配置転換とは? 人事異動との違いは? 法的な注意点と手順も解説
人事異動の一環として行われる配置転換は、従業員を異なる職務や部署に変更することです。
定期的に実施することで、従業員のスキルアップや、組織の生産性向上などが期待できます。一方で、不当な配置転換は法的リスクをともなうこともあり、実行するには慎重な判断が必要です。
そこで本記事では、配置転換の基礎知識とともに、実施の注意点や法的リスクなどを解説します。配置転換に関するよくある疑問と回答もご紹介しますので、お役立てください。
配置転換とは
「配置転換」とは、同一組織内で業務内容や職種、あるいは勤務地を変更することです。略して「配転」または「ローテーション」とも呼ばれ、人事異動の手段として利用されています。
企業は「人事権」を保有し、これを使って就業規則の範囲内で「配転命令権」を行使します。実施時期は、決算時期や半年・1年などの定期的なサイクル、数年ごとのジョブローテーションなどが一般的です。一部の企業では10年以上にわたり、人事異動そのものが実施されない場合もあります。
配置転換が多い人の特徴
配置転換の目的や対象者は企業によってさまざまです。主に配置転換の対象となる人は、以下の2つが挙げられます。
- 新入社員や若手社員
- 幹部候補
新入社員や若手社員
適性を判断し、業務に関する知識を習得させるために、教育制度の一環として配置転換を頻繁に実施することがあります。
幹部候補
さまざまな業務を経験することで、事業に関する知見やマネジメント能力の向上が期待できます。そのため、幹部候補の社員は配置転換が多い傾向にあります。
配置転換の目的
配置転換は、主に次のいずれかの目的のために実施することが多いです。
- 適材適所の人材配置
- 人材育成・スキルアップ
- 組織の成長と活性化
- メンタル不調への対応
適材適所の人材配置
配置転換の目的の一つは、従業員の適性やスキルを最大限に活かし、適材適所の人材配置を実現することです。
従業員は、もっとも適した部署・職務に配置されることで、生産性や業務効率の向上します。組織は個々のメンバーが持つ能力を効果的に引き出すことで、全体としてパフォーマンスを向上できるでしょう。
人材育成・スキルアップ
配置転換は、従業員のスキルアップや職務経験の幅を広げる人材育成の手段としても実施されます。異なる部署やプロジェクトでのさまざまな経験を通じて、新たなスキルを身につけたり、専門知識を深めたりすることが期待できます。
配置転換を通して、多様な業務に対応できる柔軟性や多面的な視点を養うことができるため、部署間の連携も行いやすくなるでしょう。
組織の成長と活性化
配置転換は組織の成長戦略と連動し、新しいプロジェクトや事業展開に必要な人材を配置するために行うこともあります。異なる部門での経験や専門知識を持つ従業員を配置することで、組織は変化に対応し、競争力の維持・向上が期待できます。
また、経験を通して新しいアイデアや、次世代リーダー候補が生まれやすくもなります。定期的なメンバーの入れ替えはよい刺激となり、組織全体の活性化につながるでしょう。
メンタル不調への対応
従業員のメンタルヘルスやワークライフバランスの側面から見ると、同じ業務やポジションにとどまり続けることがストレスとなり、モチベーションの低下を引き起こす場合があります。
配置転換は従業員のモチベーション向上にも役立ちます。新しい業務で新鮮な気持ちになって取り組めるため、エンゲージメント向上やメンタルヘルスの維持につながることも少なくありません。
配置転換と人事異動に違いはある? 関連用語
配置転換と似た用語に「人事異動」があります。両者にはどのような違いがあるのでしょうか。また、配置転換と類似する、人事領域で使われることの多い用語をまとめて解説します。
- 人事異動
- 転勤
- 出向
- 昇進
- 昇格
- 転籍
- 免職
- 解雇
人事異動
人事異動は、組織内において従業員の配置や役職を変更するプロセスです。配置転換をはじめ、昇進や昇格、解雇といった人事に関連するポジション変更すべてが含まれます。
つまり、配置転換は人事異動の一環です。
転勤
転勤は、従業員が勤務地を変更することです。同一企業内で別の支店や拠点への異動を意味します。
主に現地での欠員や、地域ごとの人材ニーズが発生したり、新しいプロジェクトが立ち上がったりする際などに実施されることが多く、内示→公示の手順で発信されます。
