健康保険の被扶養者とは誰? 年収条件や異動(変更)の手続きのやり方を解説

健康保険の被扶養者とは誰? 年収条件や異動(変更)の手続きのやり方を解説

日本では、すべての国民に公的医療保険制度への加入が義務づけられています。1〜3割の医療費負担で医療機関を受診できるのは、公的医療保険の一つである健康保険のおかげです。

健康保険では、扶養する側を「扶養者」、扶養される側を「被扶養者」と呼びます。しかし、被扶養者の認定条件や具体的な手続き方法を正しく理解している方もいるでしょう。

本記事では、健康保険における被扶養者の概要や認定条件、具体的な手続きの方法を詳しく解説します。

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    健康保険の被扶養者とは

    健康保険は、会社に勤めている人が加入する医療保険制度です。加入する本人だけでなく、扶養される家族にも保険給付が行われます。

    扶養とは、未成年者や高齢者をはじめ、失業状態の人や収入が少ない人など、さまざまな理由で1人の力では生計が立てられない家族・親族を経済的に支援する制度です。

    健康保険へ加入している本人に扶養されている家族を、健康保険の被扶養者といいます。

    被扶養者に対して被保険者とは

    被保険者とは、会社に在職し、健康保険に加入している本人です。

    従業員は入社日に被保険者としての資格を取得し「退職または死亡した日の翌日」「75歳の誕生日当日」に資格を喪失します。本人の意思で勝手に健康保険に加入したり、脱退したりすることは認められません。

    健康保険が適用される事業所において、一定の条件を満たせば、正社員や契約社員などフルタイムで働く従業員に限らず、パート・アルバイトのようなパートタイム労働者も被保険者に含まれます。

    パートタイム労働者は、1週間もしくは1か月あたりの所定労働時間が同じ事業所で働く通常の労働者の4分の3以上であれば、健康保険の加入対象です。

    また、所定労働時間の条件を満たさなくても、以下のすべてに当てはまる従業員は、健康保険の加入対象であるため、あわせて確認しましょう。

    • 週の所定労働時間が20時間以上あること
    • 賃金の月額が8万8,000円以上であること
    • 学生でないこと
    • 勤務期間が2か月以上見込まれること
    • 従業員を101人以上雇用する事業所、または100人以下でも労使の合意に基づき、社会保険に加入する事業所に勤めていること

    参考:『適用事業所と被保険者』日本年金機構

    健康保険の被扶養者に認定される条件とは

    健康保険の被扶養者に認定されるためには「対象範囲」と「収入基準」のどちらの条件も満たさなければなりません。

    被扶養者の範囲

    被保険者により生計を維持されている人が、被扶養者の範囲に含まれます。具体的には以下の通りです。

    1. 被保険者の直系尊属、配偶者(事実婚含む)、子、孫、兄弟姉妹
    2. 3親等内の親族
    3. 事実婚の配偶者の父母および子
    4. 3の配偶者の死後における父母および子

    また、1の条件を除いて、被保険者と同一世帯に属している必要があります。

    同一世帯とは、被保険者と住居・生計の両方をともにすることを指します。単なる同居を意味するのではありません。

    2020年4月から、留学などの特例を除き、被扶養者は原則として国内に居住していることが求められるようになりました。

    被扶養者の年収(収入基準)

    被扶養者として認められる範囲の条件を満たしていても、収入基準を下回っていない場合は被扶養者にはなれません。収入基準は、被保険者と同居しているか否かによって異なります。

    被保険者と同居している場合

    被保険者と同居している場合の収入基準は、以下の通りです。

    • 年間収入が130万円未満
      ※60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者は、180万円未満
    • 収入が被保険者の2分の1未満

    参照:『被扶養者とは?』全国健康保険協会

    被保険者と別居している場合

    被保険者と同居している場合の収入基準は、以下の通りです。

    • 年間収入が130万円未満
      ※60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者は、180万円未満
    • 収入が被保険者からの援助額より少ない

    同居・別居に関係なく、月収に換算して10万8,333円以下(60歳以上または障害者であれば月15万円以下)なら、被扶養者として認められます。

    2022年〜社会保険(健康保険)の被扶養者の適用範囲が縮小

    社会保険(健康保険)では、手厚い保障を受けられる人を増やす目的で、法改正により適用範囲が段階的に拡大されています。

    所定労働時間が通常の4分の3に満たなくても、アルバイトやパートなどの短時間労働者が、社会保険に加入する事業所を特定適用事業所と呼びます。

    特定適用事業所の従業員数は、2022年10月より、それまでの501人以上から101人以上へと変更されました。さらに、2024年10月以降は51人以上に変更される予定です。

