ビジネスケアラーとは? 増加する要因と求められる対応や支援を解説
少子高齢化や人口減少を背景に、日本では近年ビジネスケアラーが増加しています。ビジネスケアラーの増加は、当事者だけでなく企業や社会にとっても大きな課題です。
本記事では、ビジネスケアラーの概要や現状、社会的に抱える問題点を詳しく解説します。記事の後半では企業としての対策や心構えも紹介するため、人事業務にかかわる方はぜひ参考にしてください。
ビジネスケアラーとは
ビジネスケアラーとは、仕事と家族の介護を両立する人です。ビジネスケアラーの抱える問題・課題を解決するためには、取り巻く環境や現状を理解する必要があります。
まずは、ビジネスケアラーの定義や現状を詳しく解説します。
ビジネスケアラーの定義
ビジネスケアラーとは、働きながら家族の介護をする人のことです。経済産業省は「仕事をしながら家族等の介護に従事する者」と記しています。
ビジネスケアラーは仕事と介護の両立を求められるため、非常に厳しい立場に置かれています。少子高齢化や高齢者雇用の促進とともに、ビジネスケアラーが年々増え続けてきました。女性の社会進出により女性のビジネスケアラーも増加傾向にあります。
参照:『経済産業省における介護分野の取組について』経済産業省
ビジネスケアラーの現状
経済産業省の調査結果によると、2020年時点で、日本国内における家族介護者は678万人、そのうちビジネスケアラーは262万人いると報告されています。つまり、家族介護者のおよそ40%が仕事と介護を両立しています。
生産年齢人口の減少が進むなかで、企業にとって介護による経済的な損失は大きいといえるでしょう。
参照:『経済産業省における介護分野の取組について』経済産業省
ビジネスケアラーが増加する社会的な要因
ビジネスケアラーが増加する社会的な要因のうち、代表的な3つを解説します。
- 年々加速する超高齢化社会
- 共働き世帯の増加
- 独身者の増加
年々加速する超高齢化社会
近年は、晩婚化により初婚の平均年齢が上昇しています。
厚生労働省の調査結果によると、1990年と2019年の初婚の平均年齢は以下の通りです。
男性 | 女性 | |
---|---|---|
1990年 | 28.5歳 | 25.8歳 |
2019年 | 31.2歳 | 29.6歳 |
晩婚化の加速は、出産年齢の上昇や少子化だけでなく、親の高齢化にもつながり、ビジネスケアラーが増加する一因といえるでしょう。
共働き世帯の増加
共働き世帯の増加も、ビジネスケアラーが増加する要因として考えられます。
世帯所得の減少によって夫婦ともに働かなければならない家庭が増え、、さらに女性の社会進出の機運が高まったことが、共働き世帯が増加につながっています。
専業主婦が多かった時代は、日中家にいる主婦が親の介護をするケースが多くありました。しかし、近年は夫婦のどちらか一方が家事や育児、介護に専念する家庭は少なくなりました。その結果、仕事と介護の両立を求められるビジネスケアラーの数が増加傾向にあるのです。
独身者の増加
未婚率の増加、つまり独身者の増加も、ビジネスケアラーが増え続ける要因の一つです。
厚生労働省の調査結果によると、1990年と2015年の未婚率は次のように変化しています。
2015年 | 2020年 | |
---|---|---|
40〜44歳の男性未婚率 | 31.9% | 32.2% |
30〜34歳の女性未婚率 | 36.6% | 38.5% |
参照:『図表1-1-9 年齢階級別未婚割合の推移』厚生労働省
年代が上がるにつれて未婚率は低下するものの、どの年代においても上昇傾向であることに変わりありません。未婚によって親の介護をサポートしてくれるパートナーがいないことで、ビジネスケアラーとならざるを得ないケースも考えられます。
ビジネスケアラーが抱える課題・問題点
ビジネスケアラーが抱える社会的な課題や問題点を解説します。
- 仕事と介護の両立で疲弊している
- 先の見えない介護によって意欲が低下しがち
- 育児と介護によるダブルケアによって負担が増える
- 相談できる環境がない
- 離職を検討せざるを得ない状況に陥る
仕事と介護の両立で疲弊している
仕事と介護の両立によって、疲弊してしまうビジネスケアラーが少なくないでしょう。
