扶養とは? 税制上と社会保険上における違いや意味をわかりやすく解説
扶養とは、経済的に自立できない家族や親族を支える仕組みです。
この制度には、税金にかかわる「所得税制上の扶養」と、健康保険などにかかわる「社会保険上の扶養」の2つがあります。これらは別々の基準で判断されるため、片方には当てはまっても、もう片方には当てはまらないことがあります。
このように、所得税制上と社会保険上の扶養は異なり、両者の違いがわからないという方も少なくありません。
本記事では、扶養の意味について、税制上と社会保険上のそれぞれの観点からわかりやすく解説します。企業において、年末調整や諸手続きを担当する人事労務担当者はぜひ参考にしてください。
扶養とは
扶養とは、収入がない、あるいは収入が少ないため生計を立てられないという家族や親族を養うことを指します。経済的な援助を行う側は「扶養者」、援助される側は「被扶養者」と呼びます。
扶養は、所得税制上の扶養と社会保険上の扶養があり、状況によって、どちらにも該当する場合とどちらか一方のみ該当する場合があります。
また、被扶養者の収入が一定金額を超えると、扶養から外れ、所得税や住民税などの税負担が重くなります。
扶養控除とは
扶養控除とは、納税者が所得税制上の扶養対象親族がいる場合に受けられる所得控除のことです。
扶養控除では、納税者の収入から扶養控除額を引くため、課税所得金額を低くできます。課税所得金額が低くできれば、所得税や住民税額などの納税額も少なくなるという仕組みがあります。
控除対象となる扶養親族
扶養控除を受けられる控除対象扶養親族は、その年の12月31日に、以下の条件に当てはまる人が対象となります。
- 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること
- 納税者と生計を一にしていること
- 年間の合計所得金額が48万円(給与収入だけの場合は103万円)以下であること
- 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないまたは白色申告者の事業専従者でないこと
上記の条件を満たしていれば、納税者の扶養親族対象となります。
配偶者のための2つの所得控除
扶養控除と混同しがちな控除に、配偶者に関する控除が挙げられます。配偶者に関する控除には、配偶者控除と配偶者特別控除の2種類があります。
配偶者控除
配偶者控除とは、納税者の配偶者が一定の条件を満たす場合に、納税者が受けられる所得控除のことを指します。一般的に、納税者が1か所の給与所得のみの会社員の場合、年末調整で「給与所得者の配偶者控除等申告書」を会社へ提出すれば適用されます。
配偶者控除の適用要件
配偶者控除の対象となるためには、以下の適用要件を満たさなければなりません。
- 納税者本人の所得金額が1,000万円(給与収入で1195万円)以下であること
- 婚姻届を受理された配偶者であること(内縁関係は該当しない)
- 納税者と生計をともにしていること
- 年間合計所得金額は基礎控除48万円以下であること
- 給与収入のみを得ている場合は基礎控除と給与所得控除の103万円以下であること
- 青色申告者の事業専従者としてその年に給与の支払いを受けていないまたは白色申告者の事業専従者ではないこと
配偶者控除における控除金額は、納税者の所得金額と配偶者の年齢によって異なり、一般の配偶者は最大38万円、70歳以上の配偶者は最大48万円が控除されます。
配偶者特別控除とは
配偶者特別控除とは、納税者の配偶者に48万円を超える所得がある場合に適用できる所得控除です。
配偶者控除では、納税者の配偶者に48万円を超える所得があると控除適用外となってしまいます。そこで、配偶者に関する一定の要件を満たせば、納税者が所得控除を受けられるようにした制度です。
配偶者特別控除の適用要件
配偶者特別控除の対象となるためには、以下の適用要件を満たさなければなりません。
- 納税者本人の所得金額が1,000万円(給与収入で1195万円)以下であること
- 婚姻届を受理された配偶者であること(内縁関係は該当しない)
- 納税者と生計をともにしていること
- その年に配偶者控除を受けていないこと
- 配偶者の所得金額が、48万円超~133万円以下(給与収入が103万円超~201万6,000円未満)であること
- 青色申告者の事業専従者としてその年に給与の支払いを受けていない
- 白色申告者の事業専従者ではないこと
- 配偶者が、給与所得者の扶養控除等申告書または従たる給与についての扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていないこと
- 配偶者が、公的年金等の受給者の扶養親族等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていないこと
上記のように、配偶者控除に比べると配偶者の所得要件が緩和されている内容になっています。
税制上の扶養と社会保険上の扶養
扶養には、税制上の扶養と社会保険上の扶養があります。税制上と社会保険上の扶養には、どのような違いがあるのでしょうか。両者について、解説します。
税制上の扶養
税制上の扶養は、被扶養者の年間合計所得が48万円(給与所得のみの場合は103万円)以下の場合に適用される扶養を指します。税制度に関する扶養であり、適用されれば、納税者が納付すべき所得税や住民税額が少なくなります。
扶養控除に関する控除額は、以下のように扶養親族の年齢によって異なります。
区分 | 控除額 |
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一般の扶養親族 (23歳以上70歳未満) | 38万円 |
特定扶養親族 (19歳以上23歳未満) | 63万円 |
老人扶養親族 (70歳以上) | 常に同居している扶養親族以外:48万円 常に同居している扶養親族:58万円 老人ホームへ入所している場合は「常に同居」扱いにならない |
被扶養者の年間合計所得が48万円(給与所得のみの場合は103万円)を超えた場合は、扶養対象から外れるため、納税者は本来の納税額を納付しなければなりません。
参照:『No.1180 扶養控除』国税庁
参照:『専門用語集』国税庁
社会保険上の扶養
社会保険上の扶養とは、被扶養者が保険料の負担なしに健康保険に加入できる扶養制度を指します。ただし、被扶養者は健康保険に加入できても一部の給付は受けらません。
