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着替えは労働時間に含まれる? 企業のリスクや過去の判例も解説

着替えは労働時間に含まれる? 企業のリスクや過去の判例も解説

労働時間に着替えは含まれるのでしょうか。業務を行うために着替えを必要としている企業では、労働時間との関係性を理解し、正しい勤怠管理や労働時間を把握しなければなりません。

本記事では、労働時間と着替えの関係について解説します。どのようなケースで着替えが労働時間に含まれるのか、含まれないのか、企業側のリスクも解説しますので、企業の人事労務担当者はぜひ参考にしてください。

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    労働時間と着替える時間の関係

    労働時間には、特定のケースにおいて着替えの時間が含まれます。一般的には、以下のケースで判断されます。

    • 仕事を行うための着替えであるか
    • 企業側が着替えを必要としているかどうか(指揮命令の有無)

    たとえば、販売業に従事する従業員が、売り場において制服を着用して接客等をおこなわなければならないとしているケースです。仮に、従業員がタイムカードなどで打刻をしていない場合でも、労働時間としてカウントされる場合があります。

    厚生労働省のガイドラインでは、状況によって、着替えの時間も労働時間に含まれるとしています。

    使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間

    引用:『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』厚生労働省

    このように、企業側の指示によって特定の服装や制服などを着て業務に従事する(着替える)ことが命じられている場合、労働時間に含まれる可能性が高いということです。

    労働時間とは

    労働時間とは、労働者が、企業側の指示に基づいて業務や関連作業を行う時間のことです。この前提を踏まえて、企業側は労働者の労働時間を正確に把握し、適切に管理しなければなりません。

    最高裁の判決では、労働時間を以下のように定義しています。厚生労働省では、労働時間を以下のように定義しています。

    労働基準法上の労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」のこと
    ・使用者の明示または黙示の指示により業務に従事する時間
    ・使用者の明示または黙示の指示に基づき、参加等が事実上強制されている時間

    引用:『事業所と現場の移動時間を見直してみませんか』厚生労働省

    このように、企業が従業員に指揮命令する時間が労働時間に該当します。企業側の明示や黙示による指示に従い、従業員が労働する時間ともいえます。そのため、企業側からの指揮命令のもと、業務に必要な作業や準備なども、労働時間に含まれると考えるのが一般的といえます。

    労働時間に明確な基準はありませんが、業務に必要な作業を行う時間かどうかなど、実態を重視して判断する必要があります。そのため、着替えについても、企業側が指定する制服に着替えなければならない場合は、基本的には労働時間に含まれるといえます。

    労働時間と着替えに関する過去の判例

    労働時間と着替えについて、過去に裁判で争われたのが「三菱重工長崎造船所事件(2000年3月判例)」です。この事例では、同社の従業員は、同社が定める8時間の所定労働時間外で、あらかじめ指定された場所において作業や防護服への着替えをしなければならない状況でした。

    そこで、判決では、このケースにおける着替えは、企業側の指揮命令によって行われているため、労働時間に該当すると判断されました。ただし、作業が終わった後の着替え(作業着から通勤服への着替え)は企業側の指揮命令によるものではないとし、労働時間には含まれないとしたものです。

    このように、仕事において着替えは、明示・黙示にかかわらず、企業による指揮命令のものと判断される場合は、労働時間に含めなければならないことがあるという点を把握しておきましょう。

    参照:『裁判例結果詳細』裁判所

    着替えが労働時間に含まれるケース

    着替えが労働時間に該当するには、特定の状況下にあることが求められます。そこで、具体的に着替えが労働時間に含まれると判断できるケースを紹介します。

    企業側から命令がある場合

    着替えが労働時間に該当する状況の1つめは、企業側から制服着用などの指示がある場合です。この場合、仕事を行うための制服に着替えなければなりません。また、特定の更衣室などによる着替えを明示しているような場合も挙げられます。着替えそのものが、企業側からの命令や指示によって行っているのであれば、労働時間に該当すると判断できます。

    企業側の黙示命令がある場合

    着替えが労働時間に該当する状況の2つめは、企業側から、明確な指示はされていなくても、命令として機能しているような場合です。たとえば、企業側が制服への着替えについて、具体的な指示を出していない場合でも、職場全体が同じ制服を着用しているケースや業界慣習として制服が着用されているケースなどが挙げられます。

    具体的には、製造業の工場などにおいて、特定の制服を着ているような場合です。衛生上の観点から制服を着用したり、労働者が、制服を着用しないと働けないなど、明らかに不利益を被るような場合は「黙示命令」があったと判断され、着替えが労働時間に含まれやすくなります。

