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未払い残業代を請求されたらどうする? 消滅時効や罰則、発生の防止策もわかりやすく解説

未払い残業代とは、従業員が働いた残業に対して、本来支払われるべきであったにもかかわらず、まだ支給されていない賃金です。未払い残業代は、放置すると深刻無問題に発展する可能性があるため、迅速な対応が必要です。

本記事では、未払い残業代について解説し、消滅時効や罰則、発生の防止策なども紹介します。

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    未払い残業代とは?

    「未払い残業代」とは、従業員が実際に行った時間外労働に対して、適切に支払われていない割増賃金を指します。

    割増賃金の支払い義務について

    労働基準法第37条に基づき、法定労働時間を超えて従業員が働いた場合、企業には割増賃金を支払う義務が発生します。

    また、時間外労働だけでなく、休日労働や深夜労働についても同様に、割増賃金の対象です。休日に出勤した場合や、深夜(通常22時から翌朝5時まで)に働いた場合も、通常の賃金に加えて割増賃金が発生します。

    企業は休日労働や深夜労働に対して適切に割増賃金を計算し、支払わなければいけません。

    未払い残業代の問題は、労働に対して割増賃金を払う責任が果たされていない状況といえます。

    未払い残業代の消滅時効は3年間

    未払い残業代には、現在3年間の消滅時効が設けられています。

    未払い残業代の時効期間は、残業代が支払われるべきだった時点から起算されます。つまり、給料日の翌日から時効のカウントが始まるということです。

    2020年の法改正では、当面3年間の消滅時効を維持しつつ、将来的な見直しの可能性を残しました。しかし、改正法施行から5年後の2025年に再検討が予定されています。その結果次第では、将来的に未払い残業代の請求期間が5年に延長される可能性があります。

    未払い残業代の発生で罰則を受ける対象者

    未払い残業代で労働基準法違反が認められた場合、罰則を受ける対象は「使用者」です。企業の代表などが使用者とみなされるのは当然ですが、それだけではありません。

    実際に従業員に対して業務命令を出したり、労働時間を管理したりする権限を持つ人も使用者とみなされ、罰則の対象となる可能性があります。

    ただし、実際に個人に罰則が適用されるケースは比較的少ないのが現状です。

    また、労働基準法には「両罰規定」があり、違反行為を行った個人だけでなく、事業主も処罰の対象となることが認められるケースもあります。

    残業代の未払いによる企業のデメリット

    残業代の未払いにより、企業にはさまざまなデメリットが発生します。主な4つのデメリットを取り上げて解説します。

    • 未払い残業代のほか、遅延損害金が発生する
    • 悪質な場合、付加金や刑罰が科されることもある
    • 従業員のモチベーションが低下する
    • 企業イメージが低下する

    未払い残業代のほか、遅延損害金が発生する

    企業にとって、未払い残業代の問題は単に未払い分を支払えば済むものではありません。

    実際には「遅延損害金」が発生する可能性があります。遅延損害金とは、支払いが遅れた債務に対して課される追加の金銭的負担のことです。

    未払い残業代の場合、遅延損害金が加算されることで、企業の実質的な支払い額が増加します。

    現職の場合
    遅延損害金の利率
    企業が支払う遅延損害金
    未払い残業代100万円年3%103万円(1年後)

    また、従業員の退職後は「賃金の支払の確保等に関する法律」により、遅延損害金が年14.6%に跳ね上がります。

    退職後の場合
    遅延損害金の利率
    企業が支払う遅延損害金
    未払い残業代100万円年14.6%114万6000円(1年後)

    高額の遅延損害金は、企業の財務に予期せぬ負担をもたらす恐れがあります。特に、複数の元従業員から同時に請求を受けた場合や、長期間にわたって未払いが続いていた場合は、その影響が甚大になる可能性があるため、注意が必要です。

    悪質な場合、付加金や刑罰が科されることもある

    企業の未払い残業代の問題が悪質と判断されると、さらに深刻な制裁を受ける可能性があります。

    たとえば「付加金」が課される場合があります。付加金とは、裁判所の判断により、未払い残業代に加えて支払いを命じられる追加の金銭的制裁です。最大で未払い残業代と同額の支払いを命じられる可能性があります。

    さらに深刻なのは「刑事罰」のリスクです。労働基準監督署の是正勧告を無視したり、悪質な違反が認められたりした場合、企業の責任者が逮捕されたり、起訴されたりする可能性があります。

    従業員のモチベーションが低下する

    残業代の未払いは、従業員のモチベーション低下を引き起こす恐れがあります。残業代が適切に支払われないことで、従業員は自身の努力が正当に評価されていないと感じてしまうためです。

    モチベーション低下は個人の仕事の質だけでなく、チーム全体の雰囲気や生産性にも悪影響を及ぼします。離職率にもつながるため、優秀な人材と知識が流出し、採用・教育コストが増加するなどのデメリットが考えられるでしょう。

