労働保険の年度更新手続きをわかりやすく解説|計算方法や書類作成時に間違えやすいポイントも
労働保険の年度更新とは、労働保険料の申告・納付に関する年1回の手続きです。
年度更新の手続きや書類作成ミスがあると、誤って保険料を納付しかねないため、間違えやすい内容や注意点を把握することが大切です。
本記事では、労働保険の年度更新のやり方や注意点をわかりやすく解説します。スムーズに手続きを進めるために、ぜひお役立てください。
労働保険の年度更新とは? なぜ必要?
労働保険の年度更新とは、前年度の保険料を精算し、新年度の概算保険料を申告・納付する手続きです。
労働保険の保険料は、毎年4月1日から翌3月31日までを一区切りとして、1年ごとに計算されます。まず概算の保険料を申告・納付し、年度終わりに1年間の賃金総額が確定したら、最終的な保険料との差額を精算するという仕組みです。
つまり、労働保険の年度更新は、保険料を正しく納めるために必要な手続きといえます。
参考:『労働保険料等の申告内容について訂正が必要なとき』厚生労働省愛知県労働局
参考:『労働保険の年度更新とは』厚生労働省
労働保険の年度更新の実施概要
労働保険の年度更新の期限は、毎年6月1日から7月10日までです。前年4月1日から当年3月31日までの賃金総額に基づいて申告するため、例年5月末ごろになると都道府県労働局から申告書が届きます。
そのほか、申告書類の提出先や提出方法など、年度更新の実施概要は以下の通りです。
申告期限 | 6月1日から7月10日 |
提出書類 | 労働保険年度更新申告書 |
提出先 | 都道府県労働局、労働基準監督署、銀行・郵便局などの金融機関※ ※提出・納付が同時の場合のみ |
提出方法 | 窓口持参・郵送・電子申請 |
申告・納付の対象 | 労働保険料・一般拠出金 |
期限を守らず労働保険料の納付を怠った場合は、年14.6%(最初の2か月は軽減措置あり)の延滞金が課せられます。
また、申告内容に誤りがある場合は、「労働保険訂正申告理由書」を添えて訂正申告をします。
なお、保険料をすでに納付している場合は、書面での申告のみとなるので注意しましょう。
労働保険とは
労働保険とは、雇用保険と労災保険の総称です。
雇用保険の概要
労働保険のうち雇用保険は労働者の生活と雇用の安定をはかるための制度です。一定要件を満たす労働者に対して、失業手当や育児休業給付などさまざまな給付が受けられます。
ごく一部の事業を除いて、事業者は従業員を1人でも雇っていれば雇用保険に加入しなければなりません。また、以下の条件を満たすすべての従業員が、雇用保険の被保険者となります。
- 31日以上継続して雇用される見込みがある
- 週の所定労働時間が20時間以上ある
雇用保険の保険料は企業と従業員がそれぞれ負担し合って納付します。健康保険や厚生年金などの社会保険とは異なり、企業の負担割合が多いのが特徴です。
労災保険の概要
労働保険のうち労災保険とは、業務中のできごとに起因するケガや病気などに備える制度です。業務中の転倒や落下などのほか、通勤中に発生した事故も労災として認定されます。
雇用保険と同様、従業員を1人でも雇用している事業者は労災保険に加入する義務があります。労災保険における被保険者は、事業者から賃金を支払われているすべての労働者です。雇用期間や所定労働時間に関する要件はありません。
労災保険の保険料は、企業が全額を負担して納付します。
労働保険の年度更新の計算方法
労働保険の年度更新で算出する保険料は、従業員の1年間(4月1日から3月31日)の賃金総額(1,000円未満は切り捨て)に対して、保険料率を乗じて計算します。そのため、企業は従業員に支払った賃金額を正確に把握することが大切です。
保険料率は事業の種類ごとに定められており、自社の事業に当てはまるものを使用します。保険料率は定期的に見直されているため、常に最新の情報を参照する必要があります。