    また、最近では企業規模の要件を撤廃する動きも見られています。

    参考:『パートらの厚生年金加入、企業規模要件を撤廃 厚労省方針』日本経済新聞

    2022年以降における特定適用事業所の基準は、以下の通り定められています。

    2022年9月まで2022年10月以降2024年10月以降
    従業員数501人以上101人以上51人以上
    月額賃金8万8,000円以上
    週の所定労働時間20時間以上
    雇用期間1年以上2か月以上
    適用除外学生

    特定適用事業所の基準が緩和され、社会保険の適用範囲が段階的に拡大されているということは、被扶養者の範囲が縮小することを意味します。そこで近年話題となっているのが「年収の壁」です。

    特定適用事業所の基準が緩和され、社会保険の適用範囲が段階的に拡大されていることで、被扶養者の範囲が縮小する傾向にあります。これに関連して近年話題となっているのが「年収の壁」です。

    年収の壁とは、社会保険料や税金の支払いが生じる年収額を指します。年収が一定以上になると被扶養者の条件から外れてしまうため、社会保険に加入しなければなりません。

    社会保険に関連する年収の壁には、以下の2つがあります。

    概要
    年収106万円の壁従業員101人以上(2024年10月以降は51人以上)の事業所で働く従業員は、年収106万円以上で一定の条件を満たすと、みずから社会保険に加入する必要があるる
    年収130万円の壁年収130万円以上になると被扶養者の認定基準を満たさなくなるため、事業所の従業員数や雇用条件にかかわらず、みずから社会保険に加入する必要がある

    従業員が被扶養者の認定基準を満たさなくなると、月々の社会保険料の負担が重くのしかかり、結果として手取りが減ってしまう恐れも指摘されています。

    健康保険の被扶養者の認定・変更手続きのやり方

    新たに健康保険の被扶養者となる家族ができた場合は、加入している健康保険で手続きが必要です。

    また、被扶養者である家族が死亡したときや家族の氏名に変更があったときも、企業を通して書類を提出しなければなりません。

    具体的な手続きの方法や必要な書類について解説します。

    1. 健康保険の被扶養者異動届を用意する
    2. 添付書類を用意する
    3. 提出方法を選ぶ
    4. 期限内に所定の提出先に提出する

    1.健康保険の被扶養者異動届を用意する

    被扶養者の認定を受けるには「健康保険被扶養者(異動)届」を提出しなければなりません。書式は日本年金機構のホームページからダウンロードでき、以下の項目を記入します。

    • 事業主記載欄
    • 被保険者欄
    • 配偶者である被扶養者欄
    • その他の被扶養者欄

    被扶養者が、国民年金の第3号被保険者にも該当する場合は「国民年金第3号被保険者関係届」の提出も必要です。

    日本年金機構のホームページから、健康保険被扶養者(異動)届と国民年金第3号被保険者関係届を1枚にまとめた書類をダウンロードできます。また、健康保険組合で同様の書類が用意されている場合もあります。

    参考:『家族を被扶養者にするとき、被扶養者となっている家族に異動があったとき、被扶養者の届出事項に変更があったとき』日本年金機構

    2.添付書類を用意する

    健康保険被扶養者(異動)届は、被保険者と被扶養者の続柄を確認できる書類や、収入状況を確認できる書類などを添付して提出します。具体的な添付書類は以下の通りです。

    具体的な書類の種類
    続柄確認のための書類・被扶養者の戸籍謄本
    ・住民票の写し など
    収入要件確認のための書類・退職証明書のコピー
    ・雇用保険受給資格証の写し など
    その他確認書類(必要に応じて)・別居している場合:仕送りを確認できる書類
    ・内縁関係にある場合:内縁関係を確認できる書類

    対象となる従業員と相談しながら、必要な書類を準備するとよいでしょう。

    3.提出方法を選ぶ

    健康保険被扶養者(異動)届の提出方法は、以下の3つがあります。

    • 郵送
    • 窓口持参
    • e-Govでの電子申請

    郵送や窓口持参の場合、自社が加入する健康保険組合の事務所や管轄の年金事務所に提出します。年金事務所では、紙の書類だけでなく、CDやDVDのような電子媒体での申請も受け付けています。

