健康保険の仕組みをわかりやすく解説|国保との違いや種類と加入条件
健康保険とは、病気やケガによる休業や、出産などに備えて保険給付が受けられる公的医療保険制度の一つです。加入者である会社員などは、万が一の事態に備えて日頃から保険料を企業で折半で支払い、必要に応じてさまざまな給付を受けています。
本記事では、健康保険の仕組みとして、公的医療保険制度の種類や運営母体の種類、加入対象などを解説します。
健康保険とは? 仕組みをわかりやすく解説
健康保険とは、病気・ケガによる休業や、出産などの事態に備えて保険給付が受けられる仕組みで、公的医療保険制度の一つです。国民健康保険と区別するために「被用者保険」とも呼ばれます。
健康保険は社会保険制度の一環で、主に会社員(公務員)が加入します。万が一の事態に備えて企業と従業員が折半で保険料を支払い、従業員とその家族が必要に応じて給付を受けられます。
健康保険には、企業の規模に応じて協会けんぽなど複数の運営母体があります。
公的医療保険制度の種類
そもそも公的医療保険制度は3種類あります。本記事で取り上げる「被用者保険(健康保険)」のほかに、国民健康保険と後期高齢者医療制度があります。
- 被用者保険(健康保険)
- 国民健康保険
- 後期高齢者医療制度
それぞれの制度について概要を解説します。
被用者保険(健康保険)
被用者保険(健康保険)とは、会社員やその扶養家族を対象にした社会保険です。被用者保険はさらに以下の3つに分類されます。
被用者保険の種類 | 対象者 |
---|---|
組合管掌健康保険 | 大企業の従業員 |
全国健康保険協会管掌健康保険 (協会けんぽ) | 中小企業の従業員 |
共済組合 | 公務員や教員 |
民間企業に勤める会社員だけでなく、運営母体によっては公務員も被用者保険(健康保険)の対象者です。所属する企業の規模や属性により、加入する被用者保険の種類が異なると覚えておきましょう。
国民健康保険
国民健康保険は、市区町村が運営する医療保険制度です。
個人事業主や主婦、無職の人が加入します。保険料は、国民健康保険料は収入や世帯人数によって算出されます。居住している自治体によって保険料が異なるため、各自で確認が必要です。
国民健康保険において、傷病手当金や出産手当金を給付している市町村はあまりありません。そのため、国民健康保険は被保険者保険と比べると保障が手薄といえます。必要に応じて、民間の医療保険で補っている人も一定数いるでしょう。
後期高齢者医療制度
後期高齢者医療制度とは、75歳以上もしくは65歳以上74歳未満の障害を持つ方が加入する公的医療保険制度です。
後期高齢者医療制度は、令和4年9月まで窓口負担が原則として1割でした。しかし、令和4年10月から制度が見直され、1〜3割と負担割合が変更されています。負担割合は、課税所得や年金収入の金額を基準として変動し、詳細は厚生労働省のWebサイトで確認が可能です。
自分の負担割合は、後期高齢者医療広域連合、または市区町村から交付される、負担割合が記載された被保険者証からも確認できます。
参照:『後期高齢者の窓口負担割合の変更等(令和3年法律改正について)』厚生労働省
健康保険(健保)と国民健康保険(国保)の違い
健康保険(被用者保険)と国民健康保険の違いは、以下の通りです。
健康保険(被用者保険) | 国民健康保険 | |
---|---|---|
加入者 | 会社員 | 個人事業主主婦無職 |
運営母体 | 健康保険組合 | 自治体 |
医療費 | 原則として3割負担 | 原則として3割負担 |
保険料の決定方法 | 年齢や収入によって異なる | 世帯の収入や資産額、世帯人数によって異なる |
保険料の支払い方法 | 給与から天引き | 自分で支払う |
出産育児一時金 | 原則50万円 | 原則50万円 |
傷病手当金 | もらえる | もらえない |
健康保険と国民健康保険は、加入対象者や保障などの内容が異なります。特徴的な違いや留意点を紹介します。
- 健保の方が手厚い
- 医療費負担は同じ
健保の方が手厚い
健康保険と国民健康保険では、健康保険の方が手厚い保障を受けることができます。健康保険は、国民健康保険と比べて保険料の自己負担割合が低くて負担が軽く、広範囲にわたって各種手当金が給付されるためです。
国民健康保険に加入しながら出産手当金のような手当を受けるには、民間の医療保険に加入する必要があります。国民健康保険に加入する方が金銭的な負担が大きくなる傾向にあるでしょう。
医療費負担は同じ
医療費負担額は健康保険と国民健康保険ともに、原則として3割負担です。保険の違いにより医療費の負担額が異なることはありません。
また、出産手当金や傷病手当金などの手当は、従業員が会社へ申告することで給付されます。該当者には担当者から申請書を渡し、従業員に必要な手当が行き渡るように配慮しましょう。
健康保険の運営母体の種類
健康保険の運営母体は3種類あります。
- 健康保険組合
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)
- 共済組合
健康保険組合
健康保険組合とは、健康保険に関する仕事を行う法人です。常時700人以上の従業員がいる事業所や、同業・同種で3,000人以上の従業員が集まる事業所が、厚生労働大臣の認可を受けて設立されています。
全国健康保険協会(協会けんぽ)
全国健康保険協会は、健康保険組合に加入する組合員以外の被保険者について、健康保険を取り扱っています。主に中小企業に勤務している従業員とその家族が加入しており、全国で約4,000万人が加入している日本最大の保険者です。
共済組合
共済組合とは、公務員や私立学校の教職員とその家族を対象にした社会保険組合です。社会保険制度の一環として、相互救済しながら運営しています。
健康保険に加入すべき企業と手続き
健康保険に加入する企業を適用事業所といいます。社会保険の適用を受けている事業所を指し、すべての法人は、国が定めた保険に加入する義務があります。
