労働保険料の納付方法とは? 分割納付や口座振替の仕組みを解説

労働保険には、年に1回「年度更新」という手続きがあります。労働保険料を正確に申告・納付するために、担当者は仕組みを理解しておかなければなりません。

労働保険料の納付方法は、原則として一括ですが、分割納付などの例外もあります。

本記事では、労働保険料の納付方法について詳しく解説します。保険料をスムーズに納付するために、ぜひお役立てください。

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    労働保険料の納付手続き(年度更新)とは

    労働保険の年度更新とは、概算で前払いした労働保険料(労災保険料+雇用保険料)の精算と、翌年の概算保険料を納付する手続きです。

    労働保険料は基本的に前払いで、通常は1年間分をまとめて申告・納付します。

    労働保険料は従業員に支払った賃金に保険料率を乗じて計算されるため、前払いの時点では概算の金額しかわかりません。従業員の賃金が確定したあと、正しい金額を計算して過不足を精算する必要があります。

    「概算保険料の支払い」と「確定保険料の納付」を同時にするのが「労働保険の年度更新」です。

    労働保険のおさらい

    労働保険とは雇用保険と労災保険の2つをあらわす言葉で、労働保険料は2つの保険料の合算です。

    企業はすべての従業員を労災保険に、一定の要件を満たす従業員を雇用保険に加入させる義務があります。労災保険料は企業が全額負担、雇用保険料は企業と従業員がそれぞれの負担割合に応じて負担する決まりとされています。

    参照:『労働保険の年度更新とは』厚生労働省

    労働保険料の納付期限・納付先

    労働保険料の納付期限や納付先について解説します。

    期限はいつ?

    労働保険料の納付期限は、例年7月10日です。

    毎年6月1日から7月10日までの間に手続きを行い、今年度の概算保険料と前年度の確定保険料をまとめて納付する必要があります。6月1日と7月10日が土日祝の場合は、年度更新期間の始まりと終わりがそれぞれ休日明けまで延長されます。

    納付先はどこ?

    労働保険料の納付先は、通常であれば管轄の労働局または労働基準監督署です。そのほか、金融機関で申告・納付を済ませることもできます。

    労働保険料は通常は事業所単位で納付しますが、「継続事業の一括」の手続きをしていればまとめて納付が可能です。一括している場合の納付先は、指定事業所(一括後の事業所)を管轄する労働局または労働基準監督署です。

    労働保険の納付方法【基本編】

    労働保険料を納付するまでの流れを解説します。基本的な手順は、以下の通りです。

    1. 前年度の保険料を確定・差額調整
    2. 今年度の保険料を概算
    3. 申告書を提出
    4. 保険料を納付

    1.前年度の保険料を確定・差額調整

    前年度の労働保険料を確定し、差額を精算します。労働保険料は、4月1日から3月31日に支給が確定した賃金に基づいて計算します。年度内に支払いが済んでいなくても、賃金の支給が確定していれば計算対象になるため注意が必要です。

    前年度の確定保険料を計算したら、概算保険料との差額を求めます。たとえば、概算保険料が27万円で、確定保険料が33万円だった場合、6万円分の保険料を追加で納める必要があります。

    差額の計算
    確定保険料-概算保険料33万円-27万円=6万円

    2.今年度の保険料を概算

    次に今年度の労働保険料を概算します。概算保険料を計算する時点では、まだ年度内の賃金総額は確定していないので、見込み額をもとに算出します。ただし、見込み額が前年度の2分の1から2倍の間におさまる場合は、前年度に確定した賃金額を用います。

    3.申告書を提出

    ここまでで、年度更新で納めるべき労働保険料はすべて計算できました。次は、労働基準監督署などに提出する申告書を作成します。

    『労働保険概算・確定保険料申告書』に必要事項を記入し、期限内に提出しましょう。

    4.保険料を納付

    労働保険の年度更新は、保険料の申告と納付を一緒に行う手続きです。7月10日の期限までに、前年度の精算分と、今年度の概算保険料を確実に納付しましょう。

    労働保険料は一括納付が原則

    労働保険料は、原則として一括納付です。また、保険料の納付方法は、次の3種類から選べます。

    1. 現金納付(窓口持参)
    2. 電子納付
    3. 労働保険事務組合への委託

    労働保険料を現金で納める場合は、労働基準監督署や労働局などの窓口に保険料を持参します。そのほか、銀行や郵便局でも受付可能です(一括有期事業を除く)。

    年度更新を電子申請した場合は、保険料も電子納付が可能です。電子納付は、ペイジーに対応したインターネットバンキングやATMからできます。

    また、一定の条件を満たした中小企業のみ、労働保険料の申告や納付を労働保険事務組合に委託することも認められています。具体的には、常時使用する労働者数が業種ごとの上限を下回っていることが条件です。

    労働保険事務組合に年度更新を委託できる業種常時使用する労働者数の上限人数
    金融・保険・不動産・小売業50人
    卸売事業・サービス業100人
    その他事業300人

    いずれの方法でも保険料は一括納付が原則ですが、なかには例外となるケースもあります。

    労働保険料の納付方法【例外1】分割(延納)

    労働保険料は一括納付が原則です。しかし継続事業では、以下のいずれかの条件を満たすと、分割納付が認められます。

    • 概算保険料が40万円以上
    • 労災保険か雇用保険のどちらかのみに加入している場合には、その保険料が20万円以上
    • 当該保険年度において、10月1日以降に保険関係が成立した事業でないこと

