雇用保険の適用事業所とは|必要になる条件や設置方法、対応しない場合のリスクを解説
一定条件を満たす企業は、「雇用保険適用事業所」として手続きを行う必要があります。申請が遅れると罰則が科せられるおそれもあるため、制度の意義や必要性を把握し、手続きの方法を事前に確認しておくことが大切です。
本記事では、雇用保険の適用事業所の概要や適用される条件、手続きの方法などについて解説します。
雇用保険の適用事業所とは
はじめに、雇用保険の適用事業所の概要を解説します。
「雇用保険の適用を受ける事業所」のこと
雇用保険の適用事業所とは、簡単にいうと「雇用保険に加入できる事業所」のことです。雇用保険に加入する際には、まず自社を『適用事業所』として登録しなければなりません。
雇用保険の適用事業所として申請が必要になる条件
従業員を1人でも雇用する事業所は、原則として雇用保険の適用事業所と見なされます。事業が成長して「従業員を雇用しよう」という段階になったら、採用活動とあわせて適用事業所に認定されるための手続きを行いましょう。
雇用保険の適用事業所にならないケースもある
雇用保険の適用事業所と見なされるということは、雇用保険に加入する義務を負うということです。しかし、なかには例外的に、雇用保険への加入が任意となるケースもあります。
基本的に雇用保険は強制加入の保険
基本的に、雇用保険への加入は任意ではなく、一定条件を満たす事業所はすべて加入しなければなりません。なお、例外として、以下の条件に当てはまる事業所は雇用保険への加入が任意となります。
個人経営の農林水産業を営み、かつ雇用している労働者が常時5人未満の場合 |
たとえば、家族経営の農場や牧場などが該当するでしょう。上記の条件を満たす事業所が雇用保険に加入するかどうかは、事業主の意思に任されています。
ただし、上記の事業所に該当していても、雇用している従業員の2分の1以上が雇用保険への加入を希望する場合、対象となる従業員を雇用保険へ加入させる必要があります。
雇用保険の基本について
雇用保険という制度そのものの概要を解説します。
雇用保険とは労働者の「失業や休業」に備える制度
雇用保険とは、働く意欲がある人の就労や、雇用継続を支援する国の保障制度です。働く人が失業した場合や休業した場合に、各種手当や就労支援などのサポートを受けられます。
手当の中には基本手当や傷病手当、特例一時金、技能習得手当などがあり、それぞれ条件を満たすことで受給できます。また、コロナ禍によって申請件数が増加した「雇用調整助成金」も、雇用保険の枠組みの一つです。
雇用保険の被保険者となる条件
冒頭では「事業主が雇用保険に加入する条件」を解説しましたが、従業員を雇用保険に加入させるためには、従業員自身が以下の条件を満たしている必要があります。
- 31日以上の雇用見込みがある
- 週の所定労働時間が20時間以上である
- 学生ではない(例外あり)
上記の条件を満たしている従業員は、正規雇用やパートなどの雇用形態にかかわらず雇用保険に加入する権利があります。
なお、学生は原則的に雇用保険の加入対象外ですが、大学の夜間学部や定時制高校に通う学生などを雇用する場合は加入が必要です。
雇用保険と社会保険の違いとは
社会保険には「広義の社会保険」と「狭義の社会保険」という2つの考え方があります。
広義の社会保険 | 狭義の社会保険 |
---|---|
健康保険厚生年金保険介護保険雇用保険労災保険 | 健康保険厚生年金保険介護保険 |
上記の通り、広義では雇用保険も社会保険の一つです。しかし、狭義では雇用保険と労災保険は『労働保険』にあたり、社会保険とは区別して考えられます。
雇用保険は2017年から対象範囲が拡大
雇用保険制度は定期的に見直しが行われており、2017年からは対象範囲が拡大しています。これまで対象外だった従業員も雇用保険の加入対象に含まれている可能性があるため、企業の担当者は注意が必要です。
65歳以上も雇用保険の対象範囲に
雇用保険法の改正により、2017年1月1日以降は65歳以上の従業員も雇用保険の加入対象となりました。この法改正は、働き手の高齢化にともない、高齢者の労働環境整備の一環として行われたものです。
雇用保険の適用条件を満たす高齢者を雇用する場合は、管轄のハローワークにて手続きを行う必要があります。
適用事業所における2つの種類
雇用保険の適用事業所には「強制適用事業所」と「暫定任意適用事業所」の2種類があります。
強制適用事業所とは
強制適用事業所とは、法律により社会保険への加入が義務付けられている事業所です。雇用保険の制度上は、従業員を1人でも雇用している企業は、基本的に強制適用事業所とみなされます。
なお、健康保険や厚生年金保険における強制適用事業所は、雇用保険とは適用条件が異なるため注意が必要です。
- 事業主だけの場合を含む法人事業所
- 常時雇用する労働者数5人以上の個人事業所(一部、非適用業種あり)
任意適用事業所とは
任意適用事業所とは、社会保険への加入が任意とされている事業所です。
