従業員の健康管理に企業が取り組むべき理由とは? 具体例や方法も紹介

従業員の健康管理に企業が取り組むべき理由とは? 具体例や方法も紹介

従業員の健康管理を個人の問題と捉え、自己管理に任せている企業は少なくないでしょう。

しかし、過度な残業や長時間労働によるうつ病・自殺などが社会問題となっている現代では、従業員の健康管理は、企業にとって重要な課題といえます。最近では健康経営への取り組みも取り沙汰され、従業員の健康管理に積極的に取り組む企業も増えてきました。

本記事では、従業員の健康管理がなぜ重要なのか、取り組むメリットや具体例・方法を紹介します。

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    従業員の健康管理はなぜ重要?

    従業員の健康管理が重要な理由として、複数の法律により、企業が従業員の健康を守るよう義務づけられている点が挙げられます。たとえば労働契約法第5条では、労働者に対する「安全配慮義務」が定められています。

    安全配慮義務の具体的な内容は、以下の通りです。

    安全配慮義務の具体的な内容
    作業環境整備義務すべての労働者に対して安全な設備を提供する義務
    安全衛生実施義務安全衛生管理や安全衛生教育訓練などを実施する義務
    適正労働条件措置義務すべての労働者に対して適正な労働時間や休憩時間、休日などを確保する義務
    健康管理義務すべての労働者に対して健康診断を実施し、健康状態を把握・管理する義務
    適正労働配置義務労働者の個別の事情に応じて、労働量の調整や就業場所の変更など適正な配慮をする義務

    出典:『メンタルヘルスで求められる使用者の健康配慮義務とは?』独立行政法人 労働政策研究・研修機構

    また、労働安全衛生法第7章で「健康の保持増進のための措置」が規定されていることも、従業員の健康管理を行わなければならない理由の一つです。

    参照:『労働契約法』e-Gov法令検索
    参照:『労働安全衛生法』e-Gov法令検索

    企業が従業員の健康管理に取り組む4つのメリット

    従業員の健康管理に積極的に取り組むと、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。4つのメリットを紹介します。

    • 労働生産性の向上
    • 企業のイメージアップ・企業価値の向上
    • 休職や離職の防止
    • 経営・労務リスクの軽減

    労働生産性の向上

    企業が従業員の健康管理に取り組むことで、従業員一人ひとりが心身ともに健康な状態を維持でき、会社へのエンゲージメントや仕事へのモチベーションが高まります。

    健康的に働ける職場であれば、一定の業務効率を維持でき、一人ひとりの生産性の向上が見込めます。多くの人が元気な職場は活気があふれ、全体の労働生産性にも影響し、業績につながる成果につながるでしょう。

    企業のイメージアップ・企業価値の向上

    従業員の健康管理に積極的に取り組み、実績を重ねると、対外的な企業イメージアップにつながります。

    近年では、政府の施策として「健康経営」への取り組みが推奨・推進されており『健康経営銘柄』や『健康経営優良法人(大規模法人部門・中小規模法人部門)』などの顕彰制度も導入されています。

    健康経営に取り組む企業として認知されると、従業員はもちろん、採用の応募者や取引先企業などステークホルダーに積極的にアピールできるので、企業価値の向上も期待できます。

    休職や離職の防止

    従業員の健康管理に無関心な職場で、働き続けたいと考える人は、少ないでしょう。

    個人の健康が損なわれると、休職・離職が増える可能性があります。休職者や離職者が増加すると、今いるほかの従業員に大きな負担がかかり、さらなる休職や離職を招いてしまうリスクも否定できません。

    企業が率先して従業員一人ひとりの健康を気遣うことで、離職率の低下や優秀な人材の流出防止につながります。

    経営・労務リスクの軽減

    従業員の健康管理に企業が取り組むことは、経営・労務リスクの軽減にも貢献します。

    万一、従業員が職場が原因で、精神疾患や過労死に追い込まれると、企業は安全配慮義務を怠ったとみなされ社会的に苦しい立場に置かれるでしょう。親族や遺族から損害賠償を求められ、裁判にまで発展する可能性も否定できません。

