有給休暇の拒否は違法? 拒否された場合の対処法や過去の判例も解説
有給休暇を拒否することは労働基準法違反となり罰則を受ける可能性があるため、企業としては注意しなければなりません。ただし、有給休暇の拒否はできないものの、正当な理由による時季変更権の行使は認められているため、正しい理解と判断が必要です。
しかし、企業の経営層や労務管理担当者の中にも、有給休暇の拒否や時季変更権について詳しく理解できていないというケースも少なくないでしょう。
そこで本記事では、有給休暇の拒否について総合的に解説しながら、どのような場合に時季変更権を行使できるのか、過去における判例、注意点などもご紹介します。
有給休暇とは
有給休暇とは、一定の条件を満たした労働者に付与される有給の休暇のことであり、付与された有給休暇を取得することは労働者の権利でもあります。
有給休暇の取得条件
有給休暇を付与するための条件は、以下の2つです。
- 雇用開始の日から6か月が経過していること
- 全労働日の8割以上の出勤がなされていること
このような条件があるため、雇用開始から6か月未満の労働者や、8割を満たしていない労働者に対しては有給休暇を付与しなくてもよいとされます。
有給休暇の日数
有給休暇は、最初の有給付与日(基準日)から1年が経過したあと、勤続年数に応じて付与される日数が増えていきます。
雇用から半年の労働者の場合は10日、6年半年以上勤務している場合は20日が付与されることになり、労働者によって付与される日数が異なる点を覚えておきましょう。
勤続年数 | 6か月 | 1年 6か月 | 2年 6か月 | 3年 6か月 | 4年 6か月 | 5年 6か月 | 6年 6か月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
有休付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
また、一般的には1日単位での取得をイメージする方も少なくありませんが、有給休暇は半日単位や時間単位で取得することも可能です。半日単位で取得する場合には、労使間の合意があれば取得することができます。
時間単位で取得するためには、労使間で労使協定を締結することで、年5日の範囲内で取得できます。労使協定では、時間単位で取得する労働者の範囲や日数、時間や単位などについても規定しなければなりません。
また、時間単位で年次有給休暇を取得する場合、年5日の取得義務の日数に含めることはできないという点も覚えておきましょう。
参照:『時間単位の年次有給休暇制度を導入しましょう!』厚生労働省
アルバイトやパートタイマーも対象
年次有給休暇は、雇用形態にかかわらず一定の条件を満たした労働者に付与すべきものとされているため、正社員かアルバイトかなどの雇用形態による区別はありません。
しかし、週の所定労働時間が30時間未満で週の所定労働日数が4日以下など短時間勤務のアルバイトやパートタイマーの場合は労働日数に応じて年次有給休暇が比例付与されるという点は理解しておきましょう。
参照:『年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています』厚生労働省
有給休暇を拒否した場合
有給休暇の取得は2019年4月に義務化されました。義務化された内容は有給付与日から1年以内に、新たに付与された付与日数のうち5日を取得させなければならないということです。
仮に企業側が正当な理由なく労働者の有給休暇取得を拒否した場合は、労働基準法違反として6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が企業側に科せられることになるため、注意しなければなりません。
有給休暇の時季変更権とは
有給休暇を拒否することはできませんが、企業は有給休暇取得の日にちを変更してもらう「時季変更権」を持っており、やむを得ない場合は行使することが認められています。
本来、有給休暇は労働者の希望する日に取得させる必要がありますが、正常な事業運営を妨げる可能性のある場合においては「時季変更権」の行使ができます。
時季変更権を行使できるケースには、以下のような状況が挙げられます。
- 代替人員を確保できない場合
- 有給休暇取得者が同時季に重なっている場合
- 本人不在では支障がある場合
- 長期間連続で有給休暇を取得する場合
このように、時季変更権はいつでも行使できるというわけではありません。正当な理由がないにもかかわらず行使することは違法とされる場合もあるため、慎重に行いましょう。
有給休暇の拒否に関する過去の判例
