産業医面談とは|何を話す? クビのサイン? 実施のメリット・デメリットを人事担当向けに解説
産業医面談とは、従業員の健康増進や職場環境の改善を目的とする対話の機会です。過労やストレスが原因となる健康問題の予防、復職支援の計画、職場環境の適正化に向けた助言・指導が実施されます。人事担当者として、産業医面談の内容や目的を十分に理解していないと、従業員に不安を与えてしまうかもしれません。
本記事では、産業医面談の具体的な内容や目的を解説し、企業側が面談を実施する際のメリット・デメリットについても紹介します。産業医面談を正しく理解し、従業員の不安を軽減するために、お役立てください。
産業医面談とは
産業医面談とは、労働者の健康状態を確認し、職場環境や業務が健康に与える影響を評価するために実施される面談です。
産業医面談では、労働者の健康状態に応じて保健指導をするだけでなく、職場の環境や業務内容が健康に関わるリスクを総合的に評価します。必要に応じて、職場環境の改善や業務の調整が提案され、従業員の安全と健康が確保される仕組みとなっています。
産業医面談により、企業は労働者が安心して働ける環境づくりを進めることができ、従業員の健康を守る体制が整えられます。
産業医に課せられる2つの義務
産業医とは、労働者が健康的に働けるように、医学の知見から専門的なサポートをする医師です。企業は、労働安全衛生法第13条に基づいて、産業医の選任が求められています。
産業医には、従業員の健康管理を行うにあたり、守秘義務と報告義務という2つの義務が課せられています。
守秘義務とは、産業医が従業員の健康情報や面談内容を含む個人情報を、本人の同意なしに第三者に漏らさないことです。報告義務とは、産業医が従業員の健康状態に重大なリスクがあると判断した場合、企業や関係機関に情報を適切に報告する責任を指します。
従業員の同意なしに情報共有されることは禁止されているため、原則として守秘義務が優先されます。また、たとえ報告に至っても、必要な情報だけに絞ることとされています。
参考:『長時間労働者への医師による面接指導制度について』労働基準監督署
産業医面談の実施は企業の義務? 従業員は強制?
産業医面談の実施は労働安全衛生法により、事業主に対して義務づけられています。企業は従業員に対して産業医面談の実施を提案しなければなりません。
一方で従業員は、産業医面談を受ける義務はなく、本人の意思により拒否することも可能です。そのため、企業は従業員に対して面談を受けることを強制できません。
たとえば、健康診断で異常が認められた従業員や休職者、ストレスチェックで高ストレスと判断された労働者に、企業の担当者は産業医面談を提案します。しかし、参加は任意であり本人次第です。
人事担当者としては、企業の安全配慮義務も考慮し、対象者に意義や必要性を伝え、懸念点も排除したうえで、理解を求めるとよいでしょう。あくまでも労働者本人の心身の健康を守り、職場環境を改善するためである目的を伝えることが大切です。
産業医面談の実施方法
産業医面談の実施方法について、使用するツールや時間・流れと手順などのポイントを解説します。
対面・オンラインで実施可能
産業医面談は、対面またはオンラインで実施できます。
オンライン面談は2020年11月より、一定の条件を満たせば実施できるようになりました。在宅勤務の労働者でも会社へ行かずに産業医面談を受けられます。産業医側も移動時間が削減できるため、双方にとって大きなメリットといえるでしょう。
オンライン面談を実施するには、医師に対し、面接指導を受ける労働者が業務に従事している事業場に関する事業概要、業務内容などに関する情報などを提供しなければなりません。
オンライン産業医面談を実施できる医師
オンラインの産業医面談で面接指導を実施できるのは、以下のいずれかの要件を満たしている医師であることが望ましいとされています。
オンライン面談を任せる医師に求められる要件 |
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・対象事業場の産業医であること ・面接指導を実施する医師が対象事業場との契約により、従業員の日常的な健康管理業務に1年以上従事していること ・過去1年以内に対象事業場を巡視していること ・過去1年以内に当該労働者への指導を実施していること |
オンライン産業医面談の情報通信機器
オンライン産業医面談の情報通信機器に関しては、以下のすべての要件を満たすことが必要です。
