管理職の残業時間に上限規制は適用される? 100時間を超えてもよい? 管理監督者との違いや残業代についても解説
係長や部長などの役職がつくと、残業代が支払われないことがあります。ただし、残業代が支払われないのは「管理監督者」に限定されます。たとえ社内での肩書きが管理職とされていても、ほかの従業員と同様の仕事をしている場合には、残業代を支払う義務があるので注意が必要です。
本記事では、管理職と管理監督者の違いを踏まえて、勤怠管理の注意点や管理職の残業時間を適切に管理する方法を紹介します。人事労務担当者は参考にしてください。
管理者に上限規制の適用はない? 残業代は出ない?
管理職に残業代が支払われないのは、労働基準法で定められた「管理監督者」に該当する場合のみです。
管理職であっても残業代が支給されるケースが存在すること、そして、すべての管理職が管理監督者ではない点を理解しなければなりません。
管理職に残業代が出ない理由や、残業時間の上限規制が適用されるかどうかを詳しく解説します。
管理監督者は上限規制が適用されず、残業代が出ない
労働基準法では、法定労働時間を1日8時間、1週間40時間までと定めています。法定労働時間を超えて従業員を働かせる場合、企業は残業手当として割増賃金を支払わなければなりません。
さらに、週に1日または4週を通じて4日の法定休日に働かせた場合も、休日出勤手当として割増賃金を支払う必要があります。
しかし、「管理監督者」には、労働基準法における労働時間・休憩時間・休日のルールが適用されません。そのため、法定労働時間を超過して働いたとしても、企業が残業代を支給する義務は発生しないのです。
管理監督者でも深夜手当は支払われる
管理監督者であっても、時間外手当がまったく支給されないわけではありません。労働基準法第37条により、22時から翌5時までの勤務に対しては、企業は25%以上の割増賃金を支払うよう義務づけられています。
労働基準法では、通常の労働と深夜帯の労働を区別してルールを設けています。管理監督者が適用されない「労働時間、休憩及び休日に関する規定」に、深夜の労働に関する規定は盛り込まれていません。
管理監督者が22時以降に働いているにもかかわらず、割増賃金が支給されていない場合、法律違反として問題になるため注意が必要です。
働き方改革により、労働時間は把握しなければならない
2019年4月に施行された働き方改革関連法により、労働基準法や労働安全衛生法が改正されました。法改正を受け、それまでは「把握するのが望ましい程度」だった管理監督者の労働時間に対する勤怠管理が、義務化されたのです。
また、働き方改革によって、一般従業員の時間外労働が制限されたことで、部下の業務をカバーするために管理監督者が長時間労働を強いられるのではないかと懸念されています。
一般の従業員や管理監督者ではない管理職の残業時間が月100時間を超えると、原則として違法となり、企業に対して6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
管理監督者の場合は規制が適用されないものの、残業が100時間を超えるような長時間労働をさせてしまうと健康障害や最悪の場合は過労死を招きかねません。
安全配慮義務違反を問われる恐れもあるため、企業には管理監督者の労働時間を正確に把握することが求められます。
参考:『労働安全衛生法』e-Gov法令検索
参考:『労働基準法』e-Gov法令検索
残業代が出ない管理監督者とは? 4つの判断基準
管理職に厳密な定義はなく、どのような役職を管理職とするかは企業によって異なります。
一方で、管理監督者は、労働基準法第41条において「企業内で権限や責任を与えられており、業績結果や業務遂行を監督する従業員」と定められています。経営者と同じか、それに近い権限を持っているのが大きな特徴です。
社内で管理職と認められていても、管理監督者に該当するかは別問題であると覚えておきましょう。
厚生労働省が発表した基準によると、管理監督者は以下の4つの条件を満たす必要があります。