出向
出向は、従業員が所属する企業(出向元)から別の企業(出向先)に一定の期間、協力や支援のために派遣されることです。
出向する従業員はもとの企業の給与や雇用条件を保持しながら、ほかの組織での業務に従事します。期間満了のタイミングで出向元に戻ることが一般的ですが、場合によってはそのまま出向先に転籍することもあります。
昇進
昇進は、従業員が組織内でより高い役職や職位に上がることです。
「係長から課長」「課長から部長」など肩書きが変わることを指します。一般的には個々の業績などに基づいて行われます。昇進するとより責任のある役割を担います。
昇格
昇格は、組織内における等級の格上げを指します。昇進と昇格はよく混同されますが、前者は肩書きが変わるのに対し、後者は必ずしも肩書きが変わるものではありません。
具体的には、昇格によって等級が上がり、その等級の中から個々の適性を踏まえて選出された人が昇進します。
転籍
転籍は、所属をほかの組織に移す人事異動です。グループ会社を持つ企業で行われることが一般的です。転籍すると、現在の企業との雇用契約は解消され、転籍先企業と新たに雇用契約を結びます。
免職
免職とは、主に公務員に対して使われる用語です。民間企業の「懲戒解雇」と同じ意味合いを持ち、公務員に拒否権はありません。主に不正行為など重大な違反を犯した公務員に対して執行されます。懲罰処分のうちもっとも重い処分です。
解雇
解雇は、組織が従業員を雇用契約から解除することを指します。解雇には「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」の3つがあり、特に懲戒解雇は不正行為などに基づくもっとも重い処分です。
免職と同様に解雇も従業員に拒否権はありません。
配置転換のメリット
配置転換には以下の通り、さまざまなメリットがあります。
- イノベーション・アイデアの創出
- マンネリ化防止とモチベーションの向上
- 従業員の適性の発見
- 良好な人間関係の構築
イノベーション・アイデアの創出
部署や職務の変更による配置転換で、従業員は新しい環境や課題に直面します。
異なる業務経験や視点を持つことで、新しいアイデアが生まれる可能性が高まります。さらに、新しいチームメンバーとの交流も組織全体にイノベーションを起こすきっかけとなるでしょう。
マンネリ化防止とモチベーションの向上
長期間同じ仕事や部署にとどまることで生じるマンネリ化を防ぐためにも、定期的な配置転換は有効です。新しい仕事や環境への挑戦が、従業員のモチベーションを高め、仕事への新鮮な刺激を与えます。これにより、業績向上や従業員のエンゲージメント向上が期待できるでしょう。
従業員の適性の発見
配置転換は、従業員の適性や強みを発見するきっかけにもなります。異なる業務や職種に挑戦することで、従業員自身が得意とする分野や興味を見つけることができます。
また、企業側としても従業員の適性が発見できると、より高度なスキルを身につけさせる人事施策も考案できるでしょう。組織は各従業員をもっとも適したポジションに配置し、生産性や効率を向上させることができます。
良好な人間関係の構築
配置転換は、部署やプロジェクトでの協力もしくは共同作業を通じて、従業員間の良好な人間関係構築にも役立ちます。異なるチームや同僚と協力することで、従業員は新たなつながりを築き、コミュニケーションの機会が増加します。
これにより、組織内の協力関係が強化され、対人スキルの向上やチームワークの発展が促進されるでしょう。人間関係の構築は、風通しのよい職場環境をつくり、組織全体の健全な発展にもつながります。
配置転換のデメリット
一方で、以下の通り配置転換によって生じるデメリットもあります。
- 一時的な生産性低下
- モチベーションの低下
- 専門性やスキルの不適合
- ワークライフバランスへの影響
一時的な生産性低下
配置転換が行われる際、従業員は新しい業務や環境に適応するために一定の時間が必要です。この期間中は、業務の習熟度低下が考えられるため、一時的な生産性の低下が発生する可能性があります。
配置転換は成果が出るまで時間がかかることを意識しましょう。
モチベーションの低下
配置転換により、従業員は新しい状況に適応する必要があります。これがモチベーション低下やストレスの原因となることもあります。
