会社都合の退職とは? 自己都合退職との違いやリスク、注意点を解説

会社都合の退職とは、企業側の事情で労働者との雇用契約を終了するケースを指します。
たとえば整理解雇や退職勧奨、倒産、経営悪化による人員整理があります。
ただ、実際の場面では「会社都合なのか、それとも自己都合なのか」と判断に迷うこともありますよね。退職区分を誤ってしまうと、従業員とのトラブルや助成金の不支給といったリスクにもつながります。
本記事では、会社都合の退職について自己都合退職の違いや判断基準と実務上の注意点を解説しています。
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目次

退職の種類
退職には「会社都合退職」と「自己都合退職」の2種類があります。どちらに該当するかは、退職の理由や経緯から判断されます。従業員が退職の取り扱いに納得できない場合は、ハローワークに異議を申し立てることも可能です。
会社都合の退職
会社都合退職とは、企業側の都合で従業員との雇用契約を終了させることです。たとえば、以下のようなケースが該当します。
- 経営悪化にともなうリストラ
- 倒産・事業縮小による雇用終了
- 業務上の都合による契約打ち切り
- 会社からの退職勧奨に応じた退職
- やむを得ない解雇(整理解雇など)
従業員の意思に関係なく、会社側の判断で雇用を終了する場合、会社都合退職とされます。
自己都合の退職
自己都合退職とは、従業員自身の意思で退職を申し出た場合を指します。主な理由としては、以下のようなケースが挙げられます。
- 転職やキャリアチェンジ
- 家庭の事情(介護、育児など)
- 体調不良や精神的負担
- ライフスタイルの変化(引越しなど)
ただし注意したいのは、雇用保険の給付(失業保険)では、一部の懲戒解雇も「自己都合退職」として扱われる点です。従業員に重大な責任がある場合、企業が主導して退職を決めていても、自己都合退職となるケースがあります。
参照:『第5章 仕事を辞めるとき、辞めさせられるとき』厚生労働省
会社都合退職と自己都合退職の違い
会社都合退職と自己都合退職の違いを整理しましょう。2種類の退職は、失業保険の受給条件や退職金の扱いなど、さまざまな待遇面に違いがあります。
会社都合 | 自己都合 | |
---|---|---|
退職金 | 受け取れる | (懲戒解雇などの場合)減額や支給されないこともある |
賞与 | 支給日在籍要件の有無や在職期間要件などによる | 支給日在籍要件の有無や在職期間要件などによる |
失業保険 | ・1週間程度で受け取れる ・給付期間(90~330日)が長いので、受給額が多くなりやすい | ・受け取れるまでに約2か月(2025年4月1日以降は1か月)程度かかる ・給付期間(90~150日)が短いので受給額が少なくなりやすい |
会社都合退職は、本人に非がなく職を失ったため、国の制度上、保護措置が手厚く設定されています。とくに重要なのが失業給付です。受給開始が早く、期間も長くなるため、生活設計に大きな差が生じます。
一方、自己都合退職は「本人の都合で辞めた」とみなされるため、給付に制限がつきます。
この点は従業員からの問い合わせや不満が生じやすいポイントなので、人事担当者としても説明できるようにしておきたいところです。
会社都合退職の例
会社都合退職をもう少し詳しく見ていきます。
今回の退職は会社都合になるのか」と判断に迷う場面があるかもしれません。とくに疑問に思われやすいのは、解雇と倒産です。
以下で、雇用保険の制度上「会社都合退職」として認められる典型例を紹介します。判断基準を整理することで、社内での説明やトラブル予防に役立てましょう。
解雇(普通解雇・懲戒解雇)
会社が一方的に契約を終了させる「解雇」は、原則として会社都合退職です。ただし解雇の種類や事由によって、会社都合ではなく自己都合になる場合があります。
以下のような重大な問題行動に基づく懲戒解雇は、雇用保険制度上「重責解雇(じゅうせきかいこ)」とされ、自己都合退職扱いになります。
- 故意や重過失によって企業に損害を与えた
- 機密情報を漏えいさせた
- 法令違反で刑事処分を受けた
- 就業規則に違反する重大行為があった
- 経歴詐称など、信義を著しく損なう行為があった
参照:『特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準』厚生労働省
整理解雇
整理解雇は、普通解雇・懲戒解雇と異なり、例外なく会社都合退職として扱われます。
