固定残業代は月45時間まで? 理由と例外、上限を超えるリスクを紹介
固定残業代の上限時間は、労働基準法の規定を踏まえると月に45時間までと考えられています。45時間以上の残業時間を設定してしまうと違法と見なされる恐れがあるため、注意が必要です。
本記事では、固定残業代が月45時間までに設定されている理由や上限を超えるリスク、例外となるケースを詳しく解説します。企業の経営や人事労務に携わる方は、ぜひ参考にしてください。
固定残業代は原則として月45時間まで
固定残業代制度とは、あらかじめ固定した残業時間と残業代を定めておき、従業員に対して毎月同じ残業代を支給する制度です。
万が一、固定残業時間を超過して残業が発生した場合は、さらに超過時間分の残業代が支払われます。
固定残業代制度は、労働基準法にしたがって導入・運用される限りでは、雇用主と従業員の双方にとってメリットもある制度といえます。雇用主は賃金をベースアップした状態で求人募集をかけられ、従業員は残業が発生しなかったとしても毎月固定残業代を支払ってもらえるためです。
ただし、固定残業代は原則として月45時間までと考えられるため、導入や運用には十分に注意しなければなりません。
固定残業代の上限が45時間とされる理由
固定残業代が月45時間までと定められているのは、時間外労働の上限が月45時間であるためです。
労働基準法第32条では、所定労働時間は1日あたり8時間、週あたり40時間と定められており、原則として時間外労働は認められていません。
しかし、業務量によって時間外労働を避けられないケースは数多くあります。その場合、労使間で36協定を締結して労働基準監督署長に届け出ることで、従業員に時間外労働をさせることができます。
固定残業代の基礎知識:36協定について
36協定とは、労働基準法36条に基づく労使協定であり「時間外・休日労働に関する協定届」の通称です。企業が法定労働時間を超えて、労働や休日出勤を命じる場合に必要とされます。
36協定は、従業員の過半数で組織される労働組合もしくは従業員の過半数を代表する者と締結したあと、労働基準監督署長へ届け出なければなりません。届け出た内容を従業員に周知して、初めて有効と認められます。
また、36協定を締結したからといって、制限なく時間外労働が認められるわけではありません。原則として「月45時間/年360時間」が上限とされています。
時間外労働の上限が月45時間であることから、固定残業代の上限も45時間が妥当であると考えられているのです。
固定残業代が月45時間を超えられる場合は?
36協定を締結していたとしても、1か月に45時間以上残業させることは原則として禁止されています。しかし、一定の要件を満たしていれば、固定残業代を月45時間以上に設定できるケースもあります。
特別条項付き36協定を締結し、臨時で特別の事情がある
固定残業代の制度運用において、1か月に45時間以上の時間外労働が認められるのは、特別条項付きの36協定を締結している場合のみです。
特別条項付き36協定は、臨時的に特別な事情があり、労使間で合意した場合にのみ締結できます。
ただし、無制限に時間外労働が許されるわけではなく、以下のような条件があります。
1か月の上限時間 | 100時間 |
1年間の上限時間 | 720時間 |
時間外労働時間の2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均 | いずれも80時間以内 |
上限時間を超えてよい回数 | 年6回 |
たとえ臨時的な事情があったとしても、上限を超えた時間外労働は強要できないため注意しましょう。
月45時間を年6回超えたら罰則対象
時間外労働が月45時間を超えられるのは、年に6回までと定められています。特定の労働者について1年の半分を超えないものとする行政通達にしたがい、事業場や部署単位ではなく個人単位で残業時間を管理しましょう。
特定の事業・業務に従事している
特定の事業では、固定残業代の制度運用においても月45時間以上の残業が認められるケースがあります。
大企業は2019年4月1日、中小企業は2020年4月1日から、時間外労働の上限規制が導入されました。ただし、以下の事業や業務については2024年3月末まで上限規制が猶予されていました。
建設事業
建設業は、時間外労働の上限規制が猶予されている業種です。しかし、2024年4月1日からは、建設業に従事する労働者にも上限規制が適用されています。
ただし、災害時の復旧や復興事業に携わる場合は、以下の2つの規制は適用されません。
- 1か月の時間外労働と休日労働の合計が100時間未満
- 時間外労働時間の2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均がいずれも80時間以内
参照:『建設業時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』厚生労働省
自動車運転の業務
トラックやタクシーなどの自動車運転に携わる業務も、建設業と同様、時間外労働の上限規制が猶予されていました。しかし、2024年4月1日からは自動車運転の業務に対しても上限規制が適用されています。
