スキルベース組織とは【ジョブ型との違い】導入企業やメリット・デメリットと再編ステップを解説

スキルベース組織とは、従業員個人のスキルや能力を中心に据えた新しい組織形態です。「社内のスキルが可視化できていない」「適材適所の人材配置ができていない」「ジョブ型では変化に対応できない」といった課題を抱える企業は少なくありません。
欧米ではジョブ型からスキルベースへの移行しつつあり、柔軟な人材活用が広がっています。
本記事では、スキルベース組織の基本からジョブ型との違い、導入のメリット・デメリット、そして自社をスキルベース組織へ再編するステップまでを解説します。自社に最適なスキル中心の組織設計を考えるヒントとして、ご活用ください。
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目次[表示]
スキルベース組織とはスキルを基準にした組織モデル
スキルベース組織(Skills-Based Organization、SBO)とは、役職や部署など固定的な枠に縛られず、個人のスキルや能力を中心に組織を編成するモデルです。
業務をスキル単位に分解し、最適な人材とマッチングさせることで、採用・配置・育成・評価を柔軟に行うことができます。
- 従来型組織: 役割やポジションが固定化し、異動や兼務が難しい
- スキルベース組織: 必要なスキルに応じて柔軟に人材を組み替える
たとえば、AIやデジタル化が進む環境では、プロジェクト単位で新しいスキルが求められます。スキルを基準に人材を配置すると、変化に対応できる体制を構築できます。
世界最大級の人事カンファレンス「HR Technology Conference & Exhibition 2023」でも、SBOは「次世代型の組織モデル」として注目を集めました。大手監査法人デロイト トーマツも、スキルベース組織を「仕事と人材の新たな関係を築くアプローチ」と位置づけています。
参考:『HR Technology Conference』
参考:『スキルベース組織―新たな仕事と労働者のモデル』Deloit teInsights

スキルベース組織を導入している企業
スキルベース組織の考え方は、欧米を中心に広がりつつあり、グローバル企業が先駆的に導入を進めています。
イギリスの日用品大手ユニリーバでは、部門単位の業務をプロジェクトやタスク、成果物に細分化し、必要なスキルを持つ人材を柔軟に配置する制度を構築しました。
また、IBMやマイクロソフト、アマゾンといったIT企業も、従業員のスキルを可視化し、プロジェクト単位で最適な人材をアサインする体制を整えています。
スキルベース組織としての取り組みは、変化の激しいビジネス環境に対応し、スキルを資産として最大限に活用するために注目されています。
スキルベース組織で評価される「スキル」とは
スキルベース組織における「スキル」とは、特定の専門知識や技術だけでなく、仕事を遂行するための能力全般(コンピテンシー)を指します。
以下の3つが代表的な分類です。
| ハードスキル | 業務遂行に必要な専門知識・技術 | 例:プログラミング、会計知識、語学力 |
| ソフトスキル | どんな仕事でも一定程度求められる個人の能力や特性 | 例:コミュニケーション能力、リーダーシップ、発想力 |
| メタスキル | スキルを使いこなす能力 | 例:クリティカルシンキング、創造性、適応力 |
スキルベース組織では、複数のスキルを総合的に評価し、個人の強みを活かした配置・育成を行うことで、柔軟で強い組織を目指します。
スキルベース組織とジョブ型組織の違いは「基準」と「配置柔軟性」
スキルベース組織とジョブ型組織では、人材マネジメントの出発点が異なります。
スキルベース組織は個人のスキルや能力を中心に設計される一方、ジョブ型組織は特定の職務(ジョブ)を基準に設計されます。違いを7つの観点からまとめると以下のとおりです。
| スキルベース組織 | ジョブ型組織 | |
|---|---|---|
| 評価基準 | スキル・能力 | 職務・役割 |
| 配置の基準 | スキル適合性 | ジョブディスクリプション |
| キャリアパス | スキル習得に応じて変化 | 職務に応じて昇進 |
| 求める人材 | スキルの幅が広い人材 | 専門性の高い人材 |
| 組織の柔軟性 | 高い(プロジェクト単位で流動) | 低い(職務固定) |
| 導入前の準備 | スキル管理が必要 | 職務定義が必要 |
| 適した業界 | IT・研究開発・スタートアップ | 外資系企業・製造業・管理職 |
スキルベース組織では、業務をタスク単位に細分化し、必要スキルに応じたマッチングを行います。一方で、ジョブ型組織は職務や責任範囲が明確なため、配置転換を頻繁に行うことは想定されていません。
