越境学習とは【事例あり】目的とメリットや効果を高めるポイントを紹介
越境学習とは、自分の所属組織や専門分野の枠を超えて学ぶことです。たとえば、異業種交流会への参加や他部署への異動などが挙げられ、自律型人材の育成やイノベーションの創出などに効果が期待されています。
本記事では、事例を交えながら、越境学習のメリットや効果を高めるポイントについて解説します。自社に越境学習を取り入れたいと考えている担当者は、ぜひ参考にしてください。
越境学習の定義とは
「越境学習」とは、自社慣れ親しんだ自社の環境(ホーム・コンフォートゾーン)と、新たな学びの場である越境先(アウェイ・ラーニングゾーン)を、短期間で行き来しながら得られる学びのプロセスを指します。
「越境」とは単に物理的な境界を超えることだけでなく、心理的な壁を乗り越えることも含んでいます。そのため、自分とは異なる価値観、文化、習慣、思考様式をもつ人々と交流し、ともに働く経験を通じて、新たな気づきや学びを得ることが越境学習の本質といえるでしょう。
越境学習の具体例・効果
たとえば越境学習は、IT企業の社員が農業法人で一定期間働く、製造業の従業員がスタートアップ企業でプロジェクトに参加する、などが挙げられます。今までにない経験を通じて、参加者は新しい視点や知識、スキルを獲得することが可能です。
越境学習に期待される効果は多く、個人レベルだけでなく、組織レベルにおいてもイノベーションの促進や組織間の連携強化、従業員の満足度や定着率の向上などが見込めます。また、経済産業省も推奨しており、大企業からのレンタル移籍を提供する会社もあらわれています。
越境学習が注目のきっかけは経済産業省の実証プログラム
経済産業省は、VUCAと呼ばれる変化の激しい時代に対応するため、対応力を高める人材育成手法として越境学習を推奨しています。VUCAとは、変動性、不確実性、複雑性、曖昧(あいまい)性の頭文字を取った言葉です。具体的な取り組みとして、2年間実施された「未来の教室」事業が挙げられます。
経済産業省の実証プログラムでは、参加者が日常の職場とは異なる環境で活動することで、自己の軸を再発見し、不確実な時代を切り拓くリーダーとしての成長をはかることができました。経済産業省の動きを受け、多くの企業において越境学習を取り入れる動きが加速しています。
越境人材とは
「越境人材」はインタープレナーとも呼ばれ、組織や分野の境界を超えて活動し、社会に価値を創造する個人を指します。越境人材の育成には越境学習が重要です。
越境学習は、ビジネスパーソンが自組織の枠を超えて学ぶプロセスで、急速に変化する現代社会で必要とされる柔軟なリーダーシップを育成する効果的な方法として注目されています。
越境学習を通じて、越境人材は多様な価値観や業務スタイルに触れ、新たな視点を獲得します。これにより、組織や分野を横断した対話や協働が促進され、イノベーションの創出が可能です。また、「インタープレナーコミュニティ」のような場での交流は、越境学習の実践と人材のさらなる成長をサポートします。
コロナ禍以降、ビジネス環境の不確実性が増す中、越境人材の重要性は高まりをみせています。多くの企業が越境学習を取り入れたプログラムを導入し、社会全体の変革を推進できる人材の育成に力を入れています。
越境学習が広まった背景・制度の目的
越境学習が広まった背景や制度の目的について3つ取り上げ、さらに深く解説します。
- VUCA時代に自律型人材を育てるため
- 従業員のキャリア形成の幅を広げるため
- イノベーションを創出するため
VUCA時代に自律型人材を育てるため
近年、越境学習が注目されるようになった背景には、社会の急激な変化があります。特に2020年以降、新型コロナウイルスの影響で働き方が大きく変わり、ビジネス環境の不安定さが増しました。この状況は変動性、不確実性、複雑性、曖昧性の頭文字を取った「VUCA」で表現され、現代社会の特徴を示しています。
VUCAの環境下で注目されているのが越境学習です。不確実な時代では、みずから動ける自律型人材を育成する必要があり、手段の一つとして越境学習の導入が進んでいるといえます。
従業員のキャリア形成の幅を広げるため
越境学習が注目される理由の1つは、社員のキャリア形成の幅を広げられることです。