ただし、次の3つの規制は適用されません。
- 1か月の時間外労働と休日労働の合計が100時間未満
- 時間外労働時間の2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均がいずれも80時間以内
- 時間外労働が45時間を超えるのは1年のうち6か月以内
また、特別条項付き36協定を締結すれば、時間外労働の上限が年960時間となります。
参照:『トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント』厚生労働省
医師
医師の場合は、複数の水準ごとに区分されています。
水準 | 種別 | 規制内容 |
---|---|---|
A水準 | 通常の医療機関 | 年960時間月100時間未満 |
B水準 | 救急医療や在宅医療などを提供する医療機関 | 年1,860時間月100時間未満 |
C水準 | 高度技術習得のために指定医療機関に従事する医師 (臨床研修医・専攻医など)、 医籍登録後の臨床従事6年目以降の医師 |
B水準については2035年度末を目標に終了を目指しており、C水準も縮減する方向で調整が進められています。
参照:『医師の働き方改革 ~患者さんと医師の未来のために~(Q&A付き)』厚生労働省
⿅児島県および沖縄県における砂糖製造業
猶予期間中は月100時間未満、時間外労働時間の2~6か月の平均が80時間以内という規制が適用外となっていました。猶予後の2024年4月1日からはすべての上限規制が適用されています。
45時間超えを想定した固定残業代制度は推奨しない
あらかじめ月45時間の上限を超えることを想定した固定残業代制度は、無効もしくは違法と見なされる恐れがあります。
36協定に特別条項を設ければ、従業員に月45時間を超える残業を命じるられますが、超えられるのは年に6回までと定められています。
そのため、あまりにも長いみなし残業時間を設定しないように注意しましょう。
固定残業代が月45時間を上回るリスク
固定残業代が月45時間を上回ることで生じる5つのリスクを詳しく解説します。
- 従業員のモチベーション低下
- 従業員の健康が悪化
- 人件費の高騰
- 企業イメージの低下
- 法令違反
従業員のモチベーション低下
固定残業代制度に限らず時間外労働の時間が長ければ長いほど、従業員の集中力が落ちてしまい、生産性が低下する恐れがあります。
心身が疲弊して仕事へのモチベーションが下がると、会社に対する満足度や貢献意欲も薄れてしまうでしょう。やりがいのある仕事や職場を求めて、大切な人材が外部に流出するリスクも高まります。
従業員の健康が悪化
月45時間を超えて残業させると、従業員の心身に大きな負担がかかります。肉体的・精神的に追い詰められた従業員は体調を崩し、病気の発症リスクが高まることがあるため注意しましょう。
特に、過労死などが発生した場合は、雇用主の責任が問われます。遺族から損害賠償請求訴訟を起こされることも考えられるでしょう。
人件費の高騰
固定残業代の設定時間を超過して時間外労働が増えれば、当然支払うべき時間外手当も増えて人件費が高騰してしまいます。人件費だけでなく、従業員が稼働している間の光熱費も軽視できません。
また、過重労働を強いられた従業員は疲弊して仕事へのやる気を失い、業務効率が低下してしまいます。生産性が低い状態で従業員に長時間勤務をさせても、業績は上がりにくいでしょう。
企業イメージの低下
固定残業代の運用において長時間勤務や時間外労働が常態化してしまうと、企業イメージにも大きなダメージを与えかねません。近年では、SNSやインターネットを通じて企業に関するネガティブな情報が短期間で広まります。いわゆるブラック企業として社会から認識され、企業の信用は損なわれるでしょう。
法令違反
2019年に施行された働き方改革関連法案をきっかけに、多くの業種や職種において残業時間の上限が定められました。
臨時的な特別な事情がないにもかかわらず、固定残業代だからといって月に45時間を超える残業を強いてしまうと、労働基準法違反にあたります。違反した場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる恐れがあるため注意しましょう。
参照元:『労働基準法』e-Gov法令検索
固定残業代は45時間を超えない制度設計を
固定残業代制度は事業者・労働者双方にとってメリットもある制度ですが、導入しているからといって際限なく残業させられるわけではありません。1か月または1年間の時間外労働に上限が定められているため、実労働時間を正しく計算しないと、気づかぬうちに上限を超えてしまうケースも考えられます。
固定残業代制度を導入する際は、導入当初から残業時間を上限の45時間を超えないように設定し、残業の削減に取り組むことが大切です。業務の無駄を見直したり、勤怠管理システムを導入したりして、業務の効率化をはかりましょう。
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