労災保険給付の休業補償とは? 金額や期間と申請まで企業が知っておきたい基本を解説

労災保険給付の休業補償とは|金額や期間と申請まで企業が知っておきたい基本を解説

従業員が業務中にケガをして休業することに。労災保険の休業(補償)給付について「金額はいくら?」「期間はいつからいつまで?」と疑問に思っていませんか。

労災保険の休業補償とは、業務上または通勤中の災害により従業員が働けなくなり、賃金を受け取れない場合に、国が収入の一部を補てんする給付です。

会社が手続きをする場合、申請が遅れると支給も遅れ、従業員との信頼関係に溝が生まれてしまう可能性もあります。また、似たような名前の手当や給付がいくつもあるため、混同せずに対応しなければなりません。

本記事では、労災保険における「休業(補償)給付」について、初めて対応する人事担当者でもわかるように基本を解説します。

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目次アイコン目次

    労災保険の休業補償給付とは

    労災保険の休業(補償)給付とは、従業員が業務上または通勤によって負傷や疾病を負い、働けなくなり賃金を受け取れない場合に、休業中の収入を国が一部補償する制度です。

    たとえば、従業員が業務中のケガで1か月休んだ場合、休業4日目以降については、原則として給付基礎日額の80%(60%+休業特別支給金20%)が支給されます。従業員は療養中も一定の生活費や治療費を確保できます。

    正式には業務災害の場合「休業補償給付」、通勤災害の場合「休業給付」と区別されていますが、給付内容は同じです。

    労災保険の休業補償給付は、労働者災害補償保険法第14条1項に定められ、労災保険法施行規則第23条では、事業主が申請手続きを支援する「助力義務」があることも明記されています。

    参照:『労働者災害補償保険法第14条1項』e-Gov
    参照:『労災保険法施行規則23条』e-Gov

    ▼似たような名前の「休業手当」との違いは以下の記事よりご確認ください。

    労災保険についておさらい

    労災保険(正式名称:労働者災害補償保険)は、業務中や通勤中の事故・災害によって労働者がケガや病気・障害・死亡した場合に、労働者や遺族に給付を行う制度です。事業主が1人でも労働者を雇っていれば、業種や規模を問わず原則として加入が義務づけられています。

    労災保険の給付には、以下のような種類があります。


    【主な給付の種類】

    • 療養(補償)給付(治療費の補償)
    • 休業(補償)給付(働けない間の補償)
    • 障害(補償)給付(後遺障害が残った)
    • 遺族(補償)給付(亡くなった)

    労働者災害補償保険の保険料は全額、事業主が負担し、労働者の負担はありません。

    また労災保険は、単に経済的な補償にとどまらず、リハビリ支援や職場復帰支援、安全衛生環境の整備など、企業活動を支える仕組みも含んでいます。

    ▼休業補償給付以外の、労災保険の種類について知るには以下の記事をご確認ください。

    労災保険の休業補償が適用される3条件

    労災保険の休業(補償)給付は、従業員が働けなくなったら、すぐに誰でも支給されるものではありません。支給には、次の3つの条件をすべて満たす必要があります。

    1. 業務上の事由または通勤による負傷や疾病で療養中である
    2. その療養のために労働できない
    3. 休業期間中に賃金の支払いがない

    3つすべてを満たして初めて、「休業補償給付(給付基礎日額の60%)」と「休業特別支給金(同20%)」が支給され、合計で給付基礎日額の80%が支給される仕組みです。支給の開始は、働けなくなった日から数えて4日目からです。

    とくに「業務上かどうか」「本当に働けない状態かどうか」は、判断が難しいポイントです。医師の診断書など客観的な証拠が必要になることを理解して、企業として適切にサポートしましょう。

    なぜ4日目から支給される?