日本社会では、少子高齢化と労働人口の減少が進む中、60歳を超えても活動的に働く人が増加しています。個人の職業生活が従来よりも長期化しており、自分のキャリアを主体的に設計し、管理する能力がますます重要になってきているといえます。
長期にわたる職業人生において、時代の変化に適応し続けるためには、継続的な学習と成長が不可欠です。成長を続けるために、越境学習は有効な手段となり得ます。
特にミドル層やシニア層に対しては、さらなる活躍のためにも越境学習を促す必要があるでしょう。
イノベーションを創出するため
イノベーションの創出は、越境学習の重要な目的の1つです。
組織の境界を越えて学ぶことで、従来の固定観念にとらわれない新鮮なアイデアが生まれやすくなります。また多様な視点や知識を得られるため、既存の課題に対する革新的な解決策を見出せるようになるでしょう。
さらに、異業種や他組織との交流は、自社にはない技術やノウハウに触れる機会です。業界の枠を超えた斬新なアイデアの創出や、異分野の知見を自社の業務に応用する可能性が広がります。
越境学習を自社に取り入れる効果・メリット
越境学習を自社に取り入れる効果やメリットを3つ取り上げて解説します。
- 離職防止・人材の定着
- モチベーション・従業員満足度の向上
- 次世代リーダーの育成
離職防止・人材の定着
越境学習を取り入れることで、定着率の向上が見込める点がメリットの1つです。多くの企業が直面する、職場の単調さや選択肢の限られた環境という課題に対処できるでしょう。
越境学習では、新たな環境での業務や挑戦的な任務に取り組めます。日々の業務に変化がもたらされ、一人ひとりの自主性が引き出されることで、仕事への意欲を維持しやすくなるでしょう。
さらに、異なる環境や人々との交流は、特定の人間関係に左右されない働き方を促進します。柔軟な職場体験が心理的負担を軽減し、結果として長期的な定着につながるのです。
モチベーション・従業員満足度の向上
越境学習は従業員に成長の機会を与えます。そのため、自己実現欲求を満たすことができます。
また、新しい環境での学びや挑戦は、日々の業務に刺激を与え、仕事へのモチベーションを高めるでしょう。
越境学習の体験によりm従業員の満足度が向上するといったメリットがあり、より生産的で創造的な職場環境を整えられます。
次世代リーダーの育成
越境学習では、多様な環境での経験を通じ、将来のリーダー・幹部候補に必要な資質が培われます。具体的には、強靭な精神力、的確な意思決定能力、状況に応じた柔軟な対応力、革新的な発想力などです。
予測困難な現代社会において、企業の存続には将来のリーダー育成が欠かせません。
リーダーに必要な能力は、通常の業務だけでは得難いものです。越境学習による多様な経験が、次世代のリーダーを形成し、企業の持続的な成長を支える基盤となるのです。
越境学習を自社に取り入れる際の課題・注意点
多くのメリットがある越境学習であっても、自社に取り入れる際は課題があります。主な注意点を3つ取り上げて解説します。
- 導入目的を明確にして効果測定をする
- 自発的な参加を促す
- 企業と従業員の実務負担が増える
導入目的を明確にして効果測定をする
越境学習の導入には、明確な目的設定が必要です。目的が明確であれば、従業員の理解と動機づけが進み、適切なプログラム選択ができます。
しかし、効果測定には効果の長期性や定量化の難しさ、個人差、外部要因の影響といった課題があります。課題を認識しつつ、具体的で測定可能な目標を設定し、定期的に進捗を確認することが重要です。
効果検証の難しさはありますが、継続的な評価と改善プロセスの確立が、越境学習の価値を最大化させるポイントです。
自発的な参加を促す
越境学習の導入時は、強制参加を避けて、自発的な参加を促す必要があります。強制はストレスや業務負担増加の原因となり、個人の事情によっては、参加が困難なケースもあるためです。
ただし、人選が難しかったり、そもそも参加者が少なかったりすることもあるでしょう。そのときは、越境学習の意義やメリットを丁寧に説明し、参加の敷居を下げる工夫をします。参加者の経験を社内で共有する機会も設定しましょう。
個々の事情や意欲を考慮しつつ、組織全体の成長につながる仕組みづくりが求められます。
企業と従業員の実務負担が増える