- 経営に関する重要な職務を担っている
- 経営者に近い責任と権限を持っている
- 自分の裁量で働き方を決められる
- 賃金や報酬体系が優遇されている
経営に関する重要な職務を担っている
管理監督者には、労働時間や休憩、休日などの制限は適用されません。法定労働時間を超過して働かざるを得ないほどの重要な職務を担っていることが、管理監督者の大前提です。
重要な職務の具体例は、以下の通りです。
- 人事管理(採用、解雇、人事考課など)
- 労働時間の管理(シフト作成、部下の時間外労働命令など)
経営に関する意思決定を行っているか、部門全体を統括しているかなどが、管理監督者であるか否かを判断するポイントです。
経営者に近い責任と権限を持っている
管理監督者は、一人の従業員としての役割を果たすとともに、経営者と同レベルの立場で業務を行わなければなりません。業務遂行のためには、経営者と同等の指揮権が与えられ、以下の事項を決定する権限を持っている必要があります。
- 部下の人事評価
- 賃金や労働条件などの待遇
- 予算や費用の管理など
経営者や他部署の管理監督者から指示を仰ぎ、指示された内容を伝達するだけでは、管理監督者とみなされません。
自分の裁量で働き方を決められる
管理監督者の勤務形態は、労働時間や業務量について縛られず、自身の裁量で管理できるのが大きな特徴です。主に、以下の3つのポイントが判断材料となります。
- 労働時間についての裁量がある
- 就業規則で決められた所定労働時間に拘束されない
- 部下と異なる勤務形態で働いている
管理監督者は、出退勤時刻をある程度自由に決められます。遅刻や早退をしても減給・マイナス評価などの不利益な扱いを受けない点が、一般的な従業員との大きな違いです。
賃金や報酬体系が優遇されている
管理監督者は、一般の従業員よりも重要な役割を担う場面が多いため、賃金や報酬体系において優遇されなければなりません。
たとえ支給総額が高くても、時給換算したときに、ほかの従業員の時間単価を下回ったり、最低賃金を下回ったりすることがないように注意しましょう。
管理監督者における勤怠管理の注意点
管理監督者の勤怠管理を行う際に注意すべきポイントを解説します。
- 労働基準法の一部規定の適用が除外される
- 深夜労働と有給休暇は適用される
- 完全に裁量が委ねられているわけではない
労働基準法の一部規定の適用が除外される
労働基準法第41条において、管理監督者には、以下の規定が適用されないと定められています。
対象外の規定 | 内容 |
---|---|
労働時間 | 残業時間の上限はなく、残業手当の支払い義務もない |
休憩時間 | 休憩を取得しなくても違法とならない |
休日 | 法定休日(週1日または4週を通じて4日)の規制はなく、休日出勤手当の支払い義務もない |
残業時間の上限はないものの、月80時間以上の残業時間が発生し、疲労の蓄積が認められる管理監督者からの申し出があった場合には、産業医の面談指導が必要です。
また、月100時間以上の残業時間が発生してしまうと過労死のリスクが高まるため、早急な労働環境の改善が求められます。
深夜労働と有給休暇は適用される
管理監督者に、労働時間や休日労働などの制限はないものの、深夜労働と有給休暇に関する規定は適用されます。
適用される規定 | 内容 |
---|---|
深夜労働 | 22時〜翌5時の勤務に対して割増賃金(深夜手当)の支払いが義務づけられている |
有給休暇 | 付与日数や年5日以上の消化義務など、有給休暇の規定は通常の労働者と同様に適用される |
管理監督者に対しても、一般的な従業員と同様に、心身の健康を損ねないような配慮が求められています。
完全に裁量が委ねられているわけではない
管理監督者は自分の裁量で働き方を決められますが、無制限に早退や遅刻をしてよいというわけではありません。
業務に支障をきたすような働き方では、管理監督者としての責任を果たせないため、あくまでも役割を果たしたうえでの自己裁量であると覚えておきましょう。
管理職なのに残業代が出ない「名ばかり管理職」とは?
