戦略人事の機能や役割を経営戦略の実現に向けて解説

戦略人事は、経営戦略に沿って組織・人材のマネジメントを行う手法で、一般的にイメージされる人事の仕事とは一線を画しています。働き方の多様化や労働人口の減少に伴い、従来の人事部の枠を超えた成果が求められるようになりました。本記事では、戦略人事の4つの機能と役割、日本で求められている背景を解説します。

目次
戦略人事とは

戦略人事とは、会社の経営戦略の遂行に人事部が積極的に関与して人材・組織の有効活用を推進するマネジメント手法の一つです。戦略的人的資源管理(Strategic Human Resources Management)と呼ばれることもあります。戦略人事の具体的な定義や、日本の会社で戦略人事が求められている背景を紹介します。
企業の経営目標を達成する人事施策
戦略人事は、経営資源の一つである「ヒト」を有効活用して企業の経営目標の達成を目指す人事施策で、1990年代にアメリカの経済学者デイブ・ウルリッチ氏が提唱した考え方です。正確かつ効率的に定型的な業務を行う従来の人事部とは異なり、戦略人事では経営層とパートナーシップを組んで人員配置や組織のあり方などを積極的に提案していきます。
近年はビジネス環境や社会情勢を見通ししづらい「VUCA(ブーカ)の時代」と呼ばれていますが、企業は多様化する市場ニーズに柔軟かつスピーディーに対応しながら、生き残りをかけて競争力を高めていく必要があります。戦略人事を取り入れることで経営環境に合わせた人材活用が可能になり、企業の変革や業績向上も実現できる相乗効果も目指すことが可能です。
日本で戦略人事が求められる背景
少子高齢化や働き方の多様化に伴い、日本の企業でも戦略人事の重要性が注目されています。
労働人口の減少に加え、年功序列や終身雇用制度の終焉によって人材の獲得競争が激しくなっているのが現状です。キャリアアップやより良い労働条件を求めての転職も一般化しており、優れた人材を確保して定着させるためには能力を存分に発揮できる組織作りが求められています。
また、多様な働き方に対応しながら企業の生産性を高めるためには、個人の能力・適性や希望を把握した上で意欲的に仕事へ取り組める環境を整えることも大切です。さまざまな価値観を認め合える職場風土づくりも必要となるでしょう。
既存の人事制度の枠組みを超えた対応を求められる場面も増えていることから、戦略人事の実行は経営における重要な課題の一つといえます。