オンライン産業医面談で使用する情報通信機器の要件 |
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・表情や顔色、声などを確認できたうえで映像や音声に乱れがないこと ・情報セキュリティが確保されていること ・情報通信機器の操作が容易であること |
産業医の判断でオンライン面談を差し控えた場合は、対面で実施する必要があります。
参照:『情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項、第66条の8の2第1項、第66条の8の4第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について』厚生労働省
時期と所要時間
産業医面談の実施時期は、健康診断やストレスチェックの結果を受けたタイミングが多く、従業員からの希望があった場合も行われます。
所要時間は、従業員の健康状態や相談内容によって異なり、一般的には30〜60分程度が目安です。
面談の頻度やタイミングについては、従業員の勤務状況などに応じて柔軟に調整され、複数回に分けられることもあります。
主な流れ
産業医面談を実施する一般的な流れは、以下の通りです。
- 面談対象者の決定
- 面談日時と場所の決定
- 対象者へ通知
- 産業医への情報共有
- 面談の実施
- 面談の記録と意見書を保管
- 事業者として就業上の配慮や職場環境改善の指導を実施
面談が必要な従業員に対して、日時と場所を伝えたうえで実施します。
産業医面談を実施するメリット・目的
企業にとって産業医面談を実施するメリットや目的は以下の通りです。
- 従業員の健康を維持・改善する
- 離職や休職を防ぐ
- 働き方を改善するきっかけとなる
- 健康経営を推進する
従業員の健康を維持・改善する
産業医面談は、従業員の健康を維持・改善するための場です。 身体的な健康状態だけでなく、メンタルヘルスの観点からもストレス状態を把握して、心理的なサポートをします。
長時間労働や職場の人間関係における悩みの解決を支援することで、従業員と信頼関係が構築できることもあるでしょう。適切な指導により、従業員の生産性やモチベーションが向上し、結果的に企業全体のパフォーマンス向上も期待できます。
離職や休職を防ぐ
産業医面談は、早期に従業員の健康問題を発見することで、適切な対策がとれるため、離職や休職を未然に防ぐ効果があります。メンタルヘルスの不調や身体的な不調が悪化する前に、必要な休養や今後の対応を提案し、従業員が長期的に働き続けられる環境を整えられるでしょう。企業は大切な人材の流出を防ぐことができ、職場の安定性を確保できるメリットがあります。
働き方を改善するきっかけとなる
産業医面談を通じて、従業員の働き方や職場環境に関する問題点が明らかになり、今後の働き方を見直せます。実施内容を踏まえて、企業は業務フローの見直しや労働時間の調整など、具体的な対応をすることが可能です。
結果として、従業員の働きやすさが向上し、職場全体の満足度が高まるでしょう。 働きやすい環境は従業員の健康を守るだけでなく、長期的に労働生産性の向上にも影響します。
健康経営を推進する
産業医面談の実施は、健康経営の一環として位置づけられています。個人の健康を保つだけでなく、企業のイメージアップや社会的な評価の向上にもつながる取り組みといえます。
また、健康経営を推進する企業は、労働者の健康に配慮することで、長期的な業績にも影響すると考えられています。
産業医面談を実施するデメリット
産業医面談の実施は企業や従業員にとって複数のメリットがあり、多岐にわたる効果が期待できる一方、デメリットもあります。主なデメリットを企業側と従業員側に分けて解説します。
企業側:費用がかかる
産業医面談を実施するには、産業医への報酬、面談にかかる準備や運営費が必要です。中小企業にとっては特に、実施費用が負担になることもあるでしょう。契約時だけでなく、専任の担当者を配置したり、面談の場を整えたりするための維持費もかかります。
また産業医面談では、限られた1回の面談時間で、問題の核心に迫ることは難しいでしょう。面談回数を増やすと、さらに費用がかさむことは避けられません。
サランい従業員に「意味がない」「クビになるのでは?」と不安を持たれることも、企業側のデメリットとして挙げられます。関係各所に手配をしても、実施に結びつかないとデメリットに感じる企業もいるようです。
従業員側:時間・回数に制限がある