    労災保険の休業(補償)給付についてよく知らないと、なぜ「4日目からしか支給されないのか」と思う方もいるでしょう。休業4日目からなのは、労働基準法第76条1項の「休業補償」で、「最初の3日間(待機期間)は企業が平均賃金の60%を補償する」と定められているためです。

    制度の背景には、軽い災害は企業、長期化する場合は社会保険が対応するという役割分担があります。3日以内の短期で回復する軽度な傷病は企業が責任を持ち、4日以上にわたるなら公的補償が適用されるという段階的な設計です。

    注意点として、通勤災害には補償義務がないため、就業規則に定めがなければ、待機期間中は無給となる可能性があります。また、交通事故など第三者が関係する災害では、加害者への損害賠償請求をもって補償が行われます。

    企業は業務災害かどうかを確認し、3日分の補償と4日目以降の申請支援をスムーズに進めましょう。

    労災保険の休業補償の給付期間はいつからいつまで? 健康保険との違いに注意

    いつからいつまで
    休業4日目から給付要件を満たさなくなるまで(終了要件に1つでも該当するまで)

    労災保険の休業補償給付の開始日は、紹介したとおり休業4日目からです。4日未満は労災保険の対象外で、業務災害の場合は事業主が法律に基づき、平均賃金の60%を支給する義務があります。

    給付期間の終了日は、給付の3要件を満たし続けていれば期間に期限なく継続して支給されます。

    ▼労災保険の休業補償の期間については、詳しくは以下の記事でもご確認いただけます。

    打ち切られる場合

    労災保険の休業補償給付は、期間に終了制限はないものの、以下のいずれかの条件に該当すると支給が打ち切られます。

    • 傷病が治癒した場合
    • 症状が固定し、治療を続けても改善が期待できない状態(症状固定)となった場合
    • 死亡した場合
    • 傷病が重篤で長期間にわたり、一定期間経過後に「傷病(補償)年金」に移行する場合
    • 従業できるようになった時や賃金を受け取れるようになった場合

    それぞれ具体的に確認していきましょう。

    【治癒】
    療養の必要がなくなるため、休業補償給付の支給も終了します。たとえば、骨折の場合は骨がくっつき、機能的にも問題がなくなった時点で治癒と認定されることが一般的です。骨折の種類や部位、重症度によって回復期間は異なりますが、一般的には数か月で終了するでしょう。

    【症状固定】
    障害が残る場合は障害補償給付に移行します。

    【傷病(補償)年金への移行】
    療養開始後1年6か月を経過しても治らず、傷病等級第1級〜第3級に該当する場合は、休業補償給付から傷病補償年金に切り替わります。

    健康保険との違い

    労災保険の休業補償給付の期間については、健康保険の傷病手当金(休業手当)と混同しないように注意が必要です。

    傷病手当金は業務外の傷病による休業に対して健康保険から支給されるもので、最長1年6か月の支給期間があります。一方で、労災保険の休業補償給付は、業務上または通勤による傷病が対象で、支給期間に限度はありません。

    休業が長期化する場合は、産業医や労働基準監督署などと連携しながら、復職についても支援していくことが望ましいでしょう。

    労災保険の休業補償給付の金額はいくら?

    労災保険の休業補償給付金額は、1日あたり給付基礎日額の80%(60%+特別支給金20%)に相当する額が支給されます。具体的な計算式は以下のとおりです。

    休業補償の種類計算式
    休業(補償)給付金給付基礎日額 × 60%
    特別支給金給付基礎日額 × 20%
    合計給付基礎日額 × 80%

    給付基礎日額とは、労災事故発生日のの直前3か月間の賃金総額を、その期間の暦日数で割った金額です。労働者の平均的な収入に基づいた補償が行われる仕組みになっています。

    実際に労災保険の休業補償給付はいくらぐらいになるのでしょうか。以下で確認してみましょう。

    休業補償給付金の計算例

    給付基礎日額が10,000円の労働者が業務上のケガで1週間休んだ場合、休業4日目から7日目までの4日間分の補償として、32,000円が支給されます。

    • 給付基礎日額:10,000円
    • 休業期間:1週間(7日間)
    • 休業補償期間:7-3=4日間
    10,000円×60%×4日=24,000円

    特別支給金の計算例

    休業特別支給金は、法定給付ではなく、労災保険特別支給金支給規則に基づく行政措置です。

    金額は給付基礎日額の20%に相当し、休業補償給付(60%)とあわせて、1日あたり給付基礎日額の80%が支給される仕組みになっています。

    • 給付基礎日額:10,000円
    • 休業期間:1週間(7日間)
    • 休業保証期間:7-3=4日間
    10,000円×20%×4日=8,000円