適用事業所となるためには、厚生労働大臣の認可を受ける必要があります。雇用保険の制度上は「個人経営であって常時雇用する労働者の数が5人未満の農林水産業の事業所」が対象です。
なお、強制適用事業所と同じく、健康保険や厚生年金保険は適用条件が異なります。健康保険や厚生年金保険における任意適用事業所の条件は、以下の通りです。
- 常時雇用する労働者数5人未満の個人事業所
- 常時雇用する労働者数5人以上の非適用業種である個人事業所
各種保険の適用は「会社単位」ではなく「事業所単位」で実施される
雇用保険に加入するには、まず企業が適用事業所として認定されたあとに、個々の従業員の加入手続きを行わなければなりません。
では、各地に事業所を展開している場合や、いくつかの企業がグループとして存在している場合は、どのような手続きが必要なのでしょうか。
事業所ごとに加入の必要性を確認する
雇用保険や労災保険など、雇用される従業員に対する各種保険は、会社単位ではなく事業所単位で適用されます。同じ会社の中でも、事業所ごとに保険の加入義務がある場所と、ない場所が発生する可能性があることを覚えておきましょう。
特に、条件次第では雇用保険の適用対象外となる農林水産業の事業所は、注意が必要です。
雇用保険の適用事業所を設置する際の手続き方法
適用事業所として手続きする際の流れを解説します。
適用事業所の設置に必要な各種書類を提出する
適用事業所として認められるためには、いくつかの書類を提出する必要があります。それぞれ提出期限や提出先がやや異なるため、混同しないよう注意しましょう。
提出期限 | 提出先 | |
---|---|---|
保険関係成立届 | 保険関係が成立した翌日から10日以内 | 管轄の労働基準監督署またはハローワーク |
概算保険料申告書 | 保険関係が成立した翌日から50日以内 | 管轄の労働基準監督署、都道府県労働局、日本銀行のいずれか |
雇用保険適用事業所設置届 | 設置の翌日から10日以内 | ハローワーク |
雇用時には『雇用保険被保険者資格取得届』を提出する
雇用保険の適用事業所が従業員を雇用した際は『雇用保険被保険者資格取得届』を提出します。
書類は被保険者ごとに用意し、ハローワークへ提出します。提出期限は資格を取得した日、つまり雇用した日の翌月10日です。申請が受理されると雇用保険被保険者証が交付されるため、従業員に直接渡しましょう。
なお、雇用保険被保険者証は従業員自身が保管する決まりですが、実態としては退職まで企業が保管しておくケースも多々あります。
そのほか必要な書類
手続きには、ほかにも以下のような書類が必要です。
- 商業登記簿謄本(3か月以内)
- 事業主の世帯全員の住民票(個人事業の場合)
- 事業所の賃貸契約書など(登記簿謄本で所在地が確認できない場合)
- 事業取引の契約書や税務関係書類など事業の実態が確認できる書類
- 監督官庁の許認可証や登録証(許認可などを要する事業の場合)
- 労働者名簿
- 出勤簿
- 賃金台帳
- 雇用契約書
- 履歴書など過去の職歴がわかる書類(被保険者番号が不明な場合)
- 遅延理由書(6か月以上さかのぼって加入する場合)
雇用保険の適用事業所を設置しない場合のリスク
雇用保険の適用条件を満たしているにもかかわらず手続きをしないまま放置していると、さまざまなリスクが発生します。最後は、雇用保険の加入義務を怠った場合のペナルティについて解説します。
6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
雇用保険の適用条件を満たす事業所が加入手続きを怠った場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
第八十三条 事業主が次の各号のいずれかに該当するときは、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
引用:『雇用保険法』e-Gov法令検索
一 第七条の規定に違反して届出をせず、又は偽りの届出をした場合
従業員から損害賠償請求される可能性も
雇用保険への加入義務を怠ったことで従業員の生活に支障が出た場合は、損害賠償請求をされるリスクもあります。
雇用保険への加入は、従業員を雇用する企業の義務です。罰則や訴訟などのリスクを回避するためにも、適用条件を満たす事業所や従業員に対してはすみやかに加入手続きを行いましょう。
従業員を雇用する事業所は、雇用保険へ加入するのが原則
雇用保険の適用事業所とは、雇用保険の加入条件を満たした事業所です。
雇用保険は事業所単位で加入するものなので、同じ会社でも適用事業所と見なされるところと、そうでないところがあります。
ただし、従業員を1人でも雇用している場合は、原則としてすべての企業が雇用保険の適用事業所です。手続きを怠ると罰則や訴訟のおそれもあるため、条件を満たす企業はすみやかに手続きを行いましょう。
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