労働保険料の計算結果に小数点以下が発生した場合は、切り捨てる決まりです。ただし、雇用保険と労災保険の算定基礎額が同額の場合は、2つの保険料率を合計したものを算定基礎額に乗じてから、小数点以下を切り捨てます。
2024年最新の労働保険料率
労働保険のうち、2024年度の雇用保険の保険料率は、以下の通りです。
(1)労働者負担 | (2)事業主負担 | (1)+(2)雇用保険料率 | |||
---|---|---|---|---|---|
合計 | 失業等給付・育児休業給付の保険料率 | 雇用保険二事業の保険料率 | |||
一般の事業 | 6/1,000 | 9.5/1,000 | 6/1,000 | 3.5/1,000 | 15.5/1,000 |
農林水産・清酒製造の事業※ | 7/1,000 | 10.5/1,000 | 7/1,000 | 3.5/1,000 | 17.5/1,000 |
建設の事業 | 7/1,000 | 11.5/1,000 | 7/1,000 | 4.5/1,000 | 18.5/1,000 |
※園芸サービス、牛馬の育成、酪農、養鶏、養豚、内水面養殖および特定の船員を雇用する事業は、一般の事業の保険料率が適用される
雇用保険の保険料率は3つの業種別に定められ、企業の負担の方が大きくなっています。
労働保険のうち、2024年度の労災保険の保険料率は、以下の通りです。
(単位:1/1,000)
事業の種類の分類 | 業種番号 | 事業の種類 | |
---|---|---|---|
林業 | 02又は03 | 林業 | 52 |
漁業 | 11 | 海面漁業(定置網漁業又は海面魚類養殖業を除く。) | 18 |
12 | 定置網漁業又は海面魚類養殖業 | 37 | |
鉱業 | 21 | 金属鉱業、非金属鉱業(石灰石鉱業又はドロマイト鉱業を除く。)又は石炭鉱業 | 88 |
23 | 石灰石鉱業又はドロマイト鉱業 | 13 | |
24 | 原油又は天然ガス鉱業 | 2.5 | |
25 | 採石業 | 37 | |
26 | その他の鉱業 | 26 | |
建設事業 | 31 | 水力発電施設、ずい道等新設事業 | 34 |
32 | 道路新設事業 | 11 | |
33 | 舗装工事業 | 9 | |
34 | 鉄道又は軌道新設事業 | 9 | |
35 | 建築事業(既設建築物設備工事業を除く。) | 9.5 | |
38 | 既設建築物設備工事業 | 12 | |
36 | 機械装置の組立て又は据付けの事業 | 6 | |
37 | その他の建設事業 | 15 | |
製造業 | 41 | 食料品製造業 | 5.5 |
42 | 繊維工業又は繊維製品製造業 | 4 | |
44 | 木材又は木製品製造業 | 13 | |
45 | パルプ又は紙製造業 | 7 | |
46 | 印刷又は製本業 | 3.5 | |
47 | 化学工業 | 4.5 | |
48 | ガラス又はセメント製造業 | 6 | |
66 | コンクリート製造業 | 13 | |
62 | 陶磁器製品製造業 | 17 | |
49 | その他の窯業又は土石製品製造業 | 23 | |
50 | 金属精錬業(非鉄金属精錬業を除く。) | 6.5 | |
51 | 非鉄金属精錬業 | 7 | |
52 | 金属材料品製造業(鋳物業を除く。) | 5 | |
53 | 鋳物業 | 16 | |
54 | 金属製品製造業又は金属加工業(洋食器、刃物、手工具又は一般金物製造業及びめつき業を除く。) | 9 | |
63 | 洋食器、刃物、手工具又は一般金物製造業(めつき業を除く。) | 6.5 | |
55 | めつき業 | 6.5 | |
56 | 機械器具製造業(電気機械器具製造業、輸送用機械器具製造業、船舶製造又は修理業及び計量器、光学機械、時計等製造業を除く。) | 5 | |
57 | 電気機械器具製造業 | 3 | |