日本で導入が進まない理由
欧米諸国の企業では戦略人事が普及している一方、日本の企業では戦略人事の導入が進んでいないのが現状です。
経営戦略が不明確であれば、戦略人事のプランを立てるのが難しくなります。人事部をビジネスパートナーとして認識し必要な人材像や組織の改善のために人事部や現場からの声に耳を傾ける柔軟さも必要でしょう。人事部としても経営側に説得力のある提案ができるよう、戦略人事に関する知見と経営戦略への理解を深める姿勢が求められます。会社の業績向上には、経営側と人事部の緊密な連携が欠かせません。
また、人事制度の変更に抵抗がある社員がいるために戦略人事の導入をためらう事例もあるようです。導入計画を明確に示した上で、社員にとって不利益が生じない制度であることを丁寧に説明すると、導入への理解が得られるでしょう。
戦略人事と人事戦略の違い
戦略人事は経営側とパートナーシップを組んで推進していくのに対し、人事戦略は人事部そのものの業務内容を改善するという違いがあります。
人事戦略では、社員の採用方法や教育研修の進め方など人事制度の改革を目指すことが主な目標です。業績への貢献は必ずしも求められず、社員や部署が人事制度に納得していれば一応は人事戦略が成功したことになります。
一方、戦略人事では経営目標の達成を目指して人材の活用計画を立てていくのが特徴です。例えば店舗数を増やす目標がある場合に、店長やスタッフに求める人材像を具体化して採用計画を立て、店舗運営や教育研修を統括する役職者も設けるというように、目標達成の計画を具体化して経営層に提案していきます。
つまり、戦略人事は経営戦略のなかに人事部が検討した人事戦略を組み入れて、社員だけでなく企業全体の成長を支援する仕組みともいえるのです。
戦略人事が持つ4つの機能と役割
従来の人事施策からウルリッチが提唱する戦略人事にシフトするためには、制度面の情報提供や各種オペレーションに加えて、経営層のビジネスパートナーとして組織・人材開発への積極的な関与が必要です。戦略人事の4つの機能と役割を紹介します。
HRBP(HRビジネスパートナー)
HRBPとは人事部門が経営層や現場の管理職のビジネスパートナーとして、採用から教育研修・適材適所の配置まで経営戦略に沿って人事施策を企画・推進していく機能です。人事施策の効果を高めるためには現場のニーズや実態を十分に理解した上で、経営層の考え方とマッチングさせることが求められます。
経営層と現場を橋渡しする一面もあるため、現場に足を運んで社員の話を聞き、時には相談に対応するなど信頼関係を構築していく必要もあります。従業員サーベイやアンケートといった形で集めた社員の意見を、人事施策に反映させるのも一つの方法です。HRBPは戦略人事におけるリーダーシップを担う役割ともいえます。
CoE(センター・オブ・エクセレンス)
CoEとは人事制度をはじめ採用活動・評価制度や労務管理といった、戦略人事の遂行に必要なあらゆる知見を現場や経営層に提供する機能です。社内の人事コンサルタントと位置づけられることもあるため、人事のプロフェッショナルとして人事業務のすべてにおいて深い知識が求められます。ちなみに「エクセレンス(Excellence)」は、優れた・卓越したという意味合いを持つ言葉です。
CoEは、経営層や現場から得られた情報を集約・分析して人事施策に反映させる機能も持っています。人事評価システムやタレントマネジメントシステムで得られた分析データを効果的に活用して、従業員と会社双方のパフォーマンスを高める企業も増え始めました。
OD&TD(組織開発&人材開発)
ODは「Organization Development」の略語で、企業理念やビジョンを現場に浸透させて経営目標を実現できる組織を作り上げる機能です。現場の課題を洗い出して組織の方向性を改善したり、社員がパフォーマンスを高められる環境を整備したりする役割も持っています。
また、TDは「Talent Development」の略語で、教育研修などによって社員の能力や資質(タレント)を引き出し、経営戦略を実現できるように社員の成長を促す機能です。ジョブローテーションなどで社員を適材適所に配置して、潜在能力の開発を試みる場面もあります。
組織の善し悪しが社員のパフォーマンスに影響するため、ODとTDは密接な関係性にあるといえます。
OPs(オペレーションズ)
OPsとは、勤怠管理・給与計算など定期的に発生する業務や入退社・異動といった従業員の勤務に関連する手続きを受け持つ機能です。定型業務が多く、戦略人事を効率的に進めるねらいでオペレーション機能を外部やグループ会社のBPOサービスにアウトソーシングする企業もみられます。税理士に年末調整業務を委託したり社会保険労務士に給与計算・勤怠管理を依頼したりすることもアウトソーシングの一つです。
業務に正確さが求められるため、会社と社員の信頼関係を保ち続けるためにもOPsは重要な役割を果たしています。また、採用業務や各種手続きで外部の担当者ともコミュニケーションを取る場面もあり、会社のイメージを形成する一面を持っているのも特徴です。

戦略人事を推進するタレントマネジメントシステム
戦略人事を実現するには、経営戦略に沿って「どのような人材が必要か」「今いる人材をどう活かすか」を考え、採用・育成・配置・評価へ落とし込む必要があります。そのためには、従業員一人ひとりのスキルや経験、適性、評価履歴などの人材情報を正しく把握することが重要です。
しかし、従業員情報が部署ごとに分散していたり、評価や配置の判断が経験や勘に偏っていたりすると、経営戦略と人事施策を結びつけられません。戦略人事を進めるうえでは、人材データを一元管理し、組織の状況を可視化が必要です。
タレントマネジメントシステムを活用すれば、従業員の能力やキャリア志向、評価結果などをもとに、適材適所の配置や人材育成を検討しやすくなります。経営層と人事部、現場が同じ情報を見ながら判断できるため、HRBPやCoEの役割を支える基盤になるでしょう。
また、定型的な人事業務を効率化できれば、人事部は経営戦略にかかわる施策や組織づくりに時間を充てやすくなります。タレントマネジメントシステムを活用し、人材情報を経営に活かせる状態を整えていきましょう。
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