健康保険の適用事業所は以下の2種類です。
- 強制適用事業所
- 任意適用事業所
それぞれについて概要を解説します。
強制適用事業所
強制適用事業所とは、特定の事業で常時5人以上を使用する事業所のことです。条件に該当すると強制的に健康保険に加入する必要があります。
強制適用事業所でありながら未加入が発覚すると、過去2年間の保険料が請求されるだけでなく、6か月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金が科せられます。
任意適用事業所
強制適用の条件を満たさない場合、必ずしも社会保険に加入する義務はありません。
しかし、従業員の半数以上の同意と厚生労働大臣の認可を受けると、「任意適用事業所」となることが可能です。適用申請は、使用者が事務センターまたは管轄の年金事務所で行います。
健康保険の加入すべき従業員と手続き
続いて、健康保険の対象となる従業員や、加入手続きの方法について解説します。
対象者・加入条件
健康保険の加入対象者は以下の通りです。
- 法人の代表者
- 役員
- 正社員
- 試用期間の従業員
- パート・アルバイト
- 外国人従業員
ただし、パートアルバイトが被保険者になるには条件があります。
パート・アルバイトの加入条件
パートアルバイトの加入条件は以下の通りです。
1 | 1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している正社員の4分の3以上の人 |
---|---|
2 | 正社員の4分の3未満であっても以下の条件をすべて満たす人 ・週の所定労働時間が20時間以上 ・勤務期間が2か月以上見込まれる ・月額賃金88,000円以上 ・学生以外 ・従業員数101人以上の企業に勤務している |
1と2、いずれかに該当する従業員は、パートやアルバイトであっても加入の対象です。
参照:『パート・アルバイトの皆さんへ 社会保険の加入対象により手厚い保障が受けられます。』政府広報オンライン
加入適用外の人
反対に社会保険(健康保険)の適用外となる人を紹介します。ただし、以下に該当する人であっても、条件が変更されるときは、一般の被保険者として扱われる場合があります。
適用外 | 一般被保険者として扱われる条件 | |
---|---|---|
1 | 日雇い | 1か月を超えて引き続き使用されるに至った |
2 | 2か月以内の期間を定めて使用される人 | 所定の期間を超えて使用されるに至った |
3 | 所在地が一定しない事業所に使用される人 | ※どれだけ長期で使用されても、一般の被保険者にはならない |
4 | 季節的業務(4か月以内)に使用される人 | 当初から継続して期間を超えて使用される予定の場合 |
5 | 臨時的事業(6か月以内)の事業所に使用される人 | 当初から継続して期間を超えて使用される予定の場合 |
被扶養者の範囲
社会保険(健康保険)における被扶養者の条件は、以下の通りです。
- 被保険者の直系尊属、配偶者(事実婚含む)、子、孫および兄弟姉妹であって、主として被保険者により生計を維持されている
- 被保険者の3親等以内の親族で1以外の者であり、被保険者と同一世帯に属し、主として被保険者により生計を維持されている
- 被保険者と事実婚状態にある配偶者の父母および子であって、被保険者と同一の世帯に属し、主として被保険者により生計を維持されている
- 3の配偶者の死後におけるその父母および子であって、引き続きその被保険者と同一の世帯に属し、主として被保険者により生計を維持されている
「生計を維持されている」とは、以下の認定基準により判断されます。
- 認定対象者の年間収入が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)、かつ被保険者の年間収入の2分の1未満である
- 同一世帯に属していない場合は、年間収入が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)、かつ被保険者からの仕送りなどより少ない
加入の手続き
社会保険(健康保険)に加入条件を満たす従業員を採用した場合は、5日以内に被保険者資格取得届を年金事務所や事務センターに提出します。申請書には従業員の基礎年金番号、もしくはマイナンバーの記載が必要です。
会社が組合けんぽに加入している場合は、別途、健康保険組合での加入手続きをしなければなりません。
健康保険料の計算方法
健康保険料は、以下の計算式で求めます。
毎月の給料から納める保険料 | 標準報酬月額×都道府県ごとの保険料率 |
---|---|
賞与から納める保険料 | 賞与報酬額×都道府県ごとの保険料率 |
標準報酬月額は金額によって等級が異なります。
たとえば、月給30万円で東京都勤務の会社員は、標準報酬月額の10%である3万円を健康保険料として納める必要があります。健康保険料は企業と従業員の折半なので、1万5000円がそれぞれの負担額です。
等級による標準報酬月額の違いは、全国保険協会の『保険料額表』で確認できます。
参照:『令和5年度保険料額表(令和5年3月分から)』全国健康保険協会
まとめ
健康保険とは、ケガや病気などのさまざまなリスクに備えて保険給付が受けられる制度です。出産一時金や傷病手当金などの給付が用意されています。
健康保険は、社会保障制度の一つとして、企業と従業員が保険料を折半して保険料を支払っています。
社会保険の加入要件を満たしている企業は、健康保険に加入しなければなりません。従業員を雇用したら、年金事務所か事務センターですみやかに手続きを進めましょう。未加入の状態が続くと、6か月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金が科される恐れがあります。
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