新型コロナ感染拡大によってDXの需要は高まっている
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、できる限り外出を控えたり、人と人との接触を避けたりするようになりました。それによって企業ではテレワークで業務を進めたり、オンラインでサービスを提供することが求められるようになり、以前にも増してデジタルの活用が進んでいます。行政サービスにおいてもオンラインでの手続きが求められたり、感染状況の把握や経済支援の仕組みが必要になったりと、コロナ禍を境にDXの需要は急激に高まったといえるでしょう。
民間企業に比べて自治体のDXは進んでいない
DXの推進が求められているのは民間企業も同じですが、自治体は民間企業に比べて遅れをとっているといえるかもしれません。
デジタルトランスフォーメーション研究所による2021年のアンケート調査によると、民間企業の7割以上がDXの成熟度をレベル1以上と答えたのに対して、自治体では8割ほどが未着手と回答しています。また、自治体DXに対して積極的な自治体もあれば、消極的な自治体もあるなど、目標設定にバラつきがあることもわかりました。
参考:『自治体DX調査報告』株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所
小規模な自治体ほどDXの推進に苦戦している
自治体の規模によってもDXへの取り組みに差があることもわかっています。
株式会社猿人が2021年に実施した調査によると、人口1万人以上の自治体では30%が、DXに関して何らかの取り組みをしていると回答しています。しかし人口1万人未満の自治体では「取り組み有」とした回答が21.3%という結果にとどまりました。
この結果からは、小規模な自治体ほど予算や人材の問題から、DXの推進に苦戦していると考えられるでしょう。
一方で人口1万人以上の自治体の中でも、人口10万人以上の自治体に絞るとDXへの取り組みが減るという結果も出ています。自治体の規模が大きすぎても、DXによる影響範囲が広すぎて推進が難しくなるのかもしれません。
自治体DXの課題|進まない理由
なぜ自治体DXはうまく進まないのでしょうか。自治体DXを推進していくうえでの課題について解説します。
DX人材(デジタル人材)が不足している
自治体DXの課題の1つめは、最適な人材の不足が関係しています。自治体DXを進めるには、デジタル技術に関する専門的な知識を持ち、DX推進プロジェクトをリードしていけるDX人材(デジタル人材)が必要です。
しかし、DX人材は少なく、民間企業でさえ確保が追いつかないので、自治体においてもそう簡単には採用できません。さらに自治体では、一から専門知識を身につけさせる環境を用意することも難しく、全国的にDX人材が不足していることが課題といえます。
既存の業務で手一杯になっている
自治体DXの推進プロジェクトはデジタル技術に強い人材が数人いれば進むものではなく、組織全体の協力が欠かせません。ところが地方公務員の減少によって人手が足りなくなり、通常業務だけでも手一杯になってしまっている課題もあるといえます。
自治体としては住民へのサービスを優先せざるを得ないため、長期的には重要だとしてもDXの取り組みは後回しにされがちなのです。
十分な予算が確保できない
現状の仕組みを自治体DXによって大きく変えるにあたっての課題とは、相応の予算が必要な点が挙げられます。自治体の規模が大きくなるほど、DXに必要な予算も莫大になるはずです。
総務省のアンケート調査でもDX推進の課題として「財源の確保」が最も多い回答になりました。DXに必要な予算を確保するには、自治体のトップがその重要性を理解するとともに、住民からの理解も得なければならないでしょう。
紙を使う文化が根強く残っている
自治体DXを進めるうえで課題となっているのは、自治体に根強く残る紙文化です。
自治体DXを進めていく中では、さまざまな業務をオンライン化していかなければなりません。しかし、自治体手続きには、紙をはじめとしたアナログ管理が定着しています。
公務員側も住民側も紙での手続きに慣れていると、オンライン化への抵抗もあるでしょう。そのため民間企業に比べても、自治体はDXの推進に苦戦しやすいことが課題として挙げられます。
デジタル活用に関する世代間の格差が大きい
自治体DXの課題として、そもそもデジタル技術の活用に関しては、世代によって大きな差があることも挙げられます。内閣府の世論調査においても、スマートフォンやタブレットを利用していない人の割合は60代から増え始め、70代以上では40%以上もの人が利用していないと回答してます。
自治体としては高齢のサービス利用者を切り捨てるわけにはいかず、地方公務員の年齢も幅広いですから、デジタル技術に慣れていない人に合わせることになり、DXの推進が遅れてしまうという課題が予測できます。
自治体DXの推進ポイント
こうした自治体DXの現状と課題を踏まえて、推進していくためのポイントを解説します。
組織の中でDXへの認識をそろえる
まずは自治体のトップやプロジェクトを推進していく立場の人間が、DXの重要性を理解することが重要です。DXとは何なのか、なぜ必要なのか、などの認識をトップから現場まで広く共有してそろえましょう。いくら現場がやる気でも、トップが乗り気でないと必要な人材や予算の確保がうまくいかず、つまずいてしまいます。
長期的な計画を策定する
組織全体での認識がそろったら、具体的にどうやって実現していくのかを計画します。自治体DXを進めるには抜本的な改革が必要になることも多いため、目標の実現にはそれなりの時間がかかることも課題の一つです。そのため、長期的な計画を立てずに場当たり的に進めていると、思ったような結果が出なくて士気が下がってしまうかもしれません。
DX人材(デジタル人材)を採用・育成する
自治体DXを推進していくためには、デジタル技術に関する専門的な知識を持った人材がプロジェクトをリードしていく必要があります。
DX人材(デジタル人材)を採用できることが理想ですが、希少価値が高いため、非常に難易度が高いといえます。もしDX人材の採用が難しい場合は、現状の人材に専門教育を受けさせて育てたり、外部の専門家に一次的な協力を仰ぐなどの方法で課題解決を目指しましょう。
役割を超えた協力体制をつくる
一部の人間だけで自治体DXを進めようとしても、スムーズに進まないこともあります。なぜなら自治体DXは非常に影響範囲が広く、さまざまな人の協力が必要になるからです。
目標の実現に向けて、部門や役割に関係なく一人ひとりが力を貸してくれるような体制を築いておくと、スムーズかつスピーディに自治体DXを推進しやすくなるでしょう。
身近な業務の効率化から始める
自治体DXのは、既存の業務を根本から変えるような改革が必要な場合もあります。しかし、実現には予算や人手が足りりないなど課題が多いと、結果が見えるまでに時間がかかりすぎて士気が下がることもあるでしょう。
そのため長期的な計画を立て、まずは身近な業務を少しずつ効率化することから始めるといいかもしれません。スモールスタートで自治体DXの成功体験を重ねて課題をクリアし、トライアンドエラーを繰り返しながら、DXを推進することが重要です。
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まとめ
新型コロナウイルス感染拡大をきっかけにDXの需要は大きく高まりました。しかし、自治体DXの推進は、民間企業に遅れを取っているのが現状といえます。
自治体DXの課題は、公共機関ならではの業務性質や体制があります。自治体DXの推進には、課題を踏まえて組織の認識をそろえ、長期的な計画を見据えながら、小さなことから始めるのが重要といえるかもしれません。
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