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固定残業代の【企業側】メリット・デメリットは? 導入ポイントも解説

固定残業代の【企業側】メリット・デメリットは? 導入ポイントも解説

毎月固定した残業代を支払う「固定残業代制度」は、近年多くの企業で取り入れられている制度です。導入を検討している場合、企業側にとってどのような利点があるのか、また押さえておくべきポイントも知っておくとよいでしょう。

本記事では、固定残業代制度について企業側のメリット・デメリットを紹介し、導入する際のポイントも解説します。企業の人事労務や勤怠管理の担当者は参考にしてください。

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    固定残業代制度とは

    固定残業代制度とは、毎月の基本給に固定された残業代を加えて支給する制度です。「みなし残業代制」と呼ばれることもあり、文字通り、実際の残業時間にかかわらず「みなし」の残業代が支払われます。固定残業代制度は、労働時間の管理を簡略化し、人件費の予測を容易にするために導入されることが一般的です。

    みなし労働時間制との違い

    固定残業代制度(みなし残業代制)は、みなし労働時間制と混同されることがあります。

    みなし労働時間制は、残業時間ではなく、あらかじめ規定された「労働時間」を働いたとみなす制度です。営業職など外勤が多い職種で適用されることが多くあるでしょう。

    企業が固定残業代を導入する5つのメリット

    企業が固定残業代を導入することで得られるメリットを解説します。

    • 給与計算がシンプルになる
    • 人件費が試算しやすい
    • 無駄な残業を抑制する
    • 生産性の高い従業員が明確になる
    • 従業員の生活が安定する

    給与計算がシンプルになる

    固定残業代を採用すると、固定された残業代があらかじめ給与に含まれているため、別途計算する必要がありません。

    たとえば、月10時間分の残業代を給与に含む条件で働いている場合、2時間残業したとしても10時間残業したとしても、支給される給与額は同じです。

    そのため、毎月の残業代の計算や、それによって変わる社会保険料や所得税の調整をする必要がなくなります。給与計算がシンプルになることで、給与計算担当者の業務効率化につながります。

    人件費が試算しやすい

    固定残業代を導入すると残業代が一定になり、給与額の急激な変動が少なくなります。人件費は支出の中でも大きな部分を占める費用です。

    人件費の試算がしやすくなるのは、今後の事業計画を立てたり、資金管理をしたりするうえでも大きなメリットといえるでしょう。

    無駄な残業を抑制する

    無駄な残業を抑制できるのも、固定残業代を導入するメリットです。従業員は残業しなくてもあらかじめ決められた残業代を受け取れるため、収入を増やすためだけの不要な残業が減少します。

    残業をしても収入が変わらないことから、業務を早く終わらせて帰宅しようとする従業員が増える可能性があります。短い時間で業務を終わらせようとする姿勢を促し、会社全体の生産性向上にもつながるでしょう。

    生産性の高い従業員が明確になる

    固定残業代の導入は、時間ではなく「成果」に重点を置く働き方へシフトすることを促します。

    生産性の高い従業員が明確になり、企業は効率的な利益拡大を期待できます。効率と成果に基づく職場環境が育まれるため、競争力が強化できるでしょう。

    従業員の生活が安定する

    固定残業代を取り入れることで、従業員の毎月の給与がある程度の金額で固定され、収入が安定します。

    たとえば「基本給25万円で残業代が別」のA企業と、「基本給30万円で15時間分の残業代が含まれる」B企業では、月に15時間残業するとA企業で働く方が給与が多くなる可能性が高いでしょう。

    しかし、残業時間が少なくなると、A企業の従業員の収入は減少し、B企業の従業員の収入が実質的に多くなります。

    固定残業代では、月ごとの給与額のバラつきが防げるため、生活の安定につながるといえるでしょう。

    企業が固定残業代を導入する3つのデメリット

    固定残業代にはメリットだけでなく、デメリットもあります。企業が固定残業代を取り入れることで考えられるデメリットを3つ取り上げて解説します。

    • 従業員の生活が安定する
    • 長時間労働・サービス残業の温床になる
    • 求職者から敬遠される

    人件費がかさむ可能性もある

    固定残業代制度では一定の残業代が給与に含まれることから、残業が発生していなくても残業代を支払っている可能性があります。そのため、企業の人件費がかさむ恐れがあるでしょう。