ビジネスケアラーは、帰宅後や休日など仕事の合間を活用して家族の介護をしなければなりません。その結果、プライベートの時間を確保できず、精神的な余裕がなくなるケースもあります。
先の見えない介護によって意欲が低下しがち
介護は、長期的に取り組まなければならないことが一般的です。
長い介護生活を強いられて先が見えなくなり、仕事の見通しが立たず、働く意欲が低下してしまうことが課題とされています。
昇進や今後のキャリアに対して、漠然とした不安を抱えるビジネスケアラーも少なくありません。
育児と介護によるダブルケアによって負担が増える
内閣府が2016年に発表した調査結果によると、未就学児の育児と介護を同時に行っているダブルケアラーは約25万人と推測されています。また、そのうちのおよそ80%が、30〜40代の働き盛りの世代であるとわかりました。
育児と介護のダブルケアによって、ビジネスケアラーはより大きな負担を抱えているといえます。
相談できる環境がない
家族の介護の状況や家庭環境について、職場の上司に相談しにくいと感じているビジネスケアラーもいるでしょう。
仕事と介護の両立の難しさを気軽に相談できる環境が整っていないため、誰にも打ち明けられず、精神的に追い詰められてしまうケースも考えられます。
離職を検討せざるを得ない状況に陥る
職場において仕事と介護の両立に対する理解が得られなければ、ビジネスケアラーは離職を検討せざるを得ない状況に陥ってしまうでしょう。従業員が悩みを抱えて介護離職を選択しないためにも、企業として必要な支援を把握する必要があります。
ビジネスケアラーの今後
経済産業省の調査結果によると、ビジネスケアラーの数は今後も増え続け、2030年にピークを迎えて318万人になると予測されています。また、ビジネスケアラーの発生による経済損失は、2030年時点で9兆1,792億円にのぼると推計されています。
政府は『経済財政運営と改革の基本方針2023』を打ち出し、支援を強化すると宣言しました。政府が対策に本格的に乗り出せば、ビジネスケアラーへのサポートが充実し、影響を最小限に抑えることが期待されています。
参照:『ビジネスケアラー支援に向けて「企業経営と介護両立支援に関する検討会」を開催します』経済産業省
参照:『経済産業省における介護分野の取組について』経済産業省
企業がビジネスケアラーのためにできること
企業としてビジネスケアラーのためにできる支援について解説します。
- 制度と環境を整備する
- 介護を理由に仕事を外す決断をしない
- 社内における情報共有ネットワークを構築する
制度と環境を整備する
経済産業省は、健康経営への優れた取り組みをしている企業を選定する『健康経営銘柄』の認定要件として、ビジネスケアラーに関する項目を追加しました。このように日本政府は、仕事と介護の両立支援を企業に促すガイドラインを策定しています。
企業としても、ビジネスケアラーが働きやすい環境を整えるため、各種制度やサービスの導入を検討するとよいでしょう。従業員が仕事と介護を無理なく両立できるよう、介護に関する制度や就業規則を見直すという方法もあります。
企業の制度として、以下の5つの取り組みを紹介します。
- 多様な働き方を導入する
- 介護休暇制度を導入する
- 外部サービスを活用する
- 悩み相談室を設置する
- 各種講習会を開催する
参照:『健康経営銘柄2023選定基準及び健康経営優良法人2023(大規模法人部門)認定要件』経済産業省
多様な働き方を導入する
ビジネスケアラーが長期間にわたって働き続けられるように、多様な働き方を導入しましょう。短時間勤務やフレックス制度、リモートワークなど、介護と仕事を両立しやすい環境を整えることが大切です。
近年は、勤務地や職種・職務を限定した働き方を採用する企業も増えています。在宅勤務とオフィス勤務をバランスよく取り入れて、業種や状況に合わせた柔軟な働き方を検討するのもよいでしょう。
介護休暇制度を導入する
介護休暇制度とは、要介護状態の家族を介護するために休暇を取得できる制度です。対象となる要介護者1人につき、年に5日まで取得できます。
この制度は法律によって労働者に認められた権利であるため、事業主は労働者から取得の申し出があった場合は断れません。
介護休暇制度は、以下のような場合に活用できます。
- 要介護者の急な体調不良
- 入院や通院の付き添い・送迎