    企業イメージが低下する

    企業イメージが低下することも、残業代の未払いで起こりやすいデメリットです。企業イメージが損なわれると、社会や顧客に悪影響を及ぼします。

    労働基準監督署からの是正勧告や従業員による未払い残業代訴訟が公になった場合、企業イメージが低下すると、顧客離れや人材確保の難しさ、取引先との関係悪化につながります。

    未払い残業代を請求されたら確認すること

    未払い残業代を請求された場合、企業はどのようなことを確認すればよいのでしょうか。企業が確認すべき5つの点を紹介します。

    • 時効が成立していないか
    • 請求者が管理監督者ではないか
    • 従業員の主張が正しいか
    • 自社で残業を禁止していないか
    • すでに固定残業代として支払っていないか


    時効が成立していないか

    未払い残業代の請求を受けた場合、時効が成立していないかどうかを確認する必要があります。残業代には一定の消滅時効期間が設けられ、給与支払日の翌日から起算されます。

    請求されている未払い残業代の支払日から数年が経過している場合、時効の利益を主張することで支払い義務を免れる可能性があります。この権利行使を「時効の援用」と呼びます。

    時効の援用は口頭でも有効ですが、のちのトラブルを避けるため、内容証明郵便で時効援用通知書を送付するとよいでしょう。

    多額の未払い残業代を請求された場合も、すでに時効を迎えているケースがあります。そのため、請求を受けた際は即座に支払いを約束するのではなく、まず冷静に各残業代の支払日を確認し、時効が成立していないかを精査することが重要です。

    請求者が管理監督者ではないか

    未払い残業代の請求に対応する際、請求者が管理監督者に該当するかどうかも重要な確認ポイントです。

    監督もしくは管理の地位にある管理監督者に対しては、労働基準法に基づく労働時間などに関する規定が適用されません。実質的に、残業代は管理監督者には支払わなくてもよいということになります。

    しかし、管理監督者に該当するかどうかの判断は非常に難しい傾向にあります。

    管理監督者に該当する従業員の例
    ・経営に深くかかわっている
    ・労務管理を担当している
    ・出退勤に関して高い裁量を持つ
    ・ほかの従業員より優遇された処遇を受けている

    ただし、深夜労働に対する割増賃金は、管理監督者にも支払う義務があります。そのため、管理監督者に対して、深夜労働に対する未払い残業代の請求には、慎重に対応することが重要です。

    従業員の主張が正しいか

    未払い残業代の請求に直面した際、従業員の主張している労働時間が実際の事実と合致しているかも確認する必要があります。

    労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間です。従業員が主張する労働時間が、使用者の指揮命令下にあった時間と認められるかどうかを慎重に検討する必要があります。

    たとえば、タイムカード上は労働時間として記録されていても、実際には休憩時間とは別に、毎日一定時間の私的な休憩を取っている可能性も否定できません。私的な休憩時間は労働時間には含まれないため、その時間分の減額が認められるでしょう。

    従業員の請求内容をそのまま信じず、請求の根拠となっている資料を精査することが重要です。

    自社で残業を禁止していないか

    未払い残業代の請求に対応する際、自社の残業に関する方針を再確認する必要があります。

    従業員に残業禁止命令を出している企業では、制度が適切に運用されていれば、残業代請求を否定できる可能性が高いです。

    ただし、残業禁止命令が法的に有効とされるためには、残務の具体的な処理方法まで明確に指示しておかなければいけません。

    また、残業許可制を採用してても、無許可の残業を黙認していると、残業代支払いの義務が生じる可能性があります。

    残業禁止や残業許可制は形式的な導入だけでなく、実際に機能し、徹底されていることが重要です。

    すでに固定残業代として支払っていないか

    「定額残業代」や「みなし残業代」など、毎月固定の残業代を支給している企業では、残業代はすでに支払われている可能性があります。

    雇用契約書や就業規則に固定残業代に関する明確な記載があるか、金額や対象となる残業時間数が明示されているかなどを精査することが大切です。

    ただし、有効な固定残業代制度には、通常の賃金と残業代が明確に区別されていることや、固定残業代が実際の残業時間に対して適切な金額であることなどの要件があります。法律上有効とされるためには、要件を確実に満たす必要があります。

    未払い残業代を請求されたあとの対応

    未払い残業代を請求された場合の対応について紹介します。

    1.未払い残業代を計算する

    従業員から未払い残業代の請求を受けた場合、迅速かつ慎重な対応が求められます。最初にすることは、請求内容の詳細な確認と未払い残業代の算出です。特に、下記の資料を精査する必要があります。

