当事者意識を部下に持たせるには? 必要性や低くなる原因、兆候も解説
当事者意識とは、さまざまな問題を自分ごととして考え、責任感を持つことです。従業員に当事者意識を持たせたいと考える企業もいるのではないでしょうか。しかし、具体的な取り組み方がわからず悩んでいる人もいるでしょう。
本記事は、従業員へ当事者意識を持たせるために、どのような方法を取り入ればよいか解説します。当事者意識の必要性や低下する原因も紹介するので、経営者や教育研修の担当者はお役立てください。
当事者意識とは
当事者意識とは、問題や状況を自分自身の課題として捉え、主体的に責任を持って取り組む心理状態のことです。当事者意識の高い人は、みずからの職務に対して強い責任感を持ち、組織全体の目標達成に向けて自分がどのように貢献できるかを考えて行動します。
一方、当事者意識が低いと、責任を他者に転嫁したり、自分の仕事を他人に押しつけたりする傾向があります。仕事の目的や目標が明確に設定されていれば、当事者意識を持って業務に臨めるでしょう。
当事者意識は言い換えられる?
当事者意識は以下の2つの言葉に言い換えられます。
主体性 | 自分の意思に基づいて行動して、自己決定力や自律性がある状態 |
責任感 | 自分の選択や行動に責任を持つこと |
責任感は自分の担当業務に対してだけでなく、チームの一員として周囲の仕事にも及ぶべきものです。上司は部下一人ひとりの業務が円滑に進むよう、適切な指導やサポートを行う責務があります。 同様に、同僚同士も互いの業務状況に気を配り、助け合う姿勢が求められます。
部下への当事者意識の持たせ方・高め方
当事者意識をチームのメンバーに持たせたいと考える企業のマネジメント層・管理職もいるでしょう。部下に当事者意識を持ってもらう方法として、主なものに以下の5つの取り組みがあります。
- 適切な目標設定
- コミュニケーションの促進
- 明確な仕事内容の提示
- 失敗を許容する環境の設定
- 期待や感謝の言葉の伝達
適切な目標設定
適切な目標設定は、当事者意識を高めるために欠かせません。管理職が従業員のスキルレベルや過去の経験値を踏まえて、適切な目標を設定することは、目標達成の原動力となり、行動意欲を高めることにつながります。
同じような業務でも、管理職が従業員のスキルや経験値に合わせて、達成期間を調整したりサポートに入る回数を増やしたりするとよいでしょう。
コミュニケーションの促進
当事者意識を高めるためには、組織内のコミュニケーションを活性化させることが重要です。上司と部下、従業員同士の信頼関係を深めるためには、定期的なミーティングの開催や、経営陣から全従業員に向けて企業の理念を発信するなどの取り組みが有効でしょう。
部署や職種の垣根を越えた、従業員同士の意見交換の場を設けることも効果的です。異なる立場の者同士が協力し合えば、お互いに理解を深め、当事者意識が高まります。
明確な仕事内容の提示
当事者意識を持たせるには、仕事内容を明確に示すことも大切です。従業員がどのような役割なのか具体的に示すことで、本人が責任感を持って取り組めるようになります。
具体的な伝え方は、なぜこの業務をお願いするのかを明確に説明するとよいでしょう。指示するときは、仕事内容のほかに求める役割や達成度も伝えます。
不明瞭な指示では、何をすればよいかわからなくなるため、モチベーションや意欲が低下しやすくなります。自分の業務にどのような影響をおよぼすのかも伝えられると、当事者意識が高まるでしょう。
失敗を許容する環境の設定
失敗に怯える環境では、当事者意識を育むことが困難です。むしろ失敗しないための行動を繰り返すため、本人の新たな学びや成長の機会が失われてしまいます。失敗したら怒られる環境ではなく、許容できるように努めましょう。。
失敗は学びの機会と捉えて、経験から得た教訓を活かせると、個人や組織の成長を促進することが可能です。そして失敗と成長を繰り返すことで、組織全体の耐久力が向上します。
期待や感謝の言葉を伝える
当事者意識を高めるには、部下の仕事や成果に対して期待を示すとともに、感謝の言葉を伝えることも重要です。感謝の言葉により、部下は自分の仕事が評価されていると感じて、モチベーションの向上につながります。