新しい業務に対する不安で適応が難しい場合や本人が納得がいっていない場合は、モチベーションの低下が顕著になる可能性もあるでしょう。事前に納得のいく説明を行い、配置転換後も適宜フォローが必要です。
専門性やスキルの不適合
配置転換がこれまでの経験やスキルに適していないと、業務効率や品質に影響を与える可能性があります。
また、これまでに培った知識が十分に活かされないことも考えられます。自分の能力を発揮できないストレスから、離職につながってしまう可能性も否定できません。
ワークライフバランスへの影響
配置転換にともなう業務の変更や新しい環境への適応には時間がかかります。思った以上に負荷がかかり、従業員のワークライフバランスに悪影響を与えることも考えられます。
新しい業務への適応期間中はフォローアップ体制を徹底し、業務が負担となっていないか、チームの協力関係は築けているか、などを定期的にヒアリングしましょう。
配置転換の注意点と法的リスク
配置転換には法的リスクもともなうことを理解しておかなければなりません。配置転換の主な注意点を紹介します。
- 就業規則や雇用契約書に明記する
- 業務上の必要性を説明する
- 正当な動機や目的で実施する
- 従業員に著しく不利益を負わせない
就業規則や雇用契約書に明記する
組織は「配転命令権」を行使し、従業員に配置転換を命じることができます。
しかし就業規則や雇用契約書に、この権利についての記載がないと、本人の同意なく配置転換を命じることはできません。必ず就業規則や雇用契約書に、配置転換に関する内容を明記しておきましょう。
業務上の必要性を説明する
配置転換は、明確な理由をもとに従業員に説明できる必要があります。明確な根拠や理由のない配置転換は、人事権の濫用です。
組織の業務やプロジェクトの進行において合理性がある理由を説明し、労使間で意見の相違がない状態で実施しましょう。
正当な動機や目的で実施する
上司や人事の主観による配置転換も、人事権の濫用とみなされます。
たとえば、従業員に対する嫌がらせや、退職を促すための配置転換などが該当します。配置転換を実施する動機や目的は必ず正当かつ明確にし、従業員の納得感を得られるものにしなければなりません。
従業員に著しく不利益を負わせない
配置転換によって従業員に著しく不利益が生じないように注意することも大切です。従業員のキャリアや生活に影響を与えるような配置転換も、人事権の濫用と捉えられてしまいます。
たとえば、持病のある従業員に重労働が懸念される職務への転換を命じるようなケースが該当します。従業員に対して不当な損害を与えないように心掛けることが重要です。
配置転換が違法になった事例
実際に違法と見なされた配置転換で有名なのが、札幌の医療法人の事例です。
原告は通所介護部門の休止にともない、入所介護部門に配置転換を命じられました。しかし、実質的にこの異動は、監視カメラつきのアパートの一室で隔離され、必要性のない業務を指示される、いわゆる退職に向けた「追い出し」だったのです。原告は精神的無苦痛を主張して裁判に踏み切ります。
裁判では、被告の行為は業務上の必要性が不透明であり、人事権の濫用にあたるため、この配置転換は無効とされました。同時に被告は、原告への適切な賃金と慰謝料の支払いが求められています。
このように、業務上の必要性がなく、不当な目的による配置転換は違法と認められるでしょう。
参考:『 配転命令無効確認請求事件』裁判例検索
参考:『判決 主文』
配置転換の手順
配置転換は、どのような手順で行えばよいのでしょうか。配置転換の流れを説明します。
- 目的の整理
- 就業規則の確認
- 人材配置計画の立案
- 候補者のリストアップ
- 内示と辞令
- 配置転換の実施と見直し
1.目的の整理
まずは、なぜ配置転換が必要なのかを整理します。組織の目標や戦略、業務の変化、環境などから配置転換を行う目的を明確にしましょう。
目的を整理することで、適切な戦略や手段を選択し、従業員に説明する基盤ができます。
2.就業規則の確認
就業規則には配置転換に関する記載が必要です。実行に移す前に必ず就業規則を確認し、法的な要件を把握します。
従業員の同意が必要な場合や通知期間、補償に関する事項などを確認し、法的リスクを最小限に抑えましょう。就業規則は従業員に周知することも重要です。
3.人材配置計画の立案
