算定基礎届を出さなかったらどうなる?【リスク】対象者・対象外の条件や提出期限もおさらい
「算定基礎届」とは、企業(雇用主)が従業員一人ひとりの社会保険料を正しく算出するための基礎となるため、必ず毎年提出しなければなりません。万一、算定基礎届の提出を怠ると、さまざまなリスクが発生する可能性があります。
本記事では、算定基礎届の提出を怠った場合に生じる具体的なリスクについて解説します。また、算定基礎届の提出が求められる従業員の条件と対象外、提出期限についてもあわせておさらいします。
算定基礎届の役割
算定基礎届は、健康保険と厚生年金保険の標準報酬月額を決定するための基礎となる届出書です。
企業は毎年7月に、日本年金機構へ従業員の4月から6月の報酬額を届け出る義務があります。これを「定時決定」といい、算定基礎届はその手続きの際に提出する書類です。
届出内容に基づいて、各従業員の標準報酬月額の基盤となる等級が決定されるため、算定基礎届は社会保険料の決定において重要な役割を担っています。
標準報酬月額とは
標準報酬月額とは、従業員の毎月の給料を1〜50(厚生年金は1〜32)の等級に分けたものです。
標準報酬月額は、年間に支払った給料額ではなく算定基礎届を提出する前の3か月分(4、5、6月)の給与をもとに算出し、原則として9月から翌年8月まで適用するのが一般的です。
複数月の平均から算出された標準報酬月額によって、社会保険料を簡単に計算できます。
算定基礎届を出さなかったらどうなる? 5つのリスク
算定基礎届は、毎年7月に提出することが決められています。仮に、何らかの理由によって提出できなかった場合はどうなるのでしょうか。
算定基礎届を出さないことで考えられるリスクを解説します。
- 年金事務所から催促を受ける
- 遡って修正手続きをする
- 罰則が科される
- 従業員からの信用を落とす
- 実際よりも高い標準報酬月額を指定されることもある
年金事務所から催促を受ける
算定基礎届の提出期限を過ぎても届出がない場合、年金事務所から催促を受けることになります。最初は文書による催促が一般的ですが、放置すると立ち入り調査などで強く働きかけられたり、年金事務所への来所を求められたりすることもあります。
煩雑な催促対応を強いられれば、事務的な負担が大きくなり業務の遂行にも支障をきたすでしょう。
遡って修正手続きをする
算定基礎届を提出しないままでいると、年金事務所から是正指導を受けることになります。是正指導では、過去の適用漏れ期間分についてさかのぼって算定基礎届を作成し、修正保険料を納付しなければなりません。
このとき、従業員一人ひとりについて、過去にさかのぼって報酬月額を確定する必要があります。膨大な資料の準備や計算作業が発生し、事務的な手間が大きくなるでしょう。
罰則が科される
算定基礎届の提出義務を怠ると、企業には罰則が科される可能性があります。
算定基礎届を提出しなかったり、あるいは内容に虚偽があったりした場合、厚生年金保険法102条1項1号に基づいて、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる恐れがあります。
従業員からの信用を落とす
算定基礎届を提出しないと、従業員一人ひとりの標準報酬報酬月額が正しく反映されません。結果として、従業員の一部に保険料の過払いや過少払いが発生する恐れがあります。過払いの場合も、従業員から不満の声が上がるでしょう。
標準報酬報酬月額が低く設定されると、将来受給する年金額が減額される可能性もあります。このように、算定基礎届の不備は、従業員の生活や老後に直接的な影響を及ぼしかねません。
また、組織に罰則が科せられることになれば、従業員の不信感はさらに高まり、企業に対する信用を大きく低下させるリスクにつながります。
実際よりも高い標準報酬月額を指定されることもある
算定基礎届を提出せず、年金事務所からの再三の催促や是正指導にも応じないでいると、各従業員の9月以降の標準報酬月額が、各行政によって一方的に決定されてしまう可能性があります。そうなると実態とかけ離れた水準の標準報酬月額が設定される可能性も否定できません。
標準報酬月額が高ければ高いほど、従業員と事業主の双方で負担する社会保険料の額も重くなります。本来より過剰な保険料負担を強いられることとなり、事業運営にとっても深刻な問題です。
過大な標準報酬月額の一方的決定は、企業の経営や財務の健全性を損なうリスクになります。
算定基礎届の提出が遅れた場合の対応
毎年7月に行われる算定基礎届において期限を過ぎてしまっても、提出自体は可能です。ただし、提出が遅れれば遅れるほど、標準報酬月額の決定作業も後手に回ってしまいます。
その結果、9月以降の保険料負担に影響が出る可能性もあります。万一、算定基礎届の提出期限を過ぎていることに気付いたら、早急に年金事務所に連絡をとり、指示にしたがって速やかに提出手続きを進めましょう。
算定基礎届の提出対象者
算定基礎届の提出対象者は以下の条件を満たす従業員です。提出の抜け漏れを防ぐためにも、対象者を把握しておきましょう。
【原則】7月1日時点で在職中のすべての被保険者
算定基礎届の提出対象者は、原則として7月1日時点で在職中のすべての社会保険被保険者です。社会保険料の定時決定は4、5、6月の給与をもとに算出するため、7月1日時点で社会保険に加入している従業員は必ず提出対象者に該当するといえます。
