OKRと人事評価の関係|報酬との関連、理想的な運用パターンを紹介
多くの企業が注目する「OKR」ですが、導入にあたって人事評価制度との関係性に悩む声も少なくありません。
「OKRを人事評価に反映させていいのか」「報酬の決定に直結してもよいのか」など疑問を持つ人事担当者もいるようです。
本記事ではOKRの基礎をおさらいするとともに、人事評価制度との関連や理想的なOKRの運用パターンを解説します。実際にOKRを導入している企業の事例も紹介しますので、導入を検討する企業は、ぜひ参考にしてみてください。
OKRの基礎をおさらい
OKRとは、Objectives and Key Results(目標と主要な結果)の略称です。ここではOKRの基礎知識を簡単に振り返ってみましょう。
OKRは目標管理手法の一種
OKRは「達成目標(Objectives)」と複数の「主要な成果(Key Results)」を設定する目標管理方法のひとつです。
OKRではまず、O(目標)と目標の達成度を測るKR(主要な成果)を取り決めます。その際、O(目標)は定性的なもの、KR(主要な成果)は定量的なものでなければいけません。KR(主要な結果)は、O(目標)の進捗を測る指標でもあるからです。
そしてOKRの運用開始後は、高い頻度で進捗を確認し、評価を行い、最終的に60〜70%の達成率を目指します。
OKRの目的
OKRは優先順位を明確にしたうえで、企業と従業員が同じ方向に向かって計画的に業務を進め、従業員の成長を促進させることを目的としています。KR(主要な結果)は、チャレンジングな目標であることが望ましいとされているため、従業員のパフォーマンスを高める効果も期待できます。
OKRは、短い期間・高い頻度で目標を振り返り、進捗を社内全体で共有し合うため、社内コミュニケーションの活性化も目的の一つといえるでしょう。
OKRのメリット
OKRのメリットには主に次のようなものが挙げられます。
・従業員同士のコミュニケーション活性化によるエンゲージメントの向上
・企業全体の目標が浸透することによる優先順位の明確化
・大胆な目標を掲げられることによるイノベーションの創出
・短期間の目標サイクルによるリスクとムダの削減
OKRとKPI・MBOの違い
OKRと混同されがちなものにKPI・MBOがあります。
KPI(Key Performance Indicator)は「重要業績評価指標」と訳します。最終目標を達成するために必要なプロセスが、適切に実行できているかを確認するための中間指標を意味します。
KPIもOKRと同様に、定量的な目標を定めます。しかし60%〜70%の達成率を目指すOKRと違い、KPIは部署やプロジェクト単位で100%の達成率を目指す点が異なります。
MBO(Management by Objectives)は「目標による管理」と訳し、ピーター・ドラッガーが提唱した目標管理制度です。従業員一人ひとりが自ら目標設定を行い、上司と進捗を確認しながら達成を目指します。
MBOは、人事評価の指標になること、100%の達成率を目指すことなどがOKRとの違いとして挙げられます。
OKRと人事評価は切り離すべき?
日本の企業の多くが、MBO(目標管理制度)を導入しているといわれています。それはMBOが、目標の達成度合いを人事評価に結びつけやすいからといえるでしょう。
一方OKRは、目標の達成度合いと人事評価を結びつけるべきではないという考えが一般的です。
OKRの大きな特徴は、達成率60〜70%を目指す点です。これにより、野心的で大きな目標(チャレンジ目標)を設定できるというメリットがあります。
もし、OKRを人事評価と結びつけてしまうと、従業員の多くは保守的な考えになり、達成しやすい目標しか立てなくなってしまうでしょう。OKRの目的のひとつである「従業員の成長」の実現が遠のいてしまう恐れもあります。
ただし、OKRを人事評価に関連させてはいけないというわけではありません。企業によってはOKRとMBOの両方を人事評価制度に活かし、成功しているケースもあります。
つまり、運用次第では人事評価とOKRを関連づけ、企業や個人の成長を実現することもできるといえます。
OKRは報酬とも切り離すべき?
