【人事向け】雇用契約書を電子化する方法とは|5つのメリットと3つの注意点を解説
従来、労働者を雇用する際の契約書は紙媒体で作成し、直接手渡しするのが一般的でした。しかし、2019年4月に電磁的方法による労働条件の明示が認められたことに加え、テレワークの普及により、雇用契約書や労働条件通知書の電子化を導入する企業が増えています。
本記事では、雇用契約書の電子化について解説し、方法やメリット・デメリット、注意点などを紹介します。
雇用契約書は電子化できる
雇用契約書は、民法623条の規定に基づいて作成される重要な書類です。雇用主と従業員が雇用契約の内容について合意に達したことを明確に示すものです。
労働条件通知書の電子化が、2019年4月1日の改正法施行にともない解禁されました。PDFなどの電子データとして作成・交付ができ、オンライン上での契約も可能です。これにともない、労働条件通知書とあわせて作成される雇用契約書を電子化する企業も増加しています。
雇用契約書を電子化する方法
雇用契約書を電子化する場合、まずは専用の労務管理システムの導入が必要です。また、雇用契約書と労働条件通知書のどちらが必要かによって、電子化する方法が異なります。
雇用契約書を電子化する方法について3つのケースに分けて紹介します。
- 労働条件通知書だけ電子化・交付する場合
- 雇用契約書と労働条件通知書をそれぞれ電子化・交付する場合
- 労働条件通知書兼雇用契約書を電子化・交付する場合
労働条件通知書だけ電子化・交付する場合
労働条件通知書のみを電子化し、従業員に雇用契約書を交付する方法です。
雇用契約書の交付は法的義務ではないため、労働条件通知書のみを電子化している一部の企業も見られます。労働条件通知書のひな形は、厚生労働省や各地方労働局のWebサイトからダウンロードが可能です。
ただし、労働条件通知書だけを電子化・交付した場合、労働条件への合意を含め、従業員の同意を証明する記録が残らないため、のちにトラブルが発生する可能性があります。そのため、労働条件通知書のみの交付はできる限り避けることをおすすめします。
雇用契約書と労働条件通知書をそれぞれ電子化・交付する場合
電子化された労働条件通知書とは別に、労働条件などの内容を盛り込んだ雇用契約書をデータ形式で準備し、従業員に交付している企業もあります。
2種類の書類を個別に作成することで、従業員に対して労働条件を明確に提示した証明ができます。ただし、従業員を雇用するたびに2つの書類を作成しなければならず、手間がかかりやすいという欠点があります。
労働条件通知書兼雇用契約書を電子化・交付する場合
雇用条件を従業員に明確に伝えつつ、事務処理の負担を最小限に抑えるには、雇用契約書と労働条件通知書の2つを兼ねた書類を作成し、電子化するのがもっとも効率的です。
労働条件通知書兼雇用契約書に「就業規則にしたがって業務を遂行する」ことや「電子化による通知」などに同意する旨の一文を加え、従業員の署名と押印を残します。法的にも問題なく、あとでトラブルが起こりにくくなるでしょう。
雇用契約書を電子化する6つのメリット
雇用契約書を電子化するメリットを解説します。
- 入社契約・管理業務の効率化
- ペーパーレスによるコスト削減
- 記載・転記ミスの削減
- 企業と従業員のコミュニケーションが円滑に
- 場所を選ばず確認可能
- リモートワークへの対応
入社契約・管理業務の効率化
雇用契約書の電子化により、入社手続きや契約管理業務を効率化できます。
労務管理システムを導入して電子化を実施すれば、作業をオンラインで完結させることが可能です。従業員はパソコン上で契約書を確認し、電子署名をするだけで手続きが完了します。
また、人事担当者は契約書の作成や送付、保管をデジタルで一元管理できるため、管理の手間が省けます。紙とは違って、必要なときにいつでもすぐ情報にアクセスでき、契約内容の確認や変更もスムーズです。
ペーパーレスによるコスト削減
ペーパーレス化によって、コスト削減につながる点も雇用契約書を電子化するメリットの一つです。
紙の契約書で管理する場合、印刷・郵送費用や保管スペースの確保など、さまざまなコストが発生します。署名や送付・返送にかかるコストも見逃せません。
特に、大量の契約書を扱う企業では、金銭的コストが膨大になることもあるでしょう。雇用契約書を電子化することで、紙や印刷、郵送にかかる費用を大幅に削減できます。
雇用契約書を保管する物理的なスペースが必要なくなり、オフィスの活用範囲が広がります。
