給与明細の必須項目をわかりやすく解説| 発行義務化の法的根拠や記載ミスを防ぐ方法
会社で従業員を雇用して給与を支払っている場合、毎月の「給与明細」発行が必要です。給与明細を作成する際、必要な情報が欠けていないか、基本的な項目にはどのようなものがあるのか知りたい方もいるのではないでしょうか。
また、給与明細を発行する意義や詳細についても理解しておくことが大切です。
従業員に給与を支払うタイミングで、毎月「給与明細」を発行する必要があります。給与明細を作成する際は、必要な項目が欠けていないか確認することが重要です。基本的な項目や、給与明細を発行する意義についても理解しておくとよいでしょう。
本記事では、給与明細の必須項目について解説し、発行義務の法的根拠や記載ミスを防ぐ方法も紹介します。
給与明細とは
給与明細書は、従業員に支払われる給与の金額を示す重要な書類です。基本給や各手当の支給額に加えて、社会保険料の控除額や勤務日数などの詳細も記されています。
給与明細を見ると、給与がどのように算出されたかを確認することができます。
給与明細に関する書類の保管期間
給与明細の保管は義務ではありませんが、給与明細に関する書類は、以下の保管期間が定められています。
保管期間5年(経過措置により当分の間は3年)の書類 | |
---|---|
労働者名簿 | ・従業員の氏名や生年月日、住所、性別などを記載した名簿 |
賃金台帳 | ・給与の支払いに必要な情報を記載した書類 (従業員の氏名や労働日数、賃金の計算期間など) |
出勤簿 | ・雇用契約書 ・労働条件通知書 ・履歴書 ・雇入決定関係書類 など |
解雇に関する書類 | ・解雇決定関係書類 ・解雇予告除外認定関係書類 など |
雇い入れに関する書類 | ・賃金決定関係書類 ・昇給・減給関係書類 など |
災害補償 | ・労災に該当するケガや病気の診断書 ・補償の支払いに関する書類 ・領収関係書類 など |
労働関係に関する重要な書類 | ・出勤簿やタイムカードの記録 ・労使協定の協定書 ・各種許認可書 ・退職・休職・出向関係書類 など |
保管期間7年の書類(税関連の書類) |
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・給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 ・給与所得者の保険料控除申告書 ・兼給与所得者の配偶者特別控除申告書源泉徴収簿 |
給与明細を作成する理由
事業主には、従業員の給与に関する明細書を作成し、交付する義務があります。理由について解説します。
- 発行が義務化されているため
- 従業員の証拠書類とするため
発行が義務化されているため
給与明細書の発行は労働基準法では義務ではありません。ただし、所得税法や健康保険法、厚生年金保険法、労働保険徴収法などの法律においては義務づけられています。
所得税法第231条では「給与の金額その他必要な事項を記載した支払明細書を作成し、交付しなければならない」と定めています。
そのため、会社と従業員の双方にとって、詳細な項目を記載した給与明細書の発行が必要です。法律上の記載義務はありませんが、有給休暇の取得日数や残日数なども給与計算の根拠となるため、明記しておくとよいでしょう。
従業員の証拠書類とするため
給与明細書は、従業員が銀行ローンを申請したり、医療費控除を受けたりする際の証拠書類となります。給与明細書は報酬の内訳を通知するだけでなく、従業員の収入を証明する公的な書類としての役割も果たします。
そのため、法律で定められている必要事項はもれなく記載することが重要です。
給与明細に記載する必須項目
給与明細に記載する必須項目は、以下の3つです。
項目分類 | 項目ごとの詳細 |
---|---|
勤怠項目 | ・就業日数や出勤日数、労働時間 ・欠勤日数や休日出勤日数 ・有休消化日数や有給残日数 ・平日普通残業時間や平日深夜残業時間、休日労働時間・遅刻早退時間 |
支給項目 | ・基本給 ・各種手当(役職手当・資格手当・住宅手当・家族手当・通勤手当・残業手当・深夜勤務手当・休日出勤手当など) ・欠勤控除と遅刻 ・早退控除 ・総支給額 |
控除項目 | ・社会保険料(健康保険料・雇用保険料・厚生年金保険料・介護保険料) ・税金(所得税・住民税) ・その他控除 |
それぞれ詳しく解説します。
勤怠項目
給与明細の必須項目・勤怠には、給与計算期間における従業員の出勤・欠勤などの勤怠情報を記載します。
就業日数 | 該当月の就業すべき日数 |
---|---|
出勤日数 | 該当月の出勤日数 |
労働時間 | 該当月に労働を行った時間 |
欠勤日数 | 該当月の欠勤日数 |
休日出勤日数 | 法定休日における出勤日数 |
有給消化日数 | 有給休暇の取得日数 |
平日普通残業 | 時間外労働の時間 |
平日深夜残業 | 深夜(22〜翌5時)の労働時間 |
休日労働時間 | 法定休日における時間外労働の時間 |
遅刻早退時間 | 該当月の遅刻・早退時間 |
有給残日数 | 該当月の締め日までに残った有給休暇日数 |
支給項目
支給項目は基本的に、基本給・各種手当・総支給額の大きく3つに分けられ、加えて欠勤控除と遅刻・早退控除も記載されます。それぞれ解説します。
基本給
従業員に支払われる給与の中心となるのが基本給です。基本給は、年齢や経験、職種などを考慮して決められ、通常は毎月固定された金額が支払われます。
ただし、定期的に見直され、昇進や勤続年数に応じて増額されることが一般的です。
各種手当
手当は、会社と従業員の間で取り決められた規則や契約に基づいて支払われる賃金の一部です。手当の中には、残業手当や休日出勤手当なども含まれます。
ただし、残業手当など法定の手当以外については法律上の支給義務はなく、会社ごとに対応が異なります。