一般的に、OKRは報酬制度とも直結すべきでないと考えられています。
OKRと人事評価を直結すべきではないとする理由と同様に、従業員が保守的な目標しか立てなくなってしまい、OKRの目的である「従業員の成長促進」が実現しにくくなるためです。
ただし、MBOなど別の指標と併用すると、OKRを報酬制度に紐づけることもできるでしょう。
OKRと人事評価の理想的な関係
ここまで述べてきたように、OKRは人事評価や報酬に直結すべきではないという考えが主流といえます。しかし、ほかの指標と併用して評価に活かしたり、参考値として評価に反映させたりするケースもあります。
OKRと人事評価の関係には、主に3つのパターンがあります。これらをもとに、自社にとって理想的な関係を見つけてみてください。
OKRと人事評価を完全に切り離す
1つめは、OKRと人事評価や報酬と完全に切り離すパターンです。OKRは、企業目標に沿った業務遂行の動機づけのみに活用されます。
人事評価に直結しないので、従業員はチャレンジ目標を掲げやすくなるでしょう。それにより、社内で斬新なアイデアや企画が生まれる可能性が高まります。
一方で、OKRと人事評価を別々で運用する必要があるため、運用コストが高くなる傾向にあります。
OKRの達成度で評価を自動算出する
2つめは、OKRの達成度を人事評価に反映させるパターンです。
具体的には、達成度に応じた評価ランクをあらかじめ設定し、達成度合いによって自動的にレイティングする方法です。
ここで注意するべきなのは、評価ランクの設定基準です。本来目指すべき60〜70%の達成度をどのようなランクと判断するのか、精査する必要があるでしょう。
OKRを評価に反映させるため、従業員が保守的な目標ばかり設定しないように工夫が必要といえるでしょう。従業員ごとに目標の難易度にばらつきがあると、評価の不公平性が高まる恐れもあります。
OKRの達成度は参考に、ほかの評価指標と併用する
3つめは、OKRとほかの評価指標を併用するパターンです。OKRの達成度は参考値として、別指標と合わせて総合的に評価・報酬を決定します。
OKRのメリットもありつつ、評価全体の公平性も担保しやすい方法といえます。ただし、複数軸で判断しなければならないため、評価者の評価スキルが問われるかもしれません。
OKRを人事評価に取り入れている企業事例
ここまで、OKRは評価や報酬を決定する指標には向いていないため、人事評価とは切り離される場合が多い点をお伝えしてきました。しかし近年では、OKRの達成度も参考にしつつ、別指標である人事評価制度と組み合わせている企業も増えています。
OKRを人事評価に取り入れている企業4社の事例をご紹介します。
A社:OKRとバリュー評価と併用
フリマアプリを運営するA社は、自社の行動指針「バリュー」とOKRを併用した人事評価を実施しています。
具体的には、OKRで定量的な評価を行い、バリューの実践度合いで定性的な評価を行っています。この手法により同社では、自社のミッション実現と従業員の成長促進を実現できているそうです。
B社:OKRの達成率を参考に評価へ反映
クラウド型ビジネスチャットツールを提供するB社では、OKRの達成率は評価に連動させていませんが、参考値として評価制度に関連づけています。
具体的には「業績評価」「行動評価」「全社業績」のうち、業績評価に対してOKRを参考にした数値を反映させています。OKRを通してどれだけチャレンジしたかをはかっているようです。
C社:OKRツールを使って運用
ゲーム攻略情報サイトを運営するC社では、OKRの達成率とバリューによる総合評価を行っています。以前は属人的な評価しか行われていなかった同社では目標管理ツールを導入し、目標の可視化や優先順位の明確化を行いながら、スムーズなOKRの運用を実現しているそうです。
D社:OKRを成果評価に反映
スキルマーケットサービスの開発・運営を行うD社は、評価に「役割評価」「成果評価」を併用しており、成果評価にOKRを活用しています。
具体的には、裁量や業務レベルなどの要素別に役割の評価を行い、あわせてOKRで設定した目標の達成度合いにより点数を決めているそうです。
OKRの運用ポイント
先述した4社のように、OKRを上手に導入するには、どのような点に気をつければいいでしょうか。4つのポイントをご紹介します。
OKRの実施を社内全体に共有する