産前産後・育児・介護休業中も対象
産前産後休暇中や、育児・介護休業中の従業員も、社会保険被保険者である以上は算定基礎届の提出対象となります。休暇中といえど、雇用関係が継続している限り、算定基礎届に記載しなければなりません。
2か月以上勤務する短期労働者も対象
従業員51人以上の企業において、雇用期間が2か月を超えて見込まれる短期労働者は、算定基礎届の提出対象者です。
短期労働者とは、パート、アルバイトなど正規社員より短時間で勤務する人を指します。
ただし、ほかにも以下の要件を満たす必要があります。
- 週の所定労働時間が20時間以上ある
- 月額賃金が88,000円以上
- 学生ではない
- 特定適用事業所または国・地方公共団体に属する事業所に勤めている
70歳以上も対象
70歳以上になると厚生年金保険、75歳以上になると健康保険の被保険者ではなくなりますが、在職老齢年金制度における年金額改定のために算定基礎届の提出が必要です。
出向中も対象
自社(出向元)と雇用関係を維持したまま、従業員が別の企業(出向先)と雇用契約を結ぶ在籍出向では、算定基礎届の提出対象となるのが基本です。
該当の従業員の社会保険料をどちらの会社が負担しているかにもよりますが、一般的に在籍出向は自社(出向元)が負担するため、出向中の従業員も算定基礎届の提出対象者に含める必要があります。
算定基礎届の提出対象外
反対に算定基礎届の提出が不要となる従業員は以下の通りです。提出の有無に迷ってしまったら、条件を確認し判断し、必要な手配を進めましょう。
6月1日以降に被保険者になった
新規被保険者については、資格取得時に翌年8月までの標準報酬月額が決定しているため算定基礎届を提出する必要はありません。資格取得後の当初1年間は、算定基礎届での改定は行われないため、6月1日以降に入社した新規被保険者は提出の対象外です。
6月30日より前に退職した
算定基礎届の提出対象は原則として「7月1日時点で在職中の被保険者」です。そのため、6月30日よりも前にすでに退職している元従業員については、7月1日時点で雇用関係がない以上、算定基礎届の提出は必要ありません。退職日が6月30日以前であれば、対象外と判断できます。
7月〜9月に随時改定になる
報酬額の大幅な変動があり、7月から9月の間に月額変更届を提出して随時改定を行う予定の従業員については、算定基礎届の提出は必要ありません。
4月の昇給などで4月から6月の報酬平均と現行の標準報酬月額に大きな開きが出た場合は7月に、8月、9月に新たな報酬変動が予定されている場合はその月に、それぞれ月額変更届を提出し随時改定を行います。
この期間の大幅な報酬変動については、随時改定が優先されるため、別途算定基礎届を提出する必要はありません。
算定基礎届の提出期間と提出期限
算定基礎届の提出期間は、毎年7月1日から7月10日までの約10日間と非常に短い期間に設定されています。全国一斉の提出締め切りは7月10日となっており、この日を過ぎると遅延とみなされます。
6月中旬頃から日本年金機構より算定基礎届の様式一式が企業(事業主)宛に送付されてくるため、届き次第速やかに記入作業に着手し、期限までに間に合うよう準備を整える必要があります。
算定基礎届の提出先は、日本年金機構が全国に設置している事務センターか、管轄の年金事務所のいずれかです。
算定基礎届の提出方法は、郵送や事業所への直接持参、電子媒体(CDやDVDなど)の送付、電子申請(オンライン送信)のいずれかの方法から選択できます。いずれの方法を選んだとしても提出書類自体は、被保険者報酬月額算定基礎届と、該当者がいれば被保険者報酬月額変更届が必要です。
特に従業員数が多い大規模事業所においては、算定基礎届の作成作業自体に相当の時間を要します。提出書類一式の準備とあわせ、期限の7月10日に余裕を持って対応できるよう、早めに作業を進めることが大切です。
また、例年6月から7月は年金事務所や事務センターへの問い合わせが集中することも考えられるため、正しく理解して事前に備えておきましょう。
まとめ
算定基礎届は、適正な社会保険料の計算に欠かせない重要な届出書類です。従業員一人ひとりの標準報酬月額の決定のための基礎となり、毎年7月に提出が義務づけられています。
万一、算定基礎届の届出義務を怠るとさまざまなリスクが発生します。
年金事務所から再三の催促や是正指導を受けるだけでなく、最終的には法的な罰則の対象となり、事業主に罰金や懲役などのペナルティが科される可能性もあります。
さらに、届出を怠れば従業員の報酬月額が過少または過大に設定されてしまい、将来の年金受給額の減額や、企業と従業員の双方に過剰な保険料負担を強いられるなど多大な影響が出てくるでしょう。このような事態となれば、従業員からの不信感や不満が高まり、企業の信用を大きく失墜させかねません。
リスクを回避するためにも、算定基礎届の対象者を把握し、提出期間内に確実に届出を行うことが何より重要です。提出対象から漏れがないか、届出の期限を守れているかを確認し、算定基礎届に関する義務を適切に果たす必要があります。
地道な取り組みが、企業と従業員の健全な雇用関係を維持するうえで欠かせません。算定基礎届への適切な対応を重要な課題と位置づけて運用しましょう。
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