労働安全衛生法をわかりやすく解説|企業(事業者)に義務付けられた措置や罰則は?

労働安全衛生法をわかりやすく解説|企業(事業者)に義務付けられた措置や罰則は?

労働者の権利や健康を守るために、企業には法律によってさまざまなルールが課せられています。企業が遵守すべき法律はいくつかありますが、その中の一つが『労働安全衛生法』です。

本記事では労働安全衛生法について、目的や対象範囲などをわかりやすく解説します。企業が講じるべき措置や直近の改正におけるポイントも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

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    労働安全衛生法とは?

    労働安全衛生法とは、労働者の健康や安全を守り、快適な労働環境整備を促進することを目的に制定された法律です。

    労働者が安全・快適に働けるような環境をつくるために、事業主に課せられるルールをまとめた法律といえます。

    労働基準法との違い

    労働安全衛生法と混同されがちな法律に、労働基準法があります。

    労働基準法とは、賃金や労働時間などの、労働条件にまつわる最低限のルールを取りまとめた法律です。雇用主から不当な扱いを受けることなく、人間らしい生活を送れるよう、労働者を守るために制定されました。

    どちらも労働者の保護を目的とした法律ですが、労働基準法は労働者の権利を、労働安全衛生法は労働者の健康や安全を守ることに主眼を置いています。

    労働安全衛生法の成り立ち

    じつは、労働安全衛生法の内容は、もともと労働基準法に含まれていたものです。

    高度経済成長期の日本では、労働現場における安全対策が不十分だったため、年間6,000人超もの労働者が労働災害により亡くなっていました。

    そこで、当時の労働基準法から労働安全衛生に関する内容を分離独立する形で制定されたのが、現在の労働安全衛生法です。

    参考:『労働災害防止計画(案)』厚生労働省

    労働安全衛生法の対象範囲

    労働安全衛生法の対象となる事業者や労働者の範囲について解説します。

    対象となる事業者

    労働安全衛生法では、事業者を「事業を行う者で、労働者を使用するもの」と定義しています。そのため、従業員を雇用していれば、ほぼすべての企業が労働安全衛生法の対象になるといってよいでしょう。

    なお、事業者とは、個人事業主であれば事業主本人、法人企業であれば当該法人です。法人の場合は企業の代表者(経営者)ではなく、企業そのものを事業者とします。

    対象となる労働者

    労働安全衛生法では、労働者を「労働基準法第9条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業または事務所に使用される者および家事使用人を除く)をいう」と定義しています。

    労働基準法第9条に規定する労働者とは「職業の種類を問わず、事業または事務所に使用され、賃金を支払われる者」です。

    つまり、労働安全衛生法では職業や雇用形態に関係なく、事業者から賃金を受け取りながら働いているすべての人を指すといえます。

    対象外の労働者

    労働安全衛生法の対象外となる「家事使用人」とは、家政婦(夫)です。

    また、労働基準法は陸上労働者を対象としているため、労働基準法から派生した労働安全衛生法も、原則として船員には適用されません。

    そのほか、以下のいずれかにあてはまる人は、労働安全衛生法の全部または一部が適用除外となります。

    • 国会議員
    • 防衛省職員
    • 裁判所職員
    • 非現業の一般職の国家公務員、地方公務員
    • 鉱山における保安関連

    参照:『労働安全衛生法』e-Gov法令検索
    参照:『家事使用人(家政婦・家政夫)について』厚生労働省

    労働安全衛生法施行令や労働安全衛生規則との関係

    労働安全衛生法とかかわりが深いものに、労働安全衛生法施行令や労働安全衛生規則があります。それぞれの関係性を解説する前に、まずは法律・政令・省令の違いから解説します。

    法律・政令・省令について

    日本には、国の最高法規である日本国憲法があります。憲法をもとに国会で制定される国のルールが、「法律」です。そして、法律をもとに内閣が定めた命令を「政令」、各省の大臣が発した命令を「省令」といいます。

    ルールの優先順位
    1.憲法
    2.法律
    3.政令
    4.省令

    法律という大元の規則を実行するため、具体的なルールを定めたものが「政令」、法律や政令で規定されていないさらに細かな事項を定めたものが「省令」です。

    労働安全衛生法・労働安全衛生法施行令・労働安全衛生規則の違い

    労働安全衛生法や労働安全衛生法施行令、労働安全衛生規則は、それぞれ以下に該当します。

    労働安全衛生に関連するルール
    労働安全衛生法法律
    労働安全衛生法施行令政令
    労働安全衛生規則省令

    労働安全衛生法を実行するため細部の事項を定めたものが労働安全衛生法施行令、さらに細かくルールを定めたものが労働安全衛生規則といえます。

    2023年〜2024年の労働安全衛生法の改正ポイント

    労働安全衛生法は定期的に見直されており、直近では2023年から2024年にかけて改正されました。

    改正の目的

    改正の目的は、新たな化学物質規制制度の導入です。従来も規制が設けられていましたが、化学物質を原因とした労働災害や遅発性疾病の件数が依然として多い現状を考慮し、さらに厳しい規制が敷かれることとなりました。

