労働基準監督署の是正勧告を受けたら? 指導との違いと公表リスク、報告書の提出を解説

労働基準監督署の是正勧告を受けたら? 指導との違いと公表リスク、報告書の提出を解説

労働基準監督署から是正勧告書が届くと、「何をすべきか」「期限はいつまでか」「企業名が公表されるのか」と不安になるでしょう。

是正勧告は労働基準法違反に対する行政指導です。法的な強制力はないものの、放置すれば刑事処罰や企業名の公表につながりかねません。一方で、適切に対応すれば労務管理を見直すよい機会となります。

本記事では、労働基準監督署による是正勧告の仕組みから、是正報告書の書き方、公表リスクを避けるための対応を人事担当者向けに解説します。

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    労働基準監督署による是正勧告

    労働基準監督署による是正勧告とは、企業に対して労働関係法令の違反事項を改めるよう求める行政指導です。

    労働基準監督官の立ち入り調査(臨検)の結果、労働基準法や労働安全衛生法などの違反が確認された場合、「是正勧告書」が交付されます。

    是正勧告を受けた企業は指定期日までに違反状態を解消し、労働基準監督署へ「是正報告書」を提出する義務があります。

    指摘されやすい項目としてあげられるのは、次の4つです。

    • 未払い残業代
    • 長時間労働
    • 36協定の未締結
    • 就業規則の未作成

    心当たりがある項目がある方もいるかもしれません。

    2023年には臨検監督を受けた企業の約7割で、労働基準法違反が見つかっています。是正勧告は決して特別な出来事ではありません。

    企業規模にかかわらず、日頃の労務管理が問われる場面です。

    参照:『令和5年労働基準監督年報』厚生労働省労働基準局

    指導との違い

    労働基準監督官による是正勧告と単なる「指導」の違いは、明確な法令違反があるかどうかです。

    是正勧告書明らかな違反事項
    指導票放置すると違反になる可能性がある事項
    改善が望ましい事項

    現時点での違反を指摘する是正勧告書に対して、違反しているとはいえないものの、放置すると問題になる場合に交付されるのが指導票です。

    たとえば、指導票の交付対象には、次のようなケースが該当します。

    • 36協定の範囲内でも長時間労働が常態化している
    • 安全衛生面で危険が見込まれる

    指導票にも是正勧告と同様に法的な拘束力はありませんが、指摘を改善し、報告する必要があります。法令違反はなくても一種の「警告」といえるため、応じなければなりません。放置すると是正勧告に進みます。

    労働基準監督官の是正勧告と指導はいずれも、企業の労務管理体制を一度見直す機会と捉えましょう。

    強制力の有無

    労働基準監督官による是正勧告は、法的な強制力がある行政処分ではなく、「行政指導」です。交付直後に罰則が科されるわけではありません。企業の自主的な是正を促すものです。

    ただし、行政指導には「助言 → 指導 → 勧告」という段階があり、是正勧告はもっとも重い位置づけにあります。

    罰則のある法令違反に関する指摘なので、何もせずに違反状態が続けば、司法処分につながります。放置は避けなければなりません。

    労働基準監督署の是正勧告を無視した場合・従わない場合

    労働基準監督署による是正勧告は強制力を持たない行政指導であるため、従わなかったからといってすぐに罰則は科されません。とはいえ、無視するのは企業にとって危険です。

    改善の意思を示さないと、段階的に厳しい措置が取られます。

    たとえば、再監督(再調査)が入ります。そこで改善が確認できなければ厳重注意、さらに悪質と判断されると、最終的には司法処分も避けられません。

    主な司法処分
    ・強制捜査
    ・逮捕
    ・検挙
    ・書類送検

    労働基準監督官には、司法警察官としての権限があるため、このような処分が可能です。

    労働基準監督署の是正勧告は、最後の警告といえます。受け取ったら軽視せず、すみやかに改善に向けて動きましょう。

    企業名は公表される?