    企業側が着替えの場所などを指定している場合

    着替えが労働時間に該当する状況の3つめは、企業側が着替えの場所を指定しているような場合も、労働時間に該当する可能性があります。これは、企業側が着替えの場所を指定するということは、労働者への命令と捉えられることがあるためです。

    たとえば、「2階のスタッフルームで制服に着替え、身だしなみを整えてから売り場に出てください」などといわれているようなケースです。制服への着替えは企業の指揮命令によって行っていることが判断できます。

    業務を行うために着替えが必要な場合

    着替えが労働時間に該当する状況の4つめは、業務を遂行するめには着替えが必要だと判断される場合です。たとえば、飲食店でスタッフ全員が共通の制服を着用するような場合です。制服のなかには、エプロンや帽子なども含まれていて、飲食店での接客や調理の際に必要と判断できます。このように、業務を安全・衛生的な観点から制服への着替えが必要なケースが挙げられます。

    着替えが労働時間に含まれないケース

    労働時間に着替えが含まれないケースもあります。具体的にはどのような状況の場合に、着替えの時間が含まれないのでしょうか。

    従業員が自らの意思で着替えている場合

    着替えが労働時間に含まれないケースの1つめは、従業員自らの意思や都合で着替えを行っているような場合は、着替えは労働時間に含まれません。制服はないのに、業務をするために動きやすい服装に着替えるようなケースが挙げられます。着替えの判断は、実態がどのようになっているかが重要です。

    着替えが不要な場合

    着替えが労働時間に含まれないケースの2つめは、着替えが不要な制服の場合です。たとえば、私服勤務が認められている場合に、出勤とは異なる動きやすい服に着替えた場合などが挙げられます。企業側が着替えの必要性を明示していない場合、着替えは業務に必要ないと、判断されます。

    制服で通勤や出勤を認めている場合

    着替えが労働時間に含まれないケースの3つめは、通勤中や出勤前に、制服の着用が認められている場合です。労働者の通勤中や出勤前の時間は、企業側に指揮命令権はなく、労働時間には含まれにくいと考えられます。そのため、自宅で制服や作業着に着替えた状態で通勤や出勤をした場合の着替え時間は、労働時間にはカウントされにくいといえます。

    簡単な着替えのみの場合

    着替えがあるとしても、極端に簡単な着替えで済むような場合には、労働時間には含めません。たとえば、制服として着用するものが、帽子だけ、ジャケットだけ、エプロンだけなどのケースです。このように、簡単な着替えの場合は、時間的な拘束がほとんどないため、労働時間に含まれないと判断されることが一般的です。

    着替えを労働時間として認めない企業のリスク

    労働時間に着替えを含めていない企業には、リスクが伴います。具体的なリスクを解説します。

    賃金を請求される可能性がある

    本来労働時間として含まれる着替えの時間の分の賃金を請求されることがあります。企業側は、業務に必要な着替えの時間分を労働時間に含めずに計算していた場合、相当額を支払わなければなりません。

    仮に、従業員の労働時間が、着替え時間を含めると8時間を超えるという場合、残業代も生じることになり、企業は割増賃金を支払わなければなりません。このように、業務に必要な着替えを労働時間に含めていないと、正しい給与計算が行われず、請求される可能性があるという点を理解しておきましょう。

    法律違反で罰則対象になる危険性がある

    労働時間に着替えを含めていない場合、給与や残業代の未払いとして企業は労働基準法違反に該当し、罰則対象になる可能性があります。その場合、30万円以下の罰金などが科せられます。そもそも、法令違反をしてしまうことで、企業の社会的信頼も大きく損なうため、企業の命令によって行う着替えの取り扱いには注意しなければなりません。

    参照:『未払賃金とは』東京労働局
    参照:『賃金不払残業ってなんですか。』厚生労働省

    従業員の不満が募る

    労働時間に着替えを含めずにいると、従業員の不満につながる恐れもあります。本来もらうべき給与が正しく計算されていない場合、不満の原因になります。業務へのモチベーションが低下したり、会社への不信感からエンゲージメントも下がる危険性もあります。従業員の不満が募ると、業務や成果にも悪い影響が出たり、離職につながったりしてしまいます。

    まとめ

    労働時間に着替えを含めるかどうかは、着替えが業務を遂行するために必要かどうか、企業による指揮命令のもと行う着替えかどうかを判断ポイントとしています。

    企業では、従業員に制服や作業着などを着用させている場合も少なくありません。企業が制服や作業着などの着用のために着替えを命じている場合は、着替え時間が労働時間に含まれているのかどうかを改めて確認し、正しい対応をしましょう。

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