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インセンティブとは【金銭だけではない】意味や歩合制・報奨金との違い、導入ポイントを紹介

インセンティブとは【金銭だけではない】意味や歩合制・報奨金との違い、導入ポイントを紹介

インセンティブという言葉を聞くと、多くの人が金銭的な報酬を思い浮かべるかもしれません。

しかし、インセンティブは目に見えるお金に限らず、従業員に特定の行動を促すために提供される刺激を意味します。個人のモチベーションと全体の生産性の向上を目指す目的であれば、表彰や人事異動もインセンティブに含まれます。

本記事では、単に金銭だけではない広い意味でのインセンティブを、ほかの制度との違いを踏まえて解説します。従業員の動機づけを促し、組織全体の目標達成に向けて、制度を導入する際の参考にしてください。

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    インセンティブの意味とは?

    インセンティブとは、英語で「incentive」と表記し、行動を促進するための報酬や刺激を指します。モチベーションと同義に思われることがあるものの、モチベーションは、内からわき出る動機づけや意欲をあらわす言葉です。

    どちらも個人や組織の意欲を高める文脈で用いられることが多いですが、以下のような違いがあります。

    インセンティブ(内発的)モチベーション
    ・外部からもたらされる報酬や刺激
    ・行動を促進するもの
    ・内在的な動機や意欲
    ・自発的に行動する原動力となるもの

    ビジネスでのインセンティブの意味

    ビジネスシーンにおいてインセンティブは、従業員に対して特定の行動を促進し、目標を達成させるための報酬・刺激です。ボーナスや報奨金など現金が直接支給される場合もあれば、昇格や異動など現金以外の報酬が付与される場合もあります。

    インセンティブは、会社全体の目標達成や個々のパフォーマンス向上を促進する役割を果たす手法として広く利用されています。

    インセンティブと類似用語との違い

    インセンティブには、混合しやすい言葉がいくつかあります。それぞれの意味や違いを理解し、誤った使い方をしないように注意しましょう。

    • モチベーション
    • 歩合制
    • 報奨金
    • ボーナス(賞与)
    • 手当

    モチベーションとの違い

    インセンティブとモチベーションは、どちらもやる気や意欲を促進するものです。しかし、モチベーションは目標達成に対する自発的な動機や刺激、インセンティブは外部から与えられる刺激や報酬と区別されています。

    歩合制との違い

    インセンティブ制度は、一定の目標を達成することで初めて報酬が発生する制度です。

    対して歩合制は、特定の業績や売り上げに応じて報酬が変動する給与形態です。一般的に個人のパフォーマンスにより、一定の割合で報酬が発生します。

    インセンティブと歩合制は似ていますが、報酬が発生する条件が異なります。

    報奨金との違い

    報奨金は特定の成果や行動に対して支給される追加の報酬です。優れた業績や目標の達成に対して支給され、功績や成果に応じて従業員を奨励するのが目的です。

    ボーナス(賞与)との違い

    ボーナスや賞与は、特定の期間や業績評価に基づいて、従業員に給与とは別に支給される追加の報酬です。

    インセンティブは金銭以外の報酬も含まれるのに対し、ボーナス(賞与)は、給与とは別に支給される金銭的な報酬を指す点が異なります。

    手当との違い

    手当は、従業員の生活や勤務条件を補助する目的で、特定の条件に基づいて追加で支給されます。たとえば、住宅手当や通勤手当、家族手当などです。

    一方インセンティブは、業績向上や目標達成を奨励するための報酬であり、目的が異なります。

    インセンティブ制度のメリット

    インセンティブ制度の導入には、多くのメリットがあります。代表的なメリットを3つ紹介します。

    • 従業員のモチベーションが向上する
    • 個人の目標達成を促進する
    • 優秀な人材を確保できる

    従業員のモチベーションが向上する

    インセンティブ制度は、従業員やチームの目標達成や優れた業績に対して報酬を提供するため、個人のモチベーションを高める効果があります。「報酬を獲得したい」という期待が、個人やチームのパフォーマンス向上につながり、結果として労働生産性の向上につながるでしょう。

    個人の目標達成を促進する

    インセンティブ制度は、業績の達成基準を明確にし、従業員に明確な目標を示します。目標が明確であると、従業員は自身の役割や責務を理解しやすくなり、達成に向けて努力しやすくなるでしょう。