有給休暇を拒否することは違法であり、場合によっては裁判につながってしまう恐れもあります。企業側はこうしたトラブルを避けるためにも、労働者の有給取得を承認しなければなりません。
具体的に、過去にあった有給休暇の拒否に関する判例をご紹介します。
有給休暇の取得妨害に関する判例
有給休暇の取得妨害に関する判例としてご紹介するのが塾で起こったケースです。塾講師である原告が有給休暇を取得しようとしたところ、上司に「評価が下がる」などといった発言によって有給休暇の取得を妨害されました。
さらに会社代表者らによる当該上司の行為を擁護する発言などが不法行為に該当するとして、損害賠償を求めました。
本判決では、
- 有給休暇取得の妨害と業務担当変更(有給申請に対する嫌がらせ)
- 総務部長の発言
- 会社代表者の社員集会における発言
- 職場環境整備義務違反
を違法行為として認め、損害賠償を命じました。
このように、労働者の権利を妨害する行為や発言は違法と判断される可能性があり、権利を行使しようとしたことに対する嫌がらせもしてはならないという点を理解しておきましょう。
参照:『「有給休暇の取得妨害」 ― 日能研関西ほか事件』あかるい職場応援団
有給休暇を拒否された場合の対処法
有給休暇の拒否について「時季変更権」を行使する以外の拒否は認められていません。有給休暇の取得を拒否された労働者側のとるべき対処法についてご紹介します。
有給休暇拒否の理由と別日取得について話し合う
有給休暇を拒否された場合は、まずは拒否理由について確認してみましょう。
企業側は、正当な理由に基づき有給休暇を承認できない場合は時季変更権を行使することができます。有給休暇の取得が拒否された理由とともに、時季変更権の行使によるものなのかを確認しましょう。
また、あわせて別日の取得について話し合うことでトラブルを防止しやすくなるはずです。
有給休暇の取得妨害はパワハラになる
有給休暇の拒否は認められておらず、正当な理由がない状態で取得することを妨害するのはパワーハラスメントに該当する可能性もあります。
正当な理由がないにもかかわらず有給休暇の取得を拒否されたり、時季変更権を行使し続けられたりする場合は、社内の相談窓口や労働基準監督署などに相談しましょう。企業側は、有給休暇の拒否が訴訟問題に発展する可能性もゼロではないため、注意しましょう。
有給休暇の拒否は罰則を受ける可能性もある
有給休暇を拒否することは労働基準法により認められていません。
また、時季変更権を行使する場合も、正常な事業運営を妨げる場合のみであるため、正当な理由がないにもかかわらず行使するのは違法とされる場合もあります。その場合、6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金といった罰則を受ける可能性があります。
以下のような場合では時季変更権の濫用に該当する可能性があり、行使することはできないことを労使ともに理解しておきましょう。
- 時季変更権を何度も行使している場合
- 慢性的な人手不足による理由や繁忙期のみを理由とする場合
- 代替人員確保の努力をしていない場合
- 有給休暇を取得したい理由から行使する場合
有給休暇の拒否はパワハラや違法になる場合がある
有給休暇を拒否したり、理由なく時季変更権の行使を行うなどする場合、パワハラや労働基準法違反に該当する場合があります。労働者側は対処法や相談窓口などを確認しておき、企業側はトラブルにつながらないよう努めましょう。
拒否され続ける場合はパワハラとして相談
有給休暇の取得について、拒否され続けたり、不当な理由による時季変更権の行使された場合、パワハラとして相談できます。
具体的には
- 有給休暇の取得申請を断られ続けた
- 有給休暇の申請で嫌がらせを受けた
- 正当な理由がないのに時季変更権を使い続けられた
などが挙げられるでしょう。
このような状況になった場合には、労働組合や会社の相談窓口を活用して相談してみることをおすすめします。それでも解決できない場合には、労働基準監督署などに相談してみましょう。
まとめ
有給休暇の取得を企業側が拒否することはできません。しかし、正当な理由がある場合は時季変更権の行使が認められているため、やむを得ない理由や状況にある場合は、時季変更権の行使を検討してみましょう。
有給休暇の取得は労働者の権利であり、労働基準法でも一部取得を義務化しているほどです。拒否することで罰則を受けたり、裁判に発展したりする可能性もあるため、注意しなければなりません。
とくに企業の経営層や労務担当者においては、こうした有給休暇取得に関する内容や法律について理解を深め、トラブル防止に努めましょう。
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