また、個人のキャリア形成においても、スキルベース組織は多様な経験を通じた成長を促し、ジョブ型組織は専門性を深めるという違いがあります。どちらもメリット・デメリットがあり、企業ビジョンに適した運用を検討することが重要です。

なぜ今ジョブ型からスキルベース組織に移行が進むのか
ジョブ型雇用は、明確な職務定義に基づく制度として定着しましたが、近年限界も指摘されています。大きな課題は「柔軟性の低さ」です。
職務を固定してしまうため、部門を越えた人材活用や新規プロジェクトへのアサインが難しく、人材不足を招く要因にもなっています。また、キャリア形成が特定職務の専門性に偏り、成長の機会が限定される点も課題です。
ジョブ型の課題を乗り越える手段として注目されるのが、スキルベース組織です。業務をスキル単位に分解し、人材を柔軟に組み合わせることで、変化に強い組織運営が実現します。
- 必要なスキルを基準にチームを再構成できる
- 多様なスキルを持つ人材が協働しやすい
- 従業員がキャリアの幅を広げ、成長意欲を高められる
変化が激しい今の時代、スキルベース組織は「持続的に成長できる組織構造」として注目されるようになりました。
スキルベース組織に再編するメリット・効果
スキルベース組織への移行は、単なる体制変更ではなく、企業の競争力を高めるために選択される人材戦略です。以下では、スキルベース組織導入による主なメリットを紹介します。
スキル開発の促進
スキルベース組織では、従業員の強みと不足スキルを可視化することで、個別最適な育成が可能です。職務別の一律研修に代わり、個々のスキルギャップごとに必要な研修を設計できます。
たとえば、業務の自動化などで従来の職務がなくなった従業員も、隣接スキルを把握することで、新たな役割への転換が容易になります。組織は人材をより有効に活用でき、従業員も成長の機会を得られるでしょう。
キャリア開発の多様性
スキルベース組織では、従業員がみずからのスキルや関心に基づいて、主体的にキャリアを形成しやすくなります。役職や職務でキャリアが固定されるのではなく、スキルを軸に個々のスキルセットに応じた柔軟なキャリア設計ができるためです。
たとえば、スキルの可視化と個別キャリアプランの策定により、従業員は自分の成長目標を明確にし、多様なキャリアパスに挑戦できます。スキルベース組織は従業員の自律的な成長を促し、組織全体の活性化にもつながります。
従業員エンゲージメントの向上
スキルベース組織への移行によって、従業員が自分の得意なスキルを活かして働ける環境が整い、エンゲージメントが高まります。 本人の能力にあった役割やプロジェクトに参加できると、やりがいや成長実感を得られやすくなるためです。
また、企業がそれぞれのスキルを把握し、見合った業務を任せ、公平に評価することも重要です。結果として、従業員の満足度が上がり、離職の防止にもつながります。
人材不足の緩和
スキルベース組織への転換は、人材不足の緩和にも役立つ施策の一つです。学歴や職歴にとらわれず、候補者の持つスキルやポテンシャルを評価するため、採用対象が広がり、今までより人材を確保しやすくなるでしょう。
たとえば、スキルテストや実践課題を活用すれば、未経験者でも必要なスキルを持つ人を見極められます。業務を複数のスキルを持つメンバーで分担すると、採用の難しい専門職も社内で柔軟に補えるかもしれません。
スキルベース組織は採用の幅を広げることで、人材獲得のスピードを上げ、慢性的な人手不足の解消につながります。
生産性・利益率の向上
スキルベース組織は、スキルを可視化して適材適所の人材配置を行うことで、生産性と利益率を高められます。各業務にもっとも適した人材を配置すれば、研修期間を短縮し、早期に即戦力として活躍してもらえるためです。
また、多様なスキルを持つメンバーが協働すると、新しい発想やイノベーションが生まれやすくなります。スキルベース組織は、生産性と創造性の両面から、企業の収益力を高める仕組みといえます。
スキルベース組織に再編するデメリット・難しさ
スキルベース組織への移行は多くのメリットをもたらす一方で、導入にはさまざまな課題や難しさがともないます。以下では、スキルベース組織への再編にともなうデメリットや課題について詳しく解説します。
スキル管理コスト
スキルベース組織の最大の課題は、スキルを継続的に管理・更新するためのコストと運用負担が大きいことです。スキルデータの収集・分析・更新には手間と時間がかかり、常に最新を維持するには人事部門の継続的なリソース投入が必要です。
たとえば、スキル管理システムを導入する場合、初期費用に加え、定期的な更新作業などの運用コストも発生します。スキルベース組織を運営するには、金銭的コストや人事の負担を最小化する仕組みを検討しなければなりません。