産業医面談は、通常勤務時間内に設定されることが多く、業務への影響が避けられません。面談の予約や調整を負担に感じる従業員もいるでしょう。企業が窓口になっていることから、プライバシーの保護に不安を感じる人も少なくありません。
また、面談の回数や時間には制限があるため、短い時間内ですべての問題解決が難しい場合もあります。
産業医面談では何を話す?【対象者別の内容】
産業医面談は基本的に企業に所属するすべての従業員が対象ですが、特に以下の対象者を優先して実施されます。
- 定期健診で異常が発見された従業員
- 高ストレスを抱える従業員
- 長時間労働に該当する従業員
- メンタル不調の従業員
- 休職・復職時の従業員
- 退職希望の従業員
それぞれのケースにおいて、どのようなテーマで何を話すのか、具体的に解説します。
定期健診で異常が発見された従業員
定期健診で異常が発見された従業員には、産業医面談で原因となる勤務実態や生活習慣について話します。産業医は、診断結果をもとに生活習慣の改善策を提案し、必要に応じて専門医の受診をすすめます。
産業医面談では、業務に支障が出るリスクを考慮して、就業制限や労働時間の調整などについても話し合うことが一般的です。健康の改善をサポートしつつ、早期発見・早期対応を目指します。
企業は健康診断後、3か月以内に就業内容に問題がないかを確認する必要があります。
高ストレスを抱える従業員
ストレスチェックの結果、高ストレスと判定された従業員には、まず原因や業務への影響について十分なヒアリングをします。必要に応じて、外部のメンタルヘルス専門家やカウンセラーとの連携も検討し、精神的なサポート体制を強化します。
企業側は産業医の検討に基づいて、業務内容や労働時間の見直しといった実行可能な対策をとり、ストレス軽減に取り組むことが必要です。休職やリフレッシュ休暇の取得をすすめるのも一案です。
長時間労働に該当する従業員
長時間労働が続いている従業員に対しては、労働時間の見直しや業務負担の軽減を目的として適切な指導が行われます。
月80時間を超える時間外労働や休日労働をして疲労の蓄積が認められる従業員は産業医面談の対象です。なお「高度プロフェッショナル制度」を適用している従業員は、月100時間の時間外・休日労働が基準です。
産業医面談で話す内容は、疲労の蓄積度合いや労働時間だけでなく、休息をとる方法やストレスマネジメントのスキルを学ぶことも含まれ、健康に関するアドバイスが伝えられます。結果的に過労による健康被害の防止につながるでしょう。
メンタル不調の従業員
メンタル不調を抱える従業員には、産業医が原因や症状を詳しく聞き取り、必要なサポートや業務の調整を提案します。早期対応が重要であり、産業医の役割が大きい分野といえます。
特に、メンタルヘルスの問題は早期発見と早期対応が重要であり、産業医は正しい診断と治療計画が求められます。企業側の立場としても、産業医の助言に基づき、職場環境や業務内容の調整する必要があります。
休職・復職時の従業員
休職中または復職を予定している従業員には、産業医が復職の可否を評価し、業務内容や勤務時間の調整を提案します。無理なく業務を再開できるようにするためには、勤務体制の調整や負荷の軽減が必要な場合もあります。
産業医は、従業員の体調や精神的な状態を確認し、業務再開が可能かどうか判断します。企業は、主治医の「復帰可能」という診断書・意見をもとに、産業医の判断に沿って、復職体制を整えます。従業員がスムーズに復職できるための体制を整え、復職後のフォローアップも実施します。
退職希望の従業員
退職希望の従業員には、理由や背景を話し合い、退職を避けられる可能性があるかどうかを検討します。退職後の健康状態や生活について助言することもあります。。
退職を回避するための対応が必要な場合、部署の変更や働き方の改善などの提案をして、従業員の意向を尊重しつつ、サポートしましょう。
産業医面談で人事労務担当者が配慮したい注意点
産業医面談の実施に際して、人事労務担当者はどのような点に気をつけるべきなのでしょうか。人事労務担当者が配慮したい注意点を解説します。
- 目的・役割を説明する
- 対象者のプライバシーに配慮する
- 定期的な調査と改善を繰り返す
- 対象者をフォローアップする
- 社外相談窓口も設置する
目的・役割を説明する
産業医面談を実施する際は、まず目的や産業医の役割について、従業員に明確に説明する必要があります。特に健康管理や職場環境の改善を目的とした面談であることを強調し、不安や誤解を取り除いて、協力を得ることが重要です。