越境学習の導入は、実務上の負担をもたらすことがあります。参加者の業務をほかの従業員が代替する必要があり、残された従業員の負担増加につながるためです。
特に専門性の高い業務では、適切な代替要員の確保が難しく、企業全体の一時的な生産性の低下や業務の遅延、質の低下を招くおそれがあります。対策として、業務の分散化や外部人材の活用、業務の優先順位づけなどが効果的と考えられています。
また、参加者不在時も業務を継続するため、事前の引き継ぎや業務マニュアルの整備も重要です。
越境学習の具体的なやり方・方法
越境学習は、さまざまな方法で実施できます。越境学習の具体的なやり方・方法を7つ取り上げて解説します。
- 自社内での部署移動・配置転換
- 他企業へのレンタル出向・移籍
- 副業・兼業
- 海外留学・駐在
- 社会人大学院・ビジネススクール
- ワーケーション
- プロボノ/ボランティア・NPO活動
自社内での部署移動・配置転換
社員が異なる部門や役割を経験することで、幅広いスキルと知識を獲得する越境学習の方法です。たとえば、営業部門から人事部門、製造部門からマーケティング部門といった異動・配置転換などが挙げられます。
自社内で完結するため、比較的容易に実施でき、経済的負担も少ない点がメリットです。同じ会社内でも、職務や環境の変化によって、新たな視点を獲得できる可能性が高いでしょう。
また、新たな人脈が形成できたり、適性を再発見できたりするため、キャリアの幅を広げられます。
他企業へのレンタル出向・移籍
一定期間他社で勤務することで、異なる企業文化や業務プロセスを学ぶ越境学習の方法です。たとえば、子会社への出向や大手企業からベンチャー企業への移籍などが挙げられます。
自社内だけでは得難い知識や技術を習得し、経験を持ち帰って、業務改善やアイデア創出などに活かせることが大きな利点です。また、ビジネスネットワークの拡大や、自身のマーケット価値の向上にもつながるでしょう。
副業・兼業
企業の通常業務を維持しながら越境学習を導入する方法として、副業・兼業の許可が挙げられます。たとえば、平日はIT企業に勤務しながら、週末にはフリーランスのデザイナーとして活動するなどです。
従業員が自主的に副業・兼業に取り組むことで、収益の仕組みや事業に対する新たな視点を獲得できるといったメリットがあります。さらに、副収入の増加は満足度向上につながり、結果として人材の定着率を高める効果も見込めます。
海外留学・駐在
国際展開を目指す企業やグローバルな志向をもつ従業員にとって、海外留学・駐在は貴重な機会といえます。経験を通じて、語学力の向上はもちろん、異文化コミュニケーション能力や国際的なビジネス感覚を養うことができます。
個人のスキル向上だけでなく、企業全体の国際競争力強化にもつながるのが大きなメリットです。
社会人大学院・ビジネススクール
社会人大学院・ビジネススクールへの通学は、仕事を続けながら高度な専門知識を学ぶ越境学習の方法です。たとえば、夜間や週末に通って学び、各資格やMBA、専門職学位を取得するやり方などが挙げられます。
最新の理論や実践的なスキルを習得し、キャリアアップに生かせるのがメリットです。また、多様なバックグラウンドをもつ学生との交流を通じて、新たな視点や人脈を得ることもできます。
ワーケーション
ワーケーションでは、心身のリフレッシュ効果はもちろん、環境の変化によって新たな発想を生み出せる効果も期待できるため、越境学習の一種です。
ワーケーションとは、仕事と休暇を組み合わせた新しい働き方です。職場を離れ、リゾート地やローカル地域に滞在しながらリモートワークをするのが基本で、国内だけでなく海外でも可能です。
地域との交流を通じて異なる価値観や生活様式に触れることで、視野を広げられるといったメリットもワーケーションにはあります。
プロボノ/ボランティア・NPO活動
プロボノ/ボランティア・NPO活動といった越境学習を通じて、社会課題への理解を深め、リーダーシップやコミュニケーション能力を養うことができます。
プロボノなどの社会貢献活動に参加する方法には、地域の環境保護活動への参加などが挙げられます。
異なるバックグラウンドをもつ人々との協働経験は、多様性への理解や柔軟な思考力の向上にもつながるでしょう。
越境学習の活動事例
越境学習の活動事例を2つ取り上げて解説します。