    優秀な人材を確保できる

    インセンティブは、優秀な人材を確保するための有効な手段の一つです。明確な条件のもとで優れた報酬を提供できる組織は、優秀な人材にとって魅力的な環境に映るでしょう。

    獲得競争が激しい人材市場においても、人材の確保と定着に成功しやすくなる点はメリットといえます。

    インセンティブ制度のデメリット

    インセンティブ制度は組織全体の目標達成の促進や、優秀な人材を確保できる点でメリットがあるものの、運用次第でデメリットも生じます。

    • 協力的な姿勢が欠如する
    • 不正行為を助長する
    • 短期的な利益しか見なくなる

    協力的な姿勢が欠如する

    インセンティブ制度が導入されると、従業員間での競争が激化し、メンバー同士の協力姿勢が損なわれる可能性があります。個々の報酬ばかりに目が向けられるために、チーム間での協力や情報共有が減少し、全体の効率が悪化してしまうためです。

    このデメリットを防止するには、チームの目標達成に対してもインセンティブを設定するなどの工夫が必要です。

    不正行為を助長する

    目標達成と高額の報酬が結びついていると、従業員は目標に達するために手段を選ばなくなる恐れがあります。利益操作などの不正行為を助長してしまい、結果的に企業全体の信頼性を低下させてしまうかもしれません。

    不正に対する処罰をあらかじめ決めておき、業績だけでなく過程も評価する制度設計にするなど、従業員に過度にプレッシャーがかからないようにしましょう。

    短期的な利益しか見なくなる

    インセンティブ制度が、短期的な目標や業績に焦点を当てている場合、従業員は短期的な利益ばかりを求めてしまいがちです。これにより企業の長期的な成長に目を向けられなくなり、結果として将来的な利益やチャンスを見逃す可能性があります。

    長期的な業績への貢献に対してインセンティブを設けるなどの工夫が必要です。

    インセンティブは5種類に分けられる

    インセンティブは、金銭に限らない行動を促進する刺激・報酬を指し、大きく分けると5種類に分けられます。これから制度を導入する企業は、企業文化や業種に適したインセンティブを設計し、個々のモチベーションの向上につなげましょう。

    • 物質的インセンティブ
    • 評価的インセンティブ
    • 人的インセンティブ
    • 理念的インセンティブ
    • 自己実現的インセンティブ

    物質的インセンティブ/金銭的インセンティブ

    物質的インセンティブは、金銭やその代替品となる報酬のことです。

    一般的に「インセンティブ」といえば、物質的インセンティブをイメージされる人は多いでしょう。お金以外にも、商品やサービスと交換できるポイントやギフトカードが挙げられます。

    評価的インセンティブ

    評価的インセンティブは、表彰や昇進・昇格などです。従業員の「周囲から賞賛されたい」という欲望を満たし、目標達成への意欲を刺激します。

    人的インセンティブ

    人的インセンティブは、尊敬する上司や同僚を動機とするものです。特に仲間意識が強い人は、誰と一緒にどのような部署で働くかが、モチベーションを維持するうえで重要です。

    「先輩と一緒に働きたい」「同期の役に立ちたい」という想いが行動を刺激しているなら、それは人的インセンティブといえます。

    理念的インセンティブ

    理念的インセンティブとは、企業が掲げる理念への共感によって得られる報酬です。自身がかかわるビジネスが社会に与える好影響を理解し、社会的意義や企業の存在価値を実感することで、やりがいにつながります。

    自己実現的インセンティブ

    自己実現的インセンティブとは、「この業務に携わりたい」という欲求や将来へのビジョンを動機づけとします。「目標を達成すれば、やりたい業務に携わる機会を与えてもらえる」という報酬は、自己実現につながるため、若手社員を中心に受け入れられやすい制度です。

    インセンティブ制度の設計ポイント【職種別】

    インセンティブ制度は、導入しやすい職種とそうでない職種があります。職種別に適した報酬体系を紹介します。

    営業職

    成果が直接的に数値で測定できる営業職は、成約数や売り上げ目標に基づいたインセンティブ制度が有効です。

    製造業

    生産性や品質向上に貢献する製造業の職員には、生産量や品質基準の達成に対する報酬が適しています。目標達成によるボーナスや生産効率向上にともなう昇給が考えられます。

    サービス業

    サービス業では、顧客満足度やクオリティの向上が重要です。従業員のサービス向上に応じた報酬や顧客フィードバックに基づくボーナスが導入されることがあります。

    IT/テクノロジー関連職

    IT/テクノロジー関連職は、プロジェクトの達成や技術的な成果に応じてインセンティブを与えることで、モチベーション向上が期待できます。プロジェクト完了ボーナスや特許取得に対する報酬などが考えられます。