また、配偶者として厚生年金の扶養になる場合は、保険料の支払いなしで国民年金に第3号被保険者として加入している状態となります。
健康保険と厚生年金保険の扶養対象となる要件は、それぞれ以下の通りです。
健康保険 | 以下のいずれかに該当する場合に対象 ・同一世帯に属している場合は、年収が130万円未満(対象者が60歳以上もしくは障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であり、なおかつ被保険者の年収の2分の1未満 ・同一世帯に属していない場合は、年収が130万円未満(対象者が60歳以上もしくは障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であり、被保険者からの援助による収入額より少ない |
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厚生年金 | 以下のいずれかに該当する場合に対象 ・厚生年金に加入して保険料を納付する国民年金の第2号被保険者の配偶者で、20歳以上60歳未満の者(3号被保険者)かつ年間収入が130万円未満である ・60歳以上の方もしくは障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は、年間収入が180万円未満であることに加えて、同居をしている場合、収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満である |
また、社会保険の扶養対象には年齢制限はありません。しかし、75歳以上になったら後期高齢者医療制度へ移行するため、対象者自身が後期高齢者医療制度に加入します。
そのため、移行のタイミングで社会保険の扶養対象からは外れることになります。
参照:『被扶養者とは? | こんな時に健保』全国健康保険協会
参照:『国民年金の第3号被保険者制度のご説明』日本年金機構
扶養に関する年収の壁
扶養に大きくかかわるのが、被扶養者の年収であり「年収の壁」ともいわれています。扶養にかかわる年収の壁にはどのような種類があるのでしょうか。具体的な種類と内容を解説します。
103万の壁
103万円の壁とは、所得税の課税対象となるかどうかの年収目安です。被扶養者や配偶者の年収が103万円を超えると、所得税の課税対象となります。
被扶養者や配偶者に収入があっても、基礎控除48万円、給与所得控除55万円(合計103万円)を受けられるため、103万円以内の収入であれば、課税所得が0円になるため、所得税の課税対象となりません。
103万円を超える収入があると、その金額に応じて課税所得も発生することになるため、所得税が発生するということです。
106万と130万の壁
106万と130万の壁とは、社会保険に加入するかどうかの年収目安です。被扶養者や配偶者であっても、一定以上の収入がある場合、社会保険に加入することになり、毎月の保険料を負担しなければなりません。
年収130万円を超えると、社会保険上の扶養から外れ、自分で社会保険料に加入しなければなりません。なお、厳密には、今後1年間の月額賃金が10万8,333円を超える見込みの場合で、年収にして130万円が目安になっています。
年収106万円を超え、勤務先従業員数が一定の場合には、原則の加入条件を満たさなくとも社会保険への加入が義務付けられています。このような特別の加入条件を課された事業所を特定適用事業所と呼びます。
2024年9月までは社会保険被保険者数101人以上が特定適用事業所の規模要件でしたが、2024年10月からは社会保険被保険者数51人以上まで適用範囲が拡大されました。
なお、厳密には、今後1年間の月額賃金が8万8,333円を超える見込みの場合で、年収にして106万円が目安になっています。
150万の壁
150万円の壁とは、配偶者特別控除を満額適用されるかどうかの年収目安です。配偶者の年収が150万円を超えると、配偶者特別控除の満額(38万円)控除が受けられなくなり、控除額が36万円以下となるということです。
ただし、配偶者特別控除額は、配偶者の所得だけでなく納税者の所得金額によっても変動するため、注意しましょう。
扶養に入るメリット
扶養に入るメリットにはどのような点があるのでしょうか。具体的なメリットを紹介します。
- 税負担が軽減される
- 社会保険料を払わなくてよい
税負担が軽減される
扶養に入ると、納税者が扶養控除や配偶者(特別)控除を受けられるため、所得税や住民税などの税負担を軽減できます。
さらに、被扶養者も一定の条件を満たしていれば、所得税を支払わなくて済みます。このように、扶養に入ると納税者も被扶養者も税負担を軽減できるというメリットがあります。
社会保険料を払わなくてよい
社会保険の扶養に入ると、被扶養者は社会保険料を支払わなくてよいというメリットがあります。被扶養者は、保険料の支払いをせずに、医療を受けたり年金を受け取ったりできるということです。
被扶養者が働いているとしても、社会保険料が引かれないため、扶養に入っていない場合よりも手取り金額が増えます。
扶養に入るデメリット
扶養に入る場合、メリットだけでなくデメリットもあります。具体的にどのような点がデメリットになるのかあらかじめ把握しておきましょう。
- 所得金額を一定額に抑えなければならない
- 一般的な厚生年金加入者よりも、年金受給額が少なくなる
扶養に入るためには、税制上においても社会保険上においても一定の要件を満たさなければなりません。特に、所得要件が設定されているため、被扶養者になるためには所得金額を一定未満にする必要があります。
所得金額を一定額に抑えなければならないという点はデメリットといえるでしょう。
また、社会保険における年金の被扶養者になると、国民年金への加入となるため、将来受け取れる年金は国民年金だけです。一般的な厚生年金加入者に比べて、年金受給額が少なくなる点も、デメリットの一つです。
まとめ
扶養とは、収入がない(少ない)ため、生計を立てられないという家族や親族を養うことです。
扶養には、税制上の扶養と社会保険上の扶養があります。扶養に入ることで、税負担が軽減されたり社会保険に加入できたりと、さまざまなメリットを受けられます。
扶養に入るためには、所得制限を含めたさまざまな適用要件を満たす必要があるので、正しく理解しておきましょう。