記載・転記ミスの削減
記載ミスや転記ミスを削減できる点も、雇用契約書の電子化によるメリットです。
紙の契約書では、手書きや手入力による誤りが起こりやすく、修正にも手間がかかります。また、契約内容を別の書類に転記する際にもミスが発生しやすいです。
ミスがあると、単なる事務的な問題だけでなく、法的なトラブルに発展する可能性もあります。
労務管理システムを導入して契約書を電子化すると、テンプレートに必要な情報を入力するだけで正確な契約書の作成が可能です。
システムには入力内容のチェック機能や自動計算機能が備わっているため、ミスを防止する仕組みが整っています。また、電子データとして保管されるため、転記の必要もなくなります。
企業と従業員のコミュニケーションが円滑に
雇用契約書の電子化には、企業と従業員のコミュニケーションを円滑にする効果もあります。紙の契約書ではやり取りに時間がかかり、対面での説明や署名にも手間がかかります。
一方、雇用契約書を電子化すると、オンラインで契約内容を共有し、リアルタイムで質問や回答ができるため、迅速なコミュニケーションが可能です。
従業員は自分のペースで内容を確認でき、企業は従業員の理解度を確認しながら丁寧に説明できます。双方の負担が軽減され、契約手続きがスムーズに進むでしょう。
場所を選ばず確認が可能
雇用契約書を電子化すれば、場所を問わずいつでも契約内容を確認できます。
紙の契約書は保管場所が限られており、外出先で確認したい場合に不便です。
電子化された雇用契約書は、インターネットに接続されたパソコンやスマホ、タブレットからどこでもアクセスできます。複数の従業員が同時に閲覧することも可能です。
リモートワークへの対応
リモートワークに対応しやすい点もメリットです。
雇用契約書を電子化すれば、リモートワークの従業員ともオンラインで契約手続きを完結できます。従業員は自宅などから契約書を確認し、電子署名を行えます。企業側も出社せずに手続きを進められるため、業務の効率化につながるでしょう。
雇用契約書を電子化する3つのデメリット・課題
雇用契約書の電子化はメリットがある一方で、デメリットもあります。3つ課題・デメリットを解説します。
- 導入・維持コストがかかる
- 操作に慣れる必要がある
- 定着までに時間がかかる
導入・維持コストがかかる
雇用契約書の電子化には労務管理システムの導入が必要であり、初期費用やランニングコストがかかります。高機能なシステムほど費用負担が大きくなりがちです。費用対効果を考慮し、自社のニーズに適したシステムを選択することが重要です。
導入前に見積もりを取り、機能と価格のバランスを比較検討します。長期的な視点で電子化による業務効率などのメリットを考慮して、トータルコストを評価するとよいでしょう。
操作に慣れる必要がある
雇用契約書の電子化において、労務管理システムの操作に不慣れな従業員や担当者がいる場合、スムーズな導入が難しいかもしれません。特に、日常的にスマホやパソコンを触っていない人は、操作に戸惑いがあったり誤入力によるトラブルが発生したりする可能性があります。
システム導入前に十分な研修を実施し、マニュアルを作成してわかりやすい説明を心がけるようにしましょう。
また、サポート体制を整えてトラブル発生時に迅速に対応できる環境を整え、操作に不安がある従業員には個別のフォローを行って習熟度を高めていくことが重要です。
定着までに時間がかかる
労務管理システムを導入して雇用契約書の電子化を進めても、従業員に定着させるまでには一定の時間がかかります。導入初期は問い合わせや操作ミスが増える可能性があるでしょう。
導入前に十分な準備期間を設け、説明会の開催やマニュアルの作成など、従業員への周知・教育活動を計画的に実施することをおすすめします。
さらに、導入後も継続的なフォローアップを行って定着状況を確認し、問い合わせ対応や操作サポートの体制を整えて対応する必要があります。
雇用契約書を電子化する際の注意点
雇用契約書を電子化する場合、注意したい3つのポイントを紹介します。
- 電子帳簿保存法への対応
- 改ざんの防止
- 労働条件通知書兼用への対応
電子帳簿保存法への対応
雇用契約書の電子化を行う際は、電子帳簿保存法への対応が不可欠です。電子帳簿保存法は、国税に関連する各種書類について電子的な保存を認める目的で1998年に制定されました。