また、同じ会社でも従業員によって受け取ることができる手当は違います。たとえば、家族の有無や住居の状況など、特定の条件を満たす従業員にのみ支給される手当もあります。
欠勤控除と遅刻・早退控除
欠勤控除と遅刻・早退控除についても支給項目に記載します。控除項目は社会保険料や雇用保険料、所得税に限られるため、記載できないためです。
欠勤日数と遅刻・早退回数は勤怠項目に、欠勤控除や遅刻・早退控除の金額は支給項目に記載するのが一般的です。
総支給額
総支給額は、基本給と各種手当を合計し、勤怠控除の分を差し引いた金額です。「額面金額」とも呼ばれ、所得税などの控除前の金額となります。そのため、手取りは総支給額よりも少なくなります。
控除項目
給与明細書の控除項目には、その月に給与から差し引かれる社会保険料や税金などの金額が記入されています。7つの控除項目について解説します。
健康保険料
従業員とその家族が仕事以外で病気やケガをした場合に備える公的医療保険が健康保険です。会社に勤める従業員は、健康保険に加入し、保険料を支払う必要があります。
協会けんぽにおける健康保険料の料率は、都道府県ごとに異なり、会社と従業員がそれぞれ半分ずつ負担する仕組みです。
雇用保険料
雇用保険は、従業員が仕事を失ったときの再就職支援や手当の支給、介護や育児のために休職した際の所得保障など、雇用の維持と生活の安定をはかることを目的とした制度です。
雇用保険料率については毎年見直されており、令和5年度の雇用保険料率は以下の通りです。
従業員負担 | 会社負担 | 雇用保険料率 | |
---|---|---|---|
一般の事業 | 0.6% | 0.95% | 1.55% |
農林水産・清酒製造事業 | 0.7% | 1.05% | 1.75% |
建設事業 | 0.7% | 1.15% | 1.85% |
厚生年金保険料
厚生年金保険は、従業員が加入する公的な年金制度です。会社と従業員が半分ずつ負担する仕組みで、制度に加入すると、国民年金に上乗せされた年金を受けることができます。
掛け金は従業員の給与所得に基づいて決められており、保険料率は18.3%です。
介護保険料
介護保険は、介護を必要とする人を社会全体でサポートするために設けられた制度です。
40歳から64歳までの健康保険に加入している従業員は、介護保険料を支払わなければなりません。保険料率は全国で統一されており、毎年見直しが行われています。
所得税
所得税は、1年間の給与所得に対して課される税金です。正社員の場合、毎月の給料から天引きされる形で所得税を納めていますが、これは正確な所得が確定する前の仮の計算に基づいています。
税金の過不足は、年末に行われる年末調整において調整を行います。
住民税
住民税は、前年の1月から12月までに一定の所得があった従業員に課される地方税の一種です。所得税も住民税も給与からの天引きで納付する仕組みです。
その他控除
会社によっては、共済費や組合費、社宅・寮の家賃などを「その他控除」として差し引く場合があります。
給与明細の必須項目において記載ミスを防ぐ方法
給与明細の必須項目において記載ミスを防ぐ方法を4つ取り上げて解説します。
- 給与計算のルールを明確にする
- ダブルチェック体制を整える
- 給与計算アウトソーシングを活用する
- 給与計算システムを活用する
給与計算のルールを明確にする
給与計算を正確に行うためには、関連するルールを明確にすることが重要です。
就業規則や雇用契約を見直し、休日出勤や残業などに関する事項をしっかり定めておくとよいでしょう。内容を把握することで、スムーズでミスのない給与計算につながります。
ダブルチェック体制を整える
給与計算では、必ず複数人でチェックを行い、間違いがないかを入念に確認することが大切です。ダブルチェックには、主に2つの方法があります。
「同時チェック」方式 | 「時間差チェック」方式 |
---|---|
同じタイミングで同一の情報を見ながら指差しや読み上げをする | 時間をずらして同じ情報を確認する |
自社に適した体制を整えておくとよいでしょう。
給与計算アウトソーシングを活用する
従業員数が増えると、給与計算の業務負担も増加し、給与明細でのミスが発生しやすくなります。ミスを防ぐために、給与計算を専門とする外部の会社に委託するアウトソーシングは選択肢の一つです。
アウトソーシングを利用すれば、勤務時間の情報を提供するだけで、給与計算に必要な一連の作業を任せることができるでしょう。
給与計算システムを活用する
給与計算業務に手作業が多い場合は、給与計算システムの導入と活用も一案です。
給与明細は項目が多岐にわたり、計算も複雑なため、計算に手間と時間がかかります。給与計算システムを活用すれば、給与明細の作成を効率的に進められるでしょう。
また、給与明細の電子化によって印刷にかかるコストも大幅に削減され、給与業務全体の一元化により、さらなる効率化をはかれます。
まとめ
給与明細は従業員の収入を正確に記録し、適切な税金や社会保険料の計算を可能にする重要な書類です。給与明細の必須項目は「勤怠項目」「支給項目」「控除項目」の3つです。
具体的には、基本給や各種手当、控除項目など必須の記載事項が定められています。それぞれ細かい項目があるため、確認しておくとよいでしょう。
企業は給与明細の正確な作成と適時の発行を行う責任があり、記載ミスは従業員との信頼関係を損なうだけでなく、法律違反のリスクもともないます。ミスを防ぐには、給与計算ソフトの活用や複数人によるチェック体制の構築が効果的です。
計算ミスを起こさないためには、ルールの明確化やダブルチェック体制の整備に加え、場合によってはアウトソーシングもおすすめです。給与に関する業務全体を効率化したい場合、給与計算システムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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