賃金台帳がない場合の対処法は? 罰則の有無や保存方法について解説
企業が作成すべき書類の一つに、賃金台帳があります。賃金台帳を作成しなかった場合、罰則やペナルティはあるのでしょうか。
本記事では、賃金台帳の作成義務や法的な罰則、保存方法などについて解説します。賃金台帳を作成していない企業の担当者は、ぜひ参考にしてください。
そもそも「賃金台帳」とは?
まずは賃金台帳がどのような書類なのか解説します。
賃金台帳とは従業員への給与支払い状況を記載した書類
賃金台帳とは、従業員への給与支払い状況を記載した書類です。雇用する従業員それぞれについて、給与支払いに関する情報を記載する必要があります。
賃金台帳は、労働者名簿や出勤簿と同じ「法定三帳簿」の一つです。法定三帳簿とは、労働基準法によって作成・保存が義務づけられた帳簿です。企業は、従業員を1人でも雇用している場合、賃金台帳を作成・保存する義務があります。
賃金台帳は原則すべての従業員を対象に記載する
賃金台帳は、正規雇用やパート・アルバイトといった雇用形態にかかわらず、たとえ日雇い労働者であっても、すべての従業員に対して作成しなければなりません。ただし派遣の従業員については、派遣元である人材派遣会社が作成義務を負います。
また、賃金台帳は支店や営業所ごとに作成・保存する必要があるため「グループ全体の賃金台帳を本社が一括管理する」という方法は認められていません。
賃金台帳が必要な場面
賃金台帳は、主に以下のような場面で使用されます。
- 労働基準監督署による調査
- 是正勧告への対応
- 雇用保険や各種助成金の申請
それぞれのケースについて、以下で詳しく解説します。
労働基準監督署による調査
労働基準監督署によって抜き打ちの調査(臨検監督)が実施される際には、賃金台帳の提出を求められる場合があります。
賃金台帳を見ると「給与が正しく支払われているか」「法の定める時間外労働時間の上限を超過していないか」など、さまざまな情報を確認できます。社内に問題があると判断されると、是正勧告が実施されます。
是正勧告への対応
万が一、是正勧告が実施された際には、賃金台帳を改善したうえで再度提出する必要があります。労働基準監督署から指摘を受けた内容を確認し、適切に修正したうえで再度チェックしましょう。
また、指摘内容を今後に活かすため、改善策を立案することも重要です。
雇用保険や各種助成金の申請
雇用保険の手続きにおいて、賃金台帳が必要になるケースもあります。たとえば、従業員の新規雇用や転勤の際は、届出書とあわせて賃金台帳を提出することが一般的です。
そのほか、各種助成金の申請時にも賃金台帳の提出を求められる可能性があります。
賃金台帳がない場合の対処法
賃金台帳の作成・保存は、労働基準法に定められた企業の義務です。従業員を雇用するすべての企業に、賃金台帳を作成する義務があります。
しかし、従業員をはじめて雇用する場合など、賃金台帳をまだ作成していない企業もあるかもしれません。賃金台帳が用意できていない場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
賃金台帳は基本的に代用がきかない
基本的に、賃金台帳をほかの書類で代用することはできません。賃金台帳とよく似た書類に給与明細がありますが、記載項目が一致している部分が多いものの、原則として代用は認められていません。
いま現在、賃金台帳がない場合は速やかに作成するのが望ましいでしょう。
必要事項を記載すれば給与明細で代用できる可能性も
賃金台帳の代用は基本的に不可能です。しかし、給与明細に労働基準法施行規則第54条で定められている記載項目がある場合は、代用が認められるケースもあります。
条文で定められているのは次の8項目です。
- 従業員の氏名
- 従業員の性別
- 賃金計算期間
- 労働日数
- 労働時間
- 時間外労働・休日出勤・深夜労働の時間数
- 基本給や手当、その他賃金の種類ごとの金額
- 賃金控除の内容と金額
上記の項目が網羅された書類がない場合は、速やかに賃金台帳を作成しましょう。
賃金台帳は作成しておくことが望ましい