    労働基準監督署による是正勧告を放置した場合、企業名が公表されるリスクがあります。

    厚生労働省が労働基準法に違反した企業を公表する制度で、いわゆる「ブラック企業リスト」という言葉を耳にしたことがある方もいるでしょう。

    また、社会的な影響の大きい企業が、複数の事業場で違法な長時間労働を繰り返している場合は、是正勧告の段階で公表に至るケースもあるようです。

    ただし社名の公表目的は制裁ではありません。違法な長時間労働を是正し、再発を抑えるためです。

    企業名が公表された場合のリスク

    企業の名前が違反事例として公表されると、社会的な信用を失います。採用も難しくなり、取引先との関係にも影響が出るかもしれません。公表情報はインターネット上に残り続け、あとから戻すのは簡単ではないでしょう。

    是正勧告を受けたなら、社名公表を避けるためにも、指摘に沿って改善し、報告までを進める必要があります。

    労働基準監督署から是正勧告される違反内容

    労働基準監督署からの是正勧告の対象は、労働基準法や労働安全衛生法など、労働関係法令に関する違反全般です。とくに違反が見つかりやすい分野として、次の8つが挙げられます。

    • 労働時間
    • 賃金、最低賃金、割増賃金
    • 労働契約
    • 法定帳簿
    • 就業規則
    • 有給休暇
    • 健康診断
    • 安全衛生

    労働時間に関する違反

    労働時間に関する違反は、是正勧告でもっとも多く指摘される事項の一つです。

    代表的な違反例
    ・36協定を締結せずに法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させる
    ・時間外労働の上限を超えて残業をさせる
    ・サービス残業

    36協定を結んでいない状態で時間外労働をさせた場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。

    時間外労働の上限や特別条項付き36協定を締結した場合の上限については、以下の記事でご確認ください。

    また、サービス残業のように、労働時間の適正な記録がされていない場合は、労働時間管理義務違反となるでしょう。

    使用者には労働時間の適正把握義務があります。勤怠管理システムやタイムカード、パソコンのログなど、客観的な記録を残さなければなりません。

    賃金、最低賃金、割増賃金に関する違反

    賃金関連では、地域別・産業別最低賃金を下回る支払いが典型例です。最低賃金法の違反は刑事罰の対象で、是正勧告に始まり最終的に書類送検に至る事例も報告されています。

    代表的な違反例
    ・最低賃金を下回る
    ・割増賃金の未払い
    ・勤務実態と実際に働いた時間が乖離している

    時間外労働・休日労働・深夜労働の詳しい割増率の計算は、以下の記事でご確認ください。

    2023年4月からは中小企業でも、月60時間超の時間外労働に対して50%以上の割増率が適用されています。

    また、フレックスタイム制やテレワークを導入している企業では、制度設計と運用実態のズレが問題になりがちです。

    在宅勤務中の労働時間について、実態と記録が一致しない状態が続けば、労働時間管理の不備として指摘される可能性があります。

    労働契約に関する違反

    是正勧告のなかで、労働契約に関する違反で多いのは、労働条件通知書の未交付などです。

    代表的な違反例
    ・労働条件通知書を交付していない
    ・労働条件の絶対的明示事項が抜けている
    ・雇用契約/労働契約と実際の働き方に大きな乖離がある
    ・労働条件が変わったのに、通知書を更新していない

    使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。

    引用:『労働基準法第15条』e-Gov法令検索

    違反した場合は、30万円以下の罰金が科されます。

    労働条件の明示義務について詳しく知るには、以下の記事をご確認ください。

    たとえ労働条件が明示されていたとしても、就業場所、労働時間、賃金などが十分に示されていないと、指摘につながります。

    契約内容と実態が食い違うケース、働き方が変わったのに書面を更新していないケースも要注意です。労務トラブルの火種になります。

    労働条件の明示義務は、雇用形態を問いません。正社員だけでなく、契約社員、アルバイト、パートにも適用されます。日雇い・スポットの労働者でも同様の義務が課されています。

    法定帳簿に関する違反

    労働者名簿・賃金台帳・出勤簿(法定三帳簿)の作成・保存が、是正勧告では指摘されます。

    代表的な違反例
    ・法定三帳簿が整備しきれていない
    ・実態を隠して事実にないことを書いている

    帳簿を更新していないだけでなく、内容に不備があれば是正対象になります。たとえば労働者名簿には名前や生年月日といった基本情報から、業務内容、入社日・退職日などを記載します。

    それぞれの記載内容について詳しく知るには、以下の記事をご確認ください。

    帳簿に虚偽の記載は論外です。電子化する場合も、必要な項目をいつでも確認でき、改ざんや消失を防げる方法で管理する必要があります。

    なお、労働基準法で作成が義務づけられている、法定三帳簿の保存期間は原則5年(当分の間3年)です。

    就業規則に関する違反

    就業規則に関しては、未整備・不備・周知不足が是正勧告を受けやすい項目です。常時10人以上の事業場では、必ず就業規則を作成しなければなりません。

    代表的な違反例
    ・常時10人以上なのに、就業規則を作っていない/届け出ていない
    ・必要な項目が抜けている(労働時間、賃金、退職など)
    ・就業規則を周知していない