異業種研修
一般社団法人ALIVEが主催する「越境学習型」研修 「ALIVE」は、さまざまな業界から集まった約60人の経営幹部が、社会組織が直面する現実的な問題に取り組むプロジェクトです。
参加者は異なる背景をもつメンバーで構成された複数のグループに分かれ、3か月間にわたり4回のセッションを通じて解決策を模索します。多様な視点をもつチームでの経験を生かし、振り返りと意見交換をすることでリーダーシップ能力の向上をはかります。
参考:『日本最大規模“越境学習型 次世代リーダー育成プログラム』一般社団法人ALIVE
docomoからレンタル移籍
株式会社NTTドコモの社員が、音声ガイドアプリ開発企業である株式会社チカクへ1年間レンタル移籍した事例です。
移籍者はチカクが運営するデジタル近居サービス「ちかく」のサービスに関わり、帰任してからも中心的な役割を担っています。
移籍者個人のスキルアップと視野拡大につながるだけでなく、送り出し企業(NTTドコモ)と受け入れ企業(ちかく)の双方に新たな知見や視点をもたらしました。
参考:『ドコモとチカクが、レンタル移籍を契機にサービス開発・販売の協業を実現!オープンイノベーションの鍵は越境で育まれた“バイカルチャー人材”[ローンディール]』NIKKEI COMPASS
越境学習の効果を高めるポイント
最後にこれから越境学習を取り入れる企業に向けて、導入効果を高めるポイントを4つ紹介します。
- 内省(リフレクション)の機会を用意する
- 越境体験を社内で共有する
- 越境人材の受け入れも検討する
- 人材の選定前に従業員のスキルを可視化する
内省(リフレクション)の機会を用意する
越境学習によって得られた経験や知識を、言葉として明確に表現する機会を設けることが重要です。振り返りのプロセスを通じて、個人の学びをより深く理解し、実際の仕事の場面で効果的に活用できるようになります。内省(リフレクション)の時間を意識的につくることで、自身の成長を実感し、同時に組織全体の業務改善にも貢献できるでしょう。
越境体験を社内で共有する
越境学習により従業員が外部で得た新しい知見や経験は、社内で共有することが大切です。たとえば、研修や報告会を開いたり、報告書を提出してもらったりするとよいでしょう。
社外で学んだ革新的なアイデアや手法を自社の文脈に適応させることで、技術力向上や業務プロセスの改善につながる可能性があります。
また、共有プロセスを通じてコミュニケーションが活性化し、部門を超えた協力体制が構築されることも期待できます。
越境人材の受け入れも検討する
他社からの人材を受け入れることで、新たな知識と経験を組織に取り込めます。越境人材に自社との違いについて意見を求めたり、社内で知見を共有してもらったりすることで、新しい視点が得られるでしょう。自社から人材を送り出すのが難しい場合、越境人材の受け入れ、組織の創造性と競争力を高める機会となります。
人材の選定前に従業員のスキルを可視化する
越境学習のための適切な人材を選定する前に、各従業員のスキルと能力を明確に把握することが重要です。個々の強みや特徴を可視化することで、越境学習にもっとも適した人材を見つけられるでしょう。
従業員のスキルを可視化する際は、テクニカルな技術的スキルだけでなく、コミュニケーション能力や適応力なども考慮に入れます。ただし、人材選定は従業員の自発性を尊重しながら進めることが大切です。
まとめ
越境学習は、VUCA時代に適応する人材育成方法として注目されています。経済産業省も推奨しており、個人と組織の成長を促進し、企業の競争力向上に貢献する有効な学習プロセスといえます。
越境学習により、組織や専門分野の枠を超えて学ぶことで、自律型人材の育成やイノベーション創出が期待できます。部署移動、他企業への出向、副業、海外留学など多様な方法があり、従業員の定着率向上やリーダー育成などの効果が見込めます。
従業員のスキルを可視化|One人事[タレントマネジメント]
越境学習は、従業員のスキルアップにつながる学習プロセスです。企業は、自社の状況や課題に合った方法で、従業員の学びを支援し、実務に活かしてもらいましょう。
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