賞与明細とは? 見方や作成方法、控除額も解説
賞与明細とは、企業が従業員に賞与を支払う際に発行しなければならない明細書です。賞与明細にはさまざまな項目があり、企業の担当者は正しく記載しなければなりません。
本記事では、賞与明細の概要や見方を解説します。賞与明細のなかでもわかりにくい控除項目についても紹介しますので、企業の経理担当者はぜひ参考にしてください。
賞与明細とは
賞与明細とは、企業が従業員に支給する賞与について、支給額や控除額などの金額を正確に伝えるための明細書です。企業による賞与明細の発行について、労働基準法では義務付けていませんが、所得税法では義務付けています。そのため、企業が従業員に賞与を支給する際は、賞与明細を発行しなければなりません。
賞与明細と給与明細の違い
賞与明細と給与明細は、発行回数や項目内容に違いがあります。
そもそも賞与は個人の成果や業績に対して支払うための対価であり、1回の支給で3か月以上間隔を空けて支給します。一方の給与は労働そのものに対する対価であり、一般的な月給制であれば毎月支給します。
そのため、賞与明細と給与明細では発行回数が異なります。また、労働そのものに対しての対価である給与明細には「勤務時間や勤務日数」の項目があり、賞与明細にはないのです。さらに、賞与は住民税が控除対象にならないため、賞与明細には住民税の控除項目がありません。
そもそも賞与とは
賞与とは、企業が従業員に対して、給与とは別に年3回以下で支給する賃金です。賞与は「ボーナス」とも呼ばれます。賞与の金額は、会社の業績や個人の成績などによって決まるため、固定されていないのが特徴です。そのため、企業は賞与の金額や支給時期などを自由に決められます。また、必ずしも賞与を支給しなければならないわけではありません。
賞与明細の見方
賞与明細には、支払額だけでなく、各種控除額が記載されます。控除とは、差し引かれる金額のことです。賞与では、以下の内容が控除されます。
- 健康保険料や介護保険料
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料
- 所得税
賞与明細では、各控除金額と控除額合計が記載されます。実際に支給されるのは、賞与支払額から、これらの控除額合計を控除した「差引支給額」です。
賞与明細の控除項目
賞与明細の項目には、各種控除項目があります。支払い額と差引支給額が異なるのは、この控除項目によって差し引かれる金額があるためです。具体的な控除項目を解説します。
- 健康保険料や介護保険料
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料
- 所得税
健康保険料や介護保険料
従業員が健康保険の被保険者となる条件を満たしている場合には、健康保険に加入し保険料を納付しなければなりません。さらに、40歳以上の従業員は、介護保険の被保険者にも該当するため、介護保険料も納付します。健康保険料も介護保険料も、労使による折半です。
参照:『標準報酬月額・標準賞与額とは? | こんな時に健保』健康保険協会
厚生年金保険料
厚生年金保険料は、原則会社員が加入する年金制度です。厚生年金保険料も、労使による折半です。日本の年金制度では、2段階の構成になっていて、1階部分は国民全員が加入する国民年金、2階部分が厚生年金です。厚生年金に加入する会社員の場合、国民年金にも加入していることになりますが、あらためて国民年金保険料を支払う必要はありません。
雇用保険料
雇用保険は、週所定労働時間20時間以上、雇用見込み31日以上の学生ではない従業員が加入します。雇用保険に加入している場合には、雇用保険料を納めなければなりません。雇用保険は、労働者に対する失業等給付と、能力開発・雇用安定の二事業を行っています。失業等給付分については、保険料が労使折半であるため賞与でも控除されます。二事業分は、全額企業側が負担するため、従業員は支払いません。
参照:『令和6年度の雇用保険料率について~令和5年度と同率です~』厚生労働省
所得税
所得税は、納税者の所得に対してかかる税金であるため、賞与も課税対象として扱われます。賞与における所得税の課税対象は、もともとの賞与額から各種社会保険料を控除した金額です。
参照:『賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和6年分)』国税庁
賞与明細を作成する手順
賞与明細は、企業が従業員に賞与を支給する際に必ず発行しなければならない重要な書類です。企業が賞与明細を漏れなく発行するために、作成手順を紹介します。
- 書類の準備
- 賞与額を計算
- 控除額を計算
- 賞与明細の記入と発行
1.書類の準備
賞与明細を作成する最初のステップは、必要書類を準備することです。賞与明細を作成するには、以下の書類が必要です。
- 各保険の保険料率表
- 賞与を支給した月の前月の給与明細書
- 賞与の源泉徴収税額表
企業は、賞与金額を正しく計算するための根拠にもなりますので、必ず準備しましょう。
2.賞与額を計算
賞与額を計算します。基本的には、給与連動・業績連動・決算賞与のいずれかの方法で計算するのが一般的です。
方法 | 特徴 | 計算式 |
---|---|---|
基本給連動型 | 基本給をベースに支給額を計算する賞与制度 | 基本給×平均支給月数 |
業績連動型 | 企業業績や個人の業績に応じて支給額が決まる制度 | 一定期間の粗利益×労働分配率−既払いの人件費 ※労働分配率(%)=人件費÷付加価値×100で計算 ※企業によって計算方法は異なる |
決算賞与型 | 決算時期に会社の業績に基づいて支給される制度(臨時賞与や特別賞与などと呼ぶ) | 企業によって計算方法は異なる |
企業の就業規則などに賞与額の計算方法などが規定されていれば、それに従います。
3.控除額を計算
社会保険料や所得税などの各種控除額を計算します。社会保険の保険料率は、地域、年度によって変わることがあるため、必ず正しい情報を確認しましょう。
控除種類 | 計算式 |
---|---|
健康保険 介護保険 厚生年金保険 | 標準賞与額(1,000円未満切り捨て)×所定の保険料率=控除額 |
雇用保険 | 賞与額×所定の保険料率=控除額 |
所得税 | 賞与額ー各保険料×所得税率 =控除額 |
参照:『標準報酬月額・標準賞与額とは? | こんな時に健保』健康保険協会
参照:『厚生年金保険の保険料』日本年金機構
参照:『令和6年度の雇用保険料率について~令和5年度と同率です~』厚生労働省
参照:『No.2523 賞与に対する源泉徴収』国税庁
4.賞与明細の記入と発行
賞与額を計算したら、賞与明細に支給額や控除額を記載します。賞与明細書には「賞与の支払い額(総支給額)」「控除種類と控除額」と賞与から控除額を差し引いた「差引支給額」、銀行振込の場合は「振込支給額」を記載しましょう。
まとめ
賞与明細とは、企業が従業員に賞与を支給する際に発行する明細書のことです。賞与明細の発行は、所得税法で定められているため、必ず発行しなければなりません。また、賞与明細では、賞与そのもの金額だけでなく、社会保険料や所得税などの控除金額を記載します。企業は、従業員に正しい賞与額を支給するためにも、計算ミスのないよう注意しましょう。
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