    就業規則は作成しただけでは不十分です。いつでも見られる状態で周知しないと、30万円以下の罰金が科されるとともに、就業規則自体が無効となる可能性もあります。

    就業規則の作成・届け出・周知について詳しく知るには、以下の記事をご確認ください。

    有給休暇に関する違反

    有給休暇は、付与と取得の両方で是正勧告が出ます。とくに「年5日取得義務」はチェックされやすいです。

    代表的な違反例
    ・法定どおりに付与していない
    ・年5日取得させていない
    ・時季指定の日に出勤している
    ・就業規則に手続きに関する規定がない

    有給休暇の年5日取得義務に違反すると、対象労働者1人につき30万円以下の罰金が科されます。就業規則に明記していない場合も、同額の罰金対象です。

    健康診断に関する違反

    健康診断に関しては実施から結果の扱いまで含めて、是正勧告が入ります。

    代表的な違反例
    ・定期健康診断(年1回)を実施していない
    ・雇入時健康診断を実施していない
    ・特殊健診(有害業務等)や、対象者向け健診を実施していない
    ・結果を保存していない

    労働安全衛生法により、常時使用する労働者に対する定期健康診断の実施が義務づけられています。違反が発覚すると企業だけでなく、担当者個人も処罰の対象となる可能性があり、50万円以下の罰金または6か月以下の懲役が科されます。

    「知らなかった」「うっかり忘れていた」という理由は通用しません。 実施だけでなく、結果を受けて必要な措置を取ったかもセットで整備しておきましょう。

    安全衛生に関する違反

    安全衛生に関する是正勧告は、「管理体制が整っていないこと」と「現場対策が不十分なこと」があわせて指摘されやすい傾向があります。

    代表的な違反例
    ・衛生管理者/産業医など、必要な選任をしていない
    ・安全衛生委員会など、必要な体制がない
    ・作業場の温度や騒音レベル、化学物質の濃度などが法定基準を超えている
    ・安全衛生教育をやっていない
    ・危険箇所の安全措置が足りない(保護具、機械のカバー、手順の未整備など)

    違反は労働者の健康と安全に直接的な影響を与えるため、厳しく指摘されます。

    とくに建設業や製造業では、労働災害防止のための安全対策が求められているため、違反が発見されると早急に改善しなければなりません。

    労働基準監督署の是正勧告が出される前後の流れ

    是正勧告に至るまでの一連の流れは、おおむね次のとおりです。

    • 労働基準監督署からの調査予告(または抜き打ち訪問)
    • 立ち入り調査(書類確認・ヒアリング)
    • 違反の認定と是正勧告書の交付
    • 企業による是正対応
    • 是正報告書の作成・提出
    • 必要に応じて再監督(再調査)

    各段階で適切に対応できるかどうかが、企業の信頼維持と法令遵守につながります。

    調査当日は、労働基準監督官1名〜2名程度が事業場を訪れ、就業規則やタイムカード、賃金台帳などの帳簿類を確認します。あわせて、事業主や担当者へのヒアリングも行われます。

    所要時間は1〜2時間程度が目安ですが、書類の不備が多い場合や指摘事項が多数ある場合は、長引くことがあります。

    また、是正勧告書は後日、事業主や責任者が労働基準監督署に出頭して受け取るのが一般的です。受領時には、受領日と受領者の職名・氏名を記載し、署名を求められます。

    勧告に対する是正・改善報告書の提出

    是正勧告を受けた企業は、指摘された違反事項を改善し、「是正報告書」を労働基準監督署へ提出する義務があります。

    適切な是正報告書により、労働基準監督署と信頼関係を構築し、今後の労務管理における協力体制を築けるため、記載のポイントや提出について確認しておきましょう。

    記載のポイント

    是正報告書の記載で重要なのは、内容の正確性と具体性です。

    事実に基づいて、企業が法令遵守に真摯に取り組んでいることを示しましょう。

    様式に決まりはありませんが、厚生労働省のホームページから様式をダウンロードできるため、参考にするのがおすすめです。

    参考:『是正・改善 報告書様式』厚生労働省

    主な記載項目は以下のとおりです。

    • 宛名(XX労働基準監督署長殿)
    • 提出年月日
    • 事業場所在地・事業場名・電話番号
    • 代表者氏名
    • 違反法令条項
    • 違反事項
    • 是正期日
    • 是正年月日
    • 是正内容(是正状況、是正事項など)