OKRでは目標設定やフィードバックなどを行うため、運用開始時は従業員に周知する必要があります。目的や期待できる効果について丁寧に説明を行いましょう。
特にMBOを実施している企業では、双方の違いについて理解を得なければいけません。
企業全体の目標から個人目標へ落とし込む
OKRを実施する際は、企業全体の目標からチームや従業員一人ひとりの目標へと細分化する作業が発生します。これを省略してしまうと、個人目標が企業目標とリンクせず、業務の優先順位があいまいになり、モチベーションも上がりにくくなってしまいます。
目標設定は企業、部門、チーム、個人の順に細分化させていくようにしましょう。
進捗の共有や振り返りを習慣化する
OKRは、チーム一丸となって企業目標の達成を目指すため、全体で進捗状況を共有する必要があります。そのため、お互いの現状把握や協力体制が求められます。
従業員同士がお互いに協力し合えれば、社内コミュニケーションが活性化し、モチベーションを上げながら業務を進められるでしょう。
特に従業員数が多い企業や組織体系が細かい企業の場合は、共有や振り返りの効率化を助けるOKR専用の運用ツールを検討してみてもいいでしょう。
迅速なフィードバックや見直しを行う
OKRでは、高い頻度で目標の振り返りを行い、達成に向けて再調整していきます。そのため、フィードバックや見直しを迅速に行わなければなりません。
フィードバックや見直しを行う際も、OKR専用の運用ツールが役立つでしょう。
OKR以外の評価手法
続いて「OKRと別の評価手法を併用する」または「OKRと人事評価を完全に切り離す」場合の参考として、OKR以外の評価手法をご紹介します。
MBO(目標管理制度)
MBO(目標管理制度)は、従業員一人ひとりが自ら目標を設定し、その達成度によって評価する手法です。
目標を自ら立てるので、自主性や問題解決能力の向上が期待できます。また、組織の目標と連動した個人目標を設定するため、将来的に業績向上にもつなげられるでしょう。
MBOで設定する目標は、具体的でわかりやすく、期限を設定するので、人事評価に反映しやすい制度といえます。
コンピテンシー評価
コンピテンシー評価は、ハイパフォーマンスを発揮し、結果を出している従業員をモデルとした行動特性を評価する手法です。
一定の期間で、結果につながった個々の行動や能力を判断できるとされています。
360度評価(多面評価)
360度評価(多面評価)は、1人の被評価者(従業員)に対し、上司部下同僚にかかわらず、複数の人が評価を行う方法です。
評価者だけでは判断しきれない側面を見極められるほか、評価の公平性、妥当性、納得性などを高められるとされています。
ただし、評価の過度なばらつきなどに注意する必要があるでしょう。
OKRと人事評価の理想的な関係を実現|One人事[タレントマネジメント]
OKRと人事評価をバランスよく運用するには、システムを導入するのも一案です。
One人事[タレントマネジメント]は、目標管理や人事評価の効率化を支援するタレントマネジメントシステムです。
OKRやMBOなど多様なテンプレートから簡単にカスタマイズができ、目標の進捗確認もスムーズに運用できます。目的に応じて欲しい機能だけを選べる、柔軟な料金プランでご利用いただけますので、多機能過ぎて使いこなせないという無駄はありません。
「OKRの導入を考えている」「OKRを取り入れているがうまくいっていない」という企業では、タレントマネジメントシステムの導入も検討してみてはいかがでしょうか。
「One人事」ではサービス紹介資料はもちろん、人事労務のノウハウに関する資料を無料でダウンロードいただけます。また、無料トライアルも提供していますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
まとめ
本記事ではOKRと人事評価の関係について、さまざまな角度から解説しました。OKRは適切に運用することで、得られるメリットも多く、導入を検討している企業も増えています。
基本的にOKRは人事評価と切り離すべきだといわれているものの、ご紹介した企業事例のように、運用次第で2つを連動させることもできるでしょう。まずはOKRの基礎を理解し、成功事例なども参考にしながら、自社に合ったOKRや人事評価制度の構築を目指すといいでしょう。
OKRは短い期間で振り返りを行うため、その分労力がかかることがあります。効率的な運用や既存の人事評価制度と併用を目指すなら、専用システムを活用してみてはいかがでしょうか。