労災保険料は誰が払う? 事業主の負担割合や計算方法を解説

労災保険料は誰が払う? 事業主の負担割合や計算方法を解説

通常、社会保険料は使用者と労働者が負担し合うことが多いですが、労災保険料は誰が支払うのでしょうか。

労災保険とは、業務中や通勤中に起きたできごとを原因とする疾病を補償する制度です。労災保険は広義の社会保険の一種であり、相互扶助の理念に基づいて保険料を納付し、労働災害のリスクに備えます。

本記事では、労災保険料の事業主の負担割合や、保険料の計算方法、納付方法などを解説します。

労災保険料の納付手続きを電子化したい方は、以下の記事をご確認ください。
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    労災保険料は誰が払う?

    企業に雇用される人の健康保険料や厚生年金保険料などは給与から天引きされ、本人の代わりに企業が納付します。しかし、従業員が保険料を全額支払うわけではなく、それぞれ定められた負担割合に基づいて、企業と従業員がそれぞれ負担し合う仕組みです。

    それでは労災保険料も、そのほかの社会保険料と同じように企業と従業員が負担し合って納付するのでしょうか。

    労災保険料は全額事業主負担

    健康保険料や厚生年金保険料とは異なり、労災保険は事業主が全額保険料を負担します。労働基準法により、事業主には従業員の業務上の負傷や疾病に対して、無過失の補償責任があると定められているためです。

    労災保険料は、従業員の給与から天引きされず、全従業員分の保険料を企業がまとめて支払うと覚えておきましょう。

    そのほかの社会保険料の負担割合

    健康保険や介護保険、厚生年金保険の保険料は、企業と従業員が折半して納付します。

    一方、雇用保険の保険料負担割合は事業の種類によって異なり、定期的に見直されています。たとえば、2024年度の雇用保険料率は以下のとおりです。

    事業の種類従業員負担事業主負担全体
    一般の事業6/1,0009.5/1,00015.5/1,000
    農林水産・清酒製造の事業7/1,00010.5/1,00017.5/1,000
    建設の事業7/1,00011.5/1,00018.5/1,000

    出典:『令和6年度の雇用保険料率について』厚生労働省

    労災保険の加入条件

    事業の種類や規模などにかかわらず、従業員を1人でも雇用している企業は、労災保険に加入する義務があります。

    また雇用形態に関係なく、企業に雇用されるすべての従業員が労災保険の対象です。正社員はもちろん、アルバイトやパート、契約社員や嘱託職員なども労災保険が適用されます。

    なお派遣スタッフは、派遣先の企業ではなく、人材派遣会社の方で労災保険に加入します。派遣スタッフはあくまで人材派遣会社に雇用される労働者であり、派遣先との雇用関係はないためです。

    ただし、派遣スタッフが労働災害にあったときは、派遣先の企業にも以下の2つの対応が求められます。

    人材派遣会社への連絡労働災害にあった派遣スタッフに、人材派遣会社に連絡するよう伝える
    『労働者死亡傷病報告』の提出労働災害により派遣スタッフが休業・死亡した場合は『労働者死傷病報告』を提出する

    頻繁に起こる発生する事案ではないかもしれませんが、基本的な対応を覚えておくと、もしものときに冷静に対応できます。

    労災保険料の計算方法

    労災保険料は次の式で計算します。

    労災保険料=賃金総額×労災保険料率

    賃金総額とは、1年間にすべての従業員に支払った賃金の総額のことです。

    ただし労災保険における賃金総額には、含むものと含まないものとがあります。

    たとえば基本給や賞与、通勤手当や扶養手当などは賃金総額に含めて考えます。一方で役員報酬や退職金、出張旅費などは賃金総額には含まれません。

    詳しくは厚生労働省の資料で確認できます。

    参照:『労働保険対象賃金の範囲』厚生労働省

    また保険料率とは、保険料の計算に用いる割合のことです。労災保険料率は事業の種類によって定められており、労災リスクの高い業種ほど高く設定されています。

    業種保険料率
    金属鉱業や非金属鉱業(石灰石鉱業またはドロマイト鉱業を除く)、石炭鉱業88/1,000
    ※全業種の中でもっとも高い
    通信業や放送業、新聞業、出版業2.5/1,000※全業種の中でもっとも低い
    金融業や保険業、不動産業

    出典:『労災保険率表(令和6年度~)』厚生労働省

    以上のように労災保険料率は業種によって大きな差があります。労災保険料を計算する際は、自社があてはまる業種の保険料率を間違いなく使用することが大切です。

    労災保険料の計算例

    具体的な例を挙げながら、労災保険料の計算方法を紹介します。

    本記事では従業員数と平均給与から算出した値を賃金総額とし、それぞれの業種における労災保険料率については2024年4月1日施行のものを使用します。

    参照:『労災保険率表』厚生労働省

    ▼卸売業の労災保険料の計算

    業種保険料率従業員数平均給与
    卸売業3/1,00050人400万円
    労災保険料の計算
    賃金総額50人×400万円=2億円
    労災保険料2億円×3/1,000=60万円

    ▼ビルメンテナンス業の労災保険料の計算

    業種保険料率従業員数平均給与
    ビルメンテナンス業6/1,00030人350万円
    労災保険料の計算
    賃金総額30人×350万円=1億500万円
    労災保険料1億500万円×6/1,000=63万円