58 | 輸送用機械器具製造業(船舶製造又は修理業を除く。) | 4 | |
59 | 船舶製造又は修理業 | 23 | |
60 | 計量器、光学機械、時計等製造業(電気機械器具製造業を除く。) | 2.5 | |
64 | 貴金属製品、装身具、皮革製品等製造業 | 3.5 | |
61 | その他の製造業 | 6 | |
運輸業 | 71 | 交通運輸事業 | 4 |
72 | 貨物取扱事業(港湾貨物取扱事業及び港湾荷役業を除く。) | 8.5 | |
73 | 港湾貨物取扱事業(港湾荷役業を除く。) | 9 | |
74 | 港湾荷役業 | 12 | |
電気、ガス、水道又は熱供給の事業 | 81 | 電気、ガス、水道又は熱供給の事業 | 3 |
その他の事業 | 95 | 農業又は海面漁業以外の漁業 | 13 |
91 | 清掃、火葬又はと畜の事業 | 13 | |
93 | ビルメンテナンス業 | 6 | |
96 | 倉庫業、警備業、消毒又は害虫駆除の事業又はゴルフ場の事業 | 6.5 | |
97 | 通信業、放送業、新聞業又は出版業 | 2.5 | |
98 | 卸売業・小売業、飲食店又は宿泊業 | 3 | |
99 | 金融業、保険業又は不動産業 | 2.5 | |
94 | その他の各種事業 | 3 |
90 | 船舶所有者の事業 | 42 |
労災保険は、危険度の高い業種ほど保険料率が高く設定されています。
一般拠出金の計算
一般拠出金とは、石綿(アスベスト)で健康被害に遭った人たちを救済するために、すべての事業主が負担するものです。
一般拠出金は、労働保険料と一緒に納付します。拠出金率は業種を問わず一律1,000分の0.02で、労働保険料と同様に賃金総額(1,000円未満は切り捨て)に乗じて計算します。
労働保険の年度更新の手続きの流れ
労働保険の年度更新の流れは、おおむね以下の通りです。
- 関係書類の到着
- 賃金集計表の作成
- 前年度の確定保険料の計算
- 新年度の概算保険料の計算
- 申告書の作成
- 申告書の提出・保険料の納付
1.関係書類の到着
毎年5月下旬になると、労働保険の年度更新の関係書類が会社宛てに届きます。書類には社名が印字されているので、誤りがないかチェックしましょう。
2.賃金集計表の作成
賃金集計表とは、労働保険料計算の基礎となる賃金総額を集計するものです。提出する必要はありませんが、作成すると保険料計算の正確性を高められます。賃金集計表の作成には、厚生労働省が提供する「年度更新申告書計算支援ツール」を用いると便利です。
3.前年度の確定保険料の計算
労働保険の年度更新では、前年4月1日から当年3月31日までの賃金総額をもとに、前年度の確定保険料を計算します。前年の年度更新で申告・納付したのはあくまでも概算の金額です。1年間の賃金が確定したタイミングで、正しい労働保険料との差額を精算する必要があります。
確定保険料が概算保険料よりも多かった場合は、原則として新年度の保険料に充当し、少なかった場合は追加納付します。
4.新年度の概算保険料の計算
年度更新手続きにおいて、新年度の概算保険料は、新年度に支給する賃金の予定額をもとに算出します。ただし、新年度の予定額が前年度の半額~2倍の間におさまる場合は、前年度の確定賃金総額に基づく保険料とする決まりです。
従業員の給与に大きな変動がない限り、基本的には前年度の実績をもとに労働保険料を計算します。
雇用保険料は労使双方で負担するので、従業員負担分は毎月の給与から天引きします。
5.申告書の作成
労働保険の確定保険料と概算保険料を計算したら、年度更新の申告書を作成しましょう。算出した保険料をはじめ、必要事項を漏れなく記載します。
6.申告書の提出・保険料の納付
年度更新の申告書を提出し、労働保険料を納付します。申告書は、管轄の都道府県労働局または労働基準監督署のほか、銀行や信用金庫、郵便局などの金融機関にも提出が可能です。金融機関への提出は、保険料の申告・納付をまとめる場合に限られています。