基本的に、賃金台帳は代用できるものがありません。また、賃金台帳の作成・保存義務は法律で定められたルールなので、遵守する必要があります。
給与明細での代用を認められるケースもありますが、多くの場合、給与明細には労働時間や残業時間が記載されていません。給与明細の記載事項は企業によって異なりますが、賃金台帳の代わりとして使用できる可能性は低いでしょう。
「いざとなれば給与明細でよい」と油断していると、罰則を科せられる恐れもあります。日頃から賃金台帳をきちんと作成し、適切な方法で管理しましょう。
賃金台帳がない場合には罰則の対象となることも
賃金台帳を作成していない企業は、罰則の対象となる恐れがあるため注意が必要です。賃金台帳の作成・保存義務については、労働基準法第108条と109条に定められています。
違反した場合は、労働基準法第120条により、30万円以下の罰金が科せられることもあるでしょう。また、賃金台帳を作成していても、法律によって定められた項目や基準を満たしていなければ罰則の対象になります。
ただし、違反が発覚してすぐに罰則が科せられることは多くありません。基本的には、まず所轄の労働基準監督署より是正勧告が実施され、それでも従わなかった場合に罰則が科せられます。
賃金台帳の保存義務について
賃金台帳は、法的に定められた期間、企業が責任を持って保存する必要があります。
賃金台帳は5年間の保存義務がある
賃金台帳の法的な保存期間は、原則5年間です。具体的には、賃金台帳に最後に記載した日を起算日として、5年間保存する必要があります。従来の制度では保存期間が3年間でしたが、2020年4月1日施行された改正労働基準法の第109条により、保存期間が延長されたため注意が必要です。
ただし法改正にともなう企業の負担を減らすため、経過措置が設けられています。期日は定められていませんが、当面の間は3年間の保存で法的な問題はありません。また、賃金台帳が源泉徴収簿を兼ねる場合、保存期間は7年間です。
給与明細には保存義務がない
給与明細は賃金台帳と記載内容が似ていますが、法的な保存義務はありません。しかし、従業員から再発行依頼を受ける可能性があるため、自主的に保存している企業は多いでしょう。
賃金台帳を保存する方法
法的な保存期間が定められている一方、賃金台帳の保存方法にはあまり制限がありません。
紙の書類でも電子データでも、自社にとって無理のない保存方法を選べます。それぞれの保存方法におけるポイントを解説します。
紙
紙の書類として保存する方法は、手軽で導入コストもかからない点がメリットです。紙媒体の賃金台帳の保存方法には明確なルールがなく、基本的にはどのような管理方法でも問題ありません。自社に合わせて、運用しやすいルールをつくりましょう。
ただし、紙は日光や湿気によって劣化してしまう恐れがあるため、保存環境には注意が必要です。また、市販の賃金台帳のなかには、記載項目を満たしていない製品もあります。市販品を使用する際は、必須の記載項目が網羅されているかどうか確認しておきましょう。
電子データ
賃金台帳は、パソコン上で電子データとして保存することも可能です。ただし、電子データとして保存する場合は、以下の条件を満たす必要があります。
- パソコンの画面に表示し、印刷できる状態である
- 労働基準監督署の臨検時に、すぐに提出できる状態である
- 故意や過失による消去・書き換えができない
- 長期間保存できる
画面上でのデータ表示と印刷は、すべての事業場において可能な状態でなければなりません。電子データで保存する場合は、情報漏えいを防ぐため、セキュリティ対策に力を入れる必要があるでしょう。
賃金台帳がない場合は、速やかに作成しましょう
賃金台帳の作成・保存は、労働基準法に定められた企業の義務です。基本的に代用はできないため、もしも賃金台帳がない場合は速やかに作成しましょう。
なお、賃金台帳には必須の記載項目や法定保存期間があるため、事前に確認しておくことが大切です。電子データでの保存も可能なので、便利なシステムを導入すれば作成・保存をスムーズにできるでしょう。
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