スキル評価の難しさ
スキルを正確かつ公正に評価することが難しい点も、スキルベース組織の大きな課題です。スキルの定義や評価基準を客観的に設定するのは簡単ではありません。とくに定量化しにくいソフトスキルは、評価者の主観に左右されやすいです。
たとえば、同じ「コミュニケーション能力」でも、人によって判断基準が異なったり、自己申告に過大・過小評価が混ざったりすると、データの信頼性が落ちてしまいます。
スキルベース組織を運用する際は、定義や評価基準を明確にし、定期的な見直しが必要です。
スキルベースマネジメントの複雑さ
スキルベース組織では、スキルを基準に人材を配置・評価するため、マネジメントが複雑化しやすいという課題があります。
従業員ごとにスキルや適性が異なるため、配置・評価・異動の判断に細かな調整が必要です。従来の階層型組織より管理工数が増えるでしょう。
たとえば、スキル要件が細かすぎると、異動や昇進のハードルが上がり、キャリアの柔軟性を損なうおそれがあります。また、現時点のスキルを重視しすぎると、将来成長する可能性のある人材を見落とすリスクもあります。
スキルベース組織には、短期的なスキル適合だけでなく、成長可能性や学習意欲といった人材の伸びしろを見極める視点も欠かせません。
スキルに見合った報酬と責任の明確化
スキルベース組織では、スキルの価値をどのように報酬や責任に反映させるかが課題となります。
スキルの市場価値は変動しやすく、熟練度の測定も難しいため、公平で一貫性のある報酬体系を維持するのは困難です。
たとえば、高度なスキルを持つ従業員には相応の報酬を設定する必要がありますが、基準があいまいだと不公平感が生じます。また、プロジェクトごとに役割が変わるため、誰が最終的な責任を負うのかが不明確になることもあります。
スキルを基準に組織を運営するには、スキル評価と報酬・責任のバランスを取る明確なルールづくりが必要です。
組織文化とのマッチング
スキルベース組織の導入では、既存の組織文化とのギャップをどう埋めるかも課題です。従来の日本企業では、年功序列や終身雇用などの慣習が根強く、スキルを基準とした制度が受け入れられにくいためです。
たとえば、スキル重視の採用ではスキルばかりに目が向き、チームとの相性や企業文化との適合性が見落とされるリスクがあります。結果として、ミスマッチや早期離職を招くおそれもあります。
スキルベース組織を根づかせるには、経営層から現場までの意識改革にも取り組まなければなりません。

スキルベース組織は日本企業になじみやすい?
スキルベース組織は、日本の伝統的な職能主義と、意外にも親和性が高いという見方があります。
日本では古くから、職務よりも従業員の「能力」や「職能」を重視する人材マネジメントが重視されてきました。スキルを基準に人材を評価・配置する考え方はもともと根づいているのです。
たとえば製造業では、「力量管理」で細かいスキル定義を行い、昇進や配置の判断に活用してきた実績があります。力量管理はスキルベースの考え方に近いものです。
スキルベース組織は海外発ではあるものの、日本の歴史に根づいた職能型を活かして発展させやすい施策といえるでしょう。
スキルベース組織に再編するためのステップ
スキルベース組織へ、実際に移行するとなったら、どのように進めていけばいいのでしょうか。スキルベース組織の導入は、人材マネジメントの考え方を再設計する企業変革です。
- スキルの可視化まではできたが、データを活用できていない
- スキルデータをどう活用すればいいかわからない
以上のような課題に直面する企業も少なくありません。ここでは、人事担当者や経営層が具体的に取り組めるよう、スキルベース組織へ再編するためのステップを順に解説します。
スキルの定義
スキルベース組織への再編を進める最初のステップは、自社にとって重要なスキルを明確に定義することです。スキルの定義は、企業の戦略・ビジョン・将来の事業ニーズを反映したうえでの設計作業です。
ハードスキルだけでなく、リーダーシップや協調性といったソフトスキル、さらに今後重要になるスキルも含めて整理します。現場の意見を取り入れれば、より実践的で現実に即したスキル定義が可能です。
明確なスキル定義があってこそ、評価・育成・配置などあらゆる人材戦略をスキル起点で運用できるようになります。
スキルの可視化
定義したスキルをもとに、従業員一人ひとりのスキルを可視化し、組織全体のスキル構成を把握することが、スキルベース組織に向けた次のステップです。誰がどのスキルを持ち、どの領域に不足があるのかを明確にしなければ、最適な人材配置や育成計画を立てられません。