配置転換は戦略的な人材配置計画の一部として位置づけなければなりません。どの職種や部署にどのような人材が必要かを考慮し、組織全体の調整をはかります。
これにより、配置転換が一時的な対応ではなく、組織の長期的な成長や変革につながるでしょう。
4.候補者のリストアップ
配置転換の候補者をリストアップします。スキルや経験、適性、パフォーマンスなどを考慮し、異動が有益であると判断できる従業員を特定します。
このとき、選択肢を狭めないよう、職務にマッチする人材か、複数名をリストアップすることがポイントです。
5.内示と辞令
配置転換が確定したら、従業員に内示を行います。内示では変更点や理由、期待される役割などをていねいに説明し、理解を得ましょう。
内示の時期は一般的に、転居をともなわないなら異動の2週間前、家族を含めて転居が必要となるなら3〜6か月前とされています。内示が終わったら、次は正式な辞令書を発行して公示します。
6.配置転換の実施と見直し
最後に配置転換を実施します。配置転換後は従業員の新しい職務への適応をサポートすることが重要です。一定期間が経過したら、配置転換の効果を検証し、必要に応じて見直しを行います。
フィードバックを取り入れ、手順や計画の改善を進めましょう。
配置転換に関する疑問
配置転換を検討するにあたって、ふとした疑問が浮かぶこともあるでしょう。配置転換に関するよくある疑問を3つご紹介します。
- 仕事ができない従業員を配置転換できる?
- 業員に配置転換を拒否されたら?
- 配置転換がパワハラ認定されることもある?
仕事ができない従業員を配置転換できる?
能力不足を理由とした配置転換は、あくまでも就業規則や雇用契約によって定められた人事権の範囲であれば実施できる場合もあります。
一方、これまでと全く異なる職種への配置転換や、業務上必要とはいえない配置転換、嫌がらせ目的の配置転換は認められません。
従業員に配置転換を拒否されたら?
原則として正当な理由、目的がある配置転換を従業員が拒否することはできません。
ただし、不当な理由だったり、従業員に著しい不利益が生じたりするような配置転換は拒否できます。そのため、人事権濫用だと認められる配置転換命令は無効です。
配置転換がパワハラ認定されることもある?
正当な理由があるのであれば、配置転換命令がパワハラに該当することはありません。次のような場合、パワハラと見なされると考えてよいでしょう。
- 「能力が低レベルだから異動させる!」など人格を否定するような暴言を吐く
- 退職に追い込むために閑職に追いやる
- 専門職で雇用した従業員を、明らかに専門性を必要としない部署に配置転換する
- 従業員のスキルレベルを大きく上回るような職務に就かせて自尊心を傷つける
配置転換の検討に|人員配置シミュレーション
配置転換は従業員一人ひとりの能力やスキル、適性などのデータをもとに検討することが大切です。人事担当者の勘や経験に頼ると、従業員の能力が十分に発揮されないだけでなく、本人のエンゲージメントを低下させるかもしれません。
意味のある配置転換をするには、日頃から人材データを収集して可視化し、異動の前に適切なシミュレーションを行いましょう。
「One人事[タレントマネジメント]」は、従業員のスキルや適性データを一元管理し、人材マネジメントの効果の最大化を目指すサービスです。
集約データを根拠として異動をシミュレーションする機能もあり、配置転換による影響を予測・分析することも可能です。プロジェクト要件にマッチした人材を検索したり、特定のスキルを持つ従業員をグルーピングしたりして活用している企業もあります。
適材適所を意識した配置転換により人材育成を進め、組織の活性化を目指すには、専用システムの導入も検討してみてください。
事業の成長につながる配置転換を(まとめ)
配置転換は、組織の成長や人材育成に影響を与える事業戦略の一つです。
適切な配置転換を実施できると、適材適所による生産性や社員のモチベーションの向上というメリットが得られます。一方で、知識もないまま、やみくもに進めてしまうと法的なリスクも発生します。
本記事で紹介した注意点を押さえ、従業員の納得度の高い配置転換を実施しましょう。従業員が能力を最大限に発揮できるように、事前に人員配置シミュレーションも実施し、進めることが大切です。
配置転換を含めた人事施策を勘や経験に頼らずに実施するには、システムの導入も一案です。