パート・アルバイト雇用契約書の発行ルールを徹底解説|必要性と記入のポイント、書き方の例

パート・アルバイト雇用契約書の発行ルールを徹底解説|必要性と記入のポイント、書き方の例

パートやアルバイトを雇用する際に、雇用契約書を作成・交付する義務はありません。しかし、のちのトラブルを避け、従業員との信頼関係を築くためには、雇用契約書を交付するのがおすすめです。

本記事では、パート・アルバイトに対して雇用契約書を発行する必要性をはじめ、記入する際のポイントや書き方の例まで詳しく解説します。

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    パートタイム労働者の法的定義とは

    パートとアルバイトに法律上の違いはなく、どちらもパートタイム労働者(短時間労働者)として区分されます。

    厚生労働省は、パートタイム労働法を根拠に、パートタイム労働者を「1週間の所定労働時間が、同じ事業所で雇用される通常の労働者の所定労働時間に比べて短い労働者」と定義しています。通常の労働者とは、正社員やフルタイム勤務の契約社員などを指します。

    パートタイム労働者は、契約期間や月間の勤務日数、勤務時間などを柔軟に調整できる傾向にあるのが大きな特徴です。

    参照:『パートタイム労働者とは』厚生労働省

    パートも雇用契約書は必要? ないとどうなる?

    雇用契約書とは、企業と従業員との間で取り決めた労働条件を書面化し、両者合意のうえで雇用契約が成立した旨を証明する書類です。

    民法上、口頭であっても双方の合意があれば契約は成立するため、企業が雇用契約書を交付する義務はありません。パートタイム労働者に限らずすべての雇用形態においても同様で、雇用契約書がなくても違法ではないのです。

    しかし、雇用契約書を取り交わさず口頭でやり取りをしただけでは、労働条件についての認識違いや勘違いなどによるトラブルが起きやすくなります。

    また、労働基準法第15条により、雇用する従業員に対して、労働条件を明示した労働条件通知書を交付することが義務づけられています。

    パートタイム労働者の増加にともない、パート・アルバイトとの労使トラブルが発生することもあるため、労働条件通知書とあわせて雇用契約書を取り交わす企業が多く存在するのです。

    パート・アルバイト雇用契約書の6つの記入ポイント

    パートやアルバイトの雇用契約書を記入する際の注意点を解説します。

    • 同一労働同一賃金を適用し正社員と差をつけない
    • 社会保険の適用範囲を理解する
    • 有期・無期を明確にする
    • 始業・終業時刻を明確にする
    • 最低賃金を下回らない
    • 法律上明示が必要な項目を網羅する

    同一労働同一賃金を適用して正社員と差をつけない

    同一労働同一賃金とは、雇用形態に関係なく「企業や団体内で同一の仕事をしていれば、同一の賃金を支給する」という考え方です。

    正社員とパートタイム労働者を含む非正規雇用労働者との待遇差の解消を目的として、2020年4月1日より「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」が施行されました。

    同法では、能力や経験、勤続年数などが正社員と同一と判断された場合に、正社員とパートタイム労働者間で不合理な待遇差をつけることを禁止しています。どのようなケースが該当するかは、厚生労働省の『同一労働同一賃金ガイドライン』で確認してみましょう。

    参照:『同一労働同一賃金特集ページ』厚生労働省
    参照:『同一労働同一賃金ガイドライン』厚生労働省
    参照:『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』e-Gov法令検索

    社会保険の適用範囲を理解する

    パートタイム労働者と正社員の待遇差については、給与や雇用期間だけでなく、社会保険のような福利厚生の適用範囲においても注意が必要です。

    社会保険の加入対象は、フルタイムで働く従業員にだけ適用されるものではありません。社会保険は、パート・アルバイトであっても、1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が通常の労働者(正社員等)の4分の3以上であれば、加入する必要があります。

    また、4分の3要件を満たさなくとも、従業員数101人以上の企業で働いていて、以下の条件をすべて満たすパート・アルバイトも社会保険の加入対象です(2024年3月時点)。

    ・週の所定労働時間が20時間以上
    ・月額賃金が8.8万円以上
    ・2か月を超える雇用の見込みがある(フルタイムで働く方と同様)
    ・学生ではない