電子帳簿保存法では、書類に応じた一定期間の保存が義務づけられている点に注意が必要です。電子データでの保存が認められるためには、保存データの真正性や見読性、検索性などの一定の条件を満たす必要があります。
改ざんの防止
雇用契約は、労働条件を取り決める重要な契約です。そのため、企業が交わすさまざまな契約の中でもトラブルに発展するリスクが比較的高いといえます。
将来的なトラブルを未然に防ぐためにも、電子化する場合も雇用契約書は改ざんが不可能で、原本としての信頼性と完全性が確保されたものでなくてはなりません。
労働条件通知書兼用への対応
雇用契約書と労働条件通知書を一体化している場合、労働条件通知書に関する規定が適用されるため、注意が必要です。
労働条件通知書は、本来紙媒体での交付が求められている書類です。したがって、会社側の判断のみで電子化することは避けるべきでしょう。
労働条件通知書を電子化してメールなどで送付することについて、契約の相手方である労働者の意向を事前に確認し、同意を得ておく必要があります。
雇用契約書を電子化する流れ・決めること
雇用契約書を電子化する流れを紹介し、それぞれのステップで検討すべきことについて解説します。
- 現状把握
- 機能要件のまとめ
- 電子化の範囲、本人確認方法の決定
- サービス比較、無料トライアル
- 社内説明、理解促進
- 導入、契約書の交付
1.現状把握
雇用契約書を電子化する際は、まず現状を正確に把握します。作成・送付・締結・回収といった各工程にかかる時間とコストを確認しましょう。
どの部分を改善するか、どのくらい工数が削減できそうかを検討します。
2.機能要件のまとめ
次に、雇用契約書の電子化に必要なシステムの機能要件をまとめます。たとえば、契約書の作成だけでなく、従業員への送付から締結、回収まで一体的にサポートしてほしいなら、タスク管理機能もあるといいかもしれません。
また、雇用契約書の電子化を含む労務管理・入社手続きだけでなく、従業員情報を一元管理して、勤怠・給与・人材マネジメントの効率化をはかるなら、ワンストップ型システムを選んだり、他サービスと連携できたりするとよいでしょう。
従業員一人ひとりの情報を一元管理したい場合は、人事システムの導入が欠かせません。
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3.電子化の範囲、本人確認方法の決定
業務全体の電子化を目指すのか、雇用契約書に特化して電子化を進めるのか、電子化の範囲を決定しましょう。
加えて、本人確認の方法も決めます。本人確認方法には、主に「電子証明書」と「メール認証(電子サイン)」の2つがあります。厳格性を求めるなら、電子証明書をおすすめします。
4.サービス比較、無料トライアル
雇用契約書の電子化に役立つシステムは多岐にわたるため、必ずサービスの比較をして選択します。無料トライアルが可能なシステムなら、利用するとよいでしょう。操作性を確認したうえで削減工数を見積もることもできます。
また、システムの機能面だけでなく、サポート体制が充実しているか、ていねいにフォローしてくれるかなども、システムを検討するうえで重要なポイントです。
5.社内説明、理解促進
雇用契約書を電子化するシステムの導入が決まったら、社内への説明を行います。導入効果についても試算して説明すると、承認が得やすくなるでしょう。
また、従業員に対しても業務フローやシステムの使用方法を事前に説明することが重要です。
6.導入、契約書の交付
社内の理解が得られたら、システムを導入し、雇用契約書の電子交付を行います。
実際に利用していく中では、さまざまな質問や意見・提案が寄せられるはずです。システムに備わっているヘルプ機能やサポート体制を活用しながら、改善をはかっていくとよいでしょう。
雇用契約書の電子化で効率化を実現
雇用契約書は電子化が可能です。また、労働条件通知書と兼用もできます。
雇用契約書の電子化に向けてシステムを導入すると、入社契約・管理業務の効率化やペーパーレス化によるコスト削減など多くのメリットがあります。
生産性の向上にもつながるため、雇用契約書の電子化だけでなく、労務管理全体をWeb上で完結できるシステムを検討してみてはいかがでしょうか。
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雇用契約書ほか、電子化した書類は「One人事」で一括管理ができます。
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