スキル可視化の方法は、スキル評価テストや自己申告シート、上司・同僚からの評価、資格やプロジェクト実績のデータを組み合わせて行います。スキルマップを作成する企業も多いでしょう。スキルレベルは常に変化するため、定期的な更新が欠かせません。
スキル評価の仕組みづくり
スキルを定義・可視化したあとは、公平で一貫したスキル評価の仕組みを構築します。評価があいまいだと、人材配置や育成計画といった人事施策が機能しなくなります。
各スキルには、習熟度に応じたレベル基準を設定しましょう。たとえば「1人でできる」「他者に教えられる」「成果を創出できる」といった段階に分け、行動や成果で判断できるようにします。
評価サイクルは四半期や半年ごとなど定期的に実施し、結果を施策の見直しに活用します。スキル評価の基準自体も更新することが重要です。
リスキリングの推進
スキルベース組織では、従業員のスキルを継続的に更新・強化するリスキリングも欠かせません。スキルは時間とともに陳腐化しやすく、変化の速い環境では「学び続ける仕組み」がないと、価値を失う可能性があるためです。
各従業員のスキルギャップを分析し、到達すべきレベルに合わせた個別の学習計画を立てます。オンライン研修や社内講座に加え、OJT・プロジェクト参加・メンタリングなど実践型の学びを組み合わせると効果的です。
評価→学習→再評価のサイクルを回すことで、スキルの定着と成長を促進できるでしょう。
スキルベース組織への再編にはHRテック活用が不可欠
スキルベース組織を維持するには、従業員のスキル情報を一元管理できるHRテックの導入が不可欠です。スキルの定義・可視化・評価・リスキリングといったプロセスをアナログで運用するのは限界があります。
そこで活用したいのが、スキル管理システム・タレントマネジメントシステムをはじめとするテクノロジーです。
HRテックは、次のような機能を通じてスキルベース組織の定着を支援します。
- スキルマップの作成
- スキルレーダーチャートの作成
- 組織内スキルギャップの分析
- 学習コンテンツの自動提案
- スキルデータの定期更新と可視化
スキル管理システムを活用することで、従業員一人ひとりの成長をリアルタイムで把握し、最適な配置や育成につなげられます。スキルを軸とした人材マネジメントを効率的に運用できるでしょう。

タレントマネジメントシステム|One人事[タレントマネジメント]
One人事[タレントマネジメント]は、従業員一人ひとりのスキル情報や経歴を一元管理するタレントマネジメントシステムです。スキルの可視化から配置・育成・評価を1つのプラットフォームに集約。人材の能力を最大限引き出し、スキルベース組織に近づく体制整備にお役立ていただけます。
直感的に迷わず使える操作性と柔軟なカスタマイズ性により、企業ごとの人事制度や組織構造にあわせた運用をご支援しております。
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スキルベース組織に関連する用語
スキルベース組織を理解するために、関連する用語もおさえておくと全体像がつかみやすくなるでしょう。最後に、スキルベース組織を構成する3つの用語を紹介します。
スキルベース採用
スキルベース採用とは、学歴や職歴ではなく、求職者の持つスキルや能力を基準に採用を行う手法です。職務に必要なスキルを明確にし、スキルアセスメントなどを通じて候補者を客観的に評価します。スキルベース組織においては、「必要なスキルを持つ人材を迎え入れる」入口の役割を果たします。
スキルベースマネジメント
スキルベースマネジメントとは、従業員のスキルを基準に、評価・配置・育成などを行うマネジメント手法です。役職や年次ではなくスキルレベルに基づいて意思決定を行う点が特徴です。スキルの可視化や評価制度、スキル連動型の報酬設計が基盤となり、スキルベース組織を支える中核の仕組みといえます。
スキルファースト
スキルファーストとは、「スキルを最優先に考える」という人材戦略上の思想・価値観です。 学歴や経歴よりも、個人が持つ具体的なスキルに注目し、配置・登用・育成を行います。スキルベース組織は、スキルファーストの考え方を、実践的な制度や仕組みに落とし込んだ組織構造と考えられます。
まとめ
スキルベース組織は、スキルを基準に、企業の「人材活用のあり方」を再構築する取り組みです。スキルファーストで人材を配置・育成することで、組織の柔軟性と従業員の成長を両立できると期待されています。
重要なのは、スキルを明確に定義し、継続的に活用する仕組みを整えることです。今すぐ抜本的な改革は難しくても、タレントマネジメントシステムをはじめHRテックを活用し、スキルの可視化から始めてみてはいかがでしょうか。