    引用:『社会保険の加入対象により手厚い保障が受けられます。』政府広報オンライン

    また、2024年10月以降は、従業員数51人以上の企業で働くパート・アルバイトも、上記の条件を満たせば社会保険の加入対象とされます。

    有期・無期を明確にする

    パートタイム労働者を採用する際は、有期雇用契約・無期雇用契約のどちらかを選択しなければなりません。

    有期雇用契約は、採用時に契約期間を定める契約です。労働基準法第14条では、雇用期間の上限を原則3年、専門的な知識やスキルを有する労働者や満60歳以上の労働者との契約については5年と定められています。

    一方、無期雇用契約は、雇用期間を定めない契約です。従業員は、みずから退職を申し出ない限り定年まで働き続けられます。

    「有期雇用」「無期雇用」は労働条件通知書の必須項目なので、採用時に決めておきましょう。

    参照:『労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)に関する法令・ルール』厚生労働省

    始業・終業時刻を明確にする

    パートタイム労働者の雇用契約書を作成する際は、始業・終業時刻を明確にします。あらかじめ始業時刻や終業時刻が定められている場合は、雇用契約書に記載しましょう。

    しかし、多くのパート・アルバイトは正社員と異なり、月の勤務日数が変動し、勤務する時間帯が異なる条件であることが多くあります。

    シフト制で始業時刻や終業時刻が決まっていない場合は、主な勤務パターンを記載したうえで、シフトの組み方に関する大まかな規定も記載しましょう。

    最低賃金を下回らない

    パートタイム労働者の雇用契約書を作成する際は、最低賃金法で規定されている賃金を下回っていないか確認することも重要です。

    最低賃金には、地域別最低賃金と特定最低賃金があります。

    地域別最低賃金都道府県ごとに定められた最低賃金
    特定最低賃金業種ごとに定められた最低賃金

    どちらの最低賃金も適宜改定されるため、契約書を作成するタイミングで確認しましょう。

    参照:『最低賃金法』e-Gov法令検索

    法律上明示が必要な項目を網羅する

    雇用契約書を「雇用契約書兼労働条件通知書」として作成する際は、法律上明示しなければならない項目を網羅する必要があります。雇用契約書に記載すべき項目については次の章で詳しく解説するため、参考にしてください。

    パートの雇用契約書に記載しておくと安全な項目

    パートタイム労働者向けの雇用契約書に記載しておくべき項目を、詳しく解説します。

    パートタイム労働者で必須の4項目

    パートタイム労働者の雇用契約書に記載しなければならない項目は、以下の4つです。

    1. 昇給の有無
    2. 退職手当の有無
    3. 賞与の有無
    4. 雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口

    上記の4項目は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」の施行規則第2条により、明示が義務づけられています。

    すべての雇用契約で必須の項目

    パートタイム従業員に限らず、すべての雇用契約において明示が必須とされている絶対的明示事項は、以下の通りです。

    1. 労働契約の期間
    2. 有期雇用契約の場合は契約更新の有無、契約更新ありの場合は更新するか否かの判断基準
    3. 就業場所
    4. 従事する業務の内容
    5. 始業時刻・終業時刻
    6. 所定労働時間を超える労働の有無
    7. 交替制勤務の場合は交替期日あるいは交替順序などに関する事項
    8. 休憩時間
    9. 休日
    10. 休暇
    11. 賃金の決定・計算方法
    12. 賃金の支払い方法
    13. 賃金の締め切り・支払いの時期に関する事項
    14. 昇給の関する事項
    15. 退職に関する事項 (解雇事由を含む)

    上記の項目は、労働基準法施行規則によって記載が義務づけられています。

    参照:『労働基準法施行規則』e-Gov法令検索

    企業ルールに応じて必須の項目

    企業が独自に定めたルールに応じて記載が必須となる項目を、相対的明示事項といいます。次のような項目が該当する場合は、雇用契約書に記載しましょう。

    1. 賞与や各種手当
    2. 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払い方法、支払い日
    3. 労働者の費用負担が発生するもの(食事や作業用品など)
    4. 安全衛生に関するもの
    5. 職業訓練に関するもの
    6. 災害補償や業務外の傷病扶助
    7. 表彰および制裁
    8. 休職に関する事項

    パートの雇用契約書の主な記入例・書き方

    パートタイム労働者の雇用契約書の主な記入例をご紹介します。

    項目記入例
    契約期間2024年4月1日〜2025年3月31日
    勤務時間勤務時間が固定の場合始業:9時00分
    終業:15時00分
    休憩:12時00分~13時00分の60分
    勤務時間が変動する場合【パターン1】
    始業:9時00分
    終業:15時00分
    休憩:12時00分~13時00分の60分