    • 給与明細と給与台帳
    • 就業規則
    • 雇用契約書
    • タイムカードや出退勤簿
    • PCのログデータ

    資料を網羅的に確認することで、実際の勤務時間や勤務日数、適正な賃金が支払われていたかどうかを正確に把握できます。

    特に注意したいのは、記録上の労働時間だけでなく、PCのログデータなども参照して実質的な労働時間を確認することです。

    また、就業規則や雇用契約書の内容を精査し、残業代の計算方法や固定残業代の有無などの特殊な取り決めがないかも確認する必要があります。

    2.和解するか反論するかを選択する

    従業員から未払い残業代の請求を受けたとき、和解を目指すか、反論を行うか、慎重に対応方針を決める必要があります。

    和解を試みる場合は、従業員との対話の機会を設け、双方が納得できる金額での解決を目指します。和解は迅速な問題解決と、労使関係の維持に有効な手段です。ただし、妥当な和解金額は慎重に設定しましょう。

    一方、反論をする場合、労働審判や訴訟などの法的手続きに発展する可能性があります。企業側はみずからの主張を裏づける証拠を準備し、法廷で立証する必要があります。

    3.ほかの従業員の残業代も確認する

    1人の従業員から未払い残業代の請求を受けた場合、ほかの従業員にも同様の問題が存在する可能性があります。また、未払い残業代請求について情報が社内に広まれば、複数の従業員から請求が続く恐れもあり、特に中小企業にとっては深刻な財務的問題に発展しかねません。

    そのため、全従業員の労働時間と給与支払いの状況を、すみやかに確認する必要があります。給与制度の見直しと労務管理を徹底し、労働時間や残業代に関する方針を従業員に明確に伝えることも重要です。

    未払い残業代の発生を防ぐには?

    残業代の未払いが発生するのを防ぐために、企業はどのような対策を取ればよいでしょうか。3つの方法を取り上げて解説します。

    • 給与・賃金規定を見直す
    • 残業を承認制にして管理を徹底する
    • 勤怠管理システムを活用する

    給与・賃金規定を見直す

    未払い残業代問題の根本的な解決には、給与・賃金規定の見直しが必要です。残業を減らそうとする企業文化の醸成や、柔軟な労働時間制度の導入とあわせて、給与体系を再検討するとよいでしょう。

    給与制度は、労働基準法などの関連法規を十分に遵守した設計が不可欠です。

    給与制度見直しの具体例
    ・基本給と残業代の関係の明確化
    ・固定残業代制度の適切な導入
    ・成果主義的報酬体系の検討

    ただし、給与・賃金規定の変更は、従業員の生活に直接影響するため、慎重に進める必要があります。

    残業を承認制にして管理を徹底する

    未払い残業代の発生を防ぐ方法の一つは、残業を承認制にして、管理を徹底することです。

    未払い残業代請求の事案では、企業側が「残業を指示していないため、労働時間ではない」と主張することがありますが、この主張は必ずしも通用しません。

    、企業が残業を黙認していたり、残業しなければ完了できない業務を命じたりしている時間は、労働時間として認められる可能性が高いからです。

    残業の管理を徹底すると、無駄な残業が減少し、従業員のワークライフバランスが向上するといった副次的なメリットもあります。

    勤怠管理システムを活用する

    勤怠管理システムの活用も、未払い残業代の発生を防ぐ方法の一つです。勤怠管理システムは、単なる労働時間の記録だけでなく、労務管理全体の質を向上させるツールといえます。

    勤怠管理システムの主な利点は、正確な労働時間の記録と把握です。さまざまな勤務形態に対応した正確な時間管理に加えて、残業申請の内容や理由も明確に記録できます。

    また、勤怠管理システムは、労働基準法で義務づけられている5年間の記録保存も容易になり、担当者の負担を軽減できるでしょう。リアルタイムで労働時間を管理できるため、残業が集中している特定の従業員や部署や、残業が発生しやすい業務を迅速に確認できます。

    アラート機能を活用すれば、従業員だけでなく上司にも警告を発することが可能です。

    勤怠管理システムの導入により、未払い残業代の問題解決だけでなく、労務管理全体の質を向上させ、従業員の満足度を高めることにもつながるでしょう。

    まとめ

    未払い残業代とは、従業員が実際に行った時間外労働や休日労働、深夜労働に対して適切に支払われていない割増賃金です。

    未払い残業代の問題は、遅延損害金や罰則のリスク、従業員のモチベーションや企業イメージの低下など、深刻な影響をもたらします。

    万一、未払い残業代の請求を受けたら、時効の成立有無や請求者の立場、労働時間の正確性、残業禁止命令の有無、固定残業代の支払い状況を確認るる必要があります

    未払い残業代の発生を防ぐ方法としては、給与・賃金規定の見直しや残業の承認制導入と管理の徹底、勤怠管理システムの導入が有用です。

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