労働保険の年度更新は電子申請もできる
労働保険の年度更新は、電子申請で実施することも可能です。行政手続きの電子申請窓口である「e-Gov」のアカウントを取得し、専用のアプリケーションを用いれば、インターネットを介して申告・納付できます。
労働保険の年度更新における電子申請の基本的な流れは、次の通りです。
- e-Govにログインし、手続検索で「労働保険年度更新申告」を検索
- 申請書入力画面で申請書を作成し、電子証明書を添付して保存
- 申請データを送信し、保険料を納付
年度更新申告書の作成方法は書面とあまり変わりません。電子申請を利用するためには、電子証明書の発行やパソコンの環境設定などの準備が必要です。
労働保険の年度更新に対応した労務システムもある
そのほか、労働保険の年度更新をオンラインで完結できる労務システムもあります。電子申請なら、計算を自動化できるとともに、ミスもチェックしてくれるので、申請手続きの間違いや訂正の防止につながります。
→社会保険手続きをペーパーレスにするクラウドサービス|One人事[労務]
労働保険の年度更新で間違えやすいポイント・注意点
労働保険の年度更新では、以下のポイントに注意しましょう。
- 賃金に含まれる手当を確認する
- 出向者・海外勤務は労災保険の集計対象から外れる
賃金に含まれる手当を確認する
労働保険の年度更新に際して、保険料の計算に用いる賃金総額には、毎月の給与のほかに、各種手当や賞与なども含まれます。ただし、以下のような賃金は計算に含みません。
- 傷病手当金
- 災害見舞金
- 慶弔見舞金
- 役員報酬
- 休業補償費
- 解雇予告手当 など
詳しくは、厚生労働省が管轄するWebサイトでご確認いただけます。
参照:『労働保険料の算定基礎となる賃金早見表【労働保険徴収課】』厚生労働省神奈川労働局
出向者・海外勤務は労災保険の集計対象から外れる
従業員が出向先で働いている場合や、海外拠点に勤務している場合は、労災保険の集計対象から外れます。自社で給与を支給していても、年度更新では、労災保険における賃金総額の計算からは除くようにしましょう。
労働保険の年度更新が遅れた・出さなかったらどうなる?
労働保険の年度更新の期限を過ぎると、政府によって労働保険料と一般拠出金の額が決定されます。また、保険料・拠出金に対して10%の追徴金が課せられる場合もあるため、注意が必要です。
労働保険の年度更新の計算を間違えたら訂正はできる?
労働保険料の計算ミスや誤記など、年度更新の申請内容に訂正箇所がある場合は、「労働保険訂正申告理由書」を添えて訂正申告をします。
提出前なら、領収済通知書の納付金額以外であれば書き直しが可能です。
参考:『労働保険料等の申告内容について訂正が必要なとき』厚生労働省愛知県労働局
労働保険の年度更新手続きを効率化するには?
労働保険の年度更新は、労働保険料の申告・納付に関する手続きです。前年度の確定保険料を計算して概算保険料との差額を精算するとともに、今年度の概算保険料を計算します。
労働保険の年度更新手続きの負担を軽減するなら、電子申請の利用も一案です。政府が提供するe-Govのほか、労働保険の年度更新に対応した労務管理システムも検討してみてはいかがでしょうか。
労働保険料を正しく納めるうえで、年度更新は欠かせない手続きです。常に最新の保険料率を参照し、雇用保険料・労災保険料を正確に計算・納付しましょう。
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One人事[労務]は、入退社にともなう社会保険申請手続きや年末調整をオンラインで完結させるクラウドシステムです。労働保険の年度更新を含めた行政手続きにも対応しています。
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