    宛名や違反法令条項、違反事項や是正期日については、是正勧告書の記載内容をそのまま転記します。

    違反事項に対して、いつ、何を、どのように改善したのかを具体的に書くのがポイントです。

    改善策を裏づけるため、写真や別資料を添付しても構いません。改善方法がわからない場合は、担当監督官に相談することも可能です。

    提出期限

    是正報告書の提出期限は、是正勧告日から通常1か月程度の設定が多いです。

    期限厳守ですが、間に合わない場合、再監督(再調査)が実施される可能性もあります。再監督はより踏み込んだ厳しい確認となり、抜き打ちもあるため、注意が必要です。

    期日までに改善が難しいときは、決して放置せず担当監督官に事前に相談しましょう。正当な理由があれば、期限の延長が認められます。

    ただし延長をするときも、改善の進捗と完了見込みを具体的に伝えます。中間報告を求められることもあるため準備しておきましょう。

    無断で期限を過ぎるのは避けなければなりません。心証が悪くなり、その後の対応が厳しくなるおそれがあります。

    当然ながら虚偽の報告も厳禁です。改善が完了していなくても、現状を正直に記載し、次の対応予定を示すほうがよいでしょう。

    なお、是正報告書は郵送でも提出が可能です。

    労働基準監督署の是正勧告に不服申し立てはできる?

    労働基準監督署の是正勧告に納得できなくても、撤回や変更を求める異議申し立て・不服申し立てはできません。

    是正勧告は「行政指導」であり、法的拘束力を持つ行政処分ではないためです。行政処分であれば、処分庁への不服申し立てや、上級庁への審査請求といった制度を利用できます。

    一方で是正勧告は、行政不服審査法や行政事件訴訟法の対象となる「処分」ではありません。つまり、理屈のうえでは「不服なら従わなければよい」という考えです。

    ただし、現実には是正勧告を無視し続けるのはリスクが高く、反論の余地も限られます。刑事・民事の手続きに進んだ段階で、行政側の見解を否定すること自体は可能ですが、そこまでを望む企業は多くないでしょう。

    だからこそ大切なのは、調査の時点で事実関係を整理し、自社の主張を適切に伝えることです。疑問や釈然としない点があれば、調査の場で根拠とともに説明できるよう準備しておきましょう。

    労働基準監督署の是正勧告へ適切に対処するには?

    是正勧告を受けたら、まずは期限内に是正を完了させることが重要です。遅れやその場しのぎの対応は避けましょう。

    対応の目的は、指摘をなくすだけではありません。原因を整理して、根本的な問題解決をはかり、再発防止策を含めた取り組みが求められます。表面的な改善で済ますと、同じ指摘が繰り返されます。

    社内だけで判断が難しければ、専門家に相談する方法も一案です。社会保険労務士や弁護士に依頼すれば、法令に基づいたアドバイスを受けられます。結果として、労働基準監督署に対して真摯な姿勢を示せ、是正報告書の説得力も高まるでしょう。

    あわせて、日頃の予防も欠かせません。とくに労働時間管理と賃金計算は、アナログ作業が多いとミスが発生しやすいです。

    勤怠管理システムや給与計算システムを活用し、記録と計算を標準化しておくと、人的ミスを減らせます。違反を起こしにくい仕組みをつくりましょう。

    まとめ

    労働基準監督署による是正勧告は、臨検監督で法令違反が確認された際に交付される行政指導です。強制力はありませんが、放置すれば再監督や厳重注意、悪質と判断されれば司法処分に進む可能性があるため、軽視はできません。

    是正勧告を受け取ったら、まず勧告内容を把握し、指定期日までに是正を完了させたうえで、是正報告書を提出します。提出期限は通常1か月程度が多く、間に合わない場合は無断で遅らせず、担当監督官へ事前に相談し、進捗と完了見込みを示しましょう。

    原因を整理して再発防止まで落とし込むことが大切です。勤怠管理や給与計算を仕組み化して記録・計算のミスを減らし、違反を起こしにくい運用へ整えていきましょう。