給与計算を内製化すべき? メリット・デメリットや向いている企業、移行のポイント
給与計算の内製化とは、自社の従業員が給与計算を行うことです。給与計算は企業にとって欠かせない業務であるものの、毎月末に発生する煩雑な作業です。個人情報も含まれるため、データの取り扱いにも細心の注意が求められます。
本記事では、給与計算を内製するメリットとデメリット、そして内製化したい企業の特徴を詳しく解説します。記事の後半には、給与計算を内製化する際のポイントも紹介するので、人事担当者はぜひ参考にしてください。
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給与計算の内製化とは
内製化とは、自社のリソースのみで対象の業務を行うことです。給与計算の内製化とは、給与計算における作業を自社の従業員が担当することを意味します。
外注するよりも予算や時間的コストを削減できるため、従業員の人数が比較的少ない中小企業やベンチャー企業、スタートアップ企業などで取り入れられるケースが多くあります。
給与計算の内製化で発生する業務
給与計算の内製化で発生する具体的な業務を知ることは、効率的な運用のために重要です。必須である3つの具体的な業務について詳しく解説します。
- 勤怠情報の集計
- 社会保険料の管理
- システム管理
それぞれの業務がどのように進行し、どのような注意点があるのかを確認しましょう。
勤怠情報の集計
給与計算を内製化するにあたり、すべての従業員の勤怠情報を集計します。紙媒体のタイムカードや出勤簿で勤怠管理をしている場合は、勤怠データの打ち込み作業も発生します。
時間外勤務や深夜勤務、休日出勤などの各種手当も計算するため、正しい勤怠状況の集計・管理が必要です。
さらに、残業時間数や有給休暇の取得状況なども管理しなければなりません。
社会保険料の管理
従業員の社会保険料の管理も必要な業務の一つです。
健康保険料や厚生年金保険料、雇用保険料、さらには40歳以上65歳未満の従業員を対象に、介護保険料の従業員負担分を計算し、控除する必要があります。
社会保険の要件は毎年のように改定されるため、常に最新の情報にアップデートしなければなりません。
システム管理
給与計算に関するシステム管理も、重要な業務です。給与計算は計算ミスが許されない煩雑な作業のため、手計算ではなく、給与計算ソフトやシステムを使用するのが一般的です。
ただし、ソフトやシステムを使用する際は、保守管理の担当者を設置し、適宜運用しなくてはなりません。
給与計算が完了したら、紙もしくはデータで給与明細を発行します。給与明細書を紙で支給する場合は、印刷する業務も発生します。
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給与計算を内製化するメリット
煩雑な給与計算をアウトソーシングに頼らず、内製化するとどのようなメリットがあるのでしょうか。給与計算を内製化する4つのメリットを紹介します。
- 給与計算に関する技術や知識を継承できる
- スムーズに意思疎通できる
- 会社固有の給与計算方法が可能となる
- 外部に情報が漏れにくい
給与計算に関する技術や知識を継承できる
給与計算業務に限らず、業務を自社で内製化すれば、技術や知識を継承できます。
給与計算業務を外注してしまうと、企業内で培われた技術や法律や税務に関する知識は受け継がれません。最新の情報にアップデートされることもなくなります。
業務の内製化で、それぞれの知識・技術は、将来的な利益をもたらす資産としてどんどん社内に蓄積していくでしょう。
スムーズに意思疎通できる
給与計算を内製化すると、従業員から疑問や不明点があれば、社内の担当者に直接、すぐに質問や相談ができるというメリットがあります。
一方でアウトソーシングの場合は、外部とのやり取りに時間がかかることがあり、迅速な解決が難しくなるでしょう。
給与計算は少しのミスも許されない業務であるため、素早い情報伝達とスムーズな意思疎通を実現できることは重要なポイントです。
会社固有の給与計算方法が可能となる
企業独自の計算方法で給与を管理できるのは、内製化の大きなメリットです。
特に業務上、特殊な計算方法を採用している場合や、就業規則が頻繁に改正されるなら、内製化を検討する価値があります。
外注すると、細かなルールの共有や変更の伝達に時間がかかり、結果的に自社で進めた方が効率的がよいケースもあります。
手間と工数を踏まえ、自社が給与計算の内製化に適しているかを慎重に判断しましょう。
外部に情報が漏れにくい
給与計算の内製化は、給与や従業員の人事情報などの大切な個人情報が外部に漏れるリスクを最小限に抑えられます。
外部に委託する場合は自社のデータを社外に共有することになり、情報漏えいのリスクが生じます。情報セキュリティに力を入れている企業であれば、内製化でリスク回避も可能です。
給与計算を内製化するデメリット
給与計算の内製化はメリットがある一方で、デメリットや課題も存在します。主なデメリットを4つ紹介します。
- 給与計算業務担当の育成に時間がかかる
- 給与計算業務・経理業務の人件費がかかる
- 給与計算業務担当・経理担当の業務負荷が大きくなる
- 給与計算業務が属人化しやすい
給与計算業務担当の育成に時間がかかる
給与計算の内製化には、業務を担当する専門スタッフの確保が必要です。給与計算をするためには、ソフトやシステムの使用方法を習得するだけでなく、各種手当や給与の計算方法などの、専門的な知識を身につけた人材を育成しなければなりません。
給与計算業務・経理業務の人件費がかかる
給与計算業務や経理業務を内製化すれば、担当者に対する人件費が発生します。専門知識を有するスタッフの雇用には、知識やスキルに考慮した給与を支給しなければならず、企業にとっては負担となる場合もあります。
また、人材育成や担当者への人件費などの人的投資以外に、システムの導入・運用費用、備品・消耗品のコストなども発生します。
人的コストとアウトソーシングする際にかかるコストを比較し、どちらが自社に適しているかを判断しましょう。