整理解雇とは、経営上の理由で従業員に非がない状態で実施する解雇です。会社の業績悪化や事業再編を理由に実施します。
整理解雇が法的に認められるには、以下の4要件をすべて満たさなければなりません。
要件 | 内容 |
---|---|
人員整理の必要性 | 経営悪化・赤字など、合理的な理由が客観的に証明できる |
解雇回避努力の履行 | 希望退職の募集・残業削減・新規採用停止などの対策をしているか |
被解雇者選定の合理性 | 解雇される人の選定基準が公正で、差別的・恣意的でないか |
解雇手続きの妥当性 | 労働組合または過半数代表者への事前説明と協議を実施しているか |
整理解雇は通常の解雇よりも厳しく制限されています。とくに人員整理は、客観的な証明の準備が必要です。単に「人件費を減らしたい」や「生産性を向上させたい」という理由では認められません。
倒産・事業所の閉鎖
企業の倒産や事業所の閉鎖によって、従業員が退職を余儀なくされる場合も会社都合退職にあたります。代表的なケースは以下のとおりです。
- 破産手続きにより事業継続が不可能になった
- 工場や支店が閉鎖され、配置転換も難しかった
- 事業所の移転により、通勤が困難となった(例:通勤の時間が大幅に増加する)
働きたくても働けない状況に陥った場合、雇用保険上は会社都合退職です。倒産の事実だけでなく、整理解雇と同様に、企業が実施した回避努力や証明が必要な場合があります。
参照:『特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準』厚生労働省
会社都合の退職(解雇)における企業側のリスク
会社都合の退職は、企業側の判断によるものだからこそ、慎重に進めなければリスクとなります。会社都合退職のデメリットは以下のとおりです。
- 解雇予告手当を支払う可能性がある
- トラブルに発展するおそれがある
- 助成金対象外になる可能性がある
- 不当解雇は罰則対象になる
解雇予告手当を支払う可能性がある
企業が解雇をする場合、原則として少なくとも30日前に予告するか、解雇予告手当を支払わなければなりません。解雇の通知時期によって、必要な手当の金額は以下のとおりです。
解雇を通知した日 | 解雇予告手当の金額 |
---|---|
解雇日当日 | 平均賃金の30日分 |
解雇日の1日前から29日前まで | 解雇日までの日数分の平均賃金 |
解雇予告と解雇予告手当は労働基準法第20条に定められた義務です。即日解雇には、原則として平均賃金の30日分を支払う必要があります。
トラブルに発展するおそれがある
会社都合による退職は、従業員との間に不信感が生まれやすく、法的トラブルに発展しやすいという特徴があります。
- 解雇理由の説明が不十分
- 該当区分(会社都合か自己都合か)に食い違いがある
- 適切な手順が踏まれていない
以上のような対応が積み重なると、不当解雇として訴訟のリスクにつながるため注意しましょう。
助成金対象外になる可能性がある
従業員を解雇することで、企業側は国による助成金を受給できなくなるリスクもあります。助成金制度の多くは、「直近6か月以内に会社都合退職者が出ていないこと」が支給要件に含まれているためです。退職区分や支給要件を理解せずに、助成金を申請していると、知らぬ間に不正受給となってしまうおそれがあるため注意しましょう。
不当解雇と判断されると罰則対象になる
会社都合による退職が、不当解雇(法的に無効な解雇)と判断された場合、罰則が科されるリスクも考慮しなければなりません。就業規則に記載されていない理由での解雇や、整理解雇の要件を満たさない対応は違法です。労働基準法による不当解雇に該当すると、6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科されます。
会社都合の退職や解雇の注意点
会社都合による退職は、企業にとってリスクがあるだけでなく、従業員との信頼関係にも影響します。形式だけ整えても、説明や対応が不十分だと、信頼を失い労務リスクを高めてしまうでしょう。大切なのは、正しい手順と、誠実な対応です。以下に、企業側がとくに注意したい4つのポイントを解説します。
適切な手順を踏む
会社都合で退職や解雇を進める際は、就業規則に定められた解雇事由に該当するか、客観的に確認する必要があります。「人手調整の一環だから」「業績が悪化しているから」など会社として苦しい状況でも、安易な判断は避けましょう。