    条件を満たすと、労働保険料を最大3回に分けて納付することが可能です。

    ※有期事業の場合、分割納付の要件が異なります(概算保険料が75万円以上など)。

    ※労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合、概算保険料の額に制限はなく分納が可能。

    期限

    労働保険料を分割納付する場合の期限は、以下の3つがあります。

    17月10日(※または事業開始後50日以内)
    210月31日(事務組合委託の場合は11月14日)
    31月31日(事務組合委託の場合は2月14日)

    納付期限を前後させることはできないため、事業開始時期によって、分割回数が少なくなったり、分割ができなかったりすることもあります。具体的には、以下のようなケースです。

    6月1日から9月30日までの間に事業を開始した場合分割回数は2回まで
    10月1日以降に事業を開始した場合分割は不可(翌年から可)

    労働保険料の納付方法【例外2】口座振替

    労働保険料は、口座振替で納付することも可能です。口座振替であれば現金を窓口に持参する必要がなく、納付忘れも防げます。納付期限が通常よりも2週間〜2か月延びるので、スケジュールにゆとりを持てるのもメリットです。

    初回こそ口座振替の手続きに手間がかかるものの、解除するまで継続されるので、手続きは一度で済みます。

    手続き

    労働保険料の口座振替の納付手続きは、次の手順で進めます。

    1. 申込用紙を入手する(労働基準監督署や労働局、厚生労働省のホームページからダウンロード可能)
    2. 申込用紙を金融機関に提出する
    3. 引き落としの3週間前に通知がくるので、納付額を口座に用意する

    対応する金融機関

    労働保険料の口座振替に対応している金融機関は、以下の通りです。

    • 銀行
    • 信用金庫
    • 信用組合
    • 労働金庫
    • 農業協同組合(JAバンク)
    • 漁業協同組合(JFマリンバンク)
    • 商工組合中央金庫
    • ゆうちょ銀行(2024年4月より)

    多くの金融機関が口座振替に対応していますが、一部対応していないところもあるため事前に確認しておきましょう。長らくゆうちょ銀行も対象外でしたが、2024年に追加されました。

    参考:『労働保険料等の口座振替納付』厚生労働省

    労働保険料の納付方法【例外3】賃金総額が大きく変動したとき

    実際の賃金が見込み額を大幅に超えたら「増加概算保険料」として、追加の労働保険料を申告・納付する必要があります。具体的には、実際の賃金が見込み額の2倍を超え、概算保険料が13万円以上増加する場合は追加で納付が必要です。

    労働保険の概算保険料は、賃金の見込み額をもとに計算します。通常であれば、実際の賃金が見込み額と異なっていても、年度更新の際に精算すれば問題ありません。しかし、想像以上に賃金総額が変動することもあるでしょう。

    概算保険料を追加で納付する場合、納付期限は「大幅な増加があった日の翌日から30日以内」と定められています。

    労働保険料の追加納付の条件(1)実際の賃金×2 > 見込み額
    労働保険料の追加納付の条件(2)概算保険料が13万円以上増加
    労働保険料の追加納付の期限大幅な増加があった日の翌日から30日以内

    労働保険料の納付時の注意点

    労働保険料を納付する際は、次のポイントに注意しましょう。

    • 保険料率の変更に気を配る
    • 期限を守る
    • 仕訳方法によって勘定科目が異なる

    それぞれのポイントについて、以下で詳しく解説します。

    保険料率の変更に気を配る

    労働保険料は、「賃金総額×保険料率」で計算します。労災保険、雇用保険ともに保険料率は変更される場合があるため、常に最新の情報を参照しましょう。誤った保険料率を適用すると保険料を正しく計算できなくなってしまうので、十分に注意が必要です。

    たとえば、直近では2023年に雇用保険料率が、2024年に労災保険料率が変更されています。2024年度の雇用保険料率は2023年度から据え置きでしたが、今後も見直される可能性はあります。

    参照:『令和6年度の労災保険率について(令和6年度から変更されます)』厚生労働省
    参照:『令和5年度雇用保険料率のご案内』厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク
    参照:『令和6年度の雇用保険料率について』厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク

    期限を守る

    労働保険の年度更新は毎年6月1日から7月10日までと、期限が明確に定められています。期限を超過した場合は、政府によって保険料の金額が決定され、10%の追徴金を徴収される恐れもあるでしょう。

    従業員の数が多くなるほど、追徴金による負担は増してしまいます。重い罰則を避けるためにも、労働保険料は期限を守って納付することが大切です。

    仕訳方法によって勘定科目が異なる

    労働保険料のうち雇用保険料は労使双方が負担するので、従業員の負担分は毎月の給与から徴収しておき、あとでまとめて納付します。雇用保険料を徴収するときの仕訳には、「法定福利費」「立替金」「預り金」「前払費用」といった勘定科目を用いるのが一般的です。

    使用する勘定科目は会社の仕訳方法によって異なるので、これまでの帳簿を確認するとよいでしょう。

    徴収する際の勘定科目を「法定福利費」にすると、会社負担分と従業員負担分を分ける必要はなく、納付時の仕訳がシンプルになります。

    労働保険料は一括納付が原則(まとめ)

    労働保険料(労災保険料・雇用保険料)は、毎年7月10日までに納付する必要があります。納付方法には現金納付や電子納付などがあり、事前に手続きをすれば口座振替も可能です。

    労働保険料は一括納付が原則ですが、一定の条件に当てはまると分割納付が認められることもあります。最大3回に分けて保険料を納付できるので、資金繰りに困っているなどの理由があれば、活用してみましょう。

    保険料を正しく計算するためには、まず従業員の賃金を正しく計算する必要があります。給与計算や各種社会保険手続きの効率化をはかるなら、労務管理システムを取り入れるのがおすすめです。

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