    安定的に企業経営を行ううえでも、従業員の健康管理は重要です。

    従業員の健康管理につながる取り組みの具体例・事例8選

    従業員の健康管理のために、企業ができる具体的な施策の事例・具体例を紹介します。

    1. 健康診断の促進
    2. 労働時間の短縮
    3. ストレスチェック制度の実施
    4. 福利厚生の拡充
    5. 研修やセミナーの導入
    6. 相談窓口の設置
    7. 職場環境の整備
    8. 産業医の配置

    健康診断の促進

    医師による健康診断は、労働安全衛生法第66条により企業に課された義務であり、従業員の健康管理の一つです。企業は常時使用する従業員に対して、雇用時の健康診断と年に一度の定期健康診断を実施する必要があります。

    常時使用する従業員とは、期間の定めのない雇用契約を結ぶ正社員だけではありません。期間の定めがある場合でも、以下の条件を満たすときには、常時使用する従業員に含まれます。

    • 1年以上使用する予定または更新により1年以上使用されている
    • 週の労働時間が正社員の4分の3以上である

    参照:『Q16.一般健康診断では常時使用する労働者が対象になるとのことですが、パート労働者の取り扱いはどのようになりますか?』東京労働局

    正社員だけでなく、上記の条件を満たすパートやアルバイトも対象です。

    労働時間の短縮

    従業員の健康管理は適切な勤怠管理・労働時間管理から始まります。過度な残業や慢性的な長時間労働は、従業員の心身に悪影響を及ぼしかねないため、常態化しているなら是正しなければなりません。

    厚生労働省は、時間外労働・休日労働が月100時間以上もしくは2〜6か月平均で月80時間以上を超えると、健康に悪影響を及ぼすリスクが高まると指摘しています。

    また、労働基準法36条に基づく時間外労働に関する労使協定である『36協定』に違反している場合、ただちに労働環境を改善しなければなりません。

    時間外労働の上限は、原則として「月45時間・年360時間まで」です。違反すると6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科されます。

    長時間労働を是正する施策として、時短勤務や在宅勤務、フレックスタイム制など、多様な働き方を導入する方法もあります。残業が多い従業員にアラートを出すなど、勤怠管理システムによる労働時間の自動管理もおすすめです。

    参照:『労働基準法』e-Gov法令検索
    参照:『過重労働による 健康障害を防ぐために』厚生労働省

    ストレスチェック制度の実施

    従業員の健康管理の一環で、心身にどの程度ストレスがかかっているかを把握することも、企業の重要な役割の一つです。

    ストレスチェック制度は、ストレスという目に見えないものを数値化・可視化して、企業だけでなく従業員本人も客観的に把握できるようにするための制度です。

    労働安全衛生法第66条に基づき、2015年12月より、50人以上の従業員を抱える事業所に対して年1回の実施が義務づけられました。従業員が50人未満の事業所も、努力義務としてできる限りストレスチェックを行うことが推奨されています。

    参照:『労働安全衛生法』e-Gov法令検索

    産業医の配置

    ストレスチェック制度と同様に、産業医の配置も従業員の健康管理として大切です。労働安全衛生法では、従業員50人以上の事業所に産業医の配置を義務づけています。

    産業医は少なくとも月に一度1度は事業所を訪問し、事業所内を巡回して、業務の取り組み方や職場の衛生環境に問題がないかを確認しなければなりません。また、状況に応じて適切な措置を講じる必要があります。

    十分な役割を果たさない名ばかり産業医ではなく、企業に寄り添ってサポートをしてくれる産業医であるかを見極めていきましょう。

    参照:『労働安全衛生法』e-Gov法令検索

    福利厚生の拡充

    従業員の健康への関心を高めて、健康増進につなげるために、福利厚生の拡充に取り組んでいくことも従業員の健康管理として大切です。

    従業員の健康維持やストレス軽減に関連する福利厚生施策には、以下のような例があります。

    • 社内スポーツクラブの設置
    • マッサージルームやジムルームの設置
    • 保養所やスポーツジムなどの開放・優待利用

    福利厚生制度を充実させることは、体調管理だけでなく、従業員満足度の向上にもつながるでしょう。

    健康管理研修やセミナーの導入

    従業員がみずから健康維持をするよう働きかけることも、従業員の健康管理として有効な手段です。研修やセミナー、勉強会を実施し、本人のヘルスリテラシーを向上させましょう。