    販売職

    小売業や販売業界では、個々の売り上げ成績に基づくインセンティブが一般的です。目標達成や新規顧客の獲得による報酬が導入されることがあります。

    インセンティブ制度の企業事例

    インセンティブ制度の導入に成功した企業の事例を紹介します。導入を検討している担当者はお役立てください。

    Salesforce(セールスフォース)

    Salesforceは、クラウドのCRM(顧客関係管理)サービスを提供している企業で、営業職に対するインセンティブ制度を導入しています。

    同社は「Ohana(家族)」と呼ばれる独自の文化を大切にし、従業員同士の結束によって成功を収めるという理念に基づいて制度を設計しています。

    営業担当者には、目標達成に応じてボーナスが支給されるなど、成果に見合ったインセンティブが用意され、個人の意欲を刺激しているといえるでしょう。

    Google

    Googleは創業以来、独自のインセンティブ制度『20%ルール』を採用しています。具体的には、勤務時間の20%を個人の興味ある分野に割り当てさせ、新しいアイデアやイノベーションを生み出せるように支援しています。

    自分の好きなことに没頭できる時間は、従業員にとって報酬といっても過言ではありません。そのため、『20%ルール』を適用して取り組んだ結果、個人が何か大きな業績を上げたとしても金銭的な報酬は出ません。

    しかし、従業員は制度を利用して自分の強みを活かして成長するとともに、会社やチーム全体の成果に貢献している実感も得られます。

    インセンティブ制度の導入手順

    インセンティブ制度を検討している企業は、いくつかのポイントを押さえて導入を進めましょう。特に金銭的インセンティブは、ルールを決めておかないと、のちのトラブルに発展する可能性もあります。導入手順に沿ってポイントを確認しましょう。

    1. インセンティブの目的を明確にする
    2. インセンティブの対象者を設定する
    3. インセンティブの種類を設定する
    4. インセンティブを付与する条件を明確にする
    5. その他インセンティブの支給にかかわるルールを定める

    1.インセンティブの目的を明確にする

    インセンティブ制度を導入するにあたり、最初に目的を明確に定義することが重要です。なぜこの制度を導入するのか、具体的な目標や期待する成果を明確にしましょう。たとえば、営業成績の向上やチームワークの促進、イノベーションの奨励などが考えられます。

    2.インセンティブの対象者を設定する

    次に、インセンティブの対象者を設定します。制度が適用される従業員の範囲や職種、役職を具体的に定めます。従業員の納得度を高めるには、インセンティブ支給の機会をできるだけ公平に与えましょう。

    業績目標が可視化しやすい営業職や販売職などの職種はインセンティブ制度を導入しやすいかもしれません。一方、業績が見えづらく成果を出すのに時間がかかる研究職などの職種も対象になるように工夫が求められます。

    3.インセンティブの種類を設定する

    インセンティブの種類は主に5つあります。金銭的インセンティブと非金銭的インセンティブ(評価/人的/理念的/自己実現的)のうち、どれを取り入れて誰を対象とするのか、目的に合わせて種類を選定することが重要です。

    4.インセンティブを付与する条件を明確にする

    インセンティブを受けるための条件を具体的に設定します。目標達成や業績向上などの条件を従業員が理解しやすい内容で提示し、透明性を確保しましょう。

    インセンティブの支給条件と評価基準を明確にすると、無意味な競争や不正を防止でき、従業員は業務に集中できます。

    5.その他インセンティブの支給にかかわるルールを定める

    最後に、インセンティブの支給にかかわるルールや仕組みを定めます。支給の頻度や手続き、制度の変更に関する取り決めなどを整備し、誰にでもわかりやすく公正なルールを取り決めましょう。

    また、運用開始後もフィードバックをもとに改善をはかり、柔軟に対応できるような仕組みを構築し続けることがポイントです。

    まとめ

    インセンティブは、特定の行動を促進して個々のモチベーションを上げ、目標達成に向けた動機づけを提供する役割があります。歩合制や報奨金とは異なり、インセンティブ制度は、あらかじめ決められたルールに基づいて、特定の目標達成を遂げて初めて報酬が支給される仕組みです。

    インセンティブ制度を導入する際は、目的を定め、対象者やインセンティブの種類などの適用範囲を明確に定義して透明性を確保しましょう。一部の職種に偏らず、多くの従業員が公平にモチベーションを感じられるような設計にすることが重要です。