    労災保険料の納付時期

    労災保険料の納付時期は、例年6月1日から7月10日です。7月10日が土日の場合は、その翌月曜日が期限となります。

    労災保険料は、上記の期間に一括納付するのが原則です。ただし、一定の条件を満たす場合は、納付を3回に分割もできます。

    当年に1度の申告・納付手続きを「年度更新」といい、企業は期日までに忘れずに保険料を納付する必要があります。

    労働保険の年度更新の流れ

    労働保険とは、労災保険と雇用保険の総称です。広義では2つの保険制度も社会保険の枠組みに入りますが、狭義では労災保険と雇用保険のみ労働保険として区別されています。

    労働保険は手続きを一緒に行い、年度更新では両方の保険料を申告・納付します。

    労働保険は4月1日から3月31日までを単位として、今年度の保険料を前払いするのが原則です。年度が終わり、年間の労働保険料が確定したタイミングで、前年度の確定保険料と今年度の概算保険料を精算して不足分を納付します。

    具体的な流れは、以下の3つの手順に沿って確認していきましょう。

    1.前年度の確定保険料を計算する

    まずは、前年度の確定保険料を計算します。

    労働保険料の計算では、年度内に支払った賃金ではなく、年度内に確定した賃金を用います。たとえば月末締め・翌月15日払いの場合、3月分の賃金が支払われるのは翌4月15日ですが、3月中に金額が確定しているので前年度の賃金に含まれます。賃金の支給日ではなく、締切日で判断するのがポイントです。

    前年度の確定保険料を計算したら、前年の年度更新で支払った概算保険料との過不足を精算します。確定保険料の方が多ければ不足分を支払い、少なければ新年度の保険料に充当します。

    2.今年度の概算保険料を計算する

    次に今年度の概算保険料を計算します。労働保険料は原則として前払いなので、今年度(4月1日から3月31日まで)の賃金見込み額から概算の保険料を計算します。

    ただし賃金見込み額が前年の2分の1から2倍の間に収まる場合は、前年の確定賃金額を用いて計算するルールです。

    3.申告・納付をする

    前年度の精算と今年度の概算保険料の計算を終えたら、所轄の労働基準監督署に『労働保険概算・確定保険料申告書』を提出し、保険料を申告・納付します。

    例年7月10日までの期限を過ぎると追徴金を課せられる場合もあるので、期限内に手続きを終えられるように準備を進めましょう。

    労災保険料の納付方法

    労災保険料の納付方法には、次の4種類があります。

    方法特徴
    現金納付もっとも基本的な方法。一括有期事業は注意
    口座振替一度申請すればその後が簡単
    電子納付時間や場所に縛られない便利な手段
    労働保険事務組合への委託業務負担を軽減する選択肢、条件あり

    各手段の特徴を理解し、効率的に事務手続きを済ませましょう。

    現金納付

    労働基準監督署や労働局、銀行などに行き、申告書の提出とともに現金で納付する方法です。

    ただし一括有期事業に該当する企業は、提出が必要な『一括有期事業報告書』と『一括有期事業総括表』は銀行では取り扱ってもらえないので注意しましょう。

    口座振替

    指定した口座から、保険料を自動で引き落としてもらう方法です。口座振替で保険料を納付するためには『労働保険 保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書兼口座振替依頼書』を口座のある金融機関に提出する必要があります。

    初回は手続きの手間がかかりますが、一度申請すれば解除手続きを行うまで継続されるので便利です。

    電子納付

    申告書を電子申請で提出した場合は、インターネットバンキングやATMで保険料を電子納付することが可能です。

    電子申請なら時間や場所を気にせず、簡単・便利に手続きを完了できます。前年度の情報を取り込むこともできるので、担当者の負担も軽減されるでしょう。詳しくは、厚生労働省の特設ページから確認できます。

    参照:『オンライン化の波を一緒に乗りこなそう。労働保険は電子申請』厚生労働省

    労働保険事務組合への委託

    申告書の作成・提出や保険料の納付など、労働保険にまつわる事務処理は、労働保険事務組合に委託することも可能です。ただし委託をするためには、以下の従業員規模要件を満たす必要があります。

    金融業・保険業・不動産業・小売業常時使用する従業員が50人以下
    卸売業・サービス業常時使用する従業員が100人以下
    そのほかの事業常時使用する従業員が300人以下

    参照:『労働保険事務組合制度』厚生労働省

    また、委託の際には団体への入会金や委託手数料が必要になることがあります。詳しくは、都道府県労働局や労働基準監督署、ハローワークに問い合わせてみましょう。

    労災保険料は事業主が全額負担

    健康保険料や厚生年金保険料などとは異なり、労災保険料は事業主が全額負担する決まりです。そのため、毎月の給与から保険料を徴収する必要はなく、年に一度の年度更新の際に保険料の申告・納付を行います。

    労災保険料の計算式は「賃金総額×労災保険料率」です。一見シンプルな計算式ですが、賃金総額には含むもの・含まないものがあり、労災保険料率は事業の種類ごとに細かく区分されているので注意が必要です。

    労災保険料を正しく計算し、期日までに確実に納めるようにしましょう。