    改正の内容

    新たな化学物質規制における重要ポイントは、事業者の自律的なリスクアセスメントです。

    「化学物質管理者の選任」や「ラベル・SDSによる伝達義務」「適切な保護眼鏡、保護手袋、保護衣などの使用義務・努力義務」など、従来と比べて事業者に措置義務が課される範囲が増え、より具体化されるようになりました。

    SDSとは、Safety Data Sheet(安全データシート)の略称です。化学物質や化学物質を含む製品の安全性に関する重要な情報を記載した文書です。

    化学物質を取り扱う事業者には、これまで以上に主体的な安全への取り組みが求められます。

    労働安全衛生法に基づき企業が講じるべき措置

    労働安全衛生法には、従業員の健康や安全を守るためのさまざまな規則が記載されています。それでは具体的にはどのような取り組みを推進すればよいのでしょうか。

    労働安全衛生法に基づき企業が講じるべき措置について解説します。

    • 健康診断やストレスチェックの実施
    • 安全衛生に関する委員会の設置
    • 安全衛生教育の実施
    • 労働災害の防止
    • 管理者や責任者などの選任
    • 職場環境の整備

    健康診断やストレスチェックの実施

    従業員の心身の健康を守るために、健康診断やストレスチェックを定期的に実施しましょう。健康診断については、原則として年1回の実施が義務づけられています。

    法的に義務づけられている健康診断は、以下の4種類です。

    健康診断の種類
    一般健康診断定期健康診断に加え、新しい労働者を雇用したときや特定業務への配置替え、海外派遣のときなどに実施されるもの
    特殊健康診断危険な業務に従事する労働者に実施するもの
    じん肺健康診断常時粉じん作業に従事する労働者に実施するもの
    歯科検診塩酸や硫酸などにさらされる業務に従事する労働者に実施するもの

    ストレスチェックについては、常時50人以上の労働者を使用する事業所に限り、年1回の実施が義務づけられています。

    使用する労働者が常時50人未満の事業所は努力義務とされていますが、従業員の心の健康を守るためにできるだけ実施するのが望ましいといえるでしょう。

    安全衛生に関する委員会の設置

    業種や労働者数によっては、安全衛生に関する審議をする場として、安全委員会や衛生委員会を設置する必要があります。

    安全委員会とは、労働者の安全確保や労働災害被害の防止を目的としたものです。常時50人もしくは100人以上の労働者を雇用する特定業種の企業には、安全委員会の設置義務があります。

    一方、衛生委員会とは、労働者の健康を守ることを目的としたものです。常時50人以上の労働者を使用する企業には、衛生委員会の設置義務があります。

    安全委員会や衛生委員会は、リスクアセスメントを遂行するために重要な役割を担います。

    なお、両方の設置義務の対象となる事業所では、2つを合わせた安全衛生委員会を設置することも可能です。

    安全衛生教育の実施

    労働者の健康や安全を守るためには、労働者自身にも気をつけるべきポイントを理解してもらわなければなりません。

    企業には、労働者を新しく雇用した場合や業務内容を変更した場合などに、安全衛生教育を実施する義務があります。具体的には、労働安全衛生法や関連法令のほかに、自社で設けている安全衛生規則について教育し、理解を深めてもらいます。

    安全衛生教育は、危険物や有害物を取り扱う人や安全衛生管理に携わる人に対しても必要です。

    労働災害の防止

    企業には、労働災害の防止に努める義務があります。機械設備による事故や放射線・高温などによる健康被害の防止措置を講じ、従業員が安全に作業できる環境を整えましょう。

    管理者や責任者などの選任

    労働安全衛生法では、業種や労働者数に応じて安全衛生を管理・推進する役職者の選任を義務付けています。たとえば、安全管理者や衛生管理者、産業医などが該当します。

    職場環境の整備

    企業は、労働者が快適に働けるよう職場環境を整備しなければなりません。室温管理や清掃などはもちろん、業務効率化やコミュニケーションの促進など、さまざまな取り組みが求められます。

    従業員がストレスなく快適に働ける環境を整えられると、モチベーションの向上や離職率の低下などのメリットも期待できるでしょう。

    労働安全衛生法に違反した場合の罰則

    労働安全衛生法に違反すると、罰則を科せられる恐れがあるため注意が必要です。

    たとえば、労働者数の要件を満たしているにもかかわらず安全委員会や・衛生委員会を設置しなかった場合や、安全衛生教育を怠った場合などは、同法第120条の違反により50万円以下の罰金が科せられる場合があります。

    また、黄りんマッチやベンジジンなど製造等禁止物質を許可なく製造・輸入・譲渡・提供・使用した場合は、同法第116条の違反により3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科せられる場合があります。

    たとえ罰則を科せられなかったとしても、労働災害を起こした企業の社会的信用は失墜し、経営にも大きなダメージを与えかねません。また、労働者やその家族から、民事により損害賠償請求を受ける可能性も考えられます。

    労働安全衛生法の理解を深め、従業員の健康と安全を保護

    労働安全衛生法とは、労働者の健康と安全を守ることを目的に制定された法律です。同法により、労働者を雇用する企業には、さまざまな規則や義務が課せられています。

    労働安全衛生法は定期的に見直されているので、常に最新の情報を参照することも大切です。

    企業に義務づけられた措置を把握し、従業員が健康で生き生きと働ける職場環境を整備しましょう。