    休業補償給付金と特別支給金を合計して、4日間の合計は32,000円となります。

    24,000円+8,000円=32,000円

    ▼労災保険の金額について詳しく知るには、以下の記事をご確認ください。

    計算の注意点

    労災保険の休業(補償)給付と休業特別支給金は課税対象外です。請求手続きは休業補償給付と同時に行うことができ、別途申請する必要はありません。

    労働者の故意または重大な過失によって生じた災害や、正当な理由なく療養に関する指示にしたがわなかった場合などは、特別支給金の全部または一部が、支給されないことがあります。企業側としては、従業員に対して適切に案内することが大切です。

    労災保険の休業補償給付申請手続き・必要書類

    労災保険の休業(補償)給付を受けるためには、所定の申請手続きが必要です。企業は申請をサポートする側ですが、手続きを正しく理解し、必要書類がどこにあるかも知っておきましょう。

    流れ|手続きは誰がやる?支払日はいつ?

    労災保険の休業(補償)給付の申請手続きの流れは以下のとおりです。

    • 請求書を労働基準監督署長に提出(従業員本人)
    • 労働基準監督署が調査
    • 労働基準監督署から支給決定通知が届く
    • 厚生労働省より指定の口座に給付金が振り込まれる

    労働基準監督署から決定通知が届くまでの時期は、大体1か月程度とされています。申請内容によって期間が長引く場合があるので注意が必要です。とくにうつ病などの精神疾患では、業務との因果関係が判断しにくく、認定まで長引く傾向があります。

    ▼労災保険申請の流れについては、以下の記事でより詳しく紹介しています。

    必要書類|医師の証明書が必要

    労災保険の休業補償給付を請求するために必要な書類は、災害の種類によって異なります。

    • 業務災害:休業補償給付支給請求書(様式第8号)
    • 通勤災害:休業給付支給請求書(様式第16号の6)

    請求書には、被災労働者の情報、事業主の証明、医師の証明などの記入欄があります。請求書には以下のような情報の記入が必要です。

    • 労働保険番号
    • 請求する労働者の住所、氏名、性別、生年月日などの個人情報
    • 療養のため労働できなかった期間
    • 給付金の振込先口座に関する情報
    • 労働災害が発生した日時やその経緯
    • 請求する労働者の平均賃金

    請求書の作成にあたっては、事業主は賃金や労働時間に関する情報を正確に記入し、証明する必要があります。「事業主証明」の欄は企業側で記入します。

    診療担当医師には、労働不能と認められる期間や療養の状況などについて証明してもらわなければなりません。

    ▼労災保険申請の必要書類については、以下の記事でより詳しく紹介しています。

    添付書類

    休業補償給付の請求にあたっては、基本的に請求書のほかに賃金台帳や出勤簿の写しや医師の診断書などが必要です。特定の状況では追加の添付書類が必要になります。添付が必要になる場合がある書類は以下のとおりです。

    必要な添付書類
    同一の事由によって、障害厚生年金、障害基礎年金等の支給を受けている場合支給額を証明する書類
    賃金を受けなかった日のうちに業務(通勤)上の負傷および疾病による療養のため、所定労働時間の一部について休業した日が含まれる場合様式第8号または様式第16号の6の別紙2
    複数の事業場で就労している場合様式第8号または様式第16号の6で記入した事業場以外の事業場についての別紙1から別紙3

    労災保険の休業補償給付に関するよくある疑問

    労災保険の休業(補償)給付の概要についてつかめてきたところで、人事担当者や経営者からよく寄せられる疑問に答えていきます。

    労働災害事故が発生した際、実際にどのように手続きすべきか、退職後や雇用形態別の対応など、実務の現場で役立つように解説するので確認してみましょう。

    休業補償を受けた状態で従業員が退職したらどうなる?

    退職しても、労災が原因で休業している限り、給付は継続されます。労働者災害補償保険法第12条の5第1項に「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない」と規定されているためです。

    退職理由が自己都合か会社都合かは影響せず、給付金額も退職前と変わりません。

    従業員が退職したあとに申請することはある?

    退職後でも労災保険の申請は可能です。労災保険給付を受け取る権利は労働災害が発生した時点で発生しているため、退職後であっても権利は失われません。

    退職後の労災申請は、通常と変わりなく、必要書類を準備して労働基準監督署に提出すれば問題ありません。ただし、請求書には事業主の証明が必要な欄があるため、退職後でも会社の協力を得る必要があります。

    会社が協力を拒んでも、事業主の証明欄を空白のままにして、「事業主の協力が得られない旨」を労働基準監督署に説明すれば申請できます。請求期限は2年以内なので早めに対応しましょう。

    アルバイト・パート・1日だけの日雇いにも給付される?