給与計算業務担当・経理担当の業務負荷が大きくなる
給与計算の内製化は、担当者の業務負荷が増える点もデメリットの一つです。
業務を担当するうえで専門的な知識やノウハウが必要となるケースも多く、業務に慣れないうちは負荷が生じます。
特に、年に一度のみ対応が必要な「年末調整」は、一時的に忙しくなり、通常業務とは異なる内容のため、担当者にとって大きな負担となります。
給与計算業務が属人化しやすい
給与計算の担当者を決めると、専門知識やスキルを効率よく習得し、業務に専念できるというメリットがあります。しかし、特定の担当者に業務を固定すると、属人化のリスクが起こります。
たとえば、担当者が休職や退職した場合に後任探しに苦労したり、担当者の判断に依存して同じミスが繰り返されたりすることもあります。また、ほかの従業員が業務内容を把握できなくなる事態につながる点もデメリットです。
そのため、担当者を1人に限定せず、複数人でチェックする体制を整えることが重要です。
給与計算を外注するメリット・デメリット
給与計算業務を専門業者に外注すると、以下4つの業務を代行してもらえます。
- 給与計算
- 振込・納税
- 年末調整
- 住民税変更
給与計算を外注するメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
---|---|
・社内の人的コストを削減できる・法改正へ自動で対応できる・コア業務に専念できる | ・社内にノウハウが蓄積されない・機密情報や個人情報の漏えいリスクがある・やり取りやスケジュール調整に融通がきかないケースがある |
外注すると業務委託費がかかるものの、専任担当者を雇うよりも低コストで依頼できるケースもあります。一般的に、会社の規模が大きくなればなるほどコストは割安になる傾向にあるため、成長中の企業は外注を検討してもよいでしょう。
外部に給与計算業務を外注すると、社外に機密情報や個人情報を提供する必要があります。情報管理の精度は業者によって大きく異なるため、信頼できる外注先を選択しなければなりません。
さらに、外注すると、社外とのやり取りに時間がかかる可能性もあります。問い合わせがある場合は、なるべく時間に余裕を持ったうえで情報を共有しましょう。
給与計算を内製で行った方がよい企業の特徴
給与計算の内製化が適している企業には、以下の特徴があります。
- 規模が比較的小さい企業
- 内製の方が費用効果が見込めて、コスト削減につながる企業
- 担当社員を雇う余裕がある企業
- 独自の給与計算ルールを導入している企業
外注にはコストがかかるため、企業内でノウハウを蓄積したい場合や、独自のルールで給与計算を行う場合は、長期的に見て内製化が向いているといえます。
また、独自の方法でスムーズに給与計算を進めたい企業にとっても、内製化は検討したい選択肢の一つです。
給与計算を外注した方がよい企業の特徴
給与計算の外注が適している企業には、以下の特徴があります。
- 立ち上げたばかりのベンチャー・スタートアップ企業
- 経理部の人材リソースが足りていない場合
- 担当者の教育や引き継ぎに時間を要する場合
中小企業やベンチャー・スタートアップ企業など、社内体制が整備されておらず、十分な人材を確保できていない場合、給与計算に十分なリソースを割けないことがあります。
未整備の状況で給与計算を内製化すると、ミスが発生しやすくなります。リソース不足や体制が整っていない場合は、外注を検討することが適切といえるでしょう。
給与計算を内製化する際のポイント
給与計算を内製化する際は、重要なポイントを押さえておくことが大切です。以下の3つのポイントを理解し、効率的に内製化を進める準備を整えましょう。
- 費用対効果を確認する
- 一度にすべてを内製化しない
- 必要に応じて新たな人材を確保する
費用対効果を確認する
給与計算業務の内製化は、外注する際にかかるコストを削減できます。削減したコストをほかの部門や業務に振り分けることで、新規事業の展開や従業員たちへの還元につながります。
ただし、給与計算の内製化でも、担当者への人件費やその他固定費などは必要です。
内製化にかかるコストと外注にかかるコストを比較し、内製化でどの程度の費用対効果が期待できるかを検討しましょう。
一度にすべてを内製化しない
給与計算の内製化にあたり、従業員の育成や設備投資、システムの操作方法の習得など、さまざまなプロセスを踏む必要があります。
担当者がスムーズに業務をこなせるようになるまでに、一定期間が必要となるため、一度にすべての業務を抱え込まずに、一部を外注する方法も検討します。
依頼業者に対して、段階的に内製化したい旨を伝えたうえで、徐々に業務を引き継ぐ計画を立てましょう。
必要に応じて新たな人材を確保する
社内の人材リソースが不足している場合は、新たな人材の確保が必要です。正社員の雇用が難しい場合は、契約社員や派遣社員などの非正規雇用も視野に入れます。
税金や社会保険の知識を持つ人材を採用できれば、研修費用を抑えられ、即戦力として活躍してもらえるでしょう。
また、契約社員や派遣社員は、契約期間満了後の更新や新たな採用を柔軟に実施できるため、担当者の休職や退職リスクに備えられるメリットがあります。
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まとめ
給与計算業務の内製化は、企業内に知見やノウハウを蓄積でき、スムーズなやり取りを実現できるなどのメリットがあります。
しかし、担当者の確保や新たな従業員を雇う余裕がない場合は、外注も視野に入れる必要があります。
本記事で紹介した内容を参考にしながら、自社の現状や課題を踏まえ、どちらが適しているかを検討しましょう。
給与計算業務を内製化する場合は、使いやすい給与計算システムの活用が不可欠です。一から業務を覚えたりせずに、画面に沿って操作するだけで毎月の業務をミスなく進められると便利です。
いずれにしても、まずは課題を洗い出し、自社の給与計算業務の見直しから始めましょう。