    電子申請の場合、デジタル庁が運営する行政ポータルサイト「e-Gov」から手続きが可能です。「健康保険被扶養者(異動)届・国民年金第3号被保険者関係届」を選び、必要事項を入力しましょう。管轄の年金事務所(事務センター)を提出先に選択すれば、電子データが管轄窓口に提出されます。

    ただし、e-Govで電子申請をする際は、以下の点に注意が必要です。

    • 申請書類に電子署名をつける
    • 添付書類はJPEGもしくはPDF形式の画像ファイルである
    • 申請データの容量が99MB以上にならないようにする
    • 入力ルールを守る(姓名の間にスペースを入れる、日付は半角数字で入力する など)

    4.期限内に所定の提出先に提出する

    健康保険被扶養者(変更)届は、被扶養者の資格取得や資格喪失が発生してから5日以内に提出しなければなりません。

    やむを得ない理由で提出が遅れたと認められる場合に限り、14日以内であれば、さかのぼって認定されます。

    健康保険の被扶養者にかかわる疑問

    健康保険の被扶養者に関連して、よくある疑問や質問をまとめて紹介します。

    • 子どもは被扶養者になれる?
    • 健康保険の被扶養者に認められるのはいつ?
    • 健康保険の被扶養者を外れるタイミングはいつ?
    • 被扶養者にも保険証は交付される?

    子どもは被扶養者になれる?

    子どもが小さいうちは、もちろん親の扶養に入れます。また、子どもが18歳以上の成人であったとしても、以下の条件を満たしていれば被扶養者として認定されます。

    • 子どもの年間収入が130万円未満(障害者の場合は180万円未満)
    • 子どもの収入が親の収入以下(同居の場合は2分の1未満)

    就職やアルバイトなどによって収入要件を満たさなくなったら、扶養から外さなければなりません。

    健康保険の被扶養者に認められるのはいつ?

    健康保険の被扶養者に認められるタイミングは、以下の通りです。

    理由被扶養者と
    認められるタイミング
    届け出の期限
    出生子どもの生年月日原則として5日以内
    結婚入籍日
    退職退職日の翌日
    雇用保険の受給終了終了日の翌日
    入社入社日
    上記以外の理由健康保険の運営機関がその事実を確認した日

    届け出の期限は、原則として事実発生から5日以内です。万が一、届け出が遅れた場合は、健康保険側が事実確認をした日が扶養し始めた日として扱われます。

    ただし、やむを得ない事情で届け出のタイミングが遅れたと認められると、14日以内の期間ならさかのぼって認定されます。

    届け出の期限は、原則として事実の発生から5日以内です。届け出が遅れた場合、健康保険側が事実確認をした日が扶養開始日として扱われます。

    ただし、やむを得ない事情で届け出が遅れたと認められると、14日以内なら、さかのぼって認定されます。

    健康保険の被扶養者を外れるタイミングはいつ?

    健康保険の被扶養者から外れるタイミングは、被扶養者が認定条件を満たさなくなったときです。具体的には、以下のケースが考えられます。

    タイミング具体例
    就職・転職就職し、就職先の健康保険に加入するとき
    被扶養者の収入増加・年間収入130万円、月収10万8,334円以上の収入が見込まれるとき
    ・被保険者の収入により生計を維持されなくなったとき
    死亡死亡したとき
    扶養者との別離・離婚したとき
    ・ほかの家族の被扶養者になったとき
    同居の解消同居が要件である被扶養者が別居したとき
    年齢後期高齢者医療制度の被保険者となったとき

    被保険者の認定条件から外れたら、健康保険被扶養者(異動)届を記入し、必要書類を添付のうえ、事業者経由で加入する健康保険組合や日本年金機構に提出する必要があります。

    被扶養者にも保険証は交付される?

    被扶養者にも、被保険者と同じように保険証が交付されます。被保険者が退職や転職などで加入していた健康保険から脱退する際は、被保険者だけでなく、被扶養者に交付している保険証も返却しなければなりません。

    健康保険の被扶養者の条件を理解して手続きを(まとめ)

    健康保険の被保険者に扶養されている一定の親族は、みずから加入して健康保険料を納付しなくても、被保険者と同じように社会保険給付の恩恵を受けられるメリットがあります。

    新たに被扶養者が増えたり、被扶養者が認定条件から外れたりするときには、所定の手続きが必要です。本記事で紹介した被扶養者の条件を理解し、該当する場合はすみやかに届け出ましょう。

    健康保険の被扶養者異動手続きを電子化するには

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