また、本人への説明や必要書類の交付、退職金や手当の支給についても、すべて法令や社内規定に沿って進めることが重要です。
ていねいに説明する
突然の解雇は、誰にとっても衝撃的なものです。背景や理由がどんなに正当でも、従業員本人に納得してもらえなければ、トラブルの原因になります。
企業としては、できるだけていねいに背景や理由を説明し、本人の不安や疑問にもきちんと耳を傾ける姿勢が欠かせません。誠実な対話が、結果として円満な解決につながります。
就業規則の解雇規定内容を見直す
就業規則に規定されている解雇事由や退職手続きの流れを、誰が読んでもわかるように整理しておくと安心です。
いざ解雇が必要になったとき、「就業規則に書かれていない」「内容があいまいだった」では対応が難しくなります。
退職が会社都合でも自己都合でも、従業員との認識をそろえるために、明文化されたルールを共有しておくことは重要です。
万一、現在の就業規則に不安がある場合は、専門家と相談して、早めに整備しておきましょう。
会社都合退職と自己都合退職の判断を誤らない
従業員が退職する際、理由が「会社都合」か「自己都合」かを正しく判断することは、とても重要です。とくに気をつけたいのは、本来は会社都合であるにもかかわらず、自己都合退職として処理してしまうケースです。
たとえば、企業側が「自己都合にしてほしい」と従業員に求めることは、あってはなりません。退職理由の取り扱いが実態と異なる場合、従業員からの信頼を損なうだけでなく、退職届の提出を拒否されたり、損害賠償請求などの法的トラブルに発展するリスクもあります。
円満な退職を実現するためにも、実情に即した正確な対応を心がけましょう。
従業員から会社都合退職にしてほしいと頼まれたときの対応
退職手続きの場面で、従業員から「会社都合退職にしてほしい」と頼まれることがあります。しかし、退職区分はあくまで実態に基づいて判断するものです。当人同士の口裏合わせで変更はできません。では、企業はどのように対応すべきなのでしょうか。
従業員にとっては会社都合退職のほうがメリットがある
従業員が会社都合を希望する理由は、失業給付の条件です。自己都合退職では、給付までに2か月(2025年4月1日以降の退職は1か月)の待機期間があるうえ、給付期間も短くなります。金銭的不安から「会社都合にしてほしい」と依頼するのです。
原則は実態に基づく判断を優先する
退職区分を判断する際は、「誰の都合で退職に至ったのか」という事実に基づくべきです。
従業員の希望を理由に会社都合とすることは、本来適切ではありません。もし希望を安易に認めた場合、行政指導など企業側にもリスクがおよびます。
柔軟な対応が求められるケースもある
退職の実態が、自己都合と会社都合で判断が難しい場合は、一定の配慮が求められることもあります。たとえば、以下のように形式上は自己都合でも、実質的には会社都合に近い事情があると判断できるケースです。
- 企業側の説明不足で退職理由に誤解があった
- 話し合いの過程で、やむを得ず本人が自己都合退職を選んだ
- 実質的には会社都合に近い経緯があった(例:業務量の変化や配属変更)
まずは最初に社内で事実を整理したうえで、会社都合として扱うことも柔軟な選択肢の一つです。
配慮の方法:補償や説明で誠意を示す
どうしても自己都合として処理せざるを得なくても、次のような対応で経済不安を軽減する方法もあります。
- 退職金を上乗せする
- 一時金を支給し、失業給付の空白期間をカバーする
会社として事実に基づくという基本姿勢は保ちつつ、対話により選択肢を広げることも、円満な解決には必要かもしれません。

まとめ
会社都合退職は、従業員にとっては失業給付の優遇などメリットがあります。一方で企業側には法的なリスクがともなうため、慎重な判断が必要です。
とくに人事労務の担当者・経営者は以下の3点を意識することが重要です。
- 退職理由は「誰が申し出たか」ではなく「実態」で判断する
- 就業規則や解雇手続きに沿って、適正なプロセスを踏む
- 従業員からの申出に対しては、制度の制約を説明したうえで柔軟な対応も検討する
一見すると「形式の問題」に見えるかもしれませんが、退職理由の区分は、助成金、訴訟、会社の信用にまで影響がおよびます。
誤った判断や対応は、企業にとって長期的なリスクになることもあります。
制度を正しく理解し、社内での判断方針を統一することが、トラブルの未然防止と信頼ある人事対応につながるでしょう。
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