定期的に前向きなフィードバックを提供することで、部下のさらなる努力と責任感を引き出せるでしょう。
仕事における当事者意識の必要性・メリット
業務において個人が当事者意識を持つことの必要性やメリットは以下の通りです。
- 主体性を持った行動ができる
- 素早い意思決定ができる
- モチベーションを高く保てる
- 社員の競争意識が生まれる
主体性を持った行動ができる
当事者意識を持つと主体的な行動ができるようになるでしょう。主体性を持つことでみずからの仕事に責任を持ち、問題を解決しようとする姿勢が生まれます。業務内容の理解や達成する目標も把握しているため、会社に貢献したい気持ちで仕事に取り組めるでしょう。
素早い意思決定ができる
当事者意識を持ち、仕事の役割や目的をしっかり理解していると、状況を迅速に判断し、意思決定も速くなります。これにより業務がスムーズに進み、市場の変化にも敏感に対応できるようになるでしょう。
モチベーションを高く保てる
当事者意識が高い従業員は、仕事の意義と価値を強く感じるため、高いモチベーションを維持できます。仕事の目的や役割だけでなく、評価基準が明確であればあるほど、日々の業務に対する熱意が高まり、職場全体の士気も向上するでしょう。
社員の競争意識が生まれる
会社全体で当事者意識が高まると、従業員同士で競争意識が芽生えます。従業員は自分の仕事に誇りを持ち、同僚と比較して自己の成果を向上させようとするでしょう。その結果、組織全体のパフォーマンスが向上し、革新的なアイデアや効率的な業務方法の共有が促進されます。
当事者意識が低くなるのはなぜ? 考えられる原因
当事者意識が高い従業員がいる一方で、低い人もいる原因はなぜなのでしょうか。当事者意識が低くなってしまう原因は以下の通りです。
- 目標がわかりにくい
- 評価基準が不明瞭
- 仕事量が多すぎる
- 変化を嫌う
- 諦めが早い
- 役割や責任の所在が曖昧
- 余裕を持てない
目標がわかりにくい
従業員が仕事の目標が何であるかを理解していない場合、業務への関与やモチベーションが低下します。目標があいまいであると、努力がどのような成果につながるのか、組織全体のゴールにどのように貢献するのかを見つけにくいでしょう。結果的に職務への情熱や責任感が薄れて、仕事の質や効率も低下する可能性があります。
当事者意識が欠けていると、従業員は仕事の目標が何であるかを理解できず、業務への関与やモチベーションが低下します。目標があいまいだと、努力がどのような成果につながるのか、組織全体のゴールにどのように貢献するのかが見えにくいでしょう。その結果、職務への情熱や責任感が薄れ、仕事の質や効率も低下する可能性があります。
評価基準が不明瞭
評価基準が明確ではないと、従業員は自分がどのように評価されているか、またどう改善すればいいかを理解できず、当事者意識が低くなってしまいます。このような不確実な状況は従業員の不安を増やし、仕事へのモチベーションや主体性を低下させる原因です。
また、評価が公平ではないと感じた場合、従業員の士気はさらに下がり、組織への忠誠心も損なわれる可能性があります。
仕事量が多すぎる
過重な仕事量は従業員に強いストレスを与え、仕事に対する姿勢が低下する原因となり、当事者意識も低下します。あまりに多くの仕事に追われると、各タスクに必要な時間や注意を割り当てることが難しくなり、業務の質が落ちてしまいます。このような状況では、自己の成果に自信を持てず、さらに当事者意識が薄れてしまうでしょう。
変化を嫌う
変化を嫌う姿勢も当事者意識が低くなる原因の一つです。個人が新しいことやアイデアを試す機会を避けると、組織の成長も停滞してしまいます。従業員が変化を避けることで、既存の方法に固執して、組織や個人の潜在能力を十分に発揮できなくなる可能性があります。
諦めが早い
多くの人は、失敗しながらさまざまなことを学んで成長します。しかし、諦めが早いと失敗から学ぶチャンスが失われます。仕事でも職務への積極的な取り組みが減少して、当事者意識の喪失につながるでしょう。結果的に、業務に対する意欲が低下してパフォーマンスにも大きな影響を及ぼします。