- 介護士やケアマネージャーとの面談
- 介護に関する手続き など
法改正により、2021年1月1日からは時間単位で休暇を取得できるようになりました。企業は、ビジネスケアラーを含む従業員に制度の周知をするとともに、制度を活用できるような環境を整備する必要があります。
参照:『⼦の看護休暇・介護休暇が時間単位で取得できるようになります!』厚生労働省
外部サービスを活用する
介護休暇制度のような国の制度だけでなく、外部サービスの活用も検討しましょう。外部の業者と提携することで、次のようなサービスを利用できます。
- 介護に関する手続きの代行
- 電話やSNSで相談できるホットライン
- 介護施設を探すための情報収集
外部サービスを気軽に利用できれば、従業員は安心して仕事に集中できるでしょう。
参照:『経済損失9兆円の試算!増える“ビジネスケアラー”(1)対策進める企業は』NHK首都圏ナビ
悩み相談室を設置する
企業内に相談室を設置して、従業員のメンタルヘルスの支援を拡充する施策も大切です。悩みや不安を気軽に打ち明けられる場所があると、ビジネスケアラーの心のケアにつながるでしょう。
各種講習会を開催する
企業として介護に関する講習会や勉強会を開催することも、間接的にビジネスケアラーを支援する方法となります。介護に対する知識を深められると、企業全体でビジネスケアラーを気遣い、手助けする体制を整えられるでしょう。
周囲の理解を得られることで、ビジネスケアラーが居場所ややりがいを失うリスクを軽減できます。
介護を理由に仕事を外す決断をしない
ビジネスケアラーとして活躍する従業員を把握したら、当事者へのヒアリングを行い、不安に感じていることや困っていることはないか確認しましょう。
介護を理由に昇進や昇格などのキャリアアップの機会を奪うことはせず、企業と従業員でよく相談しながら、業務内容や仕事の進め方について話し合う必要があります。
社内における情報共有ネットワークを構築する
企業内で介護に関する情報交換ができるようなネットワークを構築することも、ビジネスケアラーの支援につながります。
なかでも注目したいのが、ピアサポーター制度です。ピアサポーターとは、同じような障がいや病気、介護などの経験を持ち、その経験を活かして同じ境遇にある仲間を支援する人です。
過去にビジネスケアラーとして介護と仕事を両立してきた従業員が社内にいれば、ピアサポーターとして相談役を引き受けてもらえないか打診してみましょう。
ビジネスケアラーのサポートによる企業側のメリット
ビジネスケアラーをサポートすると、企業にもさまざまなメリットがもたらされます。
- 多様な人材を確保でき雇用維持につながる
- ブランディングと企業イメージの向上につながる
- 従業員のロイヤリティやモチベーションを高められる
多様な人材を確保でき雇用維持につながる
仕事と介護を両立するビジネスケアラーのサポート体制を明確にすることで、企業の採用力が強まります。従業員にとって働きやすい環境となるように配慮する企業であるとアピールできれば、多様な人材の確保にもつながるでしょう。
ブランディングと企業イメージの向上につながる
ビジネスケアラーの仕事と介護の両立をサポートする制度や施策を広報することで、社会的責任を果たす企業としてブランディングにつながり、企業イメージの向上が期待できます。
福利厚生が充実している企業として認知されると、顧客や消費者から選ばれやすくなり、結果として収益の拡大も見込めるでしょう。
従業員のロイヤリティやモチベーションを高められる
ビジネスケアラーへの支援を通して、従業員の企業に対するロイヤリティやモチベーションを高められます。従業員にとって居心地のよい環境を整えることで、生産性や業績の向上が見込めるだけでなく、離職率の低下や雇用維持にもつながるでしょう。
ビジネスケアラーを支援して企業の成長も促進(まとめ)
ビジネスケアラーとは、仕事と家族の介護を両立する人です。
少子高齢化が深刻化する日本において、企業にはビジネスケアラーへの適切なサポートが求められています。
労働生産性の低下や介護離職による損失を最小限に抑えるためにも、それぞれの企業がビジネスケアラーに対する支援の重要性を理解し、制度や環境を整備することが大切です。
仕事と介護を無理なく両立できるような働き方について、企業全体で検討するとよいでしょう。