    【パターン2】
    始業:11時00分
    終業:17時00分
    休憩:14時00分~15時00分の60分
    昇給の有無昇給:あり
    退職手当の有無退職手当:あり
    賞与の有無賞与:あり
    雇用管理の改善などに関する事項にかかる相談窓口本社人事部人事課
    (電話:××-××××-××××)

    契約期間

    契約期間については、原則として「雇用開始日から満了日まで」を記載します。さらに、有期雇用契約の場合は、以下の内容についても記載が必要です。

    • 契約更新の有無
    • 更新する場合の判断基準
    • 無期雇用への転換ルール など

    勤務時間

    勤務時間については、固定制か変動制かによって記載方法が異なります。

    残業が発生する可能性がある場合は「業務の都合により、時間外労働や休日労働を命じることがある」などと補足しておきましょう。労働時間を「1日8時間・週40時間」の法定労働時間の範囲内に収めることも忘れてはなりません。

    勤務時間が固定の場合

    就業時間があらかじめ決まっている場合は、以下のように記載します。

    始業9時00分
    終業15時00分
    休憩12時00分~13時00分の60分

    上記の勤務時間に加え「会社都合により勤務時間を変更できる」と記載しておくと柔軟に対応できます。

    勤務時間が変動する場合

    シフト制などで勤務時間が変動する場合は、パートタイム労働者向けの具体的なシフトの時間帯を示さなければなりません。

    パターン1パターン2
    始業9時00分始業11時00分
    終業15時00分終業17時00分
    休憩12時00分~13時00分の60分休憩14時00分~15時00分までの60分

    複数の勤務パターンを提示して、想定される勤務時間を網羅してください。

    昇給の有無

    パートタイム労働者に対しては、昇給の有無に関して明示することが義務づけられています。以下のように記載してください。

    昇給あり
    昇給なし

    昇給がある場合は、昇給するための条件や時期も記載しておきましょう。

    退職手当の有無

    退職手当の有無についても、下記のような記載が必要です。

    退職手当なし
    退職手当あり
    退職手当あり(業績により不支給の場合あり、勤続3年未満は不支給)

    企業において退職金制度があったとしても、支給対象要件を満たさない場合は「退職手当:なし」と明示できます。また、企業の業績が悪かったり、勤続年数を満たさなかったりすると支給しない場合は、その条件をあわせて記載しましょう。

    賞与の有無

    賞与の有無についても、下記のように記載しておく必要があります。

    賞与なし
    賞与あり
    賞与あり(業績や勤務評価によって不支給の場合あり)

    業績などにより支給されないケースがある場合は、その条件をあわせて記載しましょう。

    雇用管理の改善などに関する事項にかかる相談窓口

    パートタイム労働者を雇用する際は、給与をはじめ昇給や賞与、退職手当などの雇用管理に関する相談窓口について、雇用契約書に記載しなければなりません。

    雇用管理の改善に関する相談窓口は以下の通りとする。
    本社人事部人事課(電話:××-××××-××××)

    担当部署や連絡先などを具体的に明記しましょう。

    パートの雇用契約書のサイン後に辞退されたら?

    パート雇用契約書にサインしたあとに、労働者が辞退を申し出る可能性も否定できません。基本的には、雇用契約書を交わすことで契約は成立し、労使ともに契約内容に拘束されます。

    期間に定めのあるパートやアルバイトには、やむを得ない事由がなければ、原則として期間中の契約解除は労使双方ともにできません。

    しかし、契約期間の初日から1年を経過すれば、労働基準法附則第137条の定めにより、自由にいつでも契約を解除できるとされています。立場の弱い労働者を保護するため、民法の原則が修正されるのです。ただし、やむを得ない事由は明確にされていないため、必要があれば法律の専門家へ相談しましょう。

    無期雇用契約については法律で明文化されていないため、いつでも契約を解除できると考えられます。一般的には解約の申し入れ後2週間で雇用契約を終了(退職)したと扱われます。

    参照:『民法 第628条』e-Gov法令検索
    参照:『労働基準法附則第137条』e-Gov法令検索

    パート・アルバイトでもできるだけ雇用契約書を準備しましょう

    パートやアルバイトを雇用する際、法律上雇用契約書の作成と交付は義務づけられていませんが、労使間のトラブルを回避するためにも契約書を取り交わしておくと安心です。

    パートタイム労働者の雇用契約書を「雇用契約書兼労働条件通知書」として利用する場合には、正社員のものよりも多くの事項を記載しなければなりません。必須項目が網羅されているか、正社員との不合理な格差がないかを確認し、雛形を作成しておきましょう。

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