    労災保険は、雇用形態や勤務時間に関係なく、業務上のケガや病気があればすべての労働者が対象です。アルバイト・パート・派遣・日雇いも、支給要件を満たせば休業補償給付を受けられます。

    企業は全従業員に労災制度を周知し、万が一の事故発生時には適切に対応できる体制を整えましょう。

    ただし、パート・アルバイトは通常の計算方法だと、給付基礎日額が低くなりすぎる場合があります。そのため、最低補償額が設けられており、支給額が一定水準を下回らないよう配慮されています。

    参照:『スライド率等の改定に伴う労災年金額の変更について』厚生労働省

    ▼労災保険の加入条件は以下で解説しています。詳しく知るにはご確認ください。

    労災で休業中に有給休暇を使える?

    労災で休業中でも有給休暇を使用すること自体は可能です。しかし、有給休暇を使った日は賃金が支払われるため、取得日の分の休業補償は支給されません。

    有給休暇を使えば10割の賃金、休業補償給付ならおよそ8割の賃金が支給されます。どちらを選ぶかは従業員の判断ですが、企業はそれぞれの違いを説明し、選択を助けることが望ましいでしょう。

    休業補償中に働いたらどうなる?

    労災保険の休業補償中にほかの仕事で収入を得ると不正受給となるおそれがあります。給付要件の一つに「労働不能」があるためです。

    ただし、医師の許可があれば部分的な就労は可能です。就労時間分の賃金が支払われた場合は休業補償給付が減額されます。

    リハビリ出勤など治療の一環として医師の指示による就労は、補償対象になる場合もあるため、必ず事前に担当医師や労働基準監督署へ相談しましょう。

    休業補償は課税対象?

    労災保険の休業補償給付は非課税所得に該当し、受給中は所得税の支払いがなくなります。ただし、企業が独自に上乗せする補償があれば、課税対象となるケースがあります。

    一方で会社に在籍している限り、社会保険料を支払う義務は継続します。就労中は給与から天引きされますが、休業中で無給の場合は、本人と相談して支払方法を決めましょう。

    退職後に休業補償給付を受け続ける場合は、国民健康保険・国民年金へ切り替え、従業員自身で保険料の納付が必要です。

    労災保険の休業補償に関する注意点

    労災保険の休業補償給付について、申請漏れや対応の遅れは、従業員との信頼関係や企業の責任問題に発展しかねません。制度上の注意点をおさえて、万が一のときに慌てず対応できるようにしておきましょう。

    労災請求には時効がある

    労災保険の休業補償給付の請求時効は原則として2年です。休業日の翌日から2年が経過すると請求権が消滅します。ただし、時効を迎えてしまった場合でも、従業員は会社に対して民事上の損害賠償請求を行うことが可能です。

    賃金全額を補てんするものではない

    労災保険の休業補償給付は、通常の給与の約60%(給付基礎日額の60%)が支給されます。特別支給金を含めると約80%まで補償されますが、全額を補てんするものではありません。労働者は一部の収入減少を覚悟する必要があります。

    不足分について損害賠償を請求されることがある

    休業補償給付が給付基礎日額の60%に満たないと、当然ながら従業員から不足分を請求されます。

    また、労災事故が企業側の安全配慮義務違反によるものだった場合、労災給付とは別に、民事で損害賠償を請求されるおそれもあるでしょう。

    労働環境の整備や安全教育の見直しなど、「未然に防ぐ取り組み」も人事の重要な役割といえるのです。

    まとめ

    労災保険の休業補償給付は、業務上または通勤によるケガや病気で働けなくなった労働者の生活を支える重要な制度です。

    企業側としては、給付の「金額」「支給期間」などの基本を正しく理解し、従業員がスムーズに給付を受けられるよう、申請を支援することが大切です。

    申請は基本的に本人が行いますが、企業が代行する場合は申請遅れや説明不足によって不備がないよう、万一に備えて迅速に対応できる体制を整えておきましょう。

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    2025年からは「労働者死傷病報告」など一部手続きの電子申請が義務化されました。社会保険申請のペーパーレス化が進んでいない企業は、検討してみてはいかがでしょうか。

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