    固定残業代制度は、残業代を支払わなくてよいわけではなく、あらかじめ決められた量の残業代を給与に組み込んで支払うものです。

    もし、従業員が設定された残業時間を使い切らなかった場合でも、固定された残業代分の給与は支払われます。反対に、固定残業時間の上限を超えて残業したときは、割増賃金を支払わなければなりません。

    よって、普段から残業が少ない企業では、人件費が不必要に高くなる可能性があります。

    長時間労働・サービス残業の温床になる

    固定残業代は、ある程度の金額が初めから給与に含まれています。しかし、「まったく残業代が出ない」という制度ではありません。設定された残業時間を超えた場合は、超過分に対して追加で残業代が支払われます。

    しかし「給与に含まれる固定の残業代のみで、それ以上の残業代は出ない」という誤解が広がるとサービス残業が増える恐れがあります。そのため、企業の人事労務や勤怠管理担当者は、従業員に固定残業代の正確な情報を伝え、勤怠管理の適正化を徹底することが重要です。

    また、企業側が「固定残業代の分まで働かせてもよい」「固定残業代があるのに定時で退勤するのはおかしい」などの誤った認識をすると、長時間労働につながるケースもあります。

    固定残業代を導入していても、原則として従業員の労働時間は「1日8時間/週40時間」が上限です。管理する側も労働に関する意識を高める必要があるでしょう。

    求職者から敬遠される

    固定残業代制度は、求職者から敬遠されるといったデメリットもあります。企業によって固定された残業代が給与に含まれているため、ブラック企業なのではないかと誤解を受けやすいためです。

    たとえば「どれだけ多く働いてもその分の残業代がもらえない」と思われがちですが、実際には、固定残業代の範囲を超える労働に対しては、企業は追加の賃金を支払う義務があります。

    また、固定残業代制度を導入しても、残業代の計算を完全に省略できるわけではなく、法律では残業代の時間と金額を明確にすることが求められています。企業は求職者に向け、固定残業代制度について正確に説明し、誤解を避ける努力が必要です。

    固定残業代を新たに導入するポイント

    固定残業代を新たに検討している企業に向けて、導入ポイントを8つ取り上げて解説します。

    • 現状の労働時間の実態を把握する
    • 基本給と区別するか、組み込むか決める
    • 従業員に合意を得る
    • 従業員に不利益な変更にならないようにする
    • 雇用契約書や就業規則に金額や時間数を明記する
    • 固定残業時間分を超えた場合は追加で残業代を支払う
    • 残業が発生していない月も支払う
    • 求人情報に記載する

    現状の労働時間の実態を把握する

    固定残業代を新たに導入する際は、まず現状の労働時間の実態を把握することが重要です。正確なデータ収集と分析を行うことで、固定残業代の設定に必要な情報が得られます。

    具体的には、過去数か月間の勤務時間記録を集め、平均的な残業時間を算出します。この過程では、残業の理由やパターンが見えてくるため、労働時間の管理方法や業務の効率化について考えるよい機会となるでしょう。

    また、このデータをもとに、固定残業代の適正な設定や残業時間の上限設定など、従業員の健康とワークライフバランスを考慮した制度設計ができます。

    基本給と区別するか、組み込むか決める

    固定残業代を、基本給と区別するか、組み込むかを決めることも大切です。

    労働契約における基本給の定めでは、通常労働時間の賃金にあたる部分と残業にあたる部分とが判別できるようにする必要があるとされています。

    そのため、組み込む場合でも「基本給40万円(固定残業代15万円を含む)」のようにそれぞれの金額を明記しましょう。

    従業員に合意を得る

    固定残業代を導入する際は、従業員の了承を得る必要があります。

    固定残業代制度の内容や、特に残業代がどのように計算されるのか、残業時間が多くなった場合は給与にどのような影響があるのかを明確に説明しなければなりません。

    また、従業員との合意は口頭だけでなく書面にしておくと、あとのトラブル防止に役立ちます。

    従業員に不利益な変更にならないようにする

    固定残業代を導入する際は、従業員にとって不利益な変更にならないように細心の注意を払う必要があります。固定残業代の導入によって、従業員が以前と同等、またはそれ以上の収入を保持できるようにすることが大切です。

    雇用契約書や就業規則に金額や時間数を明記する

    固定残業代制度に関して、従業員が自分の給与体系を理解できるようにするには、雇用契約書や就業規則に金額や時間数を明記することが重要です。対象の残業時間や、基本給と残業代の額を具体的に定めておきましょう。

    また、従業員ごとに給与が異なる場合、計算方法について詳しい記載が必要です。

    固定残業時間分を超えた場合は追加で残業代を支払う

    固定残業代を取り入れる際の重要なポイントは、固定残業時間分を超えた場合は追加の残業代支払いが必要なことです。超過に関するルールを管理者と従業員に明確に伝え、固定残業代に関する誤解を防ぎつつ、正確な給与計算をしなければなりません。

    また、夜間や休日の残業が発生したときの計算規則もあらかじめ設定しておきましょう。

    残業が発生していない月も支払う

    実際に残業が発生していない月でも、原則として固定残業代を従業員に支払う必要があります。

    固定残業代は、従業員が残業をせずに効率的に業務をこなした場合でも、事前に定められた残業代が給与に含まれる制度です。よって従業員は、残業をしなかった月でも、一律の残業代相当分を給与として受け取ることができます。

    ただし、固定残業代を設定する際は、従業員の平均的な残業時間を適切に評価し、公正に定めましょう。

    求人情報に記載する

    固定残業代について求人情報に記載することも大事なポイントです。

    求人情報に固定残業代の詳細を掲載することで、応募者は労働条件を事前に理解できます。予期せぬ誤解や不一致を防ぎ、応募者と企業間の信頼関係を築く第一歩となるでしょう。

    また、企業の透明性と公平性をアピールし、良質な人材を引き寄せるための重要な要素にもなります。

    固定残業代制度に向いている企業・向いていない企業

    固定残業代制度に向いている企業と向いていない企業の特徴を紹介します。

    向いている企業

    • 定期的に残業が発生する企業
    • 労働時間が不規則な企業
    • 予算計画が重要な企業

    固定残業代制度は、定期的に残業が発生する企業に向いています。残業が一定のパターンで発生し、予測可能な場合、固定残業代制度は給与計算の簡素化に役立ちます。労働時間の管理など、労務管理の効率化もはかれるでしょう。

    また、労働時間が不規則な企業にも適しています。営業職やコンサルティング業など日々の労働時間が不規則な業種では、固定残業代制度によって給与計算の透明性を高められます。

    固定残業代制度によって支払うべき賃金を予測しやすくなることで、財務計画作成の効率化が可能です。そのため、サービス業や製造業など予算計画が重要な企業にも向いているでしょう。

    向いていない企業

    • 残業がほとんど発生しない企業
    • 従業員の労働時間を厳格に管理している企業
    • 労働法規制が厳しい業界

    固定残業代制度が向いていないのは、残業がほとんど発生しない企業や、労働時間を厳格に管理している企業です。残業が少ない、またはまったく発生しない企業では、固定残業代制度は不必要なコストとなり得ます。

    また、医療業界や金融業界など、労働時間に関する法規制が厳しい業界では、固定残業代制度が法的な問題を引き起こすリスクがあるでしょう。

    固定残業代のメリットを踏まえて導入は慎重に(まとめ)

    固定残業代制度は、毎月の基本給に固定された残業代を加えて支給する制度です。

    労働時間を算定しづらい企業にとっては、給与計算がシンプルになる、人件費が試算しやすいといった多くのメリットがあるため、把握しておくとよいでしょう。

    固定残業代制度は企業によって向き不向きがあります。固定残業代のメリットを踏まえ、導入は慎重に検討するのがおすすめです。

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