役割や責任の所在が曖昧(あいまい)
従業員が自分の役割や責任を理解していないと、当事者意識が低下します。業務範囲が明確でないほど自分の役割が不明瞭なため、行動するモチベーションが損なわれます。
企業内で互いの役割と責任がはっきりしないと、コミュニケーションの行き違いが生じ、プロジェクト全体の生産性が落ちてしまうこともあります。そうならないためには、従業員一人ひとりの担当業務と責任範囲を明確に定めておくことが大切です。自分の立場と求められる役割を理解することで、仕事に対する主体性や当事者意識が高まります。
余裕を持てない
業務や時間に追われていると余裕が持てず、当事者意識が低下する原因となります。長時間労働や過度なプレッシャーなど、さまざまな要因から余裕が持てなくなるでしょう。従業員が高い当事者意識を持つためには、適度なストレスと業務負荷を与えることも重要であると考えられています。
当事者意識が低い人に共通する特徴・兆候
当事者意識が低い人に共通する特徴や兆候は以下の通りです。
- 問題に対して興味関心がない
- ものごとを人任せにする
- あきらめが早い
- 自分を優先する
- 言い訳や責任逃れをする
- 自己評価が低い
問題に対して興味関心がない
当事者意識が低い人は、問題に対して興味を持ちません。自分の責任ではないと感じると、かかわりを避ける傾向があります。このような従業員は、問題解決に積極的ではなく、改善する方法を提供したり、助言をしたりすることも少ないでしょう。結果的に、周囲の負担が増え、組織全体の成果や成長が損なわれる恐れがあります。
ものごとを人任せにする
当事者意識が低いと、自分に求められる行動や決定から逃れようとする傾向があります。当事者意識が低い人はチーム内での責任を他人に押しつけることが多く、みずから問題の解決を避けます。プロジェクトの責任感やチームワークの欠如を引き起こし、最終的に品質が低下するなど悪影響を及ぼす可能性があるでしょう。
あきらめが早い
当事者意識が低い人は、困難に直面するとすぐに挫折感を感じ、あきらめてしまう傾向があります。うまくできないという感情が強く、責任感が不足していることが原因です。あきらめが早いと、成長機会を逃すだけでなく、組織の目標達成にも悪影響を与えるでしょう。
自分を優先する
自分の利益や欲求を常に最優先に考えている人は、当事者意識が低い傾向があります。傷つくことを恐れて避ける傾向が強かったり、自分がやりたいことを優先したりしています。自分を優先すると周囲との関係悪化を引き起こして、組織内の協調姿勢に悪影響を与えることがあります。
言い訳や責任逃れをする
当事者意識が低い人は、周囲の状況や他人の行動を責める傾向があります。仕事でミスをすると「業務が忙しかったから」「同僚に言われた通りにやった」などと責任転換をします。反省する様子はないため、同じミスを繰り返して社内評価は下がってしまうでしょう。
自己評価が低い
当事者意識が低い人は、自己評価が低く、自分に対する信頼や自己効力感が不足しています。今まで責任転換したり他人任せにしたりした経験が多く、成功体験が極端に少ない人に見られる傾向です。さらに自分の能力を過小評価するため、成長の機会をみずから放棄しやすくなります。
まとめ
当事者意識とは、自分がかかわる業務や組織の問題を「自分の問題」と捉え、自主的に取り組む意識です。当事者意識が高い従業員は、自分の役割と責任を理解し、積極的に業務に取り組めます。
一方で、当事者意識が低い従業員は、最小限の業務しか行わず、自発的な行動は期待しにくくなります。組織の生産性や成果に悪影響を与える可能性があるため、従業員の当事者意識を向上させる取り組みが重要です。具体的な対策としては、明確な目標設定、定期的なフィードバック、適切な評価制度、インセンティブの提供、キャリアアップの機会の提供などが有効です。
会社と従業員の双方が、当事者意識の重要性を認識し、当事者意識を高めるための具体的な施策に取り組むことが求められます。当事者意識の高い従業員が増えれば、組織の生産性向上や業績拡大に結びつくでしょう。