    外部から講師を招いて学ぶ機会を設けるだけでなく、近年ではオンライン形式で受講してもらう手法にも注目が集まっています。従業員が率先して受講したくなる仕掛けづくりを検討する必要があります。

    研修の受講管理にはタレントマネジメントシステム活用も一案です。

    相談窓口の設置

    従業員の健康管理として、個人が抱える健康にまつわる悩みや困りごと、疑問などを気軽に相談できる窓口を設置する方法もあります。外部の専門家やカウンセラーと連携しましょう。

    健康に関する問題は、身近な人に相談しづらい場合もあるため、最大限プライバシーに配慮した場を設けます。

    また、人により話しやすい場所やツール、手段は異なります。電話やメール、チャットなど複数の手段を用意しておくと、相談の敷居を下げられるでしょう。

    職場環境の整備

    従業員の健康管理をするうえで欠かせない基礎となる取り組みが、働く職場環境の整備です。

    従業員にとって、働きやすい環境をつくるために、取り組みたい施策は以下の通りです。

    • 快適な室温や湿度を維持するために空調設備を見直す
    • オフィス内の衛生面を改善する
    • 騒音対策を講じる
    • 老朽化した機器や設備を入れ替える

    主にハード面を整備します。従業員一人ひとりの状況に配慮しながら、心身の負担やストレスを少しでも軽減できるよう働きかけていきましょう。

    従業員の健康管理に取り組む際の注意点

    従業員の健康管理において、ただ実施するのではなく、いくつかの注意点もあります。従業員の健康管理に取り組む際に気をつけたい、注意点やポイントを3つ紹介します。

    • 業務への影響を考慮する
    • 個人差を想定して運用する
    • 労務管理システム・勤怠管理システムの収集データを活用する

    業務への影響を考慮する

    人のリソースが不足していると、通常業務に支障が出るため、業務の影響を考慮しながら従業員の健康管理を進めることが重要です。

    従業員の健康施策は、一般的に人事や総務の担当者が兼務しています。バックオフィスの担当者は、日常業務に追われる中で、年に一度の健康診断の実施義務を果たすのが精一杯の場合もあります。

    従業員の健康管理を積極的に進めるためには、専任者を配置することも検討しましょう。

    健康意識に対する個人差を想定して運用する

    個人の健康状態や健康への意識は個人差があり、企業の健康管理がすべての従業員に同じ効果をもたらすとは限りません。

    健康維持に興味がない従業員に対しては、思うような成果が得られなくても根気強くアプローチする必要があります。個人差をどのように埋めていくかを考慮したうえで、企業としての対応を検討しましょう。

    労務管理システム・勤怠管理システムの収集データを活用する

    従業員の健康管理を効率的に実施するには、労務や勤怠の情報を一元管理することをおすすめします。

    労働時間の集計や健康診断の実施状況などは、領域が異なるため、バラバラに管理されている企業が多いでしょう。しかし、勤怠や労務の情報をまとめて一元管理し、可視化することで、今まで把握できなかった傾向や次の打ち手が見えてくる場合があります。

    アンケート機能なども利用して、従業員の健康情報をシステムでまとめて管理する方法も検討してみてはいかがでしょうか。

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    従業員の健康管理にはシステムの活用も(まとめ)

    従業員の健康管理は、企業を経営するうえで重要な課題の一つです。従業員の心身の健康を維持することで、生産性・モチベーションの向上や離職率の低下、企業のイメージアップなど多様なメリットがもたらされます。

    従業員の健康管理は一時的なものではなく、継続的な取り組みが不可欠です。従業員が安心して働き続けられる環境を整備できるよう、本記事で紹介した具体的な取り組みを参考に、自社に適した施策を実施しましょう。

    また、従業員の健康管理は適切な労働時間の管理から始まります。従業員の働き方の状況を正しく把握し、業務を最適化させるためにも、勤怠管理システムの活用も検討してみましょう。

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