対象者のプライバシーに配慮する
産業医面談の内容は、従業員のプライバシーにかかわるため、情報の取り扱いには十分な配慮が必要です。また、面談の連絡方法も、メールや封書など従業員のプライバシーを守る方法を選び、周囲に知られないように配慮することが大切です。情報は本人の同意なく、第三者に開示しないことが基本です。
定期的な調査と改善を繰り返す
産業医面談を一度だけで終わらせるのではなく、定期的に実施して、従業員の健康状態や職場環境の改善状況を継続的に確認します。改善策が効果を発揮しているか、また新たな課題が発生していないかを見直し、必要に応じて新たな改善を実施します。
対象者をフォローアップする
産業医面談のあとは、対象者に対して適切なフォローアップが必要です。たとえば、メンタルヘルス不調が見られる従業員には、保健師や直属の上司と連携し、追加の面談やサポートを実施します。従業員の現在の状況に寄り添った対応が求められます。
社外相談窓口も設置する
従業員が社内の産業医面談に抵抗を感じる場合は、社外相談窓口や専門の医療機関を活用することも一つの方法です。従業員が安心して相談できる環境を整えることで、健康問題に対する早期対応を促進し、サポート体制を構築します。
従業員が泣くことも想定して面談を設定する
産業医面談の場では、従業員が感情的になることも予想されます。当日は従業員が安心して話せる環境を整えることが重要です。面談後のフォローアップも含めて、慎重に落ち着いて対応しましょう。
産業医面談はクビのサイン? 退職を勧められる?
産業医面談が実施された際、従業員の中には「クビのサインではないか」と不安に感じることがあります。産業医面談は、従業員の健康を守るためのものであり、退職を勧めるためのものではありません。
ただし面談の結果、現在の業務の継続が困難と判断された場合、ほかの職務への配置転換や休職を提案されることはあります。あくまでも従業員の健康を最優先に考えた措置であり、解雇や退職を目的としたものではないことを理解してもらうことが重要です。
産業医面談についてよくある疑問・誤解
産業医面談のよくある疑問や誤解を紹介し、ここまでの復習も兼ねてその回答を解説します。
産業医面談は義務? 強制できる?
産業医面談は、企業にとって義務ですが、従業員への強制は難しい場合があります。従業員の申し出に基づくことが前提であり、強制的な実施は避けましょう。従業員が面談を拒否した場合、事情を把握して適切な対応が求められます。
産業医面談は拒否されたらどう対応する?
従業員が産業医面談を拒否した場合、理由をヒアリングして解決策を探ります。従業員が面談を受けやすくなるような配慮が必要です。従業員が拒否した場合でも、ほかの方法で健康状態を確認する手段を講じることが考えられます。
産業医面談は上司や人事担当者が同席する?
上司や人事担当者の同席は、産業医面談の内容に影響を与える可能性があるため、避けたほうがよいでしょう。従業員が安心して話せる環境を整えるため、面談は産業医と従業員で実施します。従業員が希望する場合や特別な事情がある場合は、同席が認められることもあります。
産業医面談の内容は人事評価に影響する?
産業医面談の内容は、基本的には人事評価に影響を与えません。面談の結果、特別な措置が必要と判断された場合、業務に影響を与えることはあります。産業医面談の目的は従業員の健康を守ることです。人事評価の一環として行われるものではないことを従業員に理解してもらういます。
産業医面談の費用は誰が負担する?
産業医面談の費用は、基本的に企業が負担します。産業医の報酬や面談にかかる運営費用などは企業負担が原則です。従業員は面談にかかる費用を負担しません。
産業医面談の時間は勤務扱いになる?
産業医面談は勤務時間として扱われます。従業員が業務の一環として面談を受けるため、勤務時間中に行われることが一般的です。
まとめ
産業医面談は、従業員の健康管理を目的とした重要な企業の取り組みです。企業は、産業医面談を通じて従業員の健康状態を把握して、適切な対策を講じる必要があります。結果的に従業員の健康を守り、企業全体の生産性や労働環境の改善をはかれるでしょう。
一方で、面談の実施には費用や時間の制約があります。企業と従業員が協力して効果的な面談の実施が求められます。産業医面談は従業員のプライバシーを尊重して、信頼関係を築くことが重要です。適切な面談の実施を通じて、働きやすい職場環境を整えることが企業の持続的な発展につながるでしょう。