名ばかり管理職とは、業務遂行のための権限や責任、待遇などが管理監督者の条件を満たしていないにもかかわらず、残業代や休日出勤手当が支払われない管理職を指します。
管理職に厳密な定義はなく、「係長以上が管理職」「課長以上が管理職」といったように、どの役職を管理職とするかは企業によって異なります。
社内での役職や肩書がついていても、管理監督者とみなされない実態の場合、企業は当該従業員に対して残業代や休日出勤手当を支払わなければなりません。
会社が人件費を節約するために、不当に割増賃金を支払わないのは、違法行為です。万が一、名ばかり管理職として割増賃金を支払っていない場合、対象の従業員は未払い残業代を過去にさかのぼって請求できます。
退職後に請求された場合は、遅延損害金も発生するので、放置するのは大きなリスクです。
管理監督者と称して「名ばかり管理職」になっていないか、労働実態を見て割増賃金を支払っているか、社内で見直しましょう。
管理職の残業時間を適切に管理する方法
管理職を含めた、従業員の残業時間を適切に把握するための勤怠管理方法を紹介します。
- 自己申告してもらう
- タイムカードで管理する
- パソコンの使用記録を確認する
- 勤怠管理システムを導入する
自己申告してもらう
エクセルや出勤簿などを用いて、管理職みずから勤怠状況を申告してもらう方法です。エクセルファイルであらかじめ設定しておけば、労働時間や休憩時間を入力するだけで自動的に集計でき、コストをかけず勤怠管理を実施できます。
ただし、自己申告による勤怠管理は、客観的な労働管理の記録としては認められないため注意しましょう。
タイムカードで管理する
タイムカードによる勤怠管理は、比較的導入コストやランニングコストを抑えられる方法といえます。利用方法もシンプルで、誰でも悩まず使えるうえにメンテナンスが不要なため、管理も容易です。
ただし、基本的にタイムカードはオフィスに設置され、出社と退社のタイミングを記録するものです。リモートワークや出張などで社外に従業員がいる場合、正確な労働時間の把握が難しいでしょう。
打刻漏れや不正打刻のリスクも否定できず、管理体制の整備が必要です。さらに、手動での集計作業が発生し、手間と時間がかかることがデメリットといえます。
パソコンの使用記録を確認する
パソコンの使用記録を活用して勤怠管理をする方法もあります。特に、パソコンでの作業が主な職種には、実際の労働時間を正確に把握できるメリットがあります。
パソコンのログに基づく勤怠管理は、客観的な記録に基づくため、正確性が高く、打刻漏れの心配がありません。不正申告の防止にも効果が期待できます。
ただし、休憩時間の把握が難しい点に注意が必要です。また、外回りの多い職種や複数の拠点で事業を展開する企業にとっては、リアルタイムでの勤怠管理が困難なことがデメリットといえます。
勤怠管理システムを導入する
管理職を含め従業員の労働時間を正確に管理したい場合は、勤怠管理システムの活用をおすすめします。
一般的な勤怠管理システムには、以下のような機能が備わっています。
- 出退勤時間の打刻
- 労働時間の集計
- 残業申請
- 休暇申請
- 残業時間の把握
- 給与計算との連携など
このように、勤怠管理システムを活用することで、管理職の労働時間をリアルタイムで適正に把握できます。管理監督者や従業員の心身の安全確保や長時間労働の是正にもつながるでしょう。
多くの勤怠管理システムには、生体認証や特定の端末でしか打刻できない機能が搭載されているため、不正打刻や不正申請の防止にも役立ちます。また、給与計算システムなどほかのシステムと連携できるサービスもあり、効率的な運用が可能です。
自社に必要な機能と予算を総合的に考慮し、最適なシステムを選びましょう。
管理職と管理責任者の違いを理解して正しい勤怠管理を(まとめ)
管理職に残業代が出ないのは、管理監督者に該当する場合に限定されます。すべての管理職が管理監督者とみなされるわけではないため、「名ばかり管理職」として扱わないように注意が必要です。
2019年4月より、管理監督者の労働時間の把握が義務化されました。しかし、管理監督者の働き方は一般労働者とは異なるため、勤務状況の把握が難しいこともあります。
管理監督者の労働時間管理を含め、正確で適切な勤怠管理を行うためには、勤怠管理システムの活用をおすすめします。自社の就業規則や課題に適した製品を比較し